死の花が咲いた日
第07話 御対面(後編)
巨大なテーブルにたくさんの皿が並べられている。皿には様々な料理がいろいろと盛り付けられており、そこにはとても美味しそうな料理が広げられていた。
ミルシアはそれをぱくぱくと口にしていた。食べている様子はとても嬉しそうだった。
対してほかの祈祷師も口にするのだが――はっきり言ってこの人数で食べきれる量でもないし、祈祷師自体が小食の傾向にあるというらしい。あっという間にミルシア以外の祈祷師は食事を食べ終えてしまい、また元の位置に戻った。
というわけで今食事を食べているのは僕とミルシアだけになる。
僕もそれほど食べるわけではないので、あっという間にお腹が膨れてしまった。
しかしミルシアはそんな僕をよそ目にいろいろと料理を食べていた。楽しそうに食べているが、全然そのペースが留まるところを知らない。
「祈祷師の皆さま、デザートのお時間です」
そうして暫く姿を消していたエレンがやってきたのはちょうどその時だった。
エレンが持っていたのはほのかに赤いプリンだった。
プリンはデザートとしてスタンダードなものであり、決してこのような場では出されるようなものではないと思ったが……しかし祈祷師は誰もがそれを手にしていく。
祈祷師は甘いものが好きなのだろうか?
そんなことを思っていたら、ミルシアの脇にもプリンが置かれた。それで全員分。成る程、たかが護衛にそのようなものを与える必要性は皆無、ということか。まあ、別に構わないが。いずれにせよ、僕はただの護衛だ。アルナを守る剣に過ぎない。だから僕は渡されたものをそのまま受け入れるだけ。ただ、それだけに過ぎない。
そして僕の隣に――正確には少しだけ間を空けて――エレンが席に座った。そしてその前に置かれた小皿にいろいろな料理を盛り付けていく。彼女の場合は、ただ自分の作った料理を食べるだけに過ぎないから、ただ何度も食べた味――ということになるのだろう。だから普段の食事と何ら変わりないのかもしれない。
「どうかしましたか、アルファス上級騎士様?」
「……いや、何も。君はいつも食べているご飯だからあまり新しさが無いのかな、と思ってね」
「いや、そんなことはありませんよ。そもそも、このような豪華な食事を毎日食べていたら健康にもよろしくありませんから」
そう言って再びエレンは食事を食べ始める。もうこれ以上話しかけるな、というオーラを放ちながら。それはいったいどうなのだろうか、って話になるのだが、彼女にも彼女なりのルールというか、そのような何かがあるのだろう。
僕が食事を終えたころ、祈祷師たちはすっかりお互い自分の空間に閉じ籠っていた。プリンは全員食べ終えているところを見ると、やはり甘いものが好きなだけだったのかもしれない。そのころが一番協調していた、というのは口が裂けても言えないことだが。
「明日の会議は長くなると予想されます」
アルナが話を切り出した。
溜息を吐いて立ち上がったのはミネアだった。
「当然だ。祈祷師会議は世界の未来を決める会議として世界から注目を浴びている。その我々がこうして集まってきている。正直会議なんてものはすぐ終わらせてしまっても問題はないように見えるが……、『思し召し』が神様から頂けるのは、ほんとうに偶然に偶然が重なった結果としか言いようがない。運が悪ければ三日間で会議が終わらないかもしれない」
「でも、過去の会議は長くても二日で終わったのでしょう? 三日間のうちの一日は、あくまでも予備日としか聞いていませんから」
そう言ったのはミルシアだった。ミルシアはまだ何かを食べているようだった。それにしても、砂漠の国の人間は皆食べるのが好きなのだろうか。一度もこの国から出たことはないからはっきりとした根拠は言えないが、過去に聞いた話では砂漠の国の人間は食べることが好きだと良く聞いたことがある。
それがどこまで本当なのかは解らない。しかし今はいずれにせよ、彼女が大食いであることもまた事実であった。
「二日しかかかっていない。それは結果に過ぎない。私たちが行っていく会議はどれくらいかかるのか、なんてことは後の人が言うこと。私たちに大事なことは過程。そうだとは思わない?」
そう言ったのはアルナだった。
