88の星座精鋭(メテオ・プラネット)
依頼~選ばれし五人は~
朝。
自分の顔面に感じる疼痛で、俺は目が覚めた。
ゆっくり手を動かして顔を触ってみると、洗濯バサミと思しき物体が顔の肉を挟んでいることを悟る。
憤りと困惑を覚えながらも、俺はたくさんの洗濯バサミを外していく。
そして上体を起こし、今も尚ベッドの横で素知らぬ顔をしている犯人――クソ姉貴を睨む。
「……人の寝顔で遊ぶな」
「人が寝ているときって、どれだけの痛みなら耐えられるのか、どれくらい痛ければ起きるのか気になってな」
「なに、そのしょうもない実験! 可愛い弟を実験台にすんな!」
「……あ? 可愛い、弟?」
「泣けてくるから、そんな反応やめて」
どうやら、姉貴にとって俺は可愛い弟ではなかったらしい。まあ、分かってたけども。
俺は本日の学園の準備をしようかと立ち上がり――と、そこで姉貴が思い出したように言ってくる。
「あ、吹雪。そういや、さっきお前に用があるってやつが来てたぞ」
「え? 誰が?」
「木染だ」
木染――。
空星島に「木染」という苗字を持つ人間は、二人いる。
その中の一人である木染神楽は、俺や姉貴と同じ紅組に属している。
つまり、暮らしている学生寮も同じくここだ。俺に用があるのなら、わざわざ姉貴を介さずとも直接俺の部屋まで来ればいい。
だとすると、可能性としては残りの一人――木染神無だが……。
正直、木染神無とはあまり接点がない。クラスが違うため会う機会もないし、木染神無は〈十二星座〉の一員ということもあって、クラスも違う上に〈十二星座〉ですらない俺とは知り合いの域にも達していないのである。
そんな俺に用があるとは到底思えないが、姉貴がそんな嘘をつく必要もないだろう。
ならば、とりあえず彼女のところに行くだけ行ってみるか。
「今どこにいんの?」
「ロビーで待ってんぞ」
「それなら早く言ってくんね!?」
急いで用意を済まし、俺は部屋を出る。
学生寮には生徒の個室の他、食堂や大浴場など様々な施設、部屋が設けられている。
その一つとして、学生寮に入ってすぐのところはロビーとなっているのだ。
できるだけ待たせないようロビーへ駆け足で向かうと、そこには既に一人の女子生徒がソファーに座っていた。
小柄な体躯に、カチューシャをしたボブカット。
少しタレ目気味な小顔に、少しだけ膨らんでいる胸部。
着ている制服を見たところ、所属しているのが俺と異なる蒼組だということが分かる。
「……ごめん、待たせたか?」
仮にも〈十二星座〉である彼女に対して敬語を使うべきかどうか迷ったが、年下の女の子に敬語で話すのも変だろう。
すると少女は俺の存在に気づき、立ち上がって僅かに頭を下げてくる。
「いえ、大丈夫……です。そんなに待ってません……から」
この少女が、木染が言っていた妹の木染神無だろう。
一応〈十二星座〉の一員ではあるのだが、何だか予想していた人物とは少し相違がある。
姉貴のように傍若無人な態度をするか、はたまたテレサさんのように尋常ではないオーラを漂わせているか。
そのどちらかだと思っていたのに、今目の前にいる少女からは一切そういったものを感じない。
どこかおどおどとしていて、むしろ頼りない雰囲気を醸し出していた。
「えっと……神無ちゃん、でいいか?」
「あ、はい。呼び方は好きにしてもらって結構……です」
いきなり下の名前で呼ぶのも馴れ馴れしいと思われるかと危惧したが、気にせず了承してくれた。
普通は苗字で呼ぶべきだろうけど、それだと姉のほうと同じでややこしくなってしまう。
「……で、俺に何か用か?」
「あ、その……学園長から呼んで来いって言われた……ので」
神無ちゃんから発せられた言葉に、俺は思わず訝しむ。
俺は――いや俺だけではなく、空星島で暮らしているほとんどの人は、学園長に会ったことがない。
俺たち能力者を空星島へと集めたのは学園長自身だが、実際に連れて来たのは学園長が呼んだと思しき黒服たちだったのだ。
直接目にしたことがあるのは〈十二星座〉に属している十二人だけのため、他の七十六人の間では未だに正体不明の謎の人物とされている。
