デイズ

鬼怒川 ますず

くちづけ

「顔を上げて」


僕が君の方を向き言うと君は素直に泣いていた顔を上げる。
その顔に、僕は顔を近づけて君と唇を重ねる。

僕と君の初めてのキスだ。

あまりの出来事に君は驚いていたけど、抵抗などしなかった。
むしろ僕の唇を求めてくる。

しばらくの間、僕と君はキスをしていた。

ようやく離れた唇から、お互いの唾液でできた糸が伸びていた。


「……なんで今、ショウくんは私とキスしたの?」

「君が好きだから、守りたいから」


君が泣いて赤くなった瞳を僕に向けて言うので、僕はそれらしいことを言った。
そして、君に対して僕の気持ちを言った。


「僕は弱くて暗くて君とは違って引っ込み思案だ。そんな僕でも、君の笑顔を見てるとなんでも出来るんだってそう思えるんだ」

「……もう、私は以前のようには笑えないよ。多分これから先は悲しい顔しかできないよ?」

「だったら、これから先は君のために僕が笑うよ」

「ショウくんが死ぬかもしれないんだよ?」

「そうだとしたら僕は君のために笑いながら死ぬよ。君が生きてさえいれば、僕はそれだけでも生きた証になるんだから」


僕はそう言って暗い部屋の中で君の顔を見つめた。
落ち込んでいた君の顔。
その顔のほっぺを、ムニッと引っ張って無理やり笑わせようとする。


「な、なひふるほの!?」

「僕なりの君の真似だよ。似てるだろ?」

「ふにーーー!! 」


僕は笑って君の顔を悪戯する。
君がその顔で少し怒りそうな顔をする。
僕は君のその顔が見たかった。

愛おしかった。
恋しかった。

僕がいつも救われてきた君の笑顔が、その顔に戻ってきた。
僕は思考が動く前に、君を抱きしめていた。
ボサボサになった髪をゆっくり撫でて、君の顔を僕の胸に埋める。
いきなりのことで君は僕の腕の中で少し声を出すが、君も同じように僕に抱きつく。



僕は、君を守ると言った。


絶対に、守れるはずだと、この時の僕は思っていた。



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