死の花が咲いた日
第19話 別次元
「ハッタリ……ということかしら?」
エレンは笑っていた。それは自らの立場を自覚した上での発言だったのか、或いはまだ逃げ果せる算段があったのか、それは解らない。
けれど、彼女は確かに笑っていた。
エレンは確かに、僕とアルナを見て笑みを浮かべていた。
張り付いたような笑みは、何処か締め付けられるような、そんな感覚になる。
「ハッタリだったかもしれない。だが、そのハッタリは結果として真実だったようだな。カマをかけて正解だった、とでも言えば良いか」
僕はエレンを見下すように見つめて、そう言った。
その言葉に続けるように、アルナも口を開く。
「……これは嬉しい誤算でした。まさかアルファスもこの戯言に付き合ってくれるなんて。これははっきり言って賭けでした。そして、私にしかやることのできない方法でもあります。……ちょっと乱暴ではありましたが」
「まさか……『私が犯人であるということ』自体がハッタリだった、と……?」
「それ以外に何があると? まさか、私の思し召しが全て真実であった、と。あなたはそう考えていたのですか。それは申し訳ないことをしましたね。何故ならそれは全て真っ赤な嘘なのですから。……まあ、お陰で一気に事が進みましたが」
末恐ろしい人間だ、と僕は思った。
しかしながら、それはある種都合が良かった。アルナが嘘を吐いてくれたおかげで、僕は何とかなった、と言ってもいいだろう。賭けに勝ったと言ってもいい。
「馬鹿な……。ほんとうに、ほんとうに、馬鹿なことですよ。あなたたちは、とんでもないことをしでかしてくれましたよ」
エレンは立ち上がり、僕たちの方へ歩き始める。
「……何をするつもりだ? 彼女が祈祷師で、そして僕は彼女を守る為に居る上級騎士であることを知った上での行動か?」
「当然。この二日、私はあなたたちと過ごしてきたではありませんか。まさか、それもわからないと仰られるつもりですか?」
わざとらしく、張り付いた笑みを浮かべる。
彼女に何かあったら、僕は彼女を守らねばならない。それが上級騎士の存在意義だ。そうして僕はそれを理解しているからこそ、今ここに居るということになる。
「いずれにせよ、上級騎士だろうが祈祷師だろうがどうだっていい。私は私のやるべきことをするのですから。……知らないとは言わせませんよ? 祈祷師による『思し召し』によってどれ程罪のない人々が亡くなったか!」
思し召しは神から与えられる、確定的な予言である。
それはとどのつまり、神の絶対的な意思とも言える。誰もその人間が罪を犯すはずが無いと思っていたとしても、思し召しで犯罪者だと言われたらそれまでだ。まさに決議が百パーセントひっくり返ってしまう。
「……思し召しは神から与えられた御言葉。それを裏切るということは神を裏切るということに等しいのですよ」
アルナはそう呟いた。
「神なんて、神様なんて、もう殆どの人間が信用していないじゃない。信仰していないじゃない! 祈祷師は神の言葉を聞く事が出来る? だから圧倒的に地位が高い? そんなこと、馬鹿げている。有り得ない! そもそも神ならば、貧しい人たちをどうして救わない。困っている人たちにどうして救いの手を差し伸べない! 結果として、思し召しを聞く事が出来るのはこんな限られた人たちに過ぎない。裏を返せば、それを曲解することだって……充分に考えられるはず。そうではなくて?」
敢えて、しかしながらはっきりと言おう。
エレンの意見は間違いなく曲解していた。曲解していたからこそ、そこで『間違っている』と言わなければならなかったのだ。
しかし、その時の彼女にそれを言って理解してもらえるほど、彼女には心の余裕が見られなかった。
「……あなたさえ、あなたさえ居なければすべて丸く収まった。私も罪に問われることは無かった。そう、無かったはずなのに……!」
「それは間違っているわ、エレン。あなたは素晴らしい人だと思っていたけれど……、それ以上に裏の顔は醜いものだったのね。人間というのは、裏表がある。それは私だって理解していますし、だからと言って、それが別の人間に気付かれるかと言われると微妙なところだと思います。実は案外見つからないのかもしれません。けれど、神様は違います。神は私たちとは違う、一つ上の次元から私たちを見守っています。それがある以上……私たちに隠し事など出来ません。あなたもこれで理解したはずです」