この島に住んではいるだろうが、正直な話どこにいるのか見当もつかない。
だから学園長が俺を呼ぶ理由など、全く思い当たる節はなかった。
「その学園長ってのは、どこにいるんだ?」
「学園長室で待って……ます」
「学園長室なんてあったのか」
「あ、はい。校舎の二階にあるんですけど、常に鍵がかかっていて開かないので知らない人も多いとは思い……ます」
クラスの教室があるのは一階だし、トレーニングルームは地下に広がっている。
なので二階には滅多に行く機会がなく、俺たちが学園長室の存在を知らないのも仕方ないだろう。
居場所が分かったところで、早速そこに向かおうとした――のだが。
「あ、ちょっと待って……ください。吹雪さんだけじゃなくて、他にも呼ばれてる人がいるん……です」
そう呼び止められ、怪訝に思いつつも足を止める。
俺だけが呼ばれたのかと思っていたが、どうやら違ったらしい。
それなら、また誰かがここに来るということだろうか。
などと考えていると。
「ご、ごめん、待った……って、あれ? 吹雪も呼ばれたの?」
乱れた息を整えながら、一人の少女が姿を現す。
当然見紛うわけもなく、木染神無の実姉、木染神楽だった。
「ああ、お前もだったのか」
「ん。でも何の用件なのかは全く聞いてないんよ」
それは俺も同じだ。
これで全員なのかと思いきや、そうでもないらしく。
「吹雪さんと姉さんの他にも、あと二人……います」
だったら、折角だしみんなで一緒に行ったほうがいいか。
そう思い、俺は木染や神無ちゃんとともに、ロビーで誰かが来るのを待つ。
やがて、数分ほど経過して。
姿を現したのは、予想していなかった人物だった。
「よぉ。まさか、お前らもいるとは思わなかったぜ」
彼の名は――ウィルム・クリストフ。
アメリカ人の能力者で、少し目つきは悪いが根はいいやつ……などという説明をする必要もないか。
授業の一環で何度か手合わせをしたことがあるけど、一度も勝てた試しがない。まあ、俺は能力を使っていなかったから当然と言えば当然だけども。
「最後の一人は、橙組の学生寮にいると思い……ます」
俺、木染、ウィルム。この三人の共通点なんて紅組の生徒ということだけだろうが、そこに蒼組所属の神無ちゃんや橙組所属らしい最後の一人が加わるとなれば、ますます組み合わせが謎に思える。
一体、学園長は俺たちを呼んで何をしようとしているのだろうか。
そんな疑問を抱きつつも、俺たちは紅組の学生寮を出て橙組の学生寮へと向かう。
やがて到着して、学生寮の扉を開ける――と。
全く同じタイミングで、中から少女が出てきた。
「……あれ? にぃ、こんな大人数で何かあったんですか?」
その少女――小春は、俺の姿に気づいて首を傾げる。
どうやら、小春は今から学園に向かうところだったらしい。
と、神無ちゃんが小春に近づき、口を開く。
「あの、小春さん。学園長が呼んでいるので、ちょっとついて来てもらっていい……ですか?」
「え? わたしが、ですか?」
「はい、そう……です。正確には私も含めた、この五人が呼ばれたん……です」
橙組に属している誰なのかと思ったが、まさか小春が最後の一人だったとは。
小春は訝しみつつも承諾し、俺たち五人は学園の校舎へ行き、二階に上る。
そして長い廊下を歩いていくと、一番奥に大きな扉が見えてきた。
他の教室の扉と比べて、幾許か頑丈そうに見える。
学園内にこんな扉があったなんて、全く知らなかった。
「……木染神無……です。呼ばれた人みんなを連れて……来ました」
「――いいわ、入ってきてちょうだい」
神無ちゃんが扉をノックしながら言うと、部屋の中からそんな声が聞こえてきた。
何だろう。口調は女性らしいものの、その声は何というか……妙に野太かった気がする。
「失礼……します」
おずおずと言い、神無ちゃんはゆっくり扉を開ける。ギィー……と、如何にも重そうな音が鳴った。
微かな緊張を覚えながら、俺たちは神無ちゃんに次いで順番に入っていく。
そこは、とても広い部屋だった。
端にはタンスや本棚などが置かれ、観葉植物も飾られている。
中央には横長の机があり、その後ろにあるミニソファにとある人物が腰掛けていた。
「神無ちゃん以外は初めましてよね。あたいの名前は中百舌鳥師走。ここ空星学園の学園長よん」
その姿を見て、俺は思わず絶句してしまった。
丸太のように太い腕。がっちりとした分厚い胸板。プロボクサーやプロレスラーでもなかなかいないような、屈強な肉体。
筋肉が凄まじく、背も物凄く高い。髪の毛は生えておらず、鼻の下にはちょび髭が生えている。
どこからどう見ても、男だ。間違いなく、男だ。いや、むしろ漢と表記したほうが正しいだろう。
だがしかし、その野太いおっさん声で発せられたのは、女口調。
つまり、オカマである。
「なんか……すげぇ濃いやつが学園長やってたんだな」
「……ああ、そうだな」
ウィルムが小声で言ってきたので、俺も同意する。
正直、もっと貫禄のある老人とかなのかと思っていたのに、完全に予想外だった。
などと考えていたら、学園長は早速本題に入る。
「あなたたちを呼んだのは、他でもないわ。これから、日本に行ってもらいたいのよ」
「……日本に?」
学園長の言葉に、ウィルムが鸚鵡返しで問う。
俺たち能力者は、まるで正義のヒーローのように育成するため空星島に集められた。
だというのに、どうして急に日本に戻る必要があるのだろうか。
そもそも、ウィルムだけは日本人ではない。
「能力者を育て続ける育成期間は、今日で終わり。これからは一般人からの依頼を受注して、その依頼を解決させるべく、あたいが選出した能力者五名に現地に行ってもらいたいの。今回あたいが選んだのが、あなたたち五人ってワケ」
依頼を受け、それを解決させる。
つまり、困っている人を助けろということだろう。
能力の育成に専念していた今までとは違い、これからはその能力を活用させるのか。
一般人からの依頼で、俺たちの能力を活かせる場面があるのかは不明だが。
「まず、あなたたちに向かってもらいたいのは日本。それも――東京よ」
学園長が告げた、俺たちの目的地は。
誰もが知っているであろう、日本の首都だった。
自分の顔面に感じる疼痛で、俺は目が覚めた。
ゆっくり手を動かして顔を触ってみると、洗濯バサミと思しき物体が顔の肉を挟んでいることを悟る。
憤りと困惑を覚えながらも、俺はたくさんの洗濯バサミを外していく。
そして上体を起こし、今も尚ベッドの横で素知らぬ顔をしている犯人――クソ姉貴を睨む。
「……人の寝顔で遊ぶな」
「人が寝ているときって、どれだけの痛みなら耐えられるのか、どれくらい痛ければ起きるのか気になってな」
「なに、そのしょうもない実験! 可愛い弟を実験台にすんな!」
「……あ? 可愛い、弟?」
「泣けてくるから、そんな反応やめて」
どうやら、姉貴にとって俺は可愛い弟ではなかったらしい。まあ、分かってたけども。
俺は本日の学園の準備をしようかと立ち上がり――と、そこで姉貴が思い出したように言ってくる。
「あ、吹雪。そういや、さっきお前に用があるってやつが来てたぞ」
「え? 誰が?」
「木染だ」
木染――。
空星島に「木染」という苗字を持つ人間は、二人いる。
その中の一人である木染神楽は、俺や姉貴と同じ紅組に属している。
つまり、暮らしている学生寮も同じくここだ。俺に用があるのなら、わざわざ姉貴を介さずとも直接俺の部屋まで来ればいい。
だとすると、可能性としては残りの一人――木染神無だが……。
正直、木染神無とはあまり接点がない。クラスが違うため会う機会もないし、木染神無は〈十二星座〉の一員ということもあって、クラスも違う上に〈十二星座〉ですらない俺とは知り合いの域にも達していないのである。
そんな俺に用があるとは到底思えないが、姉貴がそんな嘘をつく必要もないだろう。
ならば、とりあえず彼女のところに行くだけ行ってみるか。
「今どこにいんの?」
「ロビーで待ってんぞ」
「それなら早く言ってくんね!?」
急いで用意を済まし、俺は部屋を出る。
学生寮には生徒の個室の他、食堂や大浴場など様々な施設、部屋が設けられている。
その一つとして、学生寮に入ってすぐのところはロビーとなっているのだ。
できるだけ待たせないようロビーへ駆け足で向かうと、そこには既に一人の女子生徒がソファーに座っていた。
小柄な体躯に、カチューシャをしたボブカット。
少しタレ目気味な小顔に、少しだけ膨らんでいる胸部。
着ている制服を見たところ、所属しているのが俺と異なる蒼組だということが分かる。
「……ごめん、待たせたか?」
仮にも〈十二星座〉である彼女に対して敬語を使うべきかどうか迷ったが、年下の女の子に敬語で話すのも変だろう。
すると少女は俺の存在に気づき、立ち上がって僅かに頭を下げてくる。
「いえ、大丈夫……です。そんなに待ってません……から」
この少女が、木染が言っていた妹の木染神無だろう。
一応〈十二星座〉の一員ではあるのだが、何だか予想していた人物とは少し相違がある。
姉貴のように傍若無人な態度をするか、はたまたテレサさんのように尋常ではないオーラを漂わせているか。
そのどちらかだと思っていたのに、今目の前にいる少女からは一切そういったものを感じない。
どこかおどおどとしていて、むしろ頼りない雰囲気を醸し出していた。
「えっと……神無ちゃん、でいいか?」
「あ、はい。呼び方は好きにしてもらって結構……です」
いきなり下の名前で呼ぶのも馴れ馴れしいと思われるかと危惧したが、気にせず了承してくれた。
普通は苗字で呼ぶべきだろうけど、それだと姉のほうと同じでややこしくなってしまう。
「……で、俺に何か用か?」
「あ、その……学園長から呼んで来いって言われた……ので」
神無ちゃんから発せられた言葉に、俺は思わず訝しむ。
俺は――いや俺だけではなく、空星島で暮らしているほとんどの人は、学園長に会ったことがない。
俺たち能力者を空星島へと集めたのは学園長自身だが、実際に連れて来たのは学園長が呼んだと思しき黒服たちだったのだ。
直接目にしたことがあるのは〈十二星座〉に属している十二人だけのため、他の七十六人の間では未だに正体不明の謎の人物とされている。
この島に住んではいるだろうが、正直な話どこにいるのか見当もつかない。
だから学園長が俺を呼ぶ理由など、全く思い当たる節はなかった。
「その学園長ってのは、どこにいるんだ?」
「学園長室で待って……ます」
「学園長室なんてあったのか」
「あ、はい。校舎の二階にあるんですけど、常に鍵がかかっていて開かないので知らない人も多いとは思い……ます」
クラスの教室があるのは一階だし、トレーニングルームは地下に広がっている。
なので二階には滅多に行く機会がなく、俺たちが学園長室の存在を知らないのも仕方ないだろう。
居場所が分かったところで、早速そこに向かおうとした――のだが。
「あ、ちょっと待って……ください。吹雪さんだけじゃなくて、他にも呼ばれてる人がいるん……です」
そう呼び止められ、怪訝に思いつつも足を止める。
俺だけが呼ばれたのかと思っていたが、どうやら違ったらしい。
それなら、また誰かがここに来るということだろうか。
などと考えていると。
「ご、ごめん、待った……って、あれ? 吹雪も呼ばれたの?」
乱れた息を整えながら、一人の少女が姿を現す。
当然見紛うわけもなく、木染神無の実姉、木染神楽だった。
「ああ、お前もだったのか」
「ん。でも何の用件なのかは全く聞いてないんよ」
それは俺も同じだ。
これで全員なのかと思いきや、そうでもないらしく。
「吹雪さんと姉さんの他にも、あと二人……います」
だったら、折角だしみんなで一緒に行ったほうがいいか。
そう思い、俺は木染や神無ちゃんとともに、ロビーで誰かが来るのを待つ。
やがて、数分ほど経過して。
姿を現したのは、予想していなかった人物だった。
「よぉ。まさか、お前らもいるとは思わなかったぜ」
彼の名は――ウィルム・クリストフ。
アメリカ人の能力者で、少し目つきは悪いが根はいいやつ……などという説明をする必要もないか。
授業の一環で何度か手合わせをしたことがあるけど、一度も勝てた試しがない。まあ、俺は能力を使っていなかったから当然と言えば当然だけども。
「最後の一人は、橙組の学生寮にいると思い……ます」
俺、木染、ウィルム。この三人の共通点なんて紅組の生徒ということだけだろうが、そこに蒼組所属の神無ちゃんや橙組所属らしい最後の一人が加わるとなれば、ますます組み合わせが謎に思える。
一体、学園長は俺たちを呼んで何をしようとしているのだろうか。
そんな疑問を抱きつつも、俺たちは紅組の学生寮を出て橙組の学生寮へと向かう。
やがて到着して、学生寮の扉を開ける――と。
全く同じタイミングで、中から少女が出てきた。
「……あれ? にぃ、こんな大人数で何かあったんですか?」
その少女――小春は、俺の姿に気づいて首を傾げる。
どうやら、小春は今から学園に向かうところだったらしい。
と、神無ちゃんが小春に近づき、口を開く。
「あの、小春さん。学園長が呼んでいるので、ちょっとついて来てもらっていい……ですか?」
「え? わたしが、ですか?」
「はい、そう……です。正確には私も含めた、この五人が呼ばれたん……です」
橙組に属している誰なのかと思ったが、まさか小春が最後の一人だったとは。
小春は訝しみつつも承諾し、俺たち五人は学園の校舎へ行き、二階に上る。
そして長い廊下を歩いていくと、一番奥に大きな扉が見えてきた。
他の教室の扉と比べて、幾許か頑丈そうに見える。
学園内にこんな扉があったなんて、全く知らなかった。
「……木染神無……です。呼ばれた人みんなを連れて……来ました」
「――いいわ、入ってきてちょうだい」
神無ちゃんが扉をノックしながら言うと、部屋の中からそんな声が聞こえてきた。
何だろう。口調は女性らしいものの、その声は何というか……妙に野太かった気がする。
「失礼……します」
おずおずと言い、神無ちゃんはゆっくり扉を開ける。ギィー……と、如何にも重そうな音が鳴った。
微かな緊張を覚えながら、俺たちは神無ちゃんに次いで順番に入っていく。
そこは、とても広い部屋だった。
端にはタンスや本棚などが置かれ、観葉植物も飾られている。
中央には横長の机があり、その後ろにあるミニソファにとある人物が腰掛けていた。
「神無ちゃん以外は初めましてよね。あたいの名前は中百舌鳥師走。ここ空星学園の学園長よん」
その姿を見て、俺は思わず絶句してしまった。
丸太のように太い腕。がっちりとした分厚い胸板。プロボクサーやプロレスラーでもなかなかいないような、屈強な肉体。
筋肉が凄まじく、背も物凄く高い。髪の毛は生えておらず、鼻の下にはちょび髭が生えている。
どこからどう見ても、男だ。間違いなく、男だ。いや、むしろ漢と表記したほうが正しいだろう。
だがしかし、その野太いおっさん声で発せられたのは、女口調。
つまり、オカマである。
「なんか……すげぇ濃いやつが学園長やってたんだな」
「……ああ、そうだな」
ウィルムが小声で言ってきたので、俺も同意する。
正直、もっと貫禄のある老人とかなのかと思っていたのに、完全に予想外だった。
などと考えていたら、学園長は早速本題に入る。
「あなたたちを呼んだのは、他でもないわ。これから、日本に行ってもらいたいのよ」
「……日本に?」
学園長の言葉に、ウィルムが鸚鵡返しで問う。
俺たち能力者は、まるで正義のヒーローのように育成するため空星島に集められた。
だというのに、どうして急に日本に戻る必要があるのだろうか。
そもそも、ウィルムだけは日本人ではない。
「能力者を育て続ける育成期間は、今日で終わり。これからは一般人からの依頼を受注して、その依頼を解決させるべく、あたいが選出した能力者五名に現地に行ってもらいたいの。今回あたいが選んだのが、あなたたち五人ってワケ」
依頼を受け、それを解決させる。
つまり、困っている人を助けろということだろう。
能力の育成に専念していた今までとは違い、これからはその能力を活用させるのか。
一般人からの依頼で、俺たちの能力を活かせる場面があるのかは不明だが。
「まず、あなたたちに向かってもらいたいのは日本。それも――東京よ」
学園長が告げた、俺たちの目的地は。
誰もが知っているであろう、日本の首都だった。
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