俺の高校生活に平和な日常を

ノベルバユーザー177222

第6章 #10「いよいよ目的地へ」

 ---「んぷっ」

 「だ、大丈夫お兄ちゃん? 酔い止め飲んでないの?」

 島行きのフェリーに乗る最中、俺はデッキの手すりを掴んだままうずくまっていた。その姿を見て梓が介抱してくれていた。

 基本的に乗り物に弱い俺だったが、酔い止めを飲んでいなかった。あれだけ梓に確認を取られ自分でも何度も確認していたはずなのに、なぜか肝心なものを忘れていた。

 そのせいで、バスに乗って港に着く頃にはへろへろになり、その状態で今、このフェリーに乗っているのだ。もう地獄だ。

 「こりゃあダメだな。このままだと着く前に吐いちまうな」

 「バードさん!?」

 そんな時、どこからともなくバードさんが俺達のところへ飛んできた。バードさんは俺がダウンしているところを見てため息をついた。『久しぶりに会ったかと思えばなんて有様だよ』と言いたげな表情だ。

 「しょーがねーなー。梓、おまえの力借りるぞ!」

 「えっ? バードさん、何するの?」

 そんな俺を見かねてか、バードさんは梓の頭の上に乗っかりなにかをしようとしていた。梓もわかっていないようだが何をする気だ?

 「今から酔い止めの魔法教えてやるから、そいつにかけてやれ」

 「えっ? そんな魔法あるの?」

 「ああ。あんまり使う機会がないと思って教えてないけどな」

 するとバードさんはイーリスちゃんに回復魔法を教えた時のように何かを呟いて梓に魔法を教えてくれているようだ。

 「状態解除ステータス・リリース調子不良シンドローム!」

 バードさんが呟いた後、梓はダウンしている俺の背中に手を当て、魔法を唱え始めた。

 「…んん…」

 背中に当てた手がほんのり暖かくなってきた。しかしこんなに暑い時期だというのになぜかその暖かさが心地よく感じる。

 「どうお兄ちゃん? まだ気持ち悪い?」

 梓は手を当てたまま俺に優しく声をかけてきた。

 「…おっ?」

 するとどうだろうか。みるみる吐き気がなくなっていくのがわかる。それどころか身体が軽くなっていくような感じがする。

 「おお。大分、いや、かなり楽になってきた」

 「本当?! よかったー!」

 俺がそう言うと梓はホッと胸をなでおろし当てていた手を下ろした。どうやら詠唱がうまくいったようだ。

 「ふん。これでしばらくは大丈夫だろう。まああんまり使い過ぎると効果がなくなるから、そこだけは気をつけとけ!」

 バードさんは回復した俺を見た後、梓の頭から離れデッキの手すりに飛び移った。

 「ありがとうバードさん!」

 「マジで助かった。ありがとう」

 俺達がバードさんにお礼を述べると、バードさんは得意気に胸を張った。

 「へっ。今回は貸しにしておくぜ! いずれちゃんと返せよ?!」

 バードさんは胸を張りながら鼻を鳴らしてそう言ってきた。何を返せばいいのかわからんが、コイツが困った時になにかしてあげればいいのだろうか? そもそもそんな時がくるかどうかはわからんが。

 「ああ、わかったよ」

 まあ助けられたことは事実だしいっか。そう思った俺がそう返すと、『忘れんなよ!』と釘を打たれた。

 「ところでバードさん! なんでこんなところに?」

 そんなやりとりがあった後、梓がバードさんに気になっていたようなことを聞いてきた。たしかに久しぶりに見たが、今までどこにいたのだろうか? そしてなぜここにいるのだろうか?

 「なぜって、そりゃあおまえの様子を見について来たに決まってるだろう!」

 するとバードさんは梓の疑問にそう返した。そんな当たり前のように言っているが、当の梓は知らなかったようだが。

 「俺は定時連絡の時以外は、おまえの周囲でおまえを見てるんだよ! おまえはまだ半人前だから、俺がいないとダメダメだからな! はははっ!!」

 梓を見ながらバードさんは嘲笑した。梓のことを下に見ているのだろうか?

 「まあ俺もおまえ達の旅について行くから、困ったことがあれば俺を頼りな! めんどうな雑用以外ならこの俺に任せな! んじゃ!」

 久しぶりに出てきたと思えば随分調子に乗った態度でどこかへ飛び去って行った。ついてくるなら梓と一緒にいればいいのに。

 「あっ、お兄ちゃん!」

 バードさんがどこかへ飛び去るのを見送ると、梓が突然、俺を呼びながら裾を引っ張ってきた。珍しく興奮気味になる梓にちょっと驚きながらも俺は梓が指を指す方に視線を移した。

 「おっ、アレって…」

 視線を移すと俺の視界に目的の島が見えてきた。いつのまにか俺達の乗ったフェリーは島の近くまで来ていたようだ。

 「和彦君、梓さん!」

 「あっ、みのりさん!」

 俺達が島を眺めていると、前からみのり達が声をかけてきた。3人ともずっと一緒にいたのだろうか?

 「和彦君、乗り物酔いしてたみたいですけど、もう大丈夫なんですか?」

 「ああ。もう大丈夫だよ」

 俺の顔色がよくなっているのに気がついたようで、みのりが俺の調子を聞いてきたので、俺は大丈夫だと言っておいた。あの時の地獄が嘘のようだ。

 「? そう…ですか。それは良かったです。そろそろ島にもつくところですし」

 みのりはなぜ俺が調子を取り戻したのか不思議そうに首を傾げながらも話しを続けた。どうやら予想通りもう少しで島に到着するようだ。

 「さあ、目的地の島、愛ヶ咲島に到着ですよ!」

 ---そして数分後、俺達は目的地である、愛ヶ咲島に上陸するのだった。

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