終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第六章27 月下の戦いⅨ
「血を吸収して強くなるなんて……そんなのアリかよ」
「しかも大きくなってるし……もうコレ、人間とは違う生き物って感じね」
「元は人間だったはずなのに、どうしてこんなことに……」
炎獄の女神・アスカによって崩壊した死した街。
アンデットが徘徊する街には破壊の残滓が色濃く残り続けており、頭上で照らす満月の光のみが街を照らし続けている。この街で生活をしていた人々は漏れなく全員が『アンデット』へと姿を変え、生者を見ると襲いかかる存在へと変わってしまった。
この街でライガ、シルヴィアの二人は『オリバー』という名の元青年と対峙していた。
オリバーはこの街の長という立場に就いていた人物である。彼の詳細な情報をライガたちが知る由もないが、紳士服に身を包む初老の男・クロウからの情報では、見上げるほどの巨人と姿を変えたオリバーという男はこの街で確かに生活していたのだ。
「……あまりのんびりと話をしてる暇はないみたいよ」
「ちッ……今度は逃げられる気がしねぇな……」
「リエルの準備が整うまで、なんとか時間を稼ぐよッ!」
純白の翼を大きく広げ、剣聖姫・シルヴィアはその手に持つ聖剣・ハールヴァイトの切っ先をオリバーへと突きつける。
「今度は遅れを取らねぇ……全力だッ!」
シルヴィアの隣に立つライガもまた、その身を包む暴風の勢いを増して戦いの準備を整えていく。再びの激突が直前に迫り、肌を焦がす緊張の糸は不意に途切れる。
「――――ッ!」
まず最初に動きを見せたのはオリバーだった。
跳躍のために両足に力を込めると、オリバーの両足が触れている地面が鈍い音と共に大きく抉れる。そこからは足をバネのように縮め、それが伸びるのと同時に風を切って飛びかかってくる。
「ここは任せろッ! 神速、その速さは神の次元へ――神速神鬼ッ!」
突進してくるオリバーに対して、ライガは全身に力を漲らせると真っ向からの激突を選択する。風の武装魔法によって極限にまで強化されたライガは、父から譲り受けた自らの背丈を超えた大剣・ボルカニカをありったけの力で振るっていく。
「おらああああああああぁぁぁぁぁーーーーッ!」
「――――ッ!」
互いの咆哮が死した街に轟く。
その直後、凄まじい衝撃が周囲に広がっていく。
「ナイスッ、ライガッ!」
巨大な噴煙が立ち込める中、シルヴィアは翼を大きく羽ばたかせるとその中へと突入していく。手に持つ聖剣は眩い輝きを放ち、その刀身が切り裂くのはオリバーの右腕であった。
「――――ッ!?」
視界が遮られる中で腕を切り裂かれたオリバーは悲痛な声音を上げる。
シルヴィアの剣は確実にオリバーへと届くことの証明であり、切り裂かれた傷口からは鮮血が噴出する。見上げるほどの巨体を誇るオリバーは、自在に空中を滑空するシルヴィアを捉えることが出来ていない。
「よしッ、この調子なら――」
「うおおおぉーーーッ!?」
確かな手応えをシルヴィアが感じた直後、噴煙の中からライガの声音が響いてくる。状況を理解するよりも先に噴煙を斬り裂いて飛んでくるライガは、空中で姿勢を制御することが出来ずにシルヴィアへと一直線に突っ込んでくる。
「はぁッ!? なんでライガがッ!?」
「避けろ、シルヴィアッ!」
何かしらの要因で吹き飛ばされたライガは外傷はないものの、勢いを殺すことなくシルヴィアに衝突する。シルヴィアもまさかライガが飛んでくるとは思わず、更に聖剣で切り裂くにもいかずに受け止める以外の選択肢が浮かばなかった。
「きゃああぁーーーーッ!?」
同じくらいの年齢においてライガの身体は恵まれている方だった。
背丈はシルヴィアを容易に上回るものであり、そんな巨体を受け止めきれるはずがなく、シルヴィアもまた悲鳴と共に吹き飛ばされ、力なく地面へと落下する。
