老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

26話 魔法対策

 VOにおける魔法は簡単に言えば二つ、ターゲット指定型魔法と設置型魔法だ。
 ターゲット指定型は文字通り使用するターゲットを指定して使う魔法だ。
 一度発動されてしまうとその後での対応が難しいタイプだ。
 設置型魔法、範囲指定型魔法とも呼ばれたりするがこれは発動する場所が決まっているために、発動前にその範囲外に避けるのが基本だ。
 パーティメンバー全体に使用される魔法などはターゲット指定魔法に含まれる。
 基本的には敵に対しての攻撃魔法と妨害魔法の話になる。

 わかりにくいので前者をタゲ魔法、後者を範囲魔法と呼ぶ。
 タゲ魔法は発動前阻害と発動後は魔力盾による防御、各種魔法防御魔法による対策になる。
 範囲魔法も発動阻害と単純に範囲外への移動だ。
 範囲魔法は魔法盾による防御は不可能なので、基本的に有効範囲で受ける場合は魔法防御や耐性を積んで力技で耐える方法になってしまい、プレイヤースキルを生かせる場はない。
 タゲ魔法は魔力盾による防御においてプレイヤースキルを遺憾なく発揮できる。
 簡単に言えば通常攻撃と同じようにクリティカルガードと、魔法反射だ。
 特に魔法反射は詠唱者に向かって《反射の出来ない》魔法を返せるという利点が大きい。

 こんな初期ダンジョンでメイジがいてもそこまで脅威ではない、ファイアーボールとかテンプレな魔法を打ってくるだけなので、覚えたての魔力盾で反射してやればいい。
 簡単に打ち返すとユキムラはいうのだが実際には物理カウンターの半分しか入力時間がない。
 普通のプレイヤーだとCrGクリティカルガードを狙って偶然出る、そういうたぐいの物だ。

 前衛の攻撃を軽くカウンターを取っているとメイジが詠唱を開始する。
 とりあえず詠唱阻害じゃなくてマジックカウンター狙いをしてみる。
 そんなことを考えていたら前衛は全滅させていた。
 物の序でで倒される敵のみにもなって欲しい。
 聞き取れない言語で紡がれていく炎の魔法。
 火球がメイジの杖の上に発生して杖を振ると同時にユキムラへと襲いかかる。

(実際に見るとタイミング難しいな)

 自分視界ではなく少しだけ俯瞰視点に集中する。
 魔力盾を発動、ぼやっと身体が青いオーラに包まれる、手に持つ剣も同じように包まれていく。
 目の前に火球が迫る熱も感じる。
 カウンターも魔法反射も焦りは厳禁、冷静にいつものタイミングで……
 火球を弾く、キィーンと独特の防御音が響き火球は勢いを保ったままメイジへと打ち返される。
 このキィーンって音が気持ちいい。
 メイジは突然の返球にうろたえるしか無い。
 火球がメイジのローブへと激突し爆ぜる。
 ブスブスと肉が焦げる音がする、焼肉みたいないい匂いじゃないなぁ、と、呑気なユキムラだ。
 一気に距離を詰めて、火を消そうとのたうち回っているホビットメイジの首を刎ねる。

「ふー、ちょっとだけ緊張したなぁ……」

 なんだかんだで魔法相手は数ヶ月ぶりだったりする。
 人が呼吸するのを忘れないようにカウンターや魔法反射のタイミングも忘れない、ユキムラはそういう域へどっぷりと入り込んでいるのだ。

「とりあえず今回の目標である2Fマッピング終了まで、がんばりますか」

 誰もいない洞窟で一人つぶやくユキムラ、ここのところこの世界での人のふれあいに慣れてきて少し寂しさを感じてしまう。
 ずっと一人だったユキムラが初めて人のぬくもりを感じたのは、一人ぼっちで頑張ってきたゲームの中なんだから、皮肉なものである。

 一階と同じようにきちんと照明を設置しながらマッピングを続ける。
 ほとんどのVOプレイヤーが始めて入ることになるダンジョンであるここでも、地下は5階構造。
 普通は依頼を受けて侵入して最終階でボスを倒し、行方不明になった冒険者を救出するってストーリでー、時間制限がある。
 ユキムラはいろいろと実験をしているので今回、クエストを起こさずにダンジョンに侵入していれば、捉えられている冒険者もいないだろうと考えている。

 この世界では微妙に残っているVOの要素の一つがクエストだ。
 フラグを立ててクエストを起こさなければそれに連動する出来事は発生しない。
 本来ならダンジョンへの侵入を可能にするのにもクエストが必要だけど、この世界ではすでにダンジョンはそこにあるため、イベントを起こさずに侵入が可能だ。
 時間制限クエストの前に準備をしておくことが出来る。
 初見でやると結構時間がタイトなクエストなので、VOの中では失敗しても何度もクエスト受け直せばいいが、この世界でダンジョンの餌食となった冒険者が復活するか賭けに出るわけにも行かないので、万全を期して冒険者救出クエストに挑みたいとユキムラは考えている。

 なお、冒険者救出クエは街へ行き冒険者ギルドで冒険者登録をしてLv50になると受けられる。
 ユキムラは春になったら街へと行くつもりだ。
 ギルドでの打ち合わせと通信設備の設置などやりたいことは色々詰まっている。
 それまでにレベルを50に到達させて出来る限りのクエストを効率よくこなそうと考えている。
 効率厨の鏡である。
 のんびりと生きておくと決めておりながらこういう本質は変わらないのでありました。


 

コメント

  • ノベルバユーザー421255

    マジで面白い

    0
コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品