第8章番外編　#14「崩れゆく瞬間(とき)(後編)」

　「答えなさいよ！？　あんたもあいつと同じバケモノなんでしょ！？」

　「ち、違う！？　私は…」

　「黙れっつってんだろ！？」

　しかし、さっきから彩香の言葉は支離滅裂だった。答えろと問いかけてくる割に、私が答えようとすると、罵詈雑言を浴びせ、私を黙らしてくる。おそらく、彩香の頭の中はパニック状態を起こし、自分でもなにを言っているのかわからなくなってきているのだろう。

　「…ち、違うの。私はバケモノなんかじゃ、ないの」

　そんな彩香を見ていると段々、辛くなってしまい、私は泣きながら彩香を説得しようとしていた。もうこれ以上、おかしくなっていく彩香を見てはいられない。

　「…ウソつけ！　おまえのこと『姉ちゃん』って呼んでただろうが！？」

　「違う。本当は私達、姉弟なんかじゃないの」

　しかし私が泣いているからか、少しは聞く耳を持ってくれているようだ。そのとき、私は彩香に話そうと決めていた。

　私がサモナーだということ、司は私が呼び出したアンデットだということ、包み隠さず全てを話そうと思っていた。

　「ウソだ。そう言って自分だけ助かろうとしてるんでしょ！？　私にはわかってるんだから」

　だが彩香は聞く耳は持っていても、私の言葉を信じてはくれなかった。じゃあ、一体どうしたら彩香を止められるのだろうか？

　「…とりあえず、早く連絡しないと」

　「？　連絡って、どこに？」

　すると彩香は突然、携帯を出してどこかに電話をかけようとしていた。嫌な予感しかしなかったが、私は恐る恐る彩香に問いかけてみた。

　「どこって、警察に決まってんだろ！？」

　「ッ！？　警察！？」

　私の嫌な予感は的中してしまった。彩香は警察に電話をかけようとしていたのだ。

　『マズい』、私はすぐにそう思った。警察にこのことを話されたら、普通の人間である私はまだいいとして、アンデットである司はどうなってしまうのだろうか？　そもそもアンデットは人間の法が適用されるのだろうか？

　司はアンデットだから処刑にしたって死なないし、下手をすれば解剖されてしまうかもしれない。

　「……」

　そう思った瞬間、私は立ち上がりおもむろに彩香のところへ歩み寄っていた。幸いなことに彩香は後ろを向きながら警察に電話をしようとしていた。

　司だけはなんとしても守らないと。私の大事な弟を守らないと。

　守らないと、まもらないと、マモらないと、マモラナイト、マモラナイト、マモラナイト。

　ドンッッ

　「…えっ？」

　すると私は無意識のうちに彩香を川の方に向かっておもいっきり突き飛ばしていた。