アルナは普段自分から意見を述べようとはしないのだが、やはり似たような人種が多いと意見も述べやすいのだろうか。
「……そうかもしれないね」
そして。
ミネアは小さく溜息を吐くと、そのまま腰掛ける。
先ほどの状態をそのまま引き継ぐとすれば、また口喧嘩に発展するものかと思っていたが――まあ、喧嘩は起きないに越したことはない。だから、どうなるのかヒヤヒヤしていたのだが、案外簡単に解決してしまった。
◇◇◇
その後。
特段何をすることも無かったので、僕は本を読んでいた。この世界の歴史書だった。とはいえ、完全に読めるほど学があるわけではないので、ほんとうに時間潰しにしかならない。かといって知識が身につくわけでもないし、そこについてはあまり言及しないでおこう。一言だけ言うならば、護衛という任務も忙しいばかりではないということになるかな。
「……アルファス、いったい何を読んでいるの?」
アルナは僕に問いかけた。とはいえ内容を完璧に理解せずに読んでいたからそれがどのような本なのか説明することは非常に難しい。きっと今言ったところで薄っぺらい言葉しか投げかけることが出来ないだろう。
答えずにいるとアルナは僕の読んでいる本を見ようと、僕のほうににじり寄ってきた。
「何だ、ただの歴史書じゃない。アルファスが感心して読んでいるからそれほど面白いものかと思った」
アルナは溜息を吐いて、そのまま僕に寄り掛かった。
「……そんなに本の内容が気になったのか?」
「だって、あなたがそれほど真剣になっていることは、あまり見たことがないもの。だから、どんな内容なのかなって気になったの。それでも、別にいいでしょう?」
「それはそうかもしれないが……。一応、君はここの代表だろう? そんな自分勝手な行動をしても問題ないのか?」
「問題ないのか、って……。この状況を見ても、そんなことが言えるの?」
アルナはそう言ったが、僕から見ればそうはっきりと『この状況』について言えることは無かった。正確に言えば、それは地位の違いがあるという点があるが。
今は参加者全員が完全にだらけきっている。本を読んでいたり昼寝をしていたり。だが、面白いことに、誰一人祈祷師同士で会話をしていなかった。
「それは祈祷師同士の仲がそれ程良くないからだよ」
アルナは僕に言った。アルナは心が読めるのだろうか。
さらに、アルナの話は続く。
「祈祷師は何年かに一回会議を開く。それは世界の行く末を決める大事な会議だよ。けれど、その会議以外で祈祷師が会話をすることは殆ど無い。だから仲がいいか悪いかなんてはっきり言って解らないと言ってもいいの。けれど、それは会議がいざ始まったとき面倒なことになるでしょう? だから、今回前日に開いたのだけれど……どうやら無駄に終わっちゃったみたい」
そう言って、アルナはすっくと立ちあがる。
「みなさん。今日は前日にもかかわらず来ていただきありがとうございました。明日は、本番になります。場所はこちらにて。もし解らないことがありましたら王城かこちらにお聞きください。それでは、ありがとうございました」
そしてアルナは頭を下げる。
それを見てほかの祈祷師も頭を下げて、そのまま前日の会合は幕を閉じた。
ミルシアはそれをぱくぱくと口にしていた。食べている様子はとても嬉しそうだった。
対してほかの祈祷師も口にするのだが――はっきり言ってこの人数で食べきれる量でもないし、祈祷師自体が小食の傾向にあるというらしい。あっという間にミルシア以外の祈祷師は食事を食べ終えてしまい、また元の位置に戻った。
というわけで今食事を食べているのは僕とミルシアだけになる。
僕もそれほど食べるわけではないので、あっという間にお腹が膨れてしまった。
しかしミルシアはそんな僕をよそ目にいろいろと料理を食べていた。楽しそうに食べているが、全然そのペースが留まるところを知らない。
「祈祷師の皆さま、デザートのお時間です」
そうして暫く姿を消していたエレンがやってきたのはちょうどその時だった。
エレンが持っていたのはほのかに赤いプリンだった。
プリンはデザートとしてスタンダードなものであり、決してこのような場では出されるようなものではないと思ったが……しかし祈祷師は誰もがそれを手にしていく。
祈祷師は甘いものが好きなのだろうか?