「痛っいーーーッ!」
「す、すまねぇ、シルヴィア……」
「アンタ、何がどうしてこうなったてのよッ!」
地面へと落下したシルヴィアは、まず近くで倒れているライガに罵声を浴びせる。
彼女の怒号を前にして、さすがのライガも申し訳なさそうに眉を顰める。
「いや、煙で前が見えなくてさ……そしたら首根っこ掴まれてぶん投げられた」
「は?」
「…………」
ライガの言葉に呆然とするシルヴィア。
驚きの表情は次に落胆のものへと変わり、彼女は深くて大きなため息を漏らすこととなる。
「はぁ……そんなことだろうと思ったけど……」
「すまねぇって……」
「――来るッ!」
ライガの謝罪はそこそこにシルヴィアは何かを察して頭上を見上げる。
「アイツ、いつの間にッ!」
「散ってッ!」
シルヴィアが見上げる頭上には月明かりを覆い隠す巨体が浮遊していた。
正確に表現するのであれば、それは浮遊しているのではなくシルヴィアたち目掛けて落下していると表現するのが正しい。
シルヴィアの声音が鼓膜を震わせた瞬間に、ライガは反射的にその場から飛び退る。
「――――ッ!」
翼を羽ばたかせたシルヴィアと、神速神鬼の武装魔法によってスピードを手に入れたライガは落下してくるオリバーの直撃をかろうじて躱すことに成功するも、巨体が破壊した瓦礫の破片が雨のように容赦なく二人へと襲いかかる。
「ぐッ!」
「小癪なッ!」
散乱する瓦礫が身体に直撃し、さすがのライガたちも鈍い痛みに表情を歪ませる。
一時的とはいえ防戦一方な状況を生み出してしまった二人は、その直後に真なる力を手に入れたオリバーの脅威を目の当たりにする。
「くそッ、反撃だッ!」
「当たり前でしょ――」
瓦礫による攻撃ではライガたちが倒れるはずもない。
すぐさま反撃に転じようとするライガたちだったが、その目論見はオリバーの異能によって頓挫することとなる。
「ぐッ……なんだよ、コレッ……」
「身体がッ……動かない……」
反撃に飛び出そうとするライガとシルヴィアだったが、その身体は地面から這い出てきた触手によって封じられてしまう。手足に絡みつく触手は猛烈な力でライガたちの自由を奪う。
「まずいぞ、コレ……」
「早くなんとかしないと……」
この状況において身動きが取れないことは致命的であると言っていい。
ゆっくりとライガたちを見るオリバーは不気味なほどに無音である。
「――――」
ライガたちの自由を奪ったオリバーは自らの爪を胸に突き立てると、なんら躊躇もなく爪で身体を切り裂く。
「な、なんだ……ッ!?」
「どうして自分の身体を……?」
オリバーは自分の爪で斬り裂いた胸部から夥しい量の鮮血を噴出させる。
凄惨たる光景を目の当たりにし言葉を失うライガとシルヴィア。
オリバーの身体から噴出する鮮血は雨となってライガとシルヴィアの身体へと降り注ぐ。
「うぉッ……なんなんだよ、コレッ……」
「まさか、これ……」
降り注ぐ鮮血を受けて、シルヴィアは自らの身体に起こった異変にいち早く気付く。
「ライガッ、血を体内に入れちゃダメッ!」
「あっ!? なんでだよッ!」
「これは毒ッ……取り込んだらヤバイッ!」
オリバーの意図を理解し、すぐさま警戒したシルヴィアであったが、彼女が気付いた時には全てが遅かった。雨のように降り注ぐ鮮血をライガとシルヴィアは微量ではあるもののそれを取り込んでしまう。
その直後、二人の身体を異変が襲う。
「ぐッ、あッ……身体がッ……言うことを聞かねぇッ……」
「はぁッ、はぁッ……まずいかも、コレ……」
体内に取り込まれたオリバーの血液は、生者にとっては『毒』そのものであり、その効果は生者をアンデットへと変えてしまうものだった。
一滴でも取り込めば絶大な効果を発する鮮血を取り込んでしまった、ライガとシルヴィアは絶体絶命の立場へと追いやられてしまう。
