終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章58 砂塵の試練ⅩⅩⅩⅩⅥ:魔導書店での生活
「うん、素晴らしいですねッ!」
魔竜を倒すための旅に出た女神・シュナと共に戦うため、ハイラント王国の騎士隊へ入隊しようとしていた。しかし、彼女は魔法が上手く使うことができず、このままでは騎士隊への入隊も難しい現状なのであった。
それでも彼女は魔法騎士になるための目標を果たすため、ハイラント王国の近くにある森林で一人魔法の鍛錬を続けていた。
「で、できたッ……!?」
次の騎士隊入隊試験を待ち、野宿生活を続けていたリエルの前に姿を現したのは、ハイラント王国で魔導書店を営んでいる少女・ユピルだった。彼女はリエルが持つ才能を見出し、自らの書店へ連れて行くことで、彼女に魔法の使い方をレクチャーしたのであった。
「やはり、貴方は魔法を使う才能が確かにありますね」
「そ、そうなのですかッ!?」
「……まぁ、普通の人には魔法の想像はできても、大地を流れる数多の魔力を吸い出すことができませんからね」
「な、なるほど……」
「魔法には五つの属性があることは知ってますね?」
「五つの属性……火、水、風、土、雷ですか?」
「そうです。大地にはその全ての属性を司る魔力が余す所なく流れています。魔法使いとは、魔法を想像し、それに合った属性の魔力を多すぎず、少なすぎず正確に吸い取る必要があります」
「バランスが大事ってことなんですね……」
「はい。もちろん、吸い出す魔力を多くすれば魔法の効果は高くなります。しかし、大きすぎる魔力をコントロールすることはとても難しく、その人が持つ魔力の許容値を越えて吸い出してしまうと――最悪の場合、ぼんッと爆発しちゃいます」
「……ぼ、ぼん?」
「ぼんッ! まぁ、身体が爆発して死んじゃうってことです」
「…………」
ニコニコと笑みを浮かべ、どこか上機嫌な様子で物騒なことを話すユピル。そんな彼女の声音にリエルはひヒクついた笑みを浮かべるリエル。
「さぁ、このまま鍛錬を続けてみましょう」
「は、はいッ!」
「先ほど使ったヒャノア。これは氷魔法というカテゴリーにはなりますが、水魔力を吸い出して行使している魔法になります。この魔法が初歩的と言われているのは、吸い出す魔力の幅がとても広いということにあります」
「吸い出す魔力の幅……?」
「魔法によって必要な魔力の幅というのは決められている。ヒャノアという魔法はその幅がとても広いので、少ない魔力でも使うことができるし、大きな魔力を注ぎ込んだとしても、魔法が瓦解することなく使うことができるという訳です」
「……なるほど」
「ちょっと例を見せますね」
そういうと、ユピルはリエルの隣に立つと、右手を突き出して魔法の詠唱を始める。
「凍てつく氷粒よ、我の意志に従え――ヒャノアッ!」
詠唱の後、大地が揺れ、ユピルの右手に巨大な両剣水晶が生成される。
それはリエルが生成した水晶よりも十倍は大きく、ユピルの意志によってその両剣水晶は風を切って飛翔し、少々離れた位置に存在した木々を薙ぎ倒して爆ぜる。
「……す、すごい」
「それじゃ、次はリエルさんがやってみましょう」
「は、はい……ッ!」
「目を閉じて、詠唱しながら、大地に流れる魔力を感じて、それを限界まで引き出してみてください」
「げ、限界まで……?」
「はい。リエルさんの魔力許容限界を知るためです。無理って思ったら、すぐに魔力を解放しちゃってくださいね」
「わ、分かりました…………凍てつく氷粒よ、我の意志に従え――」
ユピルの言葉通り、リエルは目を閉じて精神を集中させるとゆっくりとした動きで魔法の詠唱を始める。その瞬間、闇に支配されたリエルの視界には無数の光が見えていた。光はそれぞれが紐のような姿をしており、空気のように周囲を無数に浮遊している。
それぞれが赤、青、緑などの色をしており、リエルはそれが大地を流れる魔力であるのだとすぐに理解した。
無意識に手を伸ばすのは青色をした紐である。
それを手に握り、そして思い切り引っこ抜いていく。
すると、リエルの小さな身体に燃え滾るような熱が入り込んでくる。
