終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第五章14 砂塵の試練Ⅲ:業炎を纏いし悪魔
「――武装魔法・風装神鬼ッ!」
「――武装魔法・業炎炎舞ッ!」
アケロンテ砂漠の西方に存在する砂塵の防壁。
バルベット大陸の西方へ続く道を閉ざす凝縮された砂嵐は、ライガたち一向に過酷な試練を突き付けてくる。仲間たちとはぐれ孤立したライガの前に立ち塞がったのは、かつて正解の英雄としてその名を轟かせ始めた頃の父・グレオだった。
砂塵の防壁を突破するため、ライガは眼前に立つ全盛期の父・グレオを打ち倒さなければならなかった。しかしそれは、ライガにとってあまりにも過酷な試練であることに間違いはなく、己が振るう剣の全てが父に届くことはなかった。
「簡単に死んでくれるなよ?」
「へッ……それはこっちの台詞だぜ、親父ッ!」
互いに武装魔法を身に纏い、砂嵐が吹き荒れる中での壮絶な戦いが始まろうとしていた。
瞬速の暴風。
破壊の業炎。
目にも留まらぬ速さで動き、敵が見せる一瞬の隙を突くのがライガの戦い方であるのに対して、グレオはその身に業炎を身に纏い、己が持つ魔力を破壊にだけ費やす戦い方を極めていた。
一瞬の内に零距離まで接近を果たしたライガは、両手に持った神剣・ボルガを振るっていく。ライガの攻撃に対して、グレオは表情一つ変えることなく僅かに上半身を後ろに逸らすことで眼前を剣先が通過していく。
「その程度の剣では、俺を倒すことなんか出来ないぞ?」
「うるっせぇッ、まだまだッ!」
第一撃を華麗に躱されたライガだが、彼の中では攻撃が簡単には当たらないことはここまでの戦いで予測済みだった。だからこそ、第二撃の初動を早くすることができ、僅かに乱れた体勢を立て直すと、ライガは空を切った剣先を砂の上に突き刺すと、それを支えにして回し蹴りをグレオに見舞っていく。
「ッ、なるほど……剣だけではないということか」
「この体術は親父譲りなんでねッ!」
「ふッ……俺が教えた体術を使ったところで、攻撃は当たらないぞ」
ライガが剣を振るい、その次に回し蹴りを放つまでの間はたった数秒にも満たない時間である。常人であれば、その動きを視界に捉えることすら出来ない動きなのだが、英雄であるグレオの瞳は一瞬たりともライガの行動を見落とすことはなく、その表情に楽しげな笑みを浮かべると反撃に転じていく
「次はこちらの番だッ……」
「――ッ!?」
「一撃で死んでくれるなよ?」
ライガが放つ連撃の全てを尽く躱したグレオは、口元を妖しげに歪ませると、全身を包む業炎の勢いを強く、そして大きなものへと変えていく。
ただ近くに居るだけで全身の皮膚が粟立っていく感覚にライガは本能的な恐怖と死の予感を感じずにはいられなかった。
「――業火一閃ッ!」
鋭く響くグレオの声音と共に、大地を揺るがす一筋の炎がライガの身体へと迫っていく。
放たれた炎の一閃はあらゆるものを破壊する業炎となり、立ち塞がるライガの身体を飲み込もうとしていた。しかし、そんなグレオの一閃を、ライガは思い切り横へ飛ぶことでギリギリのところで回避することに成功する。
「ぐああぁッ!?」
跳躍したライガのすぐ隣を炎が通過していくのだが、直撃を避けたはずのライガは自身の身体を襲う強烈な痛みに苦悶の声を漏らす。グレオが放つ業炎は直撃を避けたとしても、近くに存在するものに対して、強烈な熱波を放っていた。咄嗟のことに回避行動を取ったライガではあったが、十分に距離を取ることができなかったため、右半身を中心に熱波を浴びてしまっていた。
「熱いだろ、息子よ?」
「あ、あぁ……想像以上だぜ、親父……」
「たった一発で死ななかったことを褒めてやる」
「次はもっと完璧に避けてやるよ――ッ!」
右半身に重度の火傷を負ったライガだが、継戦には問題ないと判断し再び跳躍する。
グレオが続けて攻撃を放つ前にこちらから仕掛けようとライガは剣を振るっていく。
「ふむ、悪くない判断だ」
「はあああああぁぁぁぁッ!」
