終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第四章55 【幕間】それぞれの休息<エレス・ラーツィットの場合>
「…………」
ライガ、シルヴィア、リエルたちがそれぞれの休日を過ごす中、アステナ王国の騎士であるエレスはハイラント王国の王城地下に存在する大図書室へと足を運んでいた。
地下に存在する広大な図書室。そこにはハイラント王国にとって最も貴重な書物が貯蔵されている場所であり、大図書室は常に無人である。ここまでの道程には厳重な鍵が何重にも施されており、基本的に一般人が立ち入ることは不可能とされている。
「さて、これだけの書物の全てに目を通すことは不可能に近いですね……」
薄暗い大図書室の中において、エレスはそんな独り言を呟くとコツコツ靴音を響かせながら本棚に並ぶ数多の本に目を走らせていく。エレスは無闇に本を手に取ろうとはしない。何か目的があるのか、本の背表紙を見て歩き続けるだけである。
「おやおや、まさかこんなに早く見つかってしまうとは……予想外でしたね」
「――この場所は部外者の立ち入りを一切禁じている。それを承知で立ち入ったのだな?」
「すみません。アステナから来たばかりで、ハイラント王国のルールについて承知していませんでした。立ち入りが禁じられているとは知らず、大変申し訳ないです」
地下の大図書室へ新たに姿を表したのは、大陸間戦争の英雄であり、ハイラント王国の騎士隊長を務めるグレオ・ガーランドだった。彼は険しい顔つきでエレスの前に姿を現すと、厳しい声音で大図書室へ立ち入ったことを叱責する。
「……ふん、白々しい言葉だな。この場所に来るまでの間、どれだけの防御魔法を抜けてきたと言うのだ?」
「防御魔法……? 何度も頭を下げるようですが、それも承知していませんでしたね。私はただ道に迷って歩いていただけです」
「あくまでも不本意だったと言う訳だな?」
「はい。そういうことにしておいてもらえると、アステナ王国とハイラント王国……二国の関係としても良いことかと」
グレオは背負っている大剣・ボルガに手を伸ばし、エレスに対して敵対心を隠そうとしない。間違いなく世界で最も力を持つであろう英雄を前にしても、エレスはその表情に笑みを絶やさず、飄々とした様子で立ち尽くすばかり。
「…………私を脅すか?」
「脅すなんて滅相もない……貴方に見つかってしまったのなら、私もこれ以上の時間をこの場所で過ごす訳にはいきません。もちろん、この場で見たことは全て忘れると誓いましょう。だから、ここだけは見逃して欲しいというお願いです」
「……食えぬ男だ」
今、世界は新たな戦いの予感に警戒している。
それはハイラント王国も同じであり、帝国ガリアとの戦争がいつ始まってもおかしくない状況にあって、同盟国であるアステナ王国との関係悪化という道は何とかして避けなければならない。
エレスはそんな二国間での同盟維持という条件を突き出すことで、この場に立ち入った事実について隠蔽しろとグレオに求めているのだ。
「グレオさんは思ったよりも賢い人ですね。さすがは世界の英雄といった所でしょうか?」
「黙れ。それ以上の言葉は見逃すことができないぞ?」
「…………」
エレスの言葉に、グレオは背中に伸ばしていた手を引っ込め、更に全身へ纏わせていた殺気を消していく。その様子に笑みを浮かべるエレスだが、グレオが向ける鋭い視線に言葉を失ってしまう。
それは絶対的な強者が放つ威圧であり、さすがのエレスも世界に名を轟かせる英雄が向ける本気の威圧には全身が粟立つのを禁じ得ないのだ。
「すみません。私はいつもこうです。いらぬ一言を漏らしてしまう癖がありましてね。努めて直すようにしましょう」
「それが己の身のためであると言っておこう。では、即刻この場から立ち去ってもらうぞ」
「はい。そうしましょう」
グレオは顔を出口の方面へと向けると、無言でエレスに先を歩くように求めてくる。
一旦は殺気を解いたグレオであるが、それでもエレスに対する警戒心は最大限にまで引き上げたままである。エレスもその仕草に抵抗することなく、ゆっくりと歩きだす。
「……グレオさん、ちょうどよかった。貴方に聞きたいことがあります」
「…………」
「貴方は知っていますか?」
「…………」