死した街で繰り広げられるもう一つの戦い。
それは絶望的な状況と共に終幕へと突き進む。
「しかも大きくなってるし……もうコレ、人間とは違う生き物って感じね」
「元は人間だったはずなのに、どうしてこんなことに……」
炎獄の女神・アスカによって崩壊した死した街。
アンデットが徘徊する街には破壊の残滓が色濃く残り続けており、頭上で照らす満月の光のみが街を照らし続けている。この街で生活をしていた人々は漏れなく全員が『アンデット』へと姿を変え、生者を見ると襲いかかる存在へと変わってしまった。
この街でライガ、シルヴィアの二人は『オリバー』という名の元青年と対峙していた。
オリバーはこの街の長という立場に就いていた人物である。彼の詳細な情報をライガたちが知る由もないが、紳士服に身を包む初老の男・クロウからの情報では、見上げるほどの巨人と姿を変えたオリバーという男はこの街で確かに生活していたのだ。
「……あまりのんびりと話をしてる暇はないみたいよ」
「ちッ……今度は逃げられる気がしねぇな……」
「リエルの準備が整うまで、なんとか時間を稼ぐよッ!」
純白の翼を大きく広げ、剣聖姫・シルヴィアはその手に持つ聖剣・ハールヴァイトの切っ先をオリバーへと突きつける。
「今度は遅れを取らねぇ……全力だッ!」
シルヴィアの隣に立つライガもまた、その身を包む暴風の勢いを増して戦いの準備を整えていく。再びの激突が直前に迫り、肌を焦がす緊張の糸は不意に途切れる。
「――――ッ!」
まず最初に動きを見せたのはオリバーだった。
跳躍のために両足に力を込めると、オリバーの両足が触れている地面が鈍い音と共に大きく抉れる。そこからは足をバネのように縮め、それが伸びるのと同時に風を切って飛びかかってくる。
「ここは任せろッ! 神速、その速さは神の次元へ――神速神鬼ッ!」
突進してくるオリバーに対して、ライガは全身に力を漲らせると真っ向からの激突を選択する。風の武装魔法によって極限にまで強化されたライガは、父から譲り受けた自らの背丈を超えた大剣・ボルカニカをありったけの力で振るっていく。
「おらああああああああぁぁぁぁぁーーーーッ!」
「――――ッ!」
互いの咆哮が死した街に轟く。
その直後、凄まじい衝撃が周囲に広がっていく。
「ナイスッ、ライガッ!」
巨大な噴煙が立ち込める中、シルヴィアは翼を大きく羽ばたかせるとその中へと突入していく。手に持つ聖剣は眩い輝きを放ち、その刀身が切り裂くのはオリバーの右腕であった。
「――――ッ!?」
視界が遮られる中で腕を切り裂かれたオリバーは悲痛な声音を上げる。
シルヴィアの剣は確実にオリバーへと届くことの証明であり、切り裂かれた傷口からは鮮血が噴出する。見上げるほどの巨体を誇るオリバーは、自在に空中を滑空するシルヴィアを捉えることが出来ていない。
「よしッ、この調子なら――」
「うおおおぉーーーッ!?」
確かな手応えをシルヴィアが感じた直後、噴煙の中からライガの声音が響いてくる。状況を理解するよりも先に噴煙を斬り裂いて飛んでくるライガは、空中で姿勢を制御することが出来ずにシルヴィアへと一直線に突っ込んでくる。
「はぁッ!? なんでライガがッ!?」
「避けろ、シルヴィアッ!」
何かしらの要因で吹き飛ばされたライガは外傷はないものの、勢いを殺すことなくシルヴィアに衝突する。シルヴィアもまさかライガが飛んでくるとは思わず、更に聖剣で切り裂くにもいかずに受け止める以外の選択肢が浮かばなかった。
「きゃああぁーーーーッ!?」
同じくらいの年齢においてライガの身体は恵まれている方だった。
背丈はシルヴィアを容易に上回るものであり、そんな巨体を受け止めきれるはずがなく、シルヴィアもまた悲鳴と共に吹き飛ばされ、力なく地面へと落下する。
「痛っいーーーッ!」
「す、すまねぇ、シルヴィア……」