スピードだけならグレオに勝っているライガ。
それならば、絶え間ない連撃を見舞うことでグレオの手を止めようという判断だった。
暴風の武装魔法に身を纏っているからこそ可能な作戦であり、事実、ライガの俊敏な動きに対してグレオはすぐさま反撃する手段を持ち得てはいなかった。
「――しかし、その判断は少々迂闊であったと言わざるを得ないな」
「んなッ!?」
グレオの言葉が鼓膜を震わせた瞬間には全てが遅く、ライガが放つ斬撃は確かにグレオの身体を捉えていたのだが、グレオは不敵な笑みを浮かべるだけでライガの剣を自らの剣で受け止めていく。
甲高い音が響き渡り、ライガの剣はグレオが構えた剣によって防がれていた。
これだけならば、ライガが想定していた事態であり何ら問題はないはずだった。
ライガが振るう剣がグレオの剣と触れ合った瞬間――業炎を纏うグレオの剣が『爆発』した。
「うあああああぁぁぁッ!?」
予測していなかった事態にライガの身体は紙切れのように後方へと吹き飛ばされてしまう。眼前で強烈な爆発が発生し、ライガは受け身の姿勢を取ることも出来ず直撃を受けてしまう。
「はぁ、はあぁ……親父、そんなの聞いてねぇぜ?」
「お前は戦場で対峙した敵に全ての情報を曝け出すのか?」
「…………」
「まだまだこんなものではないだろ?」
「…………」
倒れ伏したライガは全身に裂傷を負いながらも立ち上がる。
その瞳に戦意の炎は消えておらず、唇の端から垂れ落ちる鮮血を拭うと笑みを浮かべて英雄・グレオの顔を睨みつける。
「あったりまえだ……勝負はこれからだぜ……親父ッ……」
「それでこそ俺の息子だ。さぁ、掛かってこい」
全身に纏う業炎の勢いを増して立ち塞がる英雄・グレオ。
自分が知らなかった全盛期の英雄を前にして、ライガは心のどこかで芽生えようとする恐怖心を殺すのに必死だった。炎を自在に操る父。グレオの姿はまさしく『業炎の悪魔』と形容するのに相応しい姿をしていた。
砂塵が放つ過酷な試練はまだ終局の姿を見せることはなく、父と息子による戦いはより激しさを増していくのであった。
「――武装魔法・業炎炎舞ッ!」
アケロンテ砂漠の西方に存在する砂塵の防壁。
バルベット大陸の西方へ続く道を閉ざす凝縮された砂嵐は、ライガたち一向に過酷な試練を突き付けてくる。仲間たちとはぐれ孤立したライガの前に立ち塞がったのは、かつて正解の英雄としてその名を轟かせ始めた頃の父・グレオだった。
砂塵の防壁を突破するため、ライガは眼前に立つ全盛期の父・グレオを打ち倒さなければならなかった。しかしそれは、ライガにとってあまりにも過酷な試練であることに間違いはなく、己が振るう剣の全てが父に届くことはなかった。
「簡単に死んでくれるなよ?」
「へッ……それはこっちの台詞だぜ、親父ッ!」
互いに武装魔法を身に纏い、砂嵐が吹き荒れる中での壮絶な戦いが始まろうとしていた。
瞬速の暴風。
破壊の業炎。
目にも留まらぬ速さで動き、敵が見せる一瞬の隙を突くのがライガの戦い方であるのに対して、グレオはその身に業炎を身に纏い、己が持つ魔力を破壊にだけ費やす戦い方を極めていた。
一瞬の内に零距離まで接近を果たしたライガは、両手に持った神剣・ボルガを振るっていく。ライガの攻撃に対して、グレオは表情一つ変えることなく僅かに上半身を後ろに逸らすことで眼前を剣先が通過していく。
「その程度の剣では、俺を倒すことなんか出来ないぞ?」
「うるっせぇッ、まだまだッ!」
第一撃を華麗に躱されたライガだが、彼の中では攻撃が簡単には当たらないことはここまでの戦いで予測済みだった。だからこそ、第二撃の初動を早くすることができ、僅かに乱れた体勢を立て直すと、ライガは空を切った剣先を砂の上に突き刺すと、それを支えにして回し蹴りをグレオに見舞っていく。
「ッ、なるほど……剣だけではないということか」
「この体術は親父譲りなんでねッ!」
「ふッ……俺が教えた体術を使ったところで、攻撃は当たらないぞ」
