俺の高校生活に平和な日常を

ノベルバユーザー177222

第5章 #12「隣の部屋の者なんですけど」

 ピンポーン

 俺の心の叫びが聞こえたかのようなタイミングで彼女の部屋のチャイムが鳴った。

 だが安心は出来ない。この状況で彼女が出ていくとは限らない。

 「残念。ちょっと冷めちゃったわ。この続きは後にしましょ。だから…」

 「んっ!?」

 しかし由佳さんは寸前のところで足を止めた。どうやら彼女も邪魔が入るのは気分が悪いみたいだ。

 だが由佳さんはどういうわけか口紅を塗った唇を人差し指でなぞり、その人差し指を俺を よ唇に同じようになぞり出した。思わぬ行動に色んな意味でドキッとさせられたが、一体なんのつもりだろうか?

 「!? ぅっ…」

 そう思った矢先、急に喉に違和感を感じた。ものすごい勢いで水分を持っていかれたかのように喉がカラカラに乾いて声が出せない。

 「ちょっと大人しくしててね♡ ちゃんと続きしてあげるから♡」

 「…ぁぁ…」

 由佳さんは再び愉快そうに笑顔を浮かべて玄関に向かって行った。俺は両手を縛られ身体に力も入らずおまけに声も出せなくなり彼女を止める術も助けを呼ぶ術もここから逃げ出す術もなくただただうずくまるだけだった。

 マズい。彼女が玄関に向かったのはいいもののこの状況を切り抜ける手段がなければ意味がない。さて、どう切り抜けようか?

 頭の中で改めて状況を整理してみる。まずこの場所はおそらく彼女の部屋だろう。前に見たときよりは随分暗めの雰囲気になっているが、部屋の大きさは俺の寝室とほぼ変わらない。

 部屋の中には妙に甘ったるい匂いがする煙を上げる壺が置かれていたりムチや縄などの調教器具が多数壁に掛かっていたり普通の女性が住む部屋とはとても思えない。あの時、ダンボールの中を見てしまっていたらどうなっていただろうかと考えると背中に悪寒が走った。

 そして今の俺はさっき言った通り全く身動きがとれない、っと思っていたが、由佳さんに攻められていた時のことをふと思い返してみた。

 俺は堪えようとして身体をくねくねさせた。つまり身をくねらせるぐらいのことは可能なのだ。

 そこで俺はニ◯ッキのように身体を前後にくねらせ少しずつ部屋のドアへと向かって行った。幸いなことにドアはわずかに開いていて手足が不自由でもなんとか開けられそうだ。

 しかし問題はここからだ。部屋から出たとしてどうやって抜け出すかだ。玄関まで行ければいいが、俺の家と同じ部屋ならこの部屋から玄関まではある程度距離があるはず。その前に彼女が帰ってきたら一巻の終わりだ。

 それともどこかに身を隠してある程度足が動けるようになったら隙を見て逃げるか? しかしどれぐらいの時間を要するか? それまで隠れきれるのか? どれも成功率の低い作戦だが、どうする?

 「キャッ!!」

 「?!」

 俺があれこれ考えながらようやく部屋から出た時だった。由佳さんの悲鳴らしき声と共に壁に激突したような激しい衝突音が聞こえてきた。何があったんだ? そう思った俺は急いで玄関の方へと向かって行く。

 ---「すみません。隣の部屋の者なんですけど」

 「……」

 さっきより速いスピードで移動することが出来た俺が玄関近くにたどり着くと俺は呆気にとられていた。玄関近くの廊下で苦痛の声をあげ突っ伏す彼女、由佳さんと玄関で堂々と立つ彼女、有紗の姿があった。

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