「アンタ、何がどうしてこうなったてのよッ!」
地面へと落下したシルヴィアは、まず近くで倒れているライガに罵声を浴びせる。
彼女の怒号を前にして、さすがのライガも申し訳なさそうに眉を顰める。
「いや、煙で前が見えなくてさ……そしたら首根っこ掴まれてぶん投げられた」
「は?」
「…………」
ライガの言葉に呆然とするシルヴィア。
驚きの表情は次に落胆のものへと変わり、彼女は深くて大きなため息を漏らすこととなる。
「はぁ……そんなことだろうと思ったけど……」
「すまねぇって……」
「――来るッ!」
ライガの謝罪はそこそこにシルヴィアは何かを察して頭上を見上げる。
「アイツ、いつの間にッ!」
「散ってッ!」
シルヴィアが見上げる頭上には月明かりを覆い隠す巨体が浮遊していた。
正確に表現するのであれば、それは浮遊しているのではなくシルヴィアたち目掛けて落下していると表現するのが正しい。
シルヴィアの声音が鼓膜を震わせた瞬間に、ライガは反射的にその場から飛び退る。
「――――ッ!」
翼を羽ばたかせたシルヴィアと、神速神鬼の武装魔法によってスピードを手に入れたライガは落下してくるオリバーの直撃をかろうじて躱すことに成功するも、巨体が破壊した瓦礫の破片が雨のように容赦なく二人へと襲いかかる。
「ぐッ!」
「小癪なッ!」
散乱する瓦礫が身体に直撃し、さすがのライガたちも鈍い痛みに表情を歪ませる。
一時的とはいえ防戦一方な状況を生み出してしまった二人は、その直後に真なる力を手に入れたオリバーの脅威を目の当たりにする。
「くそッ、反撃だッ!」
「当たり前でしょ――」
瓦礫による攻撃ではライガたちが倒れるはずもない。
すぐさま反撃に転じようとするライガたちだったが、その目論見はオリバーの異能によって頓挫することとなる。
「ぐッ……なんだよ、コレッ……」
「身体がッ……動かない……」
反撃に飛び出そうとするライガとシルヴィアだったが、その身体は地面から這い出てきた触手によって封じられてしまう。手足に絡みつく触手は猛烈な力でライガたちの自由を奪う。
「まずいぞ、コレ……」
「早くなんとかしないと……」
この状況において身動きが取れないことは致命的であると言っていい。
ゆっくりとライガたちを見るオリバーは不気味なほどに無音である。
「――――」
ライガたちの自由を奪ったオリバーは自らの爪を胸に突き立てると、なんら躊躇もなく爪で身体を切り裂く。
「な、なんだ……ッ!?」
「どうして自分の身体を……?」
オリバーは自分の爪で斬り裂いた胸部から夥しい量の鮮血を噴出させる。
凄惨たる光景を目の当たりにし言葉を失うライガとシルヴィア。
オリバーの身体から噴出する鮮血は雨となってライガとシルヴィアの身体へと降り注ぐ。
「うぉッ……なんなんだよ、コレッ……」
「まさか、これ……」
降り注ぐ鮮血を受けて、シルヴィアは自らの身体に起こった異変にいち早く気付く。
「ライガッ、血を体内に入れちゃダメッ!」
「あっ!? なんでだよッ!」
「これは毒ッ……取り込んだらヤバイッ!」
オリバーの意図を理解し、すぐさま警戒したシルヴィアであったが、彼女が気付いた時には全てが遅かった。雨のように降り注ぐ鮮血をライガとシルヴィアは微量ではあるもののそれを取り込んでしまう。
その直後、二人の身体を異変が襲う。
「ぐッ、あッ……身体がッ……言うことを聞かねぇッ……」
「はぁッ、はぁッ……まずいかも、コレ……」
体内に取り込まれたオリバーの血液は、生者にとっては『毒』そのものであり、その効果は生者をアンデットへと変えてしまうものだった。
一滴でも取り込めば絶大な効果を発する鮮血を取り込んでしまった、ライガとシルヴィアは絶体絶命の立場へと追いやられてしまう。
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