終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第四章51 【帝国終結編】ハイラント王国への帰還
「……みなさん、本当に無事で良かった」
マガン大陸を出発して数日が経過した。
船の上で静かな旅路を進んでいたライガたち一行は、バルベット大陸を統治するハイラント王国への帰還を果たした。予定していた時間を大幅に超過しての帰還に、ライガたちは旅の疲れを癒やす前にハイラント王国の王女・シャーリーへの報告を優先し、王城へと足を運んだ。
王城に帰還したライガたちを見るなり、ハイラント王国の兵士や騎士たちが驚きの表情を持って話しかけてきて、王城はちょっとした騒ぎとなったのだが、帰還の知らせを聞いたシャーリーの一声によって、帰還を喜ぶ兵士たちは散開することとなった。
その後、出迎えにきた王国メイド長であるルズナ・ウィリアの先導によって、ライガたちは王女・シャーリーが待つ謁見の前へと急ぐこととなる。
「アステナ王国でのことは聞きました。同盟国であるアステナ王国を、その命を賭けて救ってくれたこと……誠にありがとうございます」
謁見の前でライガたちの無事を安堵するシャーリーは、その表情に穏やかな笑みを浮かべている。
アステナ王国での帝国騎士の襲撃と、魔竜・ギヌスの復活についての情報は、既にハイラント王国に届いていた。アステナ王国での戦いを乗り越えたかと思ったライガたちが、その足でマガン大陸に存在する帝国ガリアへ向かったと聞いて、シャーリーは目眩を禁じ得なかった。
「しかし、その後の行動についてはあまり褒められたものではありませんね」
「……独断での行動につきまして、返す言葉もありません」
シャーリーを前にして、ライガ、シルヴィア、リエル、エレス、ユイの五人は片膝をつき頭を垂れている。その中でもシャーリーの問いかけに対してはライガがメインとなって返答を努めている。
「事情は先ほど聞いた通りということですね……仲間を助けるために居ても立ってもいられないのは承知していますが、それにしてもその人数で帝国へ侵入を果たすなど……事によっては戦争が起きてもしょうがないのですよ?」
「…………はい」
「相手は帝国ガリア。今、この瞬間にも報復による戦争が起きるかもしれない……それ以外にも、貴方たちの身にも危険があったはずです……今こうして帰還を果たすことが出来ただけでも、運が良かったとしか言いようがありません」
微笑みを浮かべていたのも一瞬。
次の瞬間には、王女・シャーリーはその表情を険しく歪ませるとライガたちが選択した軽率な行動を叱責する。ハイラント王国の使者であり、騎士である立場を持つ人物が単独で帝国へ侵入し、その場で戦闘行為に及ぶなど、場合によっては戦争に発展してもおかしくない展開である。
シャーリーは国を統治する王女である立場から、ライガたちの行動を認める訳にはいかなかった。だからこそ、本心を押し隠してライガたちを叱責するのであった。
「……どんな処罰をも受ける所存です」
ライガたちも自分たちが犯してしまった行動をしっかりと理解している。だからこそ、何かしらの処罰があったとしても甘んじて受ける考えであった。
「そうですね……ハイラント王国の使者として敵国への侵入と戦闘行為……本来なら、厳罰も禁じ得ない罪ではありますが、貴方たちは同盟国であるアステナ王国を救った英雄でもあります