俺の高校生活に平和な日常を

ノベルバユーザー177222

第5章 #13「名探偵アリサ」

 「やっぱりココにいたのね」

 「……」

 声の出ない俺を見てやれやれと言いたげそうな表情をする有紗。しかしなんでココに?

 「ううっ…」

 そんなことを考えているとさっきまでうずくまっていた彼女、由佳さんが脇腹を押さえながら立ち上がってきた。そしていつのまにかボンテージから普通のTシャツ姿に変わっていた。そりゃあそうか。あんな格好で出てったら怪しまれるよな。

 「一体…あなた…何者? いきなり…殴りかかってくるなんて…」

 どうやら由佳さんは有紗に殴りかかられたらしい。初対面の人にいきなり殴りかかるとはなんと末恐ろしい子。

 「私はそこのバカを探しに来ただけで、名乗るほどの者じゃないわ」

 「なんです…って?」

 由佳さんの問いかけに対して冷淡な態度をとる有紗。その態度が癇に障ったのか、しかめっ面になる由佳さん。まさか彼女がそんな表情をするとは。

 「そういうことだから、そいつ返してもらうわよ」

 有紗はそんな彼女を御構いなしに土足で踏み入って来る。そして俺のところまで歩み寄って来た。

 「…ぁ…」

 有紗に色々聞きたいことがあったが、まだ声が出せず口をパクパク動かずことしかできなかった。

 「何言ってんのか分かんないけど、聞きたいことがあるなら後で聞いてあげる。だからとりあえずは家に帰るわよ。梓ちゃんが心配してたんだから」

 有紗は俺の様子をなんとなく把握したのか、勝手に話を進めてとっととずらかろうと担いで俺を連れ帰ろうとし出した。

 「ま、待ちなさい!」

 無論、由佳さんはそれを見過ごすわけもなく呼び止められた。

 「何?」

 有紗は足を止め由佳さんの方に視線を移す。由佳さんは相変わらずしかめっ面しながら廊下に突っ伏していた。

 「なぜ彼がココにいると?」

 由佳さんは俺が1番聞きたかったことを代弁するかのように有紗に問いかけてくる。その問いかけに対して有紗は少し間を置いてから口を開いた。

 「アンタ、誘拐犯の割にはツメが甘すぎる。アンタの部屋の近くに血痕が残ってたのは気づいてなかったの?」

 「血痕?」

 有紗の発言を聞いた由佳さんだが、なんのことか分からないような困惑した表情を浮かべていた。

 「コイツの頭、軽く出血してるわ。おそらくアンタの部屋の前で気を失って、その時にアンタの部屋の前の手すりに擦った感じで頭を打ったんでしょ。その手すりに少しだけ血が付着してたわ」

 由佳さんの様子を見て説明を始める有紗。どおりで頭が痛いわけだ。

 「なるほど。だけど、それだけじゃあ彼がココにいるとは思わないと思うけど?」

 由佳さんはまるで名◯偵コ◯ンの犯人のように有紗に問いただしてくる。だが、彼女の言う通りそれだけでは俺がいるとは限らない。

 「ええそうね。でも他にも理由はあるわよ」

 しかし有紗は落ち着いた様子で説明を続けた。こっちはまるでコ◯ンのようだ。

 「この前、コイツがこの部屋から出て行くところを偶然見たの。なんでコイツがここの部屋に出入りしたかは知らないけど」

 この前というと由佳さんがココに引っ越して来た時か。それ以来、この部屋には出入りはしてないしな。

 「それでちょっと気になって調べてみたけど、前に住んでいた人は大学生だったらしいわ」

 それは俺も知っている。たしかどんな風貌をしていただろうかとふと記憶を思い返してみる。

 前に住んでいた大学生は男の人で名前は知らない。まあお互いに名乗ったことはないからあっちも俺の名前なんて知らないだろうけど。

 身長は180ぐらいでやや痩せ細ってメガネをかけていた。会話は挨拶ぐらいしかした事ないからどういう人なのかはよくわからない。覚えてるのはそれぐらいだろうか。

 「名前は藤波ふじなみゆう。今年で23の社会人になるはずだった」

 「……」

 有紗はどこで調べたのかわからないがその人の名前を出してきた。その名前を出された瞬間、由佳さんが一瞬、動揺したように見えた。

 「…?」

 そんな由佳さんを見てふと有紗がさっき言っていた言葉を思い出し、ひとつの疑問が頭の中によぎってきた。

 『今年で23になるはずだった』

 その言葉に変な違和感を感じた。有紗は『なるはずだった』と言っていた。まるでその人が23の歳を迎える前に死んでしまったかのような…

 そんなことを考えていると急に背中に寒気が走った。それに気づいたのか有紗は俺に向かって語るように俺の方に視線を移して口を開いた。

 「その人、死んだらしいわよ」

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