老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件

穴の空いた靴下

21話 ギルド

 研究に没頭していたユキムラのところに街からの使者が来たと連絡があった。
 ユキムラは行き詰まっていた面もあったので、良い気分転換になるだろうと軽く身支度をして村役場へと向かう。

「師匠自分はどうすれば?」

「一緒に行こう、レンにも話を聞いて欲しい」

 レンは今では欠かすことの出来ないユキムラの右腕になっている。

 村役場に入ると受付の女性が出てきてくれて応接間へと案内される。
 この村役場も今後のことを考えて中央広場の一番いいところに建設した。
 村の入口からまっすぐに石畳の中央通りが続き村の中央には噴水魔道具をふんだんに使用しており、夜間には吹き上げた水のカーテンに彩られた光が当たり幻想的な雰囲気を作り出す。
 完全にユキムラの趣味だ。

 だが、自重しない。

 周囲のベンチは大人気のデートスポットだ。
 そしてその正面に壁を漆喰で真っ白にした美しい建造物。これが村役場だ。
 中央広場に隣接する建物は全て壁面を白くすることをお願いした。

 応接間にはいると村長とガッシュ、その向かいに二人の男性が座っていた。
 ユキムラとレンが部屋に入ると4人は立ち上がる。
 レンはガッシュの隣に立つ。やはり父親は大好きなのだ。

「これは噂に名高い賢者ユキムラ様、お初にお目にかかります私、ジュナーの街役場で働いているカイツと申します、こちらは……」

「私は冒険者ギルドのサブマスターをしているパックと言います。よろしくお願いします」

 いきなりおべっかを使われて笑顔が引きつってしまいそうになるがぐっと我慢する。
 こういうところに気をつけないといけないのはVOとは異なる。
 この世界の生活でだんだんと学んできた。

「いえいえいえ、私のような若輩に賢者なんて言わないでください。
 ただの研究好きなので……」

「いやいやいや、私も街でこの村の話を聞いていましたがとても信じられませんでした。
 ところが実際に訪れてみれば話に聞いていたよりも凄い町並みで驚きました……」

 そんなに褒めるとレンが反り返って後ろの壁に「イテッ」ほらぶつけた……

「とりあえず皆様お座りください」

 やや興奮気味の町の人間を村長が抑えてくれた。
 ユキムラもついつい立ち話をしてしまったことに反省をして席に座る。

「積もる話はあるでしょうが、まずは本題を片付けましょう。
 ユキムラ様じつはこの村に冒険者ギルドの窓口を作りたいそうなのです」

 ガッシュが場の進行をしてくれる。
 二人がジュナーの街からはるばるこの村まで来た理由はそれか。

「いいですよ」

 ユキムラ即答である。

「ええ、色々とかんが、え?」

 説得しようとしたサブマスのパックも狐につままれたような表情になる。

「作りましょう、そうすれば便利になるし人も集まるし」

 冒険者ギルドはその町や村の要望をクエストとして冒険者に依頼したり、冒険者のお手伝いをする、まぁ冒険者ギルドだ。
 もちろん冒険者にはランクがあり高位の冒険者になることは皆の憧れだったりする。
 VOも同じようなシステムがあるが、老舗であるがゆえにSSS級冒険者が数千人いるとかありがたみもクソもない状態になっていた。

「ユキムラ様がそうおっしゃるなら我らに異存はありません、それではこれからよろしくお願いします」

 村長もユキムラの決定に何の異も唱えない。

「は、はぁ、よ、よろしくお願いします……」

 あまりにトントン拍子に話が決まってしまい逆に頭が追いついていない二人組。
 ギルド支部を置く場所を決めたりそのまま簡単な内装まで話を詰めてしまう。

「そうだ、街のギルドとここのギルドで試したいものがあるんですけど……」

 ユキムラが現在開発している通信装置の話をしだすと全員が水を打ったように静かになる。
 ゲームのVOではアーティファクトとして一部国家が持っている。そんな扱いだったはずだ。
 鳥や馬で情報はやり取りしている。
 それを魔道具によって具体的には空属性の魔石の共有空間をチャンネル固定して、音のデータの共有を可能にして電話の様な機能を実現させようとしている。
 神国の上位神官は空間転移魔法を使えるし、理論としては可能だと考えていた。
 空間魔法師のテレポートやポータルホールなんて魔法もいずれあると便利だな。
 ユキムラのゲーム脳がうずく。

「つまりその装置を使えば、こちらで話していることを街でも聞けるようになる……と……」

「たしか帝国の秘宝にそんな力を持つ物があると噂で聞いたことはありますが……」

「神国の空間転移魔法をずーーーっと簡略して音だけを飛ばす、そんな感じです」 

「ほー」「魔法を」「簡略」

 二人組はもう頭がついていかない。

 ユキムラが最初についたファス村はプラネテル王国の田舎村だ。
 プラネテル王国は基本的に農畜産業が発展している国だ。
 軍事、武具開発に強いゲッタルヘルン帝国。
 独特のアジアっぽい文化と召喚術に強いテンゲン。
 魔法技術開発に強いマジカポイント魔導国。
 群島が連なったような海洋技術に優れているフィリポネア共和国。
 神聖魔法に強いケラリス神国。
 VOではスタート地点をこれらの国から選べる。
 一応の最終目標は神を蘇らせ、女神を解放して異世界の魔王を倒すって目的はある。
 イベント進めなければ異世界侵攻は起きては来ないからまぁ大丈夫だろうとユキムラは思っている。

 その後もユキムラは村にある魔道具の話などを一通り話したりして気がつけばすっかり日が傾いてた。
 お二人は役場の宿泊施設に泊まってもらうことにしてそのまま夕食を一緒にする。
 出される食事にもユキムラの話にも驚き続ける二人はさらに公衆浴場の魅力に取りつかれ、
 絶対にこの技術を街へと持ち帰ることを密かに決めるのでありました。

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