エレンは笑っていた。それは自らの立場を自覚した上での発言だったのか、或いはまだ逃げ果せる算段があったのか、それは解らない。
けれど、彼女は確かに笑っていた。
エレンは確かに、僕とアルナを見て笑みを浮かべていた。
張り付いたような笑みは、何処か締め付けられるような、そんな感覚になる。
「ハッタリだったかもしれない。だが、そのハッタリは結果として真実だったようだな。カマをかけて正解だった、とでも言えば良いか」
僕はエレンを見下すように見つめて、そう言った。
その言葉に続けるように、アルナも口を開く。
「……これは嬉しい誤算でした。まさかアルファスもこの戯言に付き合ってくれるなんて。これははっきり言って賭けでした。そして、私にしかやることのできない方法でもあります。……ちょっと乱暴ではありましたが」
「まさか……『私が犯人であるということ』自体がハッタリだった、と……?」
「それ以外に何があると? まさか、私の思し召しが全て真実であった、と。あなたはそう考えていたのですか。それは申し訳ないことをしましたね。何故ならそれは全て真っ赤な嘘なのですから。……まあ、お陰で一気に事が進みましたが」
末恐ろしい人間だ、と僕は思った。
しかしながら、それはある種都合が良かった。アルナが嘘を吐いてくれたおかげで、僕は何とかなった、と言ってもいいだろう。賭けに勝ったと言ってもいい。
「馬鹿な……。ほんとうに、ほんとうに、馬鹿なことですよ。あなたたちは、とんでもないことをしでかしてくれましたよ」
エレンは立ち上がり、僕たちの方へ歩き始める。
「……何をするつもりだ? 彼女が祈祷師で、そして僕は彼女を守る為に居る上級騎士であることを知った上での行動か?」
「当然。この二日、私はあなたたちと過ごしてきたではありませんか。まさか、それもわからないと仰られるつもりですか?」
わざとらしく、張り付いた笑みを浮かべる。
彼女に何かあったら、僕は彼女を守らねばならない。それが上級騎士の存在意義だ。そうして僕はそれを理解しているからこそ、今ここに居るということになる。
「いずれにせよ、上級騎士だろうが祈祷師だろうがどうだっていい。私は私のやるべきことをするのですから。……知らないとは言わせませんよ? 祈祷師による『思し召し』によってどれ程罪のない人々が亡くなったか!」
思し召しは神から与えられる、確定的な予言である。
それはとどのつまり、神の絶対的な意思とも言える。誰もその人間が罪を犯すはずが無いと思っていたとしても、思し召しで犯罪者だと言われたらそれまでだ。まさに決議が百パーセントひっくり返ってしまう。
「……思し召しは神から与えられた御言葉。それを裏切るということは神を裏切るということに等しいのですよ」
アルナはそう呟いた。
「神なんて、神様なんて、もう殆どの人間が信用していないじゃない。信仰していないじゃない! 祈祷師は神の言葉を聞く事が出来る? だから圧倒的に地位が高い? そんなこと、馬鹿げている。有り得ない! そもそも神ならば、貧しい人たちをどうして救わない。困っている人たちにどうして救いの手を差し伸べない! 結果として、思し召しを聞く事が出来るのはこんな限られた人たちに過ぎない。裏を返せば、それを曲解することだって……充分に考えられるはず。そうではなくて?」
敢えて、しかしながらはっきりと言おう。
エレンの意見は間違いなく曲解していた。曲解していたからこそ、そこで『間違っている』と言わなければならなかったのだ。
しかし、その時の彼女にそれを言って理解してもらえるほど、彼女には心の余裕が見られなかった。
「……あなたさえ、あなたさえ居なければすべて丸く収まった。私も罪に問われることは無かった。そう、無かったはずなのに……!」
「それは間違っているわ、エレン。あなたは素晴らしい人だと思っていたけれど……、それ以上に裏の顔は醜いものだったのね。人間というのは、裏表がある。それは私だって理解していますし、だからと言って、それが別の人間に気付かれるかと言われると微妙なところだと思います。実は案外見つからないのかもしれません。けれど、神様は違います。神は私たちとは違う、一つ上の次元から私たちを見守っています。それがある以上……私たちに隠し事など出来ません。あなたもこれで理解したはずです」
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