リエルが引っこ抜いた魔力の紐は一本だったはずである。しかし、気づけば彼女の小さな身体を取り囲むようにした青紐が無数に姿を現している。その全てから想像を絶するような魔力が流れ込んでくる。
「こ、これは……ッ!?」
大地が揺れる。
肌が燃えるように熱くなるような濃厚な魔力が周囲を漂い始める。
リエルを中心に膨大な魔力の奔流が発生しており、それを間近で感じるユピルは驚きを隠すことができなかった。
初めて彼女を見た時、魔法が全く使えないと言っていたにも関わらず、森林のあちこちに傷があったことが気掛かりだった。魔力の扱いができていないだけだと思っていたユピルの考えは正しく、しかし彼女の想定を越える『才能』をリエルは見せようとしていた。
「すごい……すごいですよ、これは……こんなに大きな水晶……見たことありません」
今、ユピルは顔を真上に向けている。
そうしなければ、リエルが生成した両剣水晶の全貌を拝むことができないからだ。
ユピルが生成した水晶なんか比べることすらおこがましい巨大で美しい水晶。
「まだ成長する……リエルさんッ、そろそろ限界ですッ!」
「――ヒャノアッ!」
しばらく見惚れていたユピルだが、すぐに『魔法』の限界が訪れたことを察する。
一秒単位で成長を続ける両剣水晶に綻びが出始めたのだ。これは魔法が持つ魔力の許容値限界に達しようとしていることの前兆であり、早く魔法を放たなければ水晶はその場で崩壊し、辺り一面に甚大な被害を与えかねない。
ユピルの言葉にリエルはすぐさま魔法の詠唱を終え、はるか先へ水晶を解き放っていく。彼女の右手から解放された水晶は凄まじい速さで飛翔すると、大地を抉りながらはるか遠くに存在する山へ着弾すると、その全てを吹き飛ばした。
「はぁ、はあぁ、はぁ……や、やりました…………」
「リエルさんッ!?」
魔法を解き放った直後、リエルは息を乱し、そのまま気を失って倒れ伏してしまった。
ユピルはすぐに動きを見せ彼女の様子を確認する。
「ふぅ……とりあえずは大丈夫そうですね……」
急に大きな魔力を扱ったことによる反動でリエルは気を失っており、命に別状はなかった。そのことに安堵のため息を漏らしながら、ユピルは魔法が着弾した場所へと視線を向ける。
「魔法の才能がない。そんなことはありませんよ、リエルさん。貴方にはすごい才能が眠っている。それは私なんかよりもずっとすごいものです。末恐ろしいですね、これは……」
山一つを簡単に吹き飛ばす魔法の残滓。
「磨けば化けるかもしれませんね……これは、教え甲斐があるってものです」
その残滓を見ながら、ユピルは心底嬉しそうに笑みを浮かべるのであった。
◆◆◆◆◆
「うぅ……頭が痛い、です……」
「まぁ、急に魔力を使いすぎてしまったのかもしれませんね。それに関しては、申し訳ありませんでした……」
「い、いえ……私がちゃんと魔力をコントロールできていれば……」
「堂々巡りになっちゃいますね。今は、夕飯のメニューを考えましょう」
「夕飯……あの、私……ちゃんとお金を……」
「大丈夫ですよ。魔導書店って、お客もあまり居ないし、お店も汚いしで儲かってないって思われるのですけど、実はそうでもないんですよ?」
魔導書店の地下に存在していた地下空間での魔法鍛錬の後。
リエルが目を覚ますなり、書店の店長であるユピルの誘いで、二人は夕飯を作るための買い出しに街へ出ていた。外に出てみると、既に夕陽が差すような時間に変わっていて、リエルは自分がどれだけの時間を寝て過ごしていたのかに驚きを隠せなかった。
「私が営んでいる魔導書店のお客様は一般人じゃないんですよ。どちらかというと、もっと上の層なんです」
「上の層?」
「そう。例えば……あそこのお城に住んでいるような……日々、戦いが絶えない人たちなんですよ」
ユピルが指差す先。
そこにはハイラント王国の王城が存在している。
「今は少し落ち着きましたが、魔竜による侵攻が激しかった時なんかは、大陸外の人たちからの依頼も多かったですね。あの時なんてお店は閑古鳥が鳴いていたのに、儲けはすごかったですからね」
「へぇ……そういえば、今更なんですが魔導書ってどんな力があるんですか?」
「魔導書の力……ですか?」
「鍛錬のときの説明だと、魔法使いっていうのは、魔法を想像する者だって言ってましたよね? 魔導書って、その名の通りで考えると魔法についての記述があると思うのですが、それだと魔法使いの存在意味と矛盾しませんか?」
「中々良い着眼点ですね。まず、魔導書というのは魔法について記述されている。これは正しいです。魔法を使う者が想像した魔法についての詳細が記載されています」
「ふむ……」
「では、なぜ魔導書というものが存在しているかについての答えですが……それは、『才能』を持たない者が使うからですよ」
「才能を持たない者……」
「魔法使いに必要とされる力。それは魔法を想像する力と、大地に流れる魔力を自在に操る力。しかし、この世に存在する魔法使いというのは、この魔法を想像する力というものが欠如している人間が圧倒的に多いんです」
「…………」
「むしろ、その両方を持ち得る人間というのは、この世界全土を見ても極少数なんですよ」
「――――」
ローブマントを深く被り、小柄な身体をぴょんぴょんと跳ねさせながら、ユピルは静かに語る。この世界における、魔法の成り立ちについて――。
生まれてから十数年。
リエルは自分に魔法の才能なんてものは微塵もないと確信していた。
それは幼いころから魔法の才能に満ちていた姉・シュナの後ろに隠れていたせいもある。
「リエルさん」
「は、はい……ッ!?」
「初めて会った時、貴方は言っていましたね。魔法を使えるようになりたいのは、守りたい人が居るからって……」
「…………」
「魔法の才能を持つ人は、自分が使う魔法に大きな責任が存在します。リエルさん、貴方ならその才能を良い方向に使ってくれる……そう感じたから、私は貴方に魔法を教えてあげようって思ったんですよ」
「…………」
ユピルの言葉にリエルは無言で応える。
それと同時に両肩が僅かに重くなった感覚をリエルは感じていた。隣に立つ少女は自分のことを同じ魔法を使う者と認めてくれている。だからこそ、その期待に応えたい。
「まぁ、難しい話はこれくらいにして、夕飯のお買い物を続けましょう」
「はい……ッ!」
ハイラント王国の一番街。
王都は人でごった返している――。
魔竜を倒すための旅に出た女神・シュナと共に戦うため、ハイラント王国の騎士隊へ入隊しようとしていた。しかし、彼女は魔法が上手く使うことができず、このままでは騎士隊への入隊も難しい現状なのであった。
それでも彼女は魔法騎士になるための目標を果たすため、ハイラント王国の近くにある森林で一人魔法の鍛錬を続けていた。
「で、できたッ……!?」
次の騎士隊入隊試験を待ち、野宿生活を続けていたリエルの前に姿を現したのは、ハイラント王国で魔導書店を営んでいる少女・ユピルだった。彼女はリエルが持つ才能を見出し、自らの書店へ連れて行くことで、彼女に魔法の使い方をレクチャーしたのであった。
「やはり、貴方は魔法を使う才能が確かにありますね」
「そ、そうなのですかッ!?」
「……まぁ、普通の人には魔法の想像はできても、大地を流れる数多の魔力を吸い出すことができませんからね」
「な、なるほど……」
「魔法には五つの属性があることは知ってますね?」
「五つの属性……火、水、風、土、雷ですか?」
「そうです。大地にはその全ての属性を司る魔力が余す所なく流れています。魔法使いとは、魔法を想像し、それに合った属性の魔力を多すぎず、少なすぎず正確に吸い取る必要があります」
「バランスが大事ってことなんですね……」
「はい。もちろん、吸い出す魔力を多くすれば魔法の効果は高くなります。しかし、大きすぎる魔力をコントロールすることはとても難しく、その人が持つ魔力の許容値を越えて吸い出してしまうと――最悪の場合、ぼんッと爆発しちゃいます」
「……ぼ、ぼん?」
「ぼんッ! まぁ、身体が爆発して死んじゃうってことです」
「…………」
ニコニコと笑みを浮かべ、どこか上機嫌な様子で物騒なことを話すユピル。そんな彼女の声音にリエルはひヒクついた笑みを浮かべるリエル。
「さぁ、このまま鍛錬を続けてみましょう」
「は、はいッ!」
「先ほど使ったヒャノア。これは氷魔法というカテゴリーにはなりますが、水魔力を吸い出して行使している魔法になります。この魔法が初歩的と言われているのは、吸い出す魔力の幅がとても広いということにあります」
「吸い出す魔力の幅……?」
「魔法によって必要な魔力の幅というのは決められている。ヒャノアという魔法はその幅がとても広いので、少ない魔力でも使うことができるし、大きな魔力を注ぎ込んだとしても、魔法が瓦解することなく使うことができるという訳です」
「……なるほど」
「ちょっと例を見せますね」
そういうと、ユピルはリエルの隣に立つと、右手を突き出して魔法の詠唱を始める。
「凍てつく氷粒よ、我の意志に従え――ヒャノアッ!」
詠唱の後、大地が揺れ、ユピルの右手に巨大な両剣水晶が生成される。
それはリエルが生成した水晶よりも十倍は大きく、ユピルの意志によってその両剣水晶は風を切って飛翔し、少々離れた位置に存在した木々を薙ぎ倒して爆ぜる。
「……す、すごい」
「それじゃ、次はリエルさんがやってみましょう」
「は、はい……ッ!」
「目を閉じて、詠唱しながら、大地に流れる魔力を感じて、それを限界まで引き出してみてください」
「げ、限界まで……?」
「はい。リエルさんの魔力許容限界を知るためです。無理って思ったら、すぐに魔力を解放しちゃってくださいね」
「わ、分かりました…………凍てつく氷粒よ、我の意志に従え――」
ユピルの言葉通り、リエルは目を閉じて精神を集中させるとゆっくりとした動きで魔法の詠唱を始める。その瞬間、闇に支配されたリエルの視界には無数の光が見えていた。光はそれぞれが紐のような姿をしており、空気のように周囲を無数に浮遊している。
それぞれが赤、青、緑などの色をしており、リエルはそれが大地を流れる魔力であるのだとすぐに理解した。
無意識に手を伸ばすのは青色をした紐である。
それを手に握り、そして思い切り引っこ抜いていく。
すると、リエルの小さな身体に燃え滾るような熱が入り込んでくる。
リエルが引っこ抜いた魔力の紐は一本だったはずである。しかし、気づけば彼女の小さな身体を取り囲むようにした青紐が無数に姿を現している。その全てから想像を絶するような魔力が流れ込んでくる。
「こ、これは……ッ!?」
大地が揺れる。
肌が燃えるように熱くなるような濃厚な魔力が周囲を漂い始める。
リエルを中心に膨大な魔力の奔流が発生しており、それを間近で感じるユピルは驚きを隠すことができなかった。
初めて彼女を見た時、魔法が全く使えないと言っていたにも関わらず、森林のあちこちに傷があったことが気掛かりだった。魔力の扱いができていないだけだと思っていたユピルの考えは正しく、しかし彼女の想定を越える『才能』をリエルは見せようとしていた。
「すごい……すごいですよ、これは……こんなに大きな水晶……見たことありません」
今、ユピルは顔を真上に向けている。
そうしなければ、リエルが生成した両剣水晶の全貌を拝むことができないからだ。
ユピルが生成した水晶なんか比べることすらおこがましい巨大で美しい水晶。
「まだ成長する……リエルさんッ、そろそろ限界ですッ!」
「――ヒャノアッ!」
しばらく見惚れていたユピルだが、すぐに『魔法』の限界が訪れたことを察する。
一秒単位で成長を続ける両剣水晶に綻びが出始めたのだ。これは魔法が持つ魔力の許容値限界に達しようとしていることの前兆であり、早く魔法を放たなければ水晶はその場で崩壊し、辺り一面に甚大な被害を与えかねない。
ユピルの言葉にリエルはすぐさま魔法の詠唱を終え、はるか先へ水晶を解き放っていく。彼女の右手から解放された水晶は凄まじい速さで飛翔すると、大地を抉りながらはるか遠くに存在する山へ着弾すると、その全てを吹き飛ばした。
「はぁ、はあぁ、はぁ……や、やりました…………」
「リエルさんッ!?」
魔法を解き放った直後、リエルは息を乱し、そのまま気を失って倒れ伏してしまった。
ユピルはすぐに動きを見せ彼女の様子を確認する。
「ふぅ……とりあえずは大丈夫そうですね……」
急に大きな魔力を扱ったことによる反動でリエルは気を失っており、命に別状はなかった。そのことに安堵のため息を漏らしながら、ユピルは魔法が着弾した場所へと視線を向ける。
「魔法の才能がない。そんなことはありませんよ、リエルさん。貴方にはすごい才能が眠っている。それは私なんかよりもずっとすごいものです。末恐ろしいですね、これは……」
山一つを簡単に吹き飛ばす魔法の残滓。
「磨けば化けるかもしれませんね……これは、教え甲斐があるってものです」
その残滓を見ながら、ユピルは心底嬉しそうに笑みを浮かべるのであった。
◆◆◆◆◆
「うぅ……頭が痛い、です……」
「まぁ、急に魔力を使いすぎてしまったのかもしれませんね。それに関しては、申し訳ありませんでした……」
「い、いえ……私がちゃんと魔力をコントロールできていれば……」
「堂々巡りになっちゃいますね。今は、夕飯のメニューを考えましょう」
「夕飯……あの、私……ちゃんとお金を……」
「大丈夫ですよ。魔導書店って、お客もあまり居ないし、お店も汚いしで儲かってないって思われるのですけど、実はそうでもないんですよ?」
魔導書店の地下に存在していた地下空間での魔法鍛錬の後。
リエルが目を覚ますなり、書店の店長であるユピルの誘いで、二人は夕飯を作るための買い出しに街へ出ていた。外に出てみると、既に夕陽が差すような時間に変わっていて、リエルは自分がどれだけの時間を寝て過ごしていたのかに驚きを隠せなかった。
「私が営んでいる魔導書店のお客様は一般人じゃないんですよ。どちらかというと、もっと上の層なんです」
「上の層?」
「そう。例えば……あそこのお城に住んでいるような……日々、戦いが絶えない人たちなんですよ」
ユピルが指差す先。
そこにはハイラント王国の王城が存在している。
「今は少し落ち着きましたが、魔竜による侵攻が激しかった時なんかは、大陸外の人たちからの依頼も多かったですね。あの時なんてお店は閑古鳥が鳴いていたのに、儲けはすごかったですからね」
「へぇ……そういえば、今更なんですが魔導書ってどんな力があるんですか?」
「魔導書の力……ですか?」
「鍛錬のときの説明だと、魔法使いっていうのは、魔法を想像する者だって言ってましたよね? 魔導書って、その名の通りで考えると魔法についての記述があると思うのですが、それだと魔法使いの存在意味と矛盾しませんか?」
「中々良い着眼点ですね。まず、魔導書というのは魔法について記述されている。これは正しいです。魔法を使う者が想像した魔法についての詳細が記載されています」
「ふむ……」
「では、なぜ魔導書というものが存在しているかについての答えですが……それは、『才能』を持たない者が使うからですよ」
「才能を持たない者……」
「魔法使いに必要とされる力。それは魔法を想像する力と、大地に流れる魔力を自在に操る力。しかし、この世に存在する魔法使いというのは、この魔法を想像する力というものが欠如している人間が圧倒的に多いんです」
「…………」
「むしろ、その両方を持ち得る人間というのは、この世界全土を見ても極少数なんですよ」
「――――」
ローブマントを深く被り、小柄な身体をぴょんぴょんと跳ねさせながら、ユピルは静かに語る。この世界における、魔法の成り立ちについて――。
生まれてから十数年。
リエルは自分に魔法の才能なんてものは微塵もないと確信していた。
それは幼いころから魔法の才能に満ちていた姉・シュナの後ろに隠れていたせいもある。
「リエルさん」
「は、はい……ッ!?」
「初めて会った時、貴方は言っていましたね。魔法を使えるようになりたいのは、守りたい人が居るからって……」
「…………」
「魔法の才能を持つ人は、自分が使う魔法に大きな責任が存在します。リエルさん、貴方ならその才能を良い方向に使ってくれる……そう感じたから、私は貴方に魔法を教えてあげようって思ったんですよ」
「…………」
ユピルの言葉にリエルは無言で応える。
それと同時に両肩が僅かに重くなった感覚をリエルは感じていた。隣に立つ少女は自分のことを同じ魔法を使う者と認めてくれている。だからこそ、その期待に応えたい。
「まぁ、難しい話はこれくらいにして、夕飯のお買い物を続けましょう」
「はい……ッ!」
ハイラント王国の一番街。
王都は人でごった返している――。
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