終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章79 新たな力
深層の世界で新たなる戦いに備えるのは、剣と魔法の異世界に迷い込んでしまった神谷 航大だった。
自分が無力だったばかりに帝国ガリアで大切なものを守ることができず、挙げ句の果てには自らが倒れ伏してしまった。世界を守護する女神・シュナを体内に宿し、しかしそれだけではこの先の過酷な戦いを打破することはできない。
何故ならば、どれだけ強い力を持っていたとしても、使う側の人間が未熟であれば大きすぎる力に押しつぶされ、最後には破滅しか待っていないからだ。
「死ぬかと思った……」
「すみません、航大さん。もっとしっかりと説明をしておくべきでした」
「いや、俺も無茶しちまった……申し訳ない……」
自らの深層世界で試練という名の鍛錬を続ける航大は、危うく命を落としかねない事態に陥っていた。その原因となったのが、シュナからの助言で魔力を使役した戦い方の習得にあった。
元々、航大には魔法の才能なんてものは存在しない。
しかし人間は誰しも体内に少量の魔力を内包しているものであり、人間としての基礎的な力だけでは限界を迎えた航大に、シュナは微量の魔力を使った戦い方を教えようとしていた。
自分にも魔力を使った戦いができると舞い上がった航大は、自らが持つ限界以上の力を引き出そうとしてしまった。その結果、一瞬にして自らの魔力を使い果たし、結果的に死の淵へと近づいてしまったのだった。
「そうですね、航大さんにはまず魔法というものがどのようにして出来ているのか、そこの説明をするべきでしたね」
「……なんかすいません」
「魔法というものは、自らの言葉と想像が大事で、後はそれに合った五大属性と自らの魔力を融合させることで生まれます」
「お、おう……」
「まず、魔法を使う際には頭の中でどんな魔法なのかを思い描きます」
「なるほど……」
「そして、その魔法に最も適した魔力を引き出します」
「そこが分からねぇ……」
「…………」
この世界に来るまで、魔法はおろか、剣すら握ったことのない航大である。そんな彼にこの世界では常識である魔法の成り立ちについてすぐに理解することができないのは、至極当然のことであった。
「……魔力というのは、大きく分けて二種類が存在しています。大地に流れる魔力と、自らが持つ魔力の二つですね」
「……ふむ」
「魔法を使う際に、私たちは大地に流れる魔力と、自分の魔力を適切に吸い出すことで、頭の中で思い描いた魔法を実現させているのです」
「なるほどなぁ……」
「魔法を使う才能がある者は、自分の中で保有している魔力の量が多い人間のことを指します」
「ふむふむ……」
「残念ながら、航大さんにはその保有する魔力の絶対量が少ないため、私たちのような魔法を使うことは出来ません」
「そ、そうなのか……分かってはいたけど、こうしてハッキリと言われると凹むな……」
「それは仕方のないことです。しかし、先程も言ったようにどんな人間もその身に魔力は内包しているものです。私の助言では、自分の身の丈にあった魔法を使うことで、戦いを少し有利に働かせて欲しかったのです」
「自分の身の丈にあった魔法か……」
「この制約を守らず、大きな魔法を使おうとすれば……今回みたいなことになります」
「そうなのね……それを最初に教えて欲しかった……」
「昔、航大さんみたいなことをする子が居ましたね。それを思い出してしまいました」
そういうシュナの表情はどこか優しげで、昔を懐かしむような雰囲気を醸し出していた。
「おい、のんびりと話すのはいいけどよ、こっちはずっと待ってるんだぜ?」
「ちッ……少しくらいは休憩させろっての……」
「航大さん、大丈夫ですか?」
航大とシュナが会話する間も、少し離れた場所では苛立ちを隠そうともしない影の王。彼は今すぐにでも戦いを再開したいと態度で表している。
影の王の言葉に立ち上がる航大。
「大丈夫だって。シュナが教えてくれた戦い方……もう一度、やってみるよ」
「無理はしないでください。自分の身の丈にあった魔法……これを忘れないでください」
「分かってるって」
シュナの言葉に拳を突き上げて応える航大。
立ち上がり、継戦の意志を見せてくる航大と対峙する影の王は、有り余る力のはけ口を見つけたとその口を卑しく歪ませる。
「へへ、それじゃ……続きといこうかッ!」
「自分の身の丈にあった、魔法……今の俺に使うことができるもの……」
全てが逆転した深層世界。
上を見れば航大が生まれ育った街並みが広がっており、下を見れば快晴の空にまばらな雲が悠々自適に流れている。