そんなことを思っていたら、ミルシアの脇にもプリンが置かれた。それで全員分。成る程、たかが護衛にそのようなものを与える必要性は皆無、ということか。まあ、別に構わないが。いずれにせよ、僕はただの護衛だ。アルナを守る剣に過ぎない。だから僕は渡されたものをそのまま受け入れるだけ。ただ、それだけに過ぎない。
そして僕の隣に――正確には少しだけ間を空けて――エレンが席に座った。そしてその前に置かれた小皿にいろいろな料理を盛り付けていく。彼女の場合は、ただ自分の作った料理を食べるだけに過ぎないから、ただ何度も食べた味――ということになるのだろう。だから普段の食事と何ら変わりないのかもしれない。
「どうかしましたか、アルファス上級騎士様?」
「……いや、何も。君はいつも食べているご飯だからあまり新しさが無いのかな、と思ってね」
「いや、そんなことはありませんよ。そもそも、このような豪華な食事を毎日食べていたら健康にもよろしくありませんから」
そう言って再びエレンは食事を食べ始める。もうこれ以上話しかけるな、というオーラを放ちながら。それはいったいどうなのだろうか、って話になるのだが、彼女にも彼女なりのルールというか、そのような何かがあるのだろう。
僕が食事を終えたころ、祈祷師たちはすっかりお互い自分の空間に閉じ籠っていた。プリンは全員食べ終えているところを見ると、やはり甘いものが好きなだけだったのかもしれない。そのころが一番協調していた、というのは口が裂けても言えないことだが。
「明日の会議は長くなると予想されます」
アルナが話を切り出した。
溜息を吐いて立ち上がったのはミネアだった。
「当然だ。祈祷師会議は世界の未来を決める会議として世界から注目を浴びている。その我々がこうして集まってきている。正直会議なんてものはすぐ終わらせてしまっても問題はないように見えるが……、『思し召し』が神様から頂けるのは、ほんとうに偶然に偶然が重なった結果としか言いようがない。運が悪ければ三日間で会議が終わらないかもしれない」
「でも、過去の会議は長くても二日で終わったのでしょう? 三日間のうちの一日は、あくまでも予備日としか聞いていませんから」
そう言ったのはミルシアだった。ミルシアはまだ何かを食べているようだった。それにしても、砂漠の国の人間は皆食べるのが好きなのだろうか。一度もこの国から出たことはないからはっきりとした根拠は言えないが、過去に聞いた話では砂漠の国の人間は食べることが好きだと良く聞いたことがある。
それがどこまで本当なのかは解らない。しかし今はいずれにせよ、彼女が大食いであることもまた事実であった。
「二日しかかかっていない。それは結果に過ぎない。私たちが行っていく会議はどれくらいかかるのか、なんてことは後の人が言うこと。私たちに大事なことは過程。そうだとは思わない?」
そう言ったのはアルナだった。
アルナは普段自分から意見を述べようとはしないのだが、やはり似たような人種が多いと意見も述べやすいのだろうか。
「……そうかもしれないね」
そして。
ミネアは小さく溜息を吐くと、そのまま腰掛ける。
先ほどの状態をそのまま引き継ぐとすれば、また口喧嘩に発展するものかと思っていたが――まあ、喧嘩は起きないに越したことはない。だから、どうなるのかヒヤヒヤしていたのだが、案外簡単に解決してしまった。
◇◇◇
その後。
特段何をすることも無かったので、僕は本を読んでいた。この世界の歴史書だった。とはいえ、完全に読めるほど学があるわけではないので、ほんとうに時間潰しにしかならない。かといって知識が身につくわけでもないし、そこについてはあまり言及しないでおこう。一言だけ言うならば、護衛という任務も忙しいばかりではないということになるかな。
「……アルファス、いったい何を読んでいるの?」
アルナは僕に問いかけた。とはいえ内容を完璧に理解せずに読んでいたからそれがどのような本なのか説明することは非常に難しい。きっと今言ったところで薄っぺらい言葉しか投げかけることが出来ないだろう。
答えずにいるとアルナは僕の読んでいる本を見ようと、僕のほうににじり寄ってきた。
「何だ、ただの歴史書じゃない。アルファスが感心して読んでいるからそれほど面白いものかと思った」
アルナは溜息を吐いて、そのまま僕に寄り掛かった。
「……そんなに本の内容が気になったのか?」
「だって、あなたがそれほど真剣になっていることは、あまり見たことがないもの。だから、どんな内容なのかなって気になったの。それでも、別にいいでしょう?」
「それはそうかもしれないが……。一応、君はここの代表だろう? そんな自分勝手な行動をしても問題ないのか?」
「問題ないのか、って……。この状況を見ても、そんなことが言えるの?」
アルナはそう言ったが、僕から見ればそうはっきりと『この状況』について言えることは無かった。正確に言えば、それは地位の違いがあるという点があるが。
今は参加者全員が完全にだらけきっている。本を読んでいたり昼寝をしていたり。だが、面白いことに、誰一人祈祷師同士で会話をしていなかった。
「それは祈祷師同士の仲がそれ程良くないからだよ」
アルナは僕に言った。アルナは心が読めるのだろうか。
さらに、アルナの話は続く。
「祈祷師は何年かに一回会議を開く。それは世界の行く末を決める大事な会議だよ。けれど、その会議以外で祈祷師が会話をすることは殆ど無い。だから仲がいいか悪いかなんてはっきり言って解らないと言ってもいいの。けれど、それは会議がいざ始まったとき面倒なことになるでしょう? だから、今回前日に開いたのだけれど……どうやら無駄に終わっちゃったみたい」
そう言って、アルナはすっくと立ちあがる。
「みなさん。今日は前日にもかかわらず来ていただきありがとうございました。明日は、本番になります。場所はこちらにて。もし解らないことがありましたら王城かこちらにお聞きください。それでは、ありがとうございました」
そしてアルナは頭を下げる。
それを見てほかの祈祷師も頭を下げて、そのまま前日の会合は幕を閉じた。
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