異世界で勇者に選ばれたと思ったらお姫様に選ばれた件

りょう

第1話ティアラから始まる異世界転移

 昔はよく勇者に憧れていたものだ。囚われの姫を救って、世界を救って、英雄になって、その中で恋もして。
 そんな話はあくまでゲームや本の世界での話ではあったけど、俺はそういう話が大好きで、よく勇者ごっこで遊んだりもした。

(あの頃は本当に良かったなぁ)

 二十歳の今になって思い返すと、あの頃は心から楽しんでいたと思える。
 ところで、何故いきなりそんな話をし始めたのかというと、

「異世界の者よ。お主に頼みたいことがある」

 今俺が勇者になれるかもしれないチャンスがやってきたからだ。
 ■□■□■□
 話は十分ほど前に巻き戻る。俺橋本勇介はいつも通り大学の授業を終えて、自宅へと帰る途中だった。

(家帰ったら撮り溜めしてたアニメ見て、それから……)

 季節は夏の終わり。明日から連休に入るという事で、俺は連休の予定を考えていた。夏休みが終わったばかりだというのに、九月は祝日が多く、明日からのシルバーウィークのおかげで遊べる時間が増えていた。
 勿論課題などはあるとはいえど、アニメ見たりどこか出かけたり充実した連休を過ごせそうだった。

 家に入る前にある物を見つけてしまうまでは……。

「何だこれ」

 部屋の前に落ちていたのは、ティアラだった。しかもおもちゃとかではなく、まるっきり本物。日常生活の中でまさか本物なんて滅多に見かけることはないので、これは珍しい。

(誰かの落とし物……なのか?)

 しばらくそれを眺める。すると突然、それは光りだした。

「な、何だっ?!」

 俺は咄嗟に目を隠す。そのせいでティアラは落ちてしまうが、まだまだ光は収まらない。どうやらティアラが発行しだしたというより、今俺がいるこの場所が光に包まれた感覚だった。

(何がどうなって……)

 光が収まるのを待って、俺は一度閉じた目をゆっくりと開く。

「……え?」

 すると目を開いた先で待っていたのは、俺の部屋があるアパートではなくどこか知らない城みたいな場所。詳しくは分からないが、恐らく一言で言うなら謁見の間だろうか。

「実験のつもりだったが、まさか成功するとは」

「どうやら彼が選ばれしもののようです」

 俺の視線の先にいるのは城の主、恐らく王様か何かであろう人物、
 高そうな椅子に座っているし、その周囲にはメイドが数え切れないくらいいるから、そう考えるのが妥当なのかもしれない。

「あ、あの、ここは?」

 とりあえず俺は声を出してみる。すると反応した王様は視線を話をしていたメイドから、俺に移した。

「おっとすまぬ、お主がティアラを拾ったものか?」

 ティアラとは先程家の眼の前で見つけたものだろう。どうやらあれは、ここにいる人物が持っていたものらしい。

「そ、そうですけど」

「つまりお主が選ばれたもの、という事じゃな」

「選ばれたって何が?」

「異世界の者よ、お主に頼みたいことがある」

 ■□■□■□
 そして話は今に戻ってくる。何やら選ばれた者とか言われているし、王様もいるし、もしかしたらまさか俺……。

「頼みたいこと、ですか?」

 勇者になれるチャンスがやってきたのか? いや、そもそもまずここはどこなんだ。王様らしき人は俺の事を異世界の者って断定して言っているし、もしかしたら俺は先程のティアラを拾った事によりここに転移でもしてきたのだろうか。

(そんなまさか)

 少しだけ緊張する。子供の頃から描いてきた夢がようやく叶う時が来たのだ。まだ分からないけど、本当に俺が勇者になれるなら、

「ステラ、例の物を彼に」

「はい。ティシュタル様」

 ステラと呼ばれたメイドは、王様の指示で俺の元に寄ってきて、布が被されたあるものを俺の眼の前に持ってくる。

(まさか勇者の剣、か)

「布をお取りください」

「は、はい」

 俺は目の前に差し出されたそれに被さった布を、ゆっくりと取る。

「お主にはそれを」

 そして取った俺を待っていたのは、勇者の剣、

「着てもらい」

 ではなく女性用のドレス、とカツラ、そして先程手に取ったティアラ。

「この国の姫になってもらいたい」

 …………。

「あ、あのよく聞こえなかったんですが、もう一度言ってくれませんか」

「じゃから、お主にはその服とカツラとティアラを付けてもらい、この国の姫になってもらいたい」

「姫、ですか」

 しばらく思考が停止した後、ようやく正常な思考になった俺は一言。

「お断りさせてもらいます」

 ものすごく当たり前の言葉を口にした。

「えぇ、断るんですか、あなた」

 その答えを聞いて驚きの声をあげたのは、ステラとかいうメイド。いや、何でそんなに驚く? 俺はごく当たり前の事を言っただけなんですけど。

「何故断る必要があるのじゃ」

「あの、王様か分かりませんがちゃんと理解していて言っているんですよね?」

「勿論」

「俺、男なんですけど。しかも恐らく異世界からやってきた」

「そんなの見れば分かる。儂の目はそこまで腐っておらん」

「ならもう一度聞きますけど、何故俺なんですか?」

「お主は選ばれた者じゃからじゃ」

「選ばれたって、いくら何でもそれは……」

 断って当たり前の事ですよ? 王様。

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