「――ハイラント王国が抱える『竜』の存在について」
「……竜、だと?」
問いかけてくるエレスの言葉に無言を持って応えていたグレオだが、彼の口から発せられた『竜』という単語に反応してしまう。
「かつて、女神と共に世界を救ったとされる神竜の存在。それを貴方は何か知っていますか?」
「…………」
「遥か昔、この世界には五匹の竜が存在していた事実を、貴方ならご存知ですよね?」
「…………」
エレスの言葉にグレオの表情が僅かに歪む。
無言を肯定とし、エレスは話を続ける。
「圧倒的な力を持つ竜は、バルベット大陸、コハナ大陸、マガン大陸、ルーラ大陸、サンディ大陸の五つをそれぞれ支配していました。圧倒的な力を持つ竜を、人類は魔竜と呼び恐れ続けていました」
エレスが語るのは、今ではもう人々の記憶から薄れてしまった竜の伝説についてである。
「まぁ、バルベッド大陸に存在していた竜は『神竜』と呼ばれていて、他の大陸を力で支配していた魔竜たちとはちょっと違うような気もしますけどね」
「……そんな話をして何が目的だ?」
「貴方も気付いているのではないですか?」
「気付く?」
「――帝国ガリアが魔竜集めを始めていることに」
「…………」
エレスの言葉にグレオの目が僅かに見開かれる。
それはグレオが最も危惧していた事態であり、それが確かな形として突き付けられた事実に驚きを禁じ得ない。
「帝国がアステナ王国を襲った目的……それは魔竜・ギヌスの回収でしょう」
「…………」
「今回の襲撃については、魔竜・ギヌスが航大さんの手によって倒されたこともあり、失敗に終わりましたが、彼らは気付いてるはずです。魔竜と呼ばれる存在があの程度ではないことを……」
「魔竜・ギヌスは他にいる……?」
「魔竜の本体はアステナ王国の王城ではなく、別の場所に封印されています。しかしそれも、帝国に知れ渡ってしまいました。しかも、今のアステナ王国は壊滅的な打撃を受けた後です……今、帝国に攻められたらそれを防ぐ手段はありません」
「それならば、どうするというのだ? 魔竜が敵の手に渡るのを黙って見ているだけか?」
「もちろん、黙ってみているつもりはありませんよ。彼らが魔竜を集めるというのなら、私たちはそれに対抗することが出来る存在……世界を守護する女神を集めようと言うのです」
「……女神?」
「そうです。彼らが魔竜を狙うというのなら、私たちは女神を集めればいい。女神はこの世界で唯一、魔竜に対抗することが出来ます。なんせ、魔竜たちを封印したのは女神たちの力によるものなのですから」
エレスが語る女神。
その一人は今、航大の内に眠っている。
バルベット大陸の東西南北に存在するとされる世界守護の女神。
エレスは世界をその手中に収めようとする帝国の野望を打ち破るためには、それら女神の力が必要であると訴える。
「なるほど。だから、航大くんたちの旅に同行している……というのだな?」
「はい。彼の中には既に女神が存在しています。このまま、彼には女神を手中に収めてもらおうかと考えています」
「…………」
それがエレスの考えであった。
敵が強大な力を手に入れようとしているのなら、それと同等かそれ以上の力を有せばいい。
「帝国が魔竜を手に入れる流れ……それを断ち切るほうがいいのではないか?」
「もちろん。それが出来るのならばその選択がいいでしょうね。しかし、帝国は既に動き出しています。元々手中に存在しているマガン大陸の竜。他にルーラ大陸とサンディ大陸の竜の獲得へ向けて動いている。その動きを止めることは既に不可能かと」
「ルーラとサンディか……あそこは我々に非協力的だからな……」
「そうなんです。そこが頭の痛いところで、あの大陸はどちらかと言うと帝国寄りでしたからね。だからこそ、我々は魔竜に関しては不利な状況にあると言っていいです」
「…………」
「帝国ガリアは魔竜を手に入れるだけではなく、女神の抹殺にも動いているようですからね。事態は一刻を争います」
「……アステナ王国の考えは分かった。来る戦争へ向けて、我々も準備を進めよう」
「話を理解して頂いて感謝します。女神については、私たちの方で回収します。なので、グレオさんには先ほども言ったように、ハイラント王国に眠る『神竜』について調査をお願いしたいのです」
「神竜について……」
「神竜が授けし大剣・ボルガ。それを持つ貴方に相応しい内容かと……」
「……分かった、こちらも出来る限り協力しよう」
「ふふ、よろしくお願いしますね」
来る大戦の予感に、グレオとエレスはそれぞれが協力して準備を進めることを確認する。
そんな話をしていれば、大図書館の出口はすぐそこにまで接近しており、静かな話は終わりを迎えようとしていた。
「あ、そうだ。グレオさん、最後に一つだけ質問いいですか?」
「……なんだ?」
「貴方は『鍵』の存在について、何か知っていますか?」
「また質問か……」
「まぁ、これはもし知ってたらというだけの質問ですが」
「鍵……」
「世界を破滅させる大罪の鍵……帝国ガリアは魔竜を集めるのと同時に、そちらの方も探しているという話です」
「…………」
「まぁ、これについては私もまだ調査が進んでいないので、何も分からない状況なのですが……この件について、私は航大さんとユイさんが何かを握っているのでは……と、思っています」
「またその二人か……」
「アステナ王国へやってきた帝国騎士たちは、魔竜の他に航大さんとユイさんを狙ってもいました。まぁ、結果的には帝国から逃したのですから、それほど重要ではなかったのかもしれませんが……」
「ふむ。確かに、あの二人には何か特別な力がある……それは私も考えていた」
「…………」
「といっても、今の時点では何とも言えんがな」
「そうですね。私も彼らの近くで注意深く観察することとします」
長い螺旋階段を登るグレオとエレス。
そんな二人の前に巨大な扉が見えてきて、そこを開ければハイラント王国の王城へと戻ることができる。
「グレオさん、今日はありがとうございました。私が重罪を犯す前に、貴方と話すことが出来てよかったです」
「……もう二度とこんな真似はしないようにするんだな」
最後にそれだけの言葉を交わし、二人は地下の大図書室を出て行く。
その後、エレスは割り当てられた自室へと戻り、静かに休息を取ることを選択する。
かつて世界を支配していた魔竜の存在。
世界を守護し、魔竜へ対抗するための唯一の存在である女神。
そして、世界を破滅へと誘う『鍵』の存在。
物語は静かに終局へと歩き出す。
終末への歯車が一つ、また一つと揃っていく中で、航大たちの前に待ち受けるものとは――。
ライガ、シルヴィア、リエルたちがそれぞれの休日を過ごす中、アステナ王国の騎士であるエレスはハイラント王国の王城地下に存在する大図書室へと足を運んでいた。
地下に存在する広大な図書室。そこにはハイラント王国にとって最も貴重な書物が貯蔵されている場所であり、大図書室は常に無人である。ここまでの道程には厳重な鍵が何重にも施されており、基本的に一般人が立ち入ることは不可能とされている。
「さて、これだけの書物の全てに目を通すことは不可能に近いですね……」
薄暗い大図書室の中において、エレスはそんな独り言を呟くとコツコツ靴音を響かせながら本棚に並ぶ数多の本に目を走らせていく。エレスは無闇に本を手に取ろうとはしない。何か目的があるのか、本の背表紙を見て歩き続けるだけである。
「おやおや、まさかこんなに早く見つかってしまうとは……予想外でしたね」
「――この場所は部外者の立ち入りを一切禁じている。それを承知で立ち入ったのだな?」
「すみません。アステナから来たばかりで、ハイラント王国のルールについて承知していませんでした。立ち入りが禁じられているとは知らず、大変申し訳ないです」
地下の大図書室へ新たに姿を表したのは、大陸間戦争の英雄であり、ハイラント王国の騎士隊長を務めるグレオ・ガーランドだった。彼は険しい顔つきでエレスの前に姿を現すと、厳しい声音で大図書室へ立ち入ったことを叱責する。
「……ふん、白々しい言葉だな。この場所に来るまでの間、どれだけの防御魔法を抜けてきたと言うのだ?」
「防御魔法……? 何度も頭を下げるようですが、それも承知していませんでしたね。私はただ道に迷って歩いていただけです」
「あくまでも不本意だったと言う訳だな?」
「はい。そういうことにしておいてもらえると、アステナ王国とハイラント王国……二国の関係としても良いことかと」
グレオは背負っている大剣・ボルガに手を伸ばし、エレスに対して敵対心を隠そうとしない。間違いなく世界で最も力を持つであろう英雄を前にしても、エレスはその表情に笑みを絶やさず、飄々とした様子で立ち尽くすばかり。
「…………私を脅すか?」
「脅すなんて滅相もない……貴方に見つかってしまったのなら、私もこれ以上の時間をこの場所で過ごす訳にはいきません。もちろん、この場で見たことは全て忘れると誓いましょう。だから、ここだけは見逃して欲しいというお願いです」
「……食えぬ男だ」
今、世界は新たな戦いの予感に警戒している。
それはハイラント王国も同じであり、帝国ガリアとの戦争がいつ始まってもおかしくない状況にあって、同盟国であるアステナ王国との関係悪化という道は何とかして避けなければならない。
エレスはそんな二国間での同盟維持という条件を突き出すことで、この場に立ち入った事実について隠蔽しろとグレオに求めているのだ。
「グレオさんは思ったよりも賢い人ですね。さすがは世界の英雄といった所でしょうか?」
「黙れ。それ以上の言葉は見逃すことができないぞ?」
「…………」
エレスの言葉に、グレオは背中に伸ばしていた手を引っ込め、更に全身へ纏わせていた殺気を消していく。その様子に笑みを浮かべるエレスだが、グレオが向ける鋭い視線に言葉を失ってしまう。
それは絶対的な強者が放つ威圧であり、さすがのエレスも世界に名を轟かせる英雄が向ける本気の威圧には全身が粟立つのを禁じ得ないのだ。
「すみません。私はいつもこうです。いらぬ一言を漏らしてしまう癖がありましてね。努めて直すようにしましょう」
「それが己の身のためであると言っておこう。では、即刻この場から立ち去ってもらうぞ」
「はい。そうしましょう」
グレオは顔を出口の方面へと向けると、無言でエレスに先を歩くように求めてくる。
一旦は殺気を解いたグレオであるが、それでもエレスに対する警戒心は最大限にまで引き上げたままである。エレスもその仕草に抵抗することなく、ゆっくりと歩きだす。
「……グレオさん、ちょうどよかった。貴方に聞きたいことがあります」
「…………」
「貴方は知っていますか?」
「…………」
「――ハイラント王国が抱える『竜』の存在について」
「……竜、だと?」
問いかけてくるエレスの言葉に無言を持って応えていたグレオだが、彼の口から発せられた『竜』という単語に反応してしまう。
「かつて、女神と共に世界を救ったとされる神竜の存在。それを貴方は何か知っていますか?」
「…………」
「遥か昔、この世界には五匹の竜が存在していた事実を、貴方ならご存知ですよね?」
「…………」
エレスの言葉にグレオの表情が僅かに歪む。
無言を肯定とし、エレスは話を続ける。
「圧倒的な力を持つ竜は、バルベット大陸、コハナ大陸、マガン大陸、ルーラ大陸、サンディ大陸の五つをそれぞれ支配していました。圧倒的な力を持つ竜を、人類は魔竜と呼び恐れ続けていました」
エレスが語るのは、今ではもう人々の記憶から薄れてしまった竜の伝説についてである。
「まぁ、バルベッド大陸に存在していた竜は『神竜』と呼ばれていて、他の大陸を力で支配していた魔竜たちとはちょっと違うような気もしますけどね」
「……そんな話をして何が目的だ?」
「貴方も気付いているのではないですか?」
「気付く?」
「――帝国ガリアが魔竜集めを始めていることに」
「…………」
エレスの言葉にグレオの目が僅かに見開かれる。
それはグレオが最も危惧していた事態であり、それが確かな形として突き付けられた事実に驚きを禁じ得ない。
「帝国がアステナ王国を襲った目的……それは魔竜・ギヌスの回収でしょう」
「…………」
「今回の襲撃については、魔竜・ギヌスが航大さんの手によって倒されたこともあり、失敗に終わりましたが、彼らは気付いてるはずです。魔竜と呼ばれる存在があの程度ではないことを……」
「魔竜・ギヌスは他にいる……?」
「魔竜の本体はアステナ王国の王城ではなく、別の場所に封印されています。しかしそれも、帝国に知れ渡ってしまいました。しかも、今のアステナ王国は壊滅的な打撃を受けた後です……今、帝国に攻められたらそれを防ぐ手段はありません」
「それならば、どうするというのだ? 魔竜が敵の手に渡るのを黙って見ているだけか?」
「もちろん、黙ってみているつもりはありませんよ。彼らが魔竜を集めるというのなら、私たちはそれに対抗することが出来る存在……世界を守護する女神を集めようと言うのです」
「……女神?」
「そうです。彼らが魔竜を狙うというのなら、私たちは女神を集めればいい。女神はこの世界で唯一、魔竜に対抗することが出来ます。なんせ、魔竜たちを封印したのは女神たちの力によるものなのですから」
エレスが語る女神。
その一人は今、航大の内に眠っている。
バルベット大陸の東西南北に存在するとされる世界守護の女神。
エレスは世界をその手中に収めようとする帝国の野望を打ち破るためには、それら女神の力が必要であると訴える。
「なるほど。だから、航大くんたちの旅に同行している……というのだな?」
「はい。彼の中には既に女神が存在しています。このまま、彼には女神を手中に収めてもらおうかと考えています」
「…………」
それがエレスの考えであった。
敵が強大な力を手に入れようとしているのなら、それと同等かそれ以上の力を有せばいい。
「帝国が魔竜を手に入れる流れ……それを断ち切るほうがいいのではないか?」
「もちろん。それが出来るのならばその選択がいいでしょうね。しかし、帝国は既に動き出しています。元々手中に存在しているマガン大陸の竜。他にルーラ大陸とサンディ大陸の竜の獲得へ向けて動いている。その動きを止めることは既に不可能かと」
「ルーラとサンディか……あそこは我々に非協力的だからな……」
「そうなんです。そこが頭の痛いところで、あの大陸はどちらかと言うと帝国寄りでしたからね。だからこそ、我々は魔竜に関しては不利な状況にあると言っていいです」
「…………」
「帝国ガリアは魔竜を手に入れるだけではなく、女神の抹殺にも動いているようですからね。事態は一刻を争います」
「……アステナ王国の考えは分かった。来る戦争へ向けて、我々も準備を進めよう」
「話を理解して頂いて感謝します。女神については、私たちの方で回収します。なので、グレオさんには先ほども言ったように、ハイラント王国に眠る『神竜』について調査をお願いしたいのです」
「神竜について……」
「神竜が授けし大剣・ボルガ。それを持つ貴方に相応しい内容かと……」
「……分かった、こちらも出来る限り協力しよう」
「ふふ、よろしくお願いしますね」
来る大戦の予感に、グレオとエレスはそれぞれが協力して準備を進めることを確認する。
そんな話をしていれば、大図書館の出口はすぐそこにまで接近しており、静かな話は終わりを迎えようとしていた。
「あ、そうだ。グレオさん、最後に一つだけ質問いいですか?」
「……なんだ?」
「貴方は『鍵』の存在について、何か知っていますか?」
「また質問か……」
「まぁ、これはもし知ってたらというだけの質問ですが」
「鍵……」
「世界を破滅させる大罪の鍵……帝国ガリアは魔竜を集めるのと同時に、そちらの方も探しているという話です」
「…………」
「まぁ、これについては私もまだ調査が進んでいないので、何も分からない状況なのですが……この件について、私は航大さんとユイさんが何かを握っているのでは……と、思っています」
「またその二人か……」
「アステナ王国へやってきた帝国騎士たちは、魔竜の他に航大さんとユイさんを狙ってもいました。まぁ、結果的には帝国から逃したのですから、それほど重要ではなかったのかもしれませんが……」
「ふむ。確かに、あの二人には何か特別な力がある……それは私も考えていた」
「…………」
「といっても、今の時点では何とも言えんがな」
「そうですね。私も彼らの近くで注意深く観察することとします」
長い螺旋階段を登るグレオとエレス。
そんな二人の前に巨大な扉が見えてきて、そこを開ければハイラント王国の王城へと戻ることができる。
「グレオさん、今日はありがとうございました。私が重罪を犯す前に、貴方と話すことが出来てよかったです」
「……もう二度とこんな真似はしないようにするんだな」
最後にそれだけの言葉を交わし、二人は地下の大図書室を出て行く。
その後、エレスは割り当てられた自室へと戻り、静かに休息を取ることを選択する。
かつて世界を支配していた魔竜の存在。
世界を守護し、魔竜へ対抗するための唯一の存在である女神。
そして、世界を破滅へと誘う『鍵』の存在。
物語は静かに終局へと歩き出す。
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