異世界で勇者に選ばれたと思ったらお姫様に選ばれた件
第4話重なる影
姫と接した事によって、俺は少しだけ昔の事を思い出した。
俺にとってかけがえのない存在だった、秋野楓。
彼女は俺の幼馴染で、小さい頃から家族ぐるみでよく遊んでいた記憶がある。彼女はどんな時も元気で、いわゆるムードメーカーの存在だった。クラスの皆からも憧れの存在で、その幼馴染であった俺は自慢してしまうくらいだった。
だけどその明るい部分があれば、必ず影もある。
俺がその影に気づいた時には既に遅かった。
そう、俺は気付くのがあまりに遅すぎたのだ。
「ユウスケさん? 咳は止んだのでそろそろ」
「あ、す、すいません」
色々なことを思い出している間に姫に声をかけられ、現実へと帰ってくる。
「姫様はやはり体が弱いのですか?」
「お母様も元より身体が弱かったらしく、私もその血を継いでしまったようなんです」
「でも戦姫って呼ばれるくらい強かったって」
「お母様は努力して強くなったらしいんです。お父様から聞きました」
「努力して、ですか」
それ一つでそこまで言われるようになったのだから、かなりの努力をしたのだろう。俺はそういう人を尊敬しているし、格好いいなと思う。今はこの世にはいないけど、もし俺がランの母親に会っていたら尊敬していたと思う。
「しかしわたしは、お母様と違って努力をせず、お母様の死からずっと逃げ続けています。そんな私に、あのお母様と同じ場所に立つことなんてもってのほかなんです」
悲しい目をしながら姫は語る。王様曰く十歳の年なのだからまだ親に甘えたい年だ(到底十歳には見えないが)。だから死から逃げたい気持ちも痛いほど分かる。
「俺はすぐに受け止める必要なんてないと思いますよ、姫様」
「え?」
「人の死を受け止めるのなんて、すぐには出来ないんです。無理矢理受け止める必要もないですし、少しずつ時間をかけてでいいんですよ。俺もそうでしたから」
「ユウスケさんも……ですか?」
「はい。まあ、少し昔の話なんですけどね」
俺は彼女を救えなかった事をすごく後悔した。その後悔からか紅葉の死を受け止めるのも時間がかかったし、しばらく外にも出たくなかった。だから俺も姫の痛みを理解できる。
「だから受け止められる時間を俺が作ります。力になれるか分かりませんが」
「それはまさか、ユウスケさん」
「気は進みませんが、影武者になりますよ、俺が姫様の代わりに立ちます」
「あ、ありがとうございます!」
痛みを理解できるからこそ、彼女の代わりになれるのは自分だって理解した。というよりもはやその選択肢以外にない。こんな話を聞かされて、断る方が鬼だ。
「その代わり姫様も頑張ってください。俺も力になれる限り手伝いますから」
「分かりました。私も少しずつ頑張ってみせます。その代わりに一つ頼みたいのですが」
「頼みですか?」
「私の事ランって呼んでくれませんか? 同じ姫なのに姫様という呼び方はどうかと思いますので」
「それでいいんですか?」
「はい。私もユウスケさんって呼ばさせてもらいますので、是非そうさせてください」
「少し恥ずかしいですけど、分かりました」
こうして俺の人生は、たった一日で大きく変化する事になったのだった。正直女装する事にやはり抵抗を感じる。でももう引かないと決めた。
そしていつかでいい。過去に失敗したものを、取り戻す。もう二度と苦しまない為にも、俺は今までの人生と百八十度反転した生活を始める。
「ところでユウスケさん」
「はい」
「私の影武者になるからには、かなりの勉強量が必要になりますが大丈夫ですか?」
「え、えっと、大丈夫だと思います」
万年学年下位の成績だなんて口が滑っても言えない。
■□■□■□
一度ランの部屋を出た俺は、ステラに俺の決意を話した。
「本当にそれでいいんですか?」
「何だよ今更。さっきまであれだけ推してたくせに」
「本当にいいんですね?」
「だからもう決めたから、いいって」
何かを見定めているのかしばらく無言で俺を見つめるステラ。それからしばらくした後、彼女はこう言葉を紡いだ。
「どうやらその気持ちは本気のようですね。では色々手続きをしなければならないので、私に付いてきてください」
そして歩き出すステラ。俺は言われた通りに彼女の後をついていく事にした。
「あそこまで頑なでしたのに、まさか本当に決断してくれると思いませんでした。ラン様と何かお話をしたのですか?」
「あれだけ言ってて、俺が断ると思ってたのか?」
「正直な話を申しますと、色々言いましたがやはり断られるのではと思っていました。それほどユウスケ様には重い話かと思いました」
「まあ、それが普通の考えだよな」
逃げ道がなかったとは言えど、俺も断った方がいい話だとは思った。ただ、一度決めた事をもう揺るがす気持ちは一ミリもない。
「本来ならラン様もしっかりしなければならないのですが、お話ししたなら分かるように、身体が少々弱いんです」
「身体が弱いのは大目に見ても、一番の原因は恐らく……」
「ユウスケ様にもお分かりいただけましたか?」
「分からない方がおかしいよ」
だからこそ助けたいと思った。彼女は昔の俺にそっくりだった。だからこそ彼女を助ける道も見えている。ただ、その為には時間も必要だ。
「実は決断した理由の一番がそれだったりするんだ」
「どういう事ですか?」
