第5章番外編 #10「私の大事な人」

　ガシャアアン

　「？！」

　私が勢いよくベランダの窓ガラスを割って入ると3人の視線が私の方に向けららていました。

　「あなたは一体…」

　ここの住人であろう女性は私を見て愕然としていました。どうやら彼女が彼をこの部屋に招き入れたようですね。

　そして私は彼女を見て確信していました。彼女は淫魔、サキュバスであると。

　「……」

　ようやく見つけた相手に私は怒りを感じていました。こんなに人に怒りを感じたのは初めてだったかもしれません。

　---「や、辞めて！！」

　「ふんっ！！」

　彼をたぶらかした彼女の顔面を私はおもいっきり殴りつけてやりました。さっきまで人を小馬鹿にするような態度をとっていた彼女は私に恐怖を抱きながら気を失っていました。これだけやれば今後、彼を、イヤ、男の人を襲おうという考えもなくなるでしょう。とりあえずこれで今回の事件は解決のようですね。

　---「ありがとうみのり」

　彼女の呪術により口を封じられた彼は、しばらくしてようやく喋れるようになると、私に感謝の言葉を述べてくれました。

　「いえ。なんとか間に合ってよかったです」

　私は笑顔で返す反面、自責の念を感じていました。私がもっと早く見つけて対処していれば彼等が標的にされることはありませんでした。

　「…ごめんなさい」

　「えっ？」

　そして自責の念を感じた私は彼に事情を話すことにしました。

　---「なあ、みのり」

　「はい？」

　部屋を出ると彼に呼ばれた私は彼の方を振り返りました。そんな彼は気を失った夏目さんを背負った状態でした。

　「……」

　「？」

　しかし彼は私を呼び止めた後、頰を少し赤らめ、何か言いづらそうな表情を見せていました。私は彼が何を伝えたいのかわからず、小首を傾げていました。

　「あ、あのさ、そ、そのー、俺のこと、だ、大事な人って言ってくれたけど、それってどういう…」

　「…ッ！？」

　彼がしどろもどろに話すと私はふと自分の言った言葉を思い返し、思わず私まで恥ずかしくなってしまい顔が赤くなっていくのがわかりました。私ってば、なんて大胆なことを言っているのでしょう。

　「い、いえ、アレは、大事な『お友達』という意味で、別に他意はないというかなんというか…」

　「あっ、ああ！　そうだよな！　ごめん、なんか変なこと言って。ははは…」

　私もしどろもどろに返すと彼は納得したように愛想笑いを浮かべていました。

　「そ、それじゃあ私はこれで」

　「あっ、ああ。それじゃあ、また明日な」

　気まずくなった私は彼に別れを告げると彼も小さく手を振って私を見送ってくれました。

　「……」

　私は階段のところまで歩いていると、ふと立ち止まり彼のいた方向を振り向いていました。しかしそこに彼はもういませんでした。

　私はあの時の言葉を再び思い出しながら、物思いにふけっていました。

　さっきはお友達と言ってしまいましたが、本当はそういう意味で言ったわけではないんだと思います。

　私にとって彼は大事な人。今はお友達としての関係ですが、いずれは…

　「…もう帰りますか」

　ふと我に返った私は階段を下り、家路について行きました。