死の花が咲いた日
第02話 祈祷師(前編)
王城へ向かうには昇降機を利用する。魔法によって物体を移動することができるが、それを応用して作り出された大多数の人間や物品を運搬するためのものだ。もちろんそれを使うことができるのは王城に用事がある人間の中でも階級が上の人間だけに過ぎない。
王城を中心として構成されている都市ファミリア。同心円状に人工の山脈が形成されており、下層に住むのは一般市民、上層に住むのは騎士階級以上の人間だけ。まさに階級制度を見た目で表した場所であるのが、この都市だった。
「相変わらず、人間は『階級』に縛られていることを幸福と考えているのだろうな」
昇降機の窓から騎士団長は外を見て、僕にそう語りかけた。
僕は入り口のほうから遠い目線で見つめていたため、その表情を窺い知ることは出来ない。
「……まあ、階級は我々が生まれる前から存在していた。正確に言えばそれが世界の仕組みとして介入しているものだといっても過言ではないだろう。過去の人類が、簡単に人類を統括するためにはどうすればよいか? 考えた結果がこれだっただけに過ぎないのだから」
「階級は昔から存在していました。それが人間にとって無益な争いを幾ら生んだことになるでしょうか。上級騎士法も、その争いを未然に防ぐために実行された法律にすぎません。簡単に言えば、我々が我々であるための……」
昇降機の扉が開かれたのはちょうどその時だった。騎士団長は踵を返し、先に外へ出て行った。
外に広がっていたのは巨大な石のアーチだった。アーチの両端には豪勢な造りの家が並んでおり、それが貴族の家であることが十分に理解できる。アーチの根元には銀の鎧に身を包んだ兵士がそれぞれ一人ずつ立っており、監視している状態になっている。
騎士団長と僕が通るタイミングで乱れなく兵士は敬礼をした。騎士団長と僕はそれに軽く頭を下げて答える。これは礼儀だ。礼儀を軽んじる者はいずれ失墜する――それは僕の師匠の言葉だった。だから僕はそれを守っている。
アーチを抜けると木の扉が僕たちの行く手を阻んだ。そこにも兵士が居るのだが、騎士団長の顔を見るとすぐに兵士は扉を開ける準備に取り掛かった。
扉が開くまでそう時間はかからなかった。開け放たれた扉を抜け、ようやく僕たちは城内へと入ることができた。
「ところで、なぜ国王陛下と祈祷師に謁見する必要が……」
「未だ、解らんか」
溜息を吐いて、騎士団長は歩き続けたまま話を続ける。
「祈祷師会議で一番に狙われるのは国王陛下ではない。国王陛下は常に我々上級騎士団が守っているからだ。問題は祈祷師。狙われるのは祈祷師のほうだ。もちろん、祈祷師にも騎士団の庇護がある。だが、それでも国王陛下と比べればそのグレードは落ちるものとなる。当然かもしれないが、祈祷師は普段外へ出ることはない。この城のエリア、あとは庭園か……そこしか出歩くことを許されていない。それは上級騎士団が全部をカバーしきれないから、せめて城内から出てほしくない。そういう意味を兼ね備えている、ということだ」
「では、祈祷師にお付きの騎士を……それで先ほどの話と繋がるわけですか」
「そういうことだ。もしかして、まだ気が付いていないのか? だとすれば、相当お前は察しが悪いな。……まあ、いい。どうせ国王陛下自らがお前に勅令を下すはずだ。そうすればお前はいやでもその意味を理解するだろう」
こつり。
僕たちはそこで立ち止まった。
そこにあったのは、鳥が果実を背負い飛び去ろうとしているモチーフが象られた扉だった。それは紛れもなくこの国の国旗そのものであり、その場所は国王陛下の間の入り口であった。
「失礼いたします」
騎士団長がその言葉を言ったと同時に、扉は開かれた。
ぎい、という古い音とともに扉は開かれる。それは人間が開けたとか何かのカラクリが働いているというわけではない。これもまた魔法により自動化されているものに過ぎない。
この国は階級制度の厳格化とともに、魔法の有効活用としてその技術を発展させることに尽力していった。その一つが魔法を用いた自動化だ。魔石――魔法を使う際のエネルギーが詰まった塊に魔法陣を刻み込むことでそのシステムを自動化することができるらしい。らしい、というのは僕が魔法に対して知識が乏しいだけなので、それ以上知らないということ。もっというならその知識すらかつて『彼女』から聞いた情報に過ぎないのだが。
扉が開かれて、僕たちは前に進む。赤いカーペットが足元に敷かれ、目の前には巨大なステンドグラスがあった。ステンドグラスにも鳥が果実を背負う姿と人間が戯れる姿が描かれている。国旗をモチーフにしたものであり、それは国王陛下の権威を象徴しているものとも言えた。
国王陛下の面前まで到着し、僕と騎士団長は跪き頭を下げた。
「国王陛下。アルファス・ゴートファイド上級騎士を連れてまいりました」
「うむ。楽にしてよいぞ」
その言葉を聞いて僕と騎士団長は頭を上げる。
国王陛下はじっと僕を見つめていた。国王陛下の目はじっくりと僕を調査するかのように体を見つめており、そして僕も国王陛下の目を見つめていた。
吸い込まれてしまいそうな雰囲気。
それが国王陛下の印象だった。別に今回が初めてというわけではない。もっというなら何度も謁見したことはある。だが、何度謁見してもそのイメージがぬぐえることはない。むしろ逆にそのイメージが増したように見えた。
そういう恐怖を見せつけることができるからこそ、国王陛下はずっとその場にい続けることができるのかもしれない。
「アルファス上級騎士。話は聞いているな? 五日後、この国で三日間祈祷師会議が行われる。世界各地に住む祈祷師が集まり、世界の行く末を合同で祈祷し、思し召しを受けるものだ。もちろん内容としてはそれだけではない。祈祷師から考えた世界の進路を決める方法。それを具体的に考えるのが祈祷師会議なのだよ」
「承知しております」
僕はこくりと頷いて、そう答えた。
そして国王陛下もまたゆっくりと頷いた。
「うむ。祈祷師会議は厳正な場である。そして、三日間という長い時間実施される。残念なことに上級騎士団でも人員を割くのは難しい。今回は我が国で実施されるから猶更だ。そこで一人をお付きの騎士としておきたいのだが……」
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