「そっくりなんだ、昔の自分に。だから救ってあげたいんだ彼女を。自分のようにならない為にも」
俺にとってかけがえのない存在だった、秋野楓。
彼女は俺の幼馴染で、小さい頃から家族ぐるみでよく遊んでいた記憶がある。彼女はどんな時も元気で、いわゆるムードメーカーの存在だった。クラスの皆からも憧れの存在で、その幼馴染であった俺は自慢してしまうくらいだった。
だけどその明るい部分があれば、必ず影もある。
俺がその影に気づいた時には既に遅かった。
そう、俺は気付くのがあまりに遅すぎたのだ。
「ユウスケさん? 咳は止んだのでそろそろ」
「あ、す、すいません」
色々なことを思い出している間に姫に声をかけられ、現実へと帰ってくる。
「姫様はやはり体が弱いのですか?」
「お母様も元より身体が弱かったらしく、私もその血を継いでしまったようなんです」
「でも戦姫って呼ばれるくらい強かったって」
「お母様は努力して強くなったらしいんです。お父様から聞きました」
「努力して、ですか」
それ一つでそこまで言われるようになったのだから、かなりの努力をしたのだろう。俺はそういう人を尊敬しているし、格好いいなと思う。今はこの世にはいないけど、もし俺がランの母親に会っていたら尊敬していたと思う。
「しかしわたしは、お母様と違って努力をせず、お母様の死からずっと逃げ続けています。そんな私に、あのお母様と同じ場所に立つことなんてもってのほかなんです」
悲しい目をしながら姫は語る。王様曰く十歳の年なのだからまだ親に甘えたい年だ(到底十歳には見えないが)。だから死から逃げたい気持ちも痛いほど分かる。
「俺はすぐに受け止める必要なんてないと思いますよ、姫様」
「え?」
「人の死を受け止めるのなんて、すぐには出来ないんです。無理矢理受け止める必要もないですし、少しずつ時間をかけてでいいんですよ。俺もそうでしたから」
「ユウスケさんも……ですか?」
「はい。まあ、少し昔の話なんですけどね」
俺は彼女を救えなかった事をすごく後悔した。その後悔からか紅葉の死を受け止めるのも時間がかかったし、しばらく外にも出たくなかった。だから俺も姫の痛みを理解できる。
「だから受け止められる時間を俺が作ります。力になれるか分かりませんが」
「それはまさか、ユウスケさん」
「気は進みませんが、影武者になりますよ、俺が姫様の代わりに立ちます」
「あ、ありがとうございます!」
痛みを理解できるからこそ、彼女の代わりになれるのは自分だって理解した。というよりもはやその選択肢以外にない。こんな話を聞かされて、断る方が鬼だ。
「その代わり姫様も頑張ってください。俺も力になれる限り手伝いますから」
「分かりました。私も少しずつ頑張ってみせます。その代わりに一つ頼みたいのですが」
「頼みですか?」
「私の事ランって呼んでくれませんか? 同じ姫なのに姫様という呼び方はどうかと思いますので」
「それでいいんですか?」
「はい。私もユウスケさんって呼ばさせてもらいますので、是非そうさせてください」
「少し恥ずかしいですけど、分かりました」
こうして俺の人生は、たった一日で大きく変化する事になったのだった。正直女装する事にやはり抵抗を感じる。でももう引かないと決めた。
そしていつかでいい。過去に失敗したものを、取り戻す。もう二度と苦しまない為にも、俺は今までの人生と百八十度反転した生活を始める。
「ところでユウスケさん」
「はい」
「私の影武者になるからには、かなりの勉強量が必要になりますが大丈夫ですか?」
「え、えっと、大丈夫だと思います」
万年学年下位の成績だなんて口が滑っても言えない。
■□■□■□
一度ランの部屋を出た俺は、ステラに俺の決意を話した。
「本当にそれでいいんですか?」
「何だよ今更。さっきまであれだけ推してたくせに」
「本当にいいんですね?」
「だからもう決めたから、いいって」
何かを見定めているのかしばらく無言で俺を見つめるステラ。それからしばらくした後、彼女はこう言葉を紡いだ。
「どうやらその気持ちは本気のようですね。では色々手続きをしなければならないので、私に付いてきてください」
そして歩き出すステラ。俺は言われた通りに彼女の後をついていく事にした。
「あそこまで頑なでしたのに、まさか本当に決断してくれると思いませんでした。ラン様と何かお話をしたのですか?」
「あれだけ言ってて、俺が断ると思ってたのか?」
「正直な話を申しますと、色々言いましたがやはり断られるのではと思っていました。それほどユウスケ様には重い話かと思いました」
「まあ、それが普通の考えだよな」
逃げ道がなかったとは言えど、俺も断った方がいい話だとは思った。ただ、一度決めた事をもう揺るがす気持ちは一ミリもない。
「本来ならラン様もしっかりしなければならないのですが、お話ししたなら分かるように、身体が少々弱いんです」
「身体が弱いのは大目に見ても、一番の原因は恐らく……」
「ユウスケ様にもお分かりいただけましたか?」
「分からない方がおかしいよ」
だからこそ助けたいと思った。彼女は昔の俺にそっくりだった。だからこそ彼女を助ける道も見えている。ただ、その為には時間も必要だ。
「実は決断した理由の一番がそれだったりするんだ」
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