第8章番外編　#4「男のにおい」

　「おっじゃまっしまっーす！」

　「ただいまー」

　彩香は家に入ると元気よく声をかけた。私も一応声をかけるが、家の中はすぐに静寂に包まれた。

　「へー、けっこう中も広いね」

　「ええ、そうね」

　彩香は玄関の方で突っ立った状態でそんな感想をもらした。まあ5LDKの家だし広く感じるのもわかる気がする。

　「けど、1人暮らしにはもったいないよね？」

　「ええ、そう…」

　そんな中、彩香がふと口にした一言で私はハッと思い出してしまい思わず賛同しようした口を閉じてしまった。

　「あれ？」

　しかし、もうすでに手遅れになっていた。彩香の視線は玄関に置いてある一足の靴に向いていた。

　「あれ、男物の靴だよね？」

　「ええっ？！」

　彩香はその靴を見るや否や私に向かってそう問いかけてきた。私は問いかけられるであろうと思いながらも白々しく驚いた。たしかにあの靴はこないだ買ったばかりの男物の靴だ。

　「あれは…そ、そう！　間違って買っちゃったやつなの！　ほら、デザインがよかったから！」

　「けど、あきらかに綴さんが履いてるやつとサイズ違うよね？」

　「ッ！？　そ、それは…」

　私は必死に言いわけを述べるが、彩香にあっさりと論破された。たしかにあの靴と今履いている靴のサイズがあきらかに違う。あの靴の方が大きい。

　「…ふーん」

　論破した彩香はなにかを悟ったかのように不敵な笑みを浮かべていた。マズい。このままだとバレてしまう。

　「綴さんってさー」

　「な、なに？」

　不敵な笑みを浮かべながら彩香は私になにか言おうとしてきた。流石にバレてしまったか。

　「彼氏、いたんだね！？」

　「…へっ？」

　しかし、彩香は私が思っていたこととは違うことを言ってきた。私に彼氏？

　「そっかー、まさか綴さんに彼氏さんがいたなんてねー。まあ綴さん、モテるだろうし、いない方がおかしいっか」

　「…いや、私、彼氏なんて…」

　「もー、ここまできてまだはぐらかす気ー？　大丈夫だよ！　そんなことで私達の友情はなくなったりなんかしないよ！」

　どうやら彩香は私に彼氏がいると勘違いしているようだ。否定しようとしたが、彩香は聞き入れてはくれなかった。どうしよう。本当のことが言いづらくなってきた。説明もしないといけないが、どう説明したらいいのだろうか。

　「あれ？　姉ちゃん、帰って来たんスか？」

　「ッ！？」

　「ん？　姉ちゃん？？」

　そんな中、家の中から男の声が聞こえてきた。

　その声を聞いた私達は思わず声が聞こえてきた方に視線を向けると、そこには1人の男、司の姿があった。