神谷 航大。
彼が持つ深層の世界は元の世界と異世界が混在した不思議な空間であり、その世界で彼は成長を続けている。
「暴風よ吹け、雷よ我に力を、光の一閃よ煌めけ――風雷装填ッ!」
魔法の詠唱をするのは、少し前まで普通の学生だった少年・航大。
その魔法は風と雷をその身に宿す武装魔法。
「へッ……一丁前に魔法なんて使いやがって、生意気なんだよッ!」
魔力をその身に宿す航大を見て、影の王は跳躍する速度を更に上げていく。
今までにない強烈な一撃を見舞おうと敵意を剥き出しにする相手に対して、航大はゆっくりとその目を見開いていく。
「――――ッ!」
影の王が振るう剣は、確かに航大の身体を捉えていたはずだった。
王も確かな手応えを感じていたのだが、しかし剣は虚空を切り裂くだけ。
「んなッ!?」
「こっちだよッ!」
王の鼓膜を背後から震わせるのは、その身に暴風と雷を纏った航大だった。
「るっせぇッ!」
即座に反応する影の王は背後へと振り返るも、しかしそこには誰もいない。
一切の気配もなく姿を消して移動を完了させる航大。そんな彼の姿を影の王は捉えることができない。
「マジかよ、コレッ!」
「そろそろ終わらせようぜッ!」
「ふざけんなあああぁぁぁッ!」
航大の声だけを頼りに剣を振るう影の王。
そんな彼に対して、航大はありったけの力で右手に持つ剣を振るっていく。
「そこだぁッ!」
一瞬の静寂が支配した後、凄まじい衝撃が航大と影の王を中心に広がっていく。
「――――ッ!?」
重なり合った互いの剣が音を立てて瓦解する。
これまでの戦いにおいて、影の王が持つ漆黒の剣はただの一度も折れることはなかった
それが武装魔法によって強化された航大によって、いとも容易く崩壊してしまう。
「そんな馬鹿なッ!?」
「これで、終わりだあああぁぁぁーーーーッ!」
剣はもうない。
そうなれば、航大が使う武器といえば己の拳だけである。
魔力の消費が激しい武装魔法を長時間の間、維持することは難しい。だからこそ、航大は相手の体勢が整う前に全力で拳を突き出していく。
「――――ッ!」
航大の右拳が影の王を捉える。影の王の顔面に拳がめり込み、航大の咆哮と共に王の身体を吹き飛ばしていく。
深層世界での戦い。
数多の挫折と苦難を経て、神谷 航大は新たな力を手に入れようとしていた。
自分が無力だったばかりに帝国ガリアで大切なものを守ることができず、挙げ句の果てには自らが倒れ伏してしまった。世界を守護する女神・シュナを体内に宿し、しかしそれだけではこの先の過酷な戦いを打破することはできない。
何故ならば、どれだけ強い力を持っていたとしても、使う側の人間が未熟であれば大きすぎる力に押しつぶされ、最後には破滅しか待っていないからだ。
「死ぬかと思った……」
「すみません、航大さん。もっとしっかりと説明をしておくべきでした」
「いや、俺も無茶しちまった……申し訳ない……」
自らの深層世界で試練という名の鍛錬を続ける航大は、危うく命を落としかねない事態に陥っていた。その原因となったのが、シュナからの助言で魔力を使役した戦い方の習得にあった。
元々、航大には魔法の才能なんてものは存在しない。
しかし人間は誰しも体内に少量の魔力を内包しているものであり、人間としての基礎的な力だけでは限界を迎えた航大に、シュナは微量の魔力を使った戦い方を教えようとしていた。
自分にも魔力を使った戦いができると舞い上がった航大は、自らが持つ限界以上の力を引き出そうとしてしまった。その結果、一瞬にして自らの魔力を使い果たし、結果的に死の淵へと近づいてしまったのだった。
「そうですね、航大さんにはまず魔法というものがどのようにして出来ているのか、そこの説明をするべきでしたね」
「……なんかすいません」
「魔法というものは、自らの言葉と想像が大事で、後はそれに合った五大属性と自らの魔力を融合させることで生まれます」
「お、おう……」
「まず、魔法を使う際には頭の中でどんな魔法なのかを思い描きます」
「なるほど……」
「そして、その魔法に最も適した魔力を引き出します」
「そこが分からねぇ……」
「…………」
この世界に来るまで、魔法はおろか、剣すら握ったことのない航大である。そんな彼にこの世界では常識である魔法の成り立ちについてすぐに理解することができないのは、至極当然のことであった。
「……魔力というのは、大きく分けて二種類が存在しています。大地に流れる魔力と、自らが持つ魔力の二つですね」
「……ふむ」
