88の星座精鋭(メテオ・プラネット)

果実夢想

廃棄~悪の上に立つ者~

 ――コツ、コツ、と。
 薄暗い空間に、そんな乾いた足音が響く。

 おいら――ネイサン・マティスは両腕も両脚も拘束されていて、外の様子を窺い知ることはできない。
 だから、近づいてくる足音を、ただただ待ち続けた。

 少し緊張しているのは、その足音の主が誰なのか分かっているからだろう。

 やがて。
 その人は、おいらが捕まっている牢屋の、すぐ前で足を止めた。

「無様だな」

 開口一番に、おいらのことを馬鹿にしてくる。
 他の人なら、馬鹿にされれば怒ってしまう。
 だけど、この人が相手なら、そんな真似はできない。

「すいません……おいら、捕まってしまった」

 頭を下げて、おいらは謝る。
 吹雪の能力が分からなかったとはいえ、油断してしまった。
 しかも、〈十二星座〉の一人である狭雲晩夏まで来てしまった。
 様々なミスが重なったのだ。おいらのせいで。

「だが、収穫はあるんだろ」

「あ、はい。吹雪の能力が、分かりました」

 おいらは、自信満々に話した。

 あまり明かされていない、狭雲吹雪の能力。
 おいらだって、詳しくは分からない。だけど、あの動きは尋常じゃなかった。
 おそらく、己の身体に関与するタイプのものだろう。

「ふん、充分だ。元々、貴様には期待などしていない」

 悔しかった。
 おいらに任されたのは、期待してくれていたからではなかったことが。

「貴様は、ただの捨て駒に過ぎない。あの場で敗北を喫してしまっても、狭雲吹雪の能力を明かすことができたのなら、それで構わなかった」

 ――捨て駒。

 つまり、この男は。
 おいらを死なせるつもりで、殺すつもりで、吹雪の能力を試させたということか。

「むしろ、貴様に問いたい。何故、無様に生き残った?」

「……え?」

 男の問いに、おいらは素っ頓狂な声を漏らしてしまう。

「貴様に、余計なことを口外してもらいたくはない」

「口外って……するわけないじゃないか!」

「言っただろ。俺は、貴様のことなど期待していない。信用も、信頼もしていない」

「……っ!」

 この男にとって、おいらは何なのか。
 その答えは、今分かった。

 ――道具だ。

 自分の目的のために、好きに使う道具。
 その道具が壊れたところで、また別の道具に変えればいい。
 おいらが死んだところで、また別の人を操ればいい。

 そういう、ことなんだろう。
 腹立たしい。だけど、この人には逆らえない。
 だから、俺は歯を噛み締め、彼を睨むだけだった。

「当初の目的である、狭雲吹雪の能力は概ね判明した。だから――貴様はもう、用済みだ」

 そこで、おいらを見る目が、まるでゴミを見るような目に変わった。
 この男が、今から何をしようとしているのか。
 それが分かってしまい、おいらは慌てて声を荒らげる。

「ま、待ってくれ! おいらは、まだ生きてる! いつか脱獄してでも、あんたたちの役に立つ!」

 あのときは、油断しただけだ。
 おいらが万全の状態で、一対一で挑めば、きっと勝てる。
 もう一度チャンスを貰えれば、前のようにはならない。
 だけど、男は無慈悲な返事を返してくる。

「……勘違いするな。貴様のことを、仲間などと思ったことは一度もない」

 そして――男は言い放つ。
 おいらに向かって、冷たく暗い声色で。

「だから、貴様は――廃棄処分だ」

 そんな、人に対する言葉だとは思えないことを発して。
 男は、人差し指を突き出す。
 そして、爪先から何かが飛び出し――

「……ぁがッ!?」

 唐突に、腹部に鋭い痛みが走った。
 ゆっくり視線を下へ移すと、おいらの腹に白くて太いものが突き刺さっていた。

 これは――骨だ。

 男の骨が指から放たれ、おいらの腹を抉る。
 そこから大量の血が溢れ、牢屋内のコンクリートの床を赤く汚す。

「な、なに、を……っ」

「無様に生き残った貴様は、ここで無様に果てろ」

 拘束されており、避けることも逃げることもできない、おいらに。
 男は、再び指から骨を放つ。
 今度は一本だけでなく、大量に。

「……が、う、ぐはぁ……ッ」

 腹にも、脚にも、腕にも。
 体の至るところに、太くて硬い骨が突き刺さっていく。

 肉を裂かれ、貫かれ、内部の内蔵までもが砕かれているような感じがする。
 口から、鼻から、目から、体中の傷口から――大量に紅血こうけつを吹き出す。

 真っ赤に染まる視界で、彼を睨む。
 しかし彼は、無表情で、おいらを見下ろしているだけ。

しまいだ」

 最後に、そう言って。
 おいらの左胸に向かって、骨が発射した。

「――――ッ」

 声は出ない。
 太い骨が、おいらの心臓に一突きで。
 迸った鮮血とともに、臓物が散った。

 そして――おいらの意識は、永遠の闇へと落ちていった。

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