終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~

桜葉

第五章3 砂塵と共に現れた少女

「全員ッ、吹き飛ばされるなよッ!?」

「そんなこと言われてもぉッ!」

「ふむ……砂が混じっていなければ、そよ風と変わらんのだがな」

「本当に油断してると、吹き飛ばされかねないですね」

 ハイラント王国を出発したライガたち一行は、女神が眠る砂漠と隣接する村・デミアーナへと到達した。過酷な環境が待ち受ける砂漠へ挑戦する前に、デミアーナ村で休息を取ろうとしたライガたちだが、村は人影がないゴーストタウンと化していた。

 人が生活していた跡は確かに感じる。
 しかし、誰も外を出歩いていなかったのだ。

 そのことに違和感を禁じ得ないライガたちは、呆然と村の中を散策していたのだが、問題はその直後に現れた。

「くそッ……こんな嵐が来るなんて聞いてないぞッ……」

「砂漠を襲う砂嵐……これがその嵐ということですかね」

「もぉーッ、髪がクシャクシャになっちゃうんだけどッ!」

「はぁ……今は髪のことなんぞどうでもいいじゃろ……」

「こう見えても女の子なんだから、それくらいは気にするでしょッ!」

 砂漠の方角から突如として姿を現した砂嵐。

 それはライガたちに逃げる暇すら与えずに、砂に覆われた村・デミアーナを飲み込んでいく。外に出ていたライガたち一行は砂嵐による影響を一身に受けてしまい、右も左も分からない状況でただひたすらに耐えることしか出来ないでいた。

 しかし、そんな嵐も時間が経過することで徐々に弱くなっていく。

 気付けばライガたちの視界は何事も無かったかのように晴れており、猛威を奮った砂嵐は跡形もなく消失してしまうのであった。

「ぜぇ、はぁ……ぜぇ、はぁ……何だったんだよ、アレ……」

「村に人が居なかったのは、嵐が来ることを予見していたから……なのかもしれませんね」

 嵐が過ぎ去り、ひとまず全員の無事を確認して安堵のため息を漏らすライガ。
 まだ砂漠に足を踏み入れてすら無い段階で離脱者が出なかったことは不幸中の幸いとも言えた。

「あははッ、災難だったねー、お兄さんたち」

「…………誰だ?」

 安堵を喜ぶ暇もなく、疲弊しきったライガたちへ話しかけてくる存在があった。

 その少女は明るい栗色をした茶髪を肩下まで伸ばし、上半身は肩から先を露出し、下半身は太ももを大胆に露出するという砂漠地帯だからこその大胆な格好をしていた。

 端正に整った顔にはニコニコと笑みが浮かんでおり、嵐が過ぎ去った直後だというのに軽やかな足取りでライガたちへ接近を果たしてくる。

 砂漠地帯特有の灼熱が大地へ降り注いでおり、そんな環境で四肢を大胆に露出させた少女の肌は色白であり、その事実にライガとリエルはちょっとした違和感を禁じ得ない。

「まーまー、そんなに警戒しないでくれたまえ。私は何も君たちに危害を加えようとしている訳じゃないんだし」

「そのようだな……あんたはこの村の人間か?」

「んー? まぁ、そんなところかな?」

「ハッキリせん奴じゃの……」

 無人だった村で初めての邂逅を果たした人間が栗色の髪を揺らし、飄々とした口調が特徴的な少女だ。

 対面する少女からは敵意のようなものは感じられず、ライガたちも警戒心を解くのだが、それを見て少女の表情にはこれ以上ないほどの笑みが零れる。

「君たちこそ村の人間ではないね? この村に長く住んでいるのなら、あれくらいの嵐に巻き込まれたりはしない」

「……その通りだ」

「砂しかないこんな村に何の用だい?」

 少女の顔は変わらず笑みを浮かべているのだが、その目は何か妖しい光を放っており、それにいち早く気付いたライガとリエル、そしてエレスの三人は解いた警戒心を再び高めていく。

「俺たちは砂漠に用がある。そこに居るって話の女神に会わなくちゃいけない」

「へぇ……砂漠は危険な場所だよ? それを知って行くのかい?」

 少女はシルヴィアと同年代くらいの見た目をしている。

 しかし、その喋り方は特徴的であり、ライガたち一行は自分たちよりも遥かに年上の人間と話しているかのような錯覚に陥る。

「あぁ、そうだ。俺たちにはどうしても女神に会わなきゃなんねぇんだ」

「危険だからやめた方がいいと思うけどなー、君たちみたいな人間がこれまで何人もやってきた。だけど、その全員が生還を果たすことが出来なかった……それが向こうに広がるアケロンテ砂漠という奴だよ?」

 ライガが聞いていた話と相違ない砂漠の危険性について語る少女。

「それでも行くって言うのかい?」

「……何度聞いても答えは同じじゃ。儂たちは砂漠へ進む。それは変えようのない事実じゃ」

「その通りッ! ここまで来て引き返すわけにもいかないしね」

 少女の問いかけに対して、リエル、シルヴィアも強気な答えを返していく。

「そーかそーか。君たちの意志は固いみたいだね。そこまで言うのなら、私は止めないよ」

 ライガたちの意志が固いことを確認した少女は満足げに頷くと、言葉を続ける。


「君たちは運がいい。この地で生まれ育ち、この周辺について誰よりも詳しい自負がある私と出会ったんだから」


 両手を広げ、踊るようにくるくるとその場で回り始める少女は声高らかに出会いの喜びを語る。

「な、なんだ……?」

「どうだろうか、私を君たちの度に加えてはくれないかね? 私が居るだけで砂漠の旅が少しは楽になると思うよ?」

「………………はい?」

 楽しげに笑う少女は、呆気にとられているライガたちへ旅の同行を願い出る。

 それはライガたちが予想していなかった展開であり、軽快な少女の声音が鼓膜を震わせるのと同時に、ライガたち一行は唖然と声を漏らすのであった。

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