ライガが剣を振るい、その次に回し蹴りを放つまでの間はたった数秒にも満たない時間である。常人であれば、その動きを視界に捉えることすら出来ない動きなのだが、英雄であるグレオの瞳は一瞬たりともライガの行動を見落とすことはなく、その表情に楽しげな笑みを浮かべると反撃に転じていく
「次はこちらの番だッ……」
「――ッ!?」
「一撃で死んでくれるなよ?」
ライガが放つ連撃の全てを尽く躱したグレオは、口元を妖しげに歪ませると、全身を包む業炎の勢いを強く、そして大きなものへと変えていく。
ただ近くに居るだけで全身の皮膚が粟立っていく感覚にライガは本能的な恐怖と死の予感を感じずにはいられなかった。
「――業火一閃ッ!」
鋭く響くグレオの声音と共に、大地を揺るがす一筋の炎がライガの身体へと迫っていく。
放たれた炎の一閃はあらゆるものを破壊する業炎となり、立ち塞がるライガの身体を飲み込もうとしていた。しかし、そんなグレオの一閃を、ライガは思い切り横へ飛ぶことでギリギリのところで回避することに成功する。
「ぐああぁッ!?」
跳躍したライガのすぐ隣を炎が通過していくのだが、直撃を避けたはずのライガは自身の身体を襲う強烈な痛みに苦悶の声を漏らす。グレオが放つ業炎は直撃を避けたとしても、近くに存在するものに対して、強烈な熱波を放っていた。咄嗟のことに回避行動を取ったライガではあったが、十分に距離を取ることができなかったため、右半身を中心に熱波を浴びてしまっていた。
「熱いだろ、息子よ?」
「あ、あぁ……想像以上だぜ、親父……」
「たった一発で死ななかったことを褒めてやる」
「次はもっと完璧に避けてやるよ――ッ!」
右半身に重度の火傷を負ったライガだが、継戦には問題ないと判断し再び跳躍する。
グレオが続けて攻撃を放つ前にこちらから仕掛けようとライガは剣を振るっていく。
「ふむ、悪くない判断だ」
「はあああああぁぁぁぁッ!」
スピードだけならグレオに勝っているライガ。
それならば、絶え間ない連撃を見舞うことでグレオの手を止めようという判断だった。
暴風の武装魔法に身を纏っているからこそ可能な作戦であり、事実、ライガの俊敏な動きに対してグレオはすぐさま反撃する手段を持ち得てはいなかった。
「――しかし、その判断は少々迂闊であったと言わざるを得ないな」
「んなッ!?」
グレオの言葉が鼓膜を震わせた瞬間には全てが遅く、ライガが放つ斬撃は確かにグレオの身体を捉えていたのだが、グレオは不敵な笑みを浮かべるだけでライガの剣を自らの剣で受け止めていく。
甲高い音が響き渡り、ライガの剣はグレオが構えた剣によって防がれていた。
これだけならば、ライガが想定していた事態であり何ら問題はないはずだった。
ライガが振るう剣がグレオの剣と触れ合った瞬間――業炎を纏うグレオの剣が『爆発』した。
「うあああああぁぁぁッ!?」
予測していなかった事態にライガの身体は紙切れのように後方へと吹き飛ばされてしまう。眼前で強烈な爆発が発生し、ライガは受け身の姿勢を取ることも出来ず直撃を受けてしまう。
「はぁ、はあぁ……親父、そんなの聞いてねぇぜ?」
「お前は戦場で対峙した敵に全ての情報を曝け出すのか?」
「…………」
「まだまだこんなものではないだろ?」
「…………」
倒れ伏したライガは全身に裂傷を負いながらも立ち上がる。
その瞳に戦意の炎は消えておらず、唇の端から垂れ落ちる鮮血を拭うと笑みを浮かべて英雄・グレオの顔を睨みつける。
「あったりまえだ……勝負はこれからだぜ……親父ッ……」
「それでこそ俺の息子だ。さぁ、掛かってこい」
全身に纏う業炎の勢いを増して立ち塞がる英雄・グレオ。
自分が知らなかった全盛期の英雄を前にして、ライガは心のどこかで芽生えようとする恐怖心を殺すのに必死だった。炎を自在に操る父。グレオの姿はまさしく『業炎の悪魔』と形容するのに相応しい姿をしていた。
砂塵が放つ過酷な試練はまだ終局の姿を見せることはなく、父と息子による戦いはより激しさを増していくのであった。
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