「魔法を使う際に、私たちは大地に流れる魔力と、自分の魔力を適切に吸い出すことで、頭の中で思い描いた魔法を実現させているのです」
「なるほどなぁ……」
「魔法を使う才能がある者は、自分の中で保有している魔力の量が多い人間のことを指します」
「ふむふむ……」
「残念ながら、航大さんにはその保有する魔力の絶対量が少ないため、私たちのような魔法を使うことは出来ません」
「そ、そうなのか……分かってはいたけど、こうしてハッキリと言われると凹むな……」
「それは仕方のないことです。しかし、先程も言ったようにどんな人間もその身に魔力は内包しているものです。私の助言では、自分の身の丈にあった魔法を使うことで、戦いを少し有利に働かせて欲しかったのです」
「自分の身の丈にあった魔法か……」
「この制約を守らず、大きな魔法を使おうとすれば……今回みたいなことになります」
「そうなのね……それを最初に教えて欲しかった……」
「昔、航大さんみたいなことをする子が居ましたね。それを思い出してしまいました」
そういうシュナの表情はどこか優しげで、昔を懐かしむような雰囲気を醸し出していた。
「おい、のんびりと話すのはいいけどよ、こっちはずっと待ってるんだぜ?」
「ちッ……少しくらいは休憩させろっての……」
「航大さん、大丈夫ですか?」
航大とシュナが会話する間も、少し離れた場所では苛立ちを隠そうともしない影の王。彼は今すぐにでも戦いを再開したいと態度で表している。
影の王の言葉に立ち上がる航大。
「大丈夫だって。シュナが教えてくれた戦い方……もう一度、やってみるよ」
「無理はしないでください。自分の身の丈にあった魔法……これを忘れないでください」
「分かってるって」
シュナの言葉に拳を突き上げて応える航大。
立ち上がり、継戦の意志を見せてくる航大と対峙する影の王は、有り余る力のはけ口を見つけたとその口を卑しく歪ませる。
「へへ、それじゃ……続きといこうかッ!」
「自分の身の丈にあった、魔法……今の俺に使うことができるもの……」
全てが逆転した深層世界。
上を見れば航大が生まれ育った街並みが広がっており、下を見れば快晴の空にまばらな雲が悠々自適に流れている。
神谷 航大。
彼が持つ深層の世界は元の世界と異世界が混在した不思議な空間であり、その世界で彼は成長を続けている。
「暴風よ吹け、雷よ我に力を、光の一閃よ煌めけ――風雷装填ッ!」
魔法の詠唱をするのは、少し前まで普通の学生だった少年・航大。
その魔法は風と雷をその身に宿す武装魔法。
「へッ……一丁前に魔法なんて使いやがって、生意気なんだよッ!」
魔力をその身に宿す航大を見て、影の王は跳躍する速度を更に上げていく。
今までにない強烈な一撃を見舞おうと敵意を剥き出しにする相手に対して、航大はゆっくりとその目を見開いていく。
「――――ッ!」
影の王が振るう剣は、確かに航大の身体を捉えていたはずだった。
王も確かな手応えを感じていたのだが、しかし剣は虚空を切り裂くだけ。
「んなッ!?」
「こっちだよッ!」
王の鼓膜を背後から震わせるのは、その身に暴風と雷を纏った航大だった。
「るっせぇッ!」
即座に反応する影の王は背後へと振り返るも、しかしそこには誰もいない。
一切の気配もなく姿を消して移動を完了させる航大。そんな彼の姿を影の王は捉えることができない。
「マジかよ、コレッ!」
「そろそろ終わらせようぜッ!」
「ふざけんなあああぁぁぁッ!」
航大の声だけを頼りに剣を振るう影の王。
そんな彼に対して、航大はありったけの力で右手に持つ剣を振るっていく。
「そこだぁッ!」
一瞬の静寂が支配した後、凄まじい衝撃が航大と影の王を中心に広がっていく。
「――――ッ!?」
重なり合った互いの剣が音を立てて瓦解する。
これまでの戦いにおいて、影の王が持つ漆黒の剣はただの一度も折れることはなかった
それが武装魔法によって強化された航大によって、いとも容易く崩壊してしまう。
「そんな馬鹿なッ!?」
「これで、終わりだあああぁぁぁーーーーッ!」
剣はもうない。
そうなれば、航大が使う武器といえば己の拳だけである。
魔力の消費が激しい武装魔法を長時間の間、維持することは難しい。だからこそ、航大は相手の体勢が整う前に全力で拳を突き出していく。
「――――ッ!」
航大の右拳が影の王を捉える。影の王の顔面に拳がめり込み、航大の咆哮と共に王の身体を吹き飛ばしていく。
深層世界での戦い。
数多の挫折と苦難を経て、神谷 航大は新たな力を手に入れようとしていた。
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