終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章50 砂塵の試練ⅩⅩⅩⅨ:世界破滅の調べ
『世界破滅の魔法……受けてみるがいい』
女神たちの鼓膜を震わせるのは、世界破滅の厄災・魔竜が発する声だった。
魔竜が発する声音に女神たちは驚きを隠せないが、彼女たちは眼下に存在する魔竜よりも、頭上に広がる異様な空に意識を注意せざるを得なかった。
「大地を包み、世界を覆う風の精霊たちよ、我を守り、救い給え――風絶防壁ッ!」
「万物を拒絶し、あらゆる攻撃から身を守れ――絶対氷鏡ッ!」
魔竜が見せる真なる破滅の力。
それは女神たちの想像を遥かに越えるものであり、圧倒的なまでの力を目の当たりにして即座に行動を開始したのは、暴風の女神・カガリと氷輪の女神・シュナだった。
瞬時に危険だと判断した二人の女神は、即座に詠唱を終えると思いつく限り最強の防御魔法を展開する。カガリとシュナは頭上を見上げて険しい顔を浮かべている。
現在の時刻は陽も完全に落ちた真夜中である。
しかし、シュナたちが存在するバルベット大陸の北部・アルジェンテ地方だけが異様に明るい光に包まれていた。まるでその部分だけが時間という概念から逸脱したかのような、異質な光景。
それを現実のものとするのが、世界破滅の厄災・魔竜が持つ真の力なのであった。
「ふむ、助かったぞカガリ。それと氷の女神よ」
「シュナちゃん。私たちの仲間になるんだから、名前くらいは覚えてあげてよねー」
「善処しよう」
「よ、よろしくお願いします……」
カガリとシュナが展開した防御魔法に炎獄の女神・アスカが入ってくる。彼女もまた、眼前の光景には身の危険を察して退避してきた。
「アスカ、ダイアナは?」
「うむ、ダイアナは……あそこに居るぞ」
カガリの問いかけにアスカが遥か遠方を指差す。
アスカが指差す先、そこには火球と木の根が雨のように襲いかかる中で必死に抵抗しているダイアナの姿があった。白銀の髪を風に靡かせ、美しい甲冑ドレスに数多の傷を刻みながらも孤軍奮闘している。
「ダイアナッ、早くこっちにッ!」
「くッ……しかし、一時的にとはいえ、魔竜を前にして背を向けるなんて……」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょッ!? ほら、上ッ……あれはやばいってッ!」
忌々しげに口元を歪めるダイアナ。
彼女は女神の中でも一際、負けず嫌いな性格をしており、戦いの中で一瞬でも背中を向けることを最も嫌う一面がある。そのため、頭上を覆う魔竜の攻撃に対しても、なんとか突破口はないのかと抵抗を続けているのだが、誰が見ても一人で戦うには限界が近いことは明白だった。
「迫ってくる……ッ!」
「ふむふむ、ここまでの攻撃……どうしてものか……」
「相変わらず、こういう時になると冷静だよね……アスカってッ!」
下を見れば紅蓮の瞳を爛々と輝かせる魔竜が火球と木の根で絶え間ない攻撃を仕掛け、上を見れば夜空を覆い隠す『業炎のカーテン』から降り注ぐ炎の雨が槍となって女神たちの命を散らそうと襲いかかる。
「くッ……この攻撃……ずっと続くならちょっとやばいかも……」
「はぁ、はあぁッ、くっ……そう、ですね……防御魔法もいつまで保つか……」
カガリとシュナが展開した防御魔法は、そんな絶望的な魔竜の攻撃に晒されても尚、その形を保つことができていた。しかし、防御魔法は術者に多大な負担をかけるものであり、長時間の運用は厳しいと言わざるを得ない。
「私はッ……やられる訳にはッ……いかな――ぐうぅッ!?」
「ダイアナッ!?」
カガリの悲痛な声音が漏れる。
彼女の視線の先、そこには絶え間ない攻撃を躱し続けることに限界が訪れたダイアナが炎に飲まれようとしていた。
一撃。また一撃と上から下から飛来してくる炎の攻撃がダイアナの身体に直撃し、その度に白銀の甲冑ドレスを身に纏うダイアナが苦しげな声音を漏らす。
一度、体勢を崩してしまうとそこから立ち直ることは難しい。幾度となく苦しげな声を漏らした挙句、ダイアナは力なく地面へと落下を始めてしまう。
「ダイアナーーーーッ!?」
「カガリ、今はダメだッ!」
咄嗟に飛び出していこうとするカガリを、しかしアスカが肩を掴んで制止させる。
「ダイアナがッ、見捨てる気なのッ!?」
「そうじゃない。冷静になるんだ。今、我たちが飛び出したところで、ダイアナと同じことになるのは間違いない」
力なく落下を続けるダイアナの姿はあっという間に見えなくなってしまった。
アスカは険しい表情を浮かべ、取り乱すカガリを落ち着けようとする。
彼女の言葉は正しく、絶望的な状況だからこそ冷静な判断が求められるのであった。
「それより……来るぞッ!」
「来るって――ッ!?」
アスカの鋭い声音が鼓膜を震わせ、それと同時に頭上を見上げるカガリとシュナはその目を大きく見開かせる。
頭上には魔竜が生成したと思われる『業炎のカーテン』が存在しており、それは周囲一帯の夜空を埋め尽くす程に巨大であった。
全てを飲み込み、全てを灰燼と化す業炎のカーテンがカガリたちを目指して落下を続けている。今から退避行動を取ったとしても、広範囲に渡る攻撃に対して逃げ切ることは不可能である。
「シュナちゃんッ、防御魔法の強化……いけるッ!?」
「やってみますッ!」
迫るその瞬間を前に、カガリたちは少しでもと抵抗する。
ありったけの魔力を防御魔法に注ぎ込み、頭上から落ちてくる業炎のカーテンをやり過ごそうとする。凄まじい魔力が二人の少女に集中し、そして防御魔法の強度が数倍に跳ね上がる。
「――来るぞッッ!」
アスカの声音が響くのと、絶対不可避の業炎のカーテンがカガリたちを直撃するのは同時だった。
瞬間、眩い閃光が闇夜を照らし、それに少し遅れる形で凄まじい轟音が世界中に轟く。
超広範囲に広がっていた業炎のカーテンは、カガリたちが展開する防御魔法に触れるのと同時にその一点に収束すると、気が遠くなるような膨大な魔力を収束させて爆発した。
空中で爆ぜた業炎のカーテンは、内に溜め込んだ膨大な魔力を爆散させる。
全てを破壊し、全てを無にする魔竜の攻撃。
女神たちはその中心に存在し、その小さな身体で超強力な攻撃を受け止めるのであった。
女神たちの鼓膜を震わせるのは、世界破滅の厄災・魔竜が発する声だった。
魔竜が発する声音に女神たちは驚きを隠せないが、彼女たちは眼下に存在する魔竜よりも、頭上に広がる異様な空に意識を注意せざるを得なかった。
「大地を包み、世界を覆う風の精霊たちよ、我を守り、救い給え――風絶防壁ッ!」
「万物を拒絶し、あらゆる攻撃から身を守れ――絶対氷鏡ッ!」
魔竜が見せる真なる破滅の力。
それは女神たちの想像を遥かに越えるものであり、圧倒的なまでの力を目の当たりにして即座に行動を開始したのは、暴風の女神・カガリと氷輪の女神・シュナだった。
瞬時に危険だと判断した二人の女神は、即座に詠唱を終えると思いつく限り最強の防御魔法を展開する。カガリとシュナは頭上を見上げて険しい顔を浮かべている。
現在の時刻は陽も完全に落ちた真夜中である。
しかし、シュナたちが存在するバルベット大陸の北部・アルジェンテ地方だけが異様に明るい光に包まれていた。まるでその部分だけが時間という概念から逸脱したかのような、異質な光景。
それを現実のものとするのが、世界破滅の厄災・魔竜が持つ真の力なのであった。
「ふむ、助かったぞカガリ。それと氷の女神よ」
「シュナちゃん。私たちの仲間になるんだから、名前くらいは覚えてあげてよねー」
「善処しよう」
「よ、よろしくお願いします……」
カガリとシュナが展開した防御魔法に炎獄の女神・アスカが入ってくる。彼女もまた、眼前の光景には身の危険を察して退避してきた。
「アスカ、ダイアナは?」
「うむ、ダイアナは……あそこに居るぞ」
カガリの問いかけにアスカが遥か遠方を指差す。
アスカが指差す先、そこには火球と木の根が雨のように襲いかかる中で必死に抵抗しているダイアナの姿があった。白銀の髪を風に靡かせ、美しい甲冑ドレスに数多の傷を刻みながらも孤軍奮闘している。
「ダイアナッ、早くこっちにッ!」
「くッ……しかし、一時的にとはいえ、魔竜を前にして背を向けるなんて……」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょッ!? ほら、上ッ……あれはやばいってッ!」
忌々しげに口元を歪めるダイアナ。
彼女は女神の中でも一際、負けず嫌いな性格をしており、戦いの中で一瞬でも背中を向けることを最も嫌う一面がある。そのため、頭上を覆う魔竜の攻撃に対しても、なんとか突破口はないのかと抵抗を続けているのだが、誰が見ても一人で戦うには限界が近いことは明白だった。
「迫ってくる……ッ!」
「ふむふむ、ここまでの攻撃……どうしてものか……」
「相変わらず、こういう時になると冷静だよね……アスカってッ!」
下を見れば紅蓮の瞳を爛々と輝かせる魔竜が火球と木の根で絶え間ない攻撃を仕掛け、上を見れば夜空を覆い隠す『業炎のカーテン』から降り注ぐ炎の雨が槍となって女神たちの命を散らそうと襲いかかる。
「くッ……この攻撃……ずっと続くならちょっとやばいかも……」
「はぁ、はあぁッ、くっ……そう、ですね……防御魔法もいつまで保つか……」
カガリとシュナが展開した防御魔法は、そんな絶望的な魔竜の攻撃に晒されても尚、その形を保つことができていた。しかし、防御魔法は術者に多大な負担をかけるものであり、長時間の運用は厳しいと言わざるを得ない。
「私はッ……やられる訳にはッ……いかな――ぐうぅッ!?」
「ダイアナッ!?」
カガリの悲痛な声音が漏れる。
彼女の視線の先、そこには絶え間ない攻撃を躱し続けることに限界が訪れたダイアナが炎に飲まれようとしていた。
一撃。また一撃と上から下から飛来してくる炎の攻撃がダイアナの身体に直撃し、その度に白銀の甲冑ドレスを身に纏うダイアナが苦しげな声音を漏らす。
一度、体勢を崩してしまうとそこから立ち直ることは難しい。幾度となく苦しげな声を漏らした挙句、ダイアナは力なく地面へと落下を始めてしまう。
「ダイアナーーーーッ!?」
「カガリ、今はダメだッ!」
咄嗟に飛び出していこうとするカガリを、しかしアスカが肩を掴んで制止させる。
「ダイアナがッ、見捨てる気なのッ!?」
「そうじゃない。冷静になるんだ。今、我たちが飛び出したところで、ダイアナと同じことになるのは間違いない」
力なく落下を続けるダイアナの姿はあっという間に見えなくなってしまった。
アスカは険しい表情を浮かべ、取り乱すカガリを落ち着けようとする。
彼女の言葉は正しく、絶望的な状況だからこそ冷静な判断が求められるのであった。
「それより……来るぞッ!」
「来るって――ッ!?」
アスカの鋭い声音が鼓膜を震わせ、それと同時に頭上を見上げるカガリとシュナはその目を大きく見開かせる。
頭上には魔竜が生成したと思われる『業炎のカーテン』が存在しており、それは周囲一帯の夜空を埋め尽くす程に巨大であった。
全てを飲み込み、全てを灰燼と化す業炎のカーテンがカガリたちを目指して落下を続けている。今から退避行動を取ったとしても、広範囲に渡る攻撃に対して逃げ切ることは不可能である。
「シュナちゃんッ、防御魔法の強化……いけるッ!?」
「やってみますッ!」
迫るその瞬間を前に、カガリたちは少しでもと抵抗する。
ありったけの魔力を防御魔法に注ぎ込み、頭上から落ちてくる業炎のカーテンをやり過ごそうとする。凄まじい魔力が二人の少女に集中し、そして防御魔法の強度が数倍に跳ね上がる。
「――来るぞッッ!」
アスカの声音が響くのと、絶対不可避の業炎のカーテンがカガリたちを直撃するのは同時だった。
瞬間、眩い閃光が闇夜を照らし、それに少し遅れる形で凄まじい轟音が世界中に轟く。
超広範囲に広がっていた業炎のカーテンは、カガリたちが展開する防御魔法に触れるのと同時にその一点に収束すると、気が遠くなるような膨大な魔力を収束させて爆発した。
空中で爆ぜた業炎のカーテンは、内に溜め込んだ膨大な魔力を爆散させる。
全てを破壊し、全てを無にする魔竜の攻撃。
女神たちはその中心に存在し、その小さな身体で超強力な攻撃を受け止めるのであった。
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