88の星座精鋭(メテオ・プラネット)
東京~初任務の始まり~
「東、京……?」
木染の口から、そんな小さな吐息が漏れた。
学園長から発せられた、俺たち五人への指示。
それは一般人からの依頼を受け、東京に向かうというもの。
俺と小春の出身地は別の県だが、東京にも一応行ったことはある。とはいえ、もう七年ほど前だけど。
「そう。空星島から船で東京の港に行き、そこから池袋にある一軒家に行ってほしいの。依頼を解決させるまで、その家で寝泊りしてもいいことになってるわ。既に許可はもらっておいたから」
言いながら、学園長は神無ちゃんに地図と思しき紙を手渡す。
俺たちは五人もいるのに、全員がその家にお邪魔してしまってもいいのだろうか。
迷惑になるのでは……と思ったが、相手も俺たちにしてほしいことがあるのだろうし、許可を貰っているのなら大丈夫か。
「それで、肝心の依頼ってーのは? オレらは何すりゃいいんすか?」
「あなたたちには、家守をしてもらいたいの」
ウィルムの問いに学園長が間髪入れず答え、俺たちは一様に怪訝な表情になってしまう。
家守――家の番をすること。また、有鱗目ヤモリ科の爬虫類の総称。
などと言葉の意味を心の中で繰り返してみるも、依頼の内容は理解できなかった。
「さっき言った家には、両親と娘、更にペットの犬が暮らしているの。だけど両親の二人は急な用事があるみたいで、今日から一週間ほど帰ってこれないらしいのよ。そうなると、家には娘とペットしか残らないわけじゃない? しかも、娘の年齢はまだ五歳……。そんな幼い子を、犬と一緒とはいっても一週間もの間留守番させるなんて可哀想じゃない。だから、あなたたちには一週間、その子と一緒に遊び相手になってあげてほしいの」
なるほど。確かに、五歳だったらまだ幼稚園児くらいの年齢だ。
一週間という時間は、少なくとも短くない。五歳児の娘に留守番をさせるのは、少し心配に思える。
でも……どうして親は、娘と犬を置いて出かけてしまうのだろう。
そんなに大事な用事があるのだろうか。一週間もの長い間、娘を連れて行けない用事が。
本人に訊いてみなければ、真相は知る由もないことだけど。
「依頼の内容は分かったけどよ、その親は無責任じゃねえか? オレなら、どんなに大事な用があったからって、小せえ子供を家に置いておくことなんてできねえけど」
「そう言わないであげてちょうだい。詳しくは知らないけれど、どうしても外せない用事があるのよ。だからこそ、こっちに依頼してきたんじゃない」
「ちっ……」
学園長に制され、ウィルムは荒々しく舌打ちをする。
正直な話、俺もウィルムに同意だった。
その人たちにも色々な事情があるのだとしても、少し気になってしまう。
「もちろん、報酬も貰えるはずよ。一週間、その娘や犬と家守をしているだけでいいの。あなたたちにとっても、悪い話じゃないと思うわよ?」
学園長の言うことにも、一理ある。
依頼というからには、どんなことをさせられるのか不安にも感じていたが……。
家守をするだけなら、全然難しくはないように思う。
「分かり……ました。その依頼、私たちが受け……ます」
「そう、助かるわ。だったら、今すぐにでも準備して向かってちょうだい」
「……はい」
そんなやり取りを経て、俺たち五人は学園長室を後にする。
そして、神無ちゃんは口を開く。
「何か忘れたもの……ありますか?」
そう訊かれ、俺たちは互いに顔を見合わせる。
全員が横に首を振ったことを確認し、神無ちゃんは最後に言った。
「それじゃあ、行き……ましょう。――東京に」
§
俺、小春、木染、神無ちゃん、ウィルムの五人は。
空星島の隅に設えられた港にて、既に待機していた黒服の男性が操縦する船に乗り、海を渡る。
途中で三冬からメールが来たので見てみると、「東京に行くなんて聞いてないよ」「今どこにいるの」という旨の長文だった。
めんどくさいから無視しておく。
やがて、どれくらいの時間が経過した頃だろうか。
決して速いとは言えない速度の船だったため、一時間か二時間、もしくはそれ以上乗船していたような気もする。
それほどの長い時間を要して、俺たちを乗せた船はようやく東京の港へと到着した。
およそ五年振りの、本島。
懐かしいを通り越して、もはや新鮮な気持ちで東京の大地を踏む。
だが、観光に来たわけでも帰省しに来たわけでも遊びに来たわけでもない。
ここから更に池袋に行き、依頼主のお宅へ向かわなければいけないのだ。
それほど難しい内容ではなかったとはいえ、依頼は依頼だ。
あまり気を抜かないようにしよう。
そう自分に言い聞かせながら、俺は――ゆっくりと歩を進めた。
木染の口から、そんな小さな吐息が漏れた。
学園長から発せられた、俺たち五人への指示。
それは一般人からの依頼を受け、東京に向かうというもの。
俺と小春の出身地は別の県だが、東京にも一応行ったことはある。とはいえ、もう七年ほど前だけど。
「そう。空星島から船で東京の港に行き、そこから池袋にある一軒家に行ってほしいの。依頼を解決させるまで、その家で寝泊りしてもいいことになってるわ。既に許可はもらっておいたから」
言いながら、学園長は神無ちゃんに地図と思しき紙を手渡す。
俺たちは五人もいるのに、全員がその家にお邪魔してしまってもいいのだろうか。
迷惑になるのでは……と思ったが、相手も俺たちにしてほしいことがあるのだろうし、許可を貰っているのなら大丈夫か。
「それで、肝心の依頼ってーのは? オレらは何すりゃいいんすか?」
「あなたたちには、家守をしてもらいたいの」
ウィルムの問いに学園長が間髪入れず答え、俺たちは一様に怪訝な表情になってしまう。
家守――家の番をすること。また、有鱗目ヤモリ科の爬虫類の総称。
などと言葉の意味を心の中で繰り返してみるも、依頼の内容は理解できなかった。
「さっき言った家には、両親と娘、更にペットの犬が暮らしているの。だけど両親の二人は急な用事があるみたいで、今日から一週間ほど帰ってこれないらしいのよ。そうなると、家には娘とペットしか残らないわけじゃない? しかも、娘の年齢はまだ五歳……。そんな幼い子を、犬と一緒とはいっても一週間もの間留守番させるなんて可哀想じゃない。だから、あなたたちには一週間、その子と一緒に遊び相手になってあげてほしいの」
なるほど。確かに、五歳だったらまだ幼稚園児くらいの年齢だ。
一週間という時間は、少なくとも短くない。五歳児の娘に留守番をさせるのは、少し心配に思える。
でも……どうして親は、娘と犬を置いて出かけてしまうのだろう。
そんなに大事な用事があるのだろうか。一週間もの長い間、娘を連れて行けない用事が。
本人に訊いてみなければ、真相は知る由もないことだけど。
「依頼の内容は分かったけどよ、その親は無責任じゃねえか? オレなら、どんなに大事な用があったからって、小せえ子供を家に置いておくことなんてできねえけど」
「そう言わないであげてちょうだい。詳しくは知らないけれど、どうしても外せない用事があるのよ。だからこそ、こっちに依頼してきたんじゃない」
「ちっ……」
学園長に制され、ウィルムは荒々しく舌打ちをする。
正直な話、俺もウィルムに同意だった。
その人たちにも色々な事情があるのだとしても、少し気になってしまう。
「もちろん、報酬も貰えるはずよ。一週間、その娘や犬と家守をしているだけでいいの。あなたたちにとっても、悪い話じゃないと思うわよ?」
学園長の言うことにも、一理ある。
依頼というからには、どんなことをさせられるのか不安にも感じていたが……。
家守をするだけなら、全然難しくはないように思う。
「分かり……ました。その依頼、私たちが受け……ます」
「そう、助かるわ。だったら、今すぐにでも準備して向かってちょうだい」
「……はい」
そんなやり取りを経て、俺たち五人は学園長室を後にする。
そして、神無ちゃんは口を開く。
「何か忘れたもの……ありますか?」
そう訊かれ、俺たちは互いに顔を見合わせる。
全員が横に首を振ったことを確認し、神無ちゃんは最後に言った。
「それじゃあ、行き……ましょう。――東京に」
§
俺、小春、木染、神無ちゃん、ウィルムの五人は。
空星島の隅に設えられた港にて、既に待機していた黒服の男性が操縦する船に乗り、海を渡る。
途中で三冬からメールが来たので見てみると、「東京に行くなんて聞いてないよ」「今どこにいるの」という旨の長文だった。
めんどくさいから無視しておく。
やがて、どれくらいの時間が経過した頃だろうか。
決して速いとは言えない速度の船だったため、一時間か二時間、もしくはそれ以上乗船していたような気もする。
それほどの長い時間を要して、俺たちを乗せた船はようやく東京の港へと到着した。
およそ五年振りの、本島。
懐かしいを通り越して、もはや新鮮な気持ちで東京の大地を踏む。
だが、観光に来たわけでも帰省しに来たわけでも遊びに来たわけでもない。
ここから更に池袋に行き、依頼主のお宅へ向かわなければいけないのだ。
それほど難しい内容ではなかったとはいえ、依頼は依頼だ。
あまり気を抜かないようにしよう。
そう自分に言い聞かせながら、俺は――ゆっくりと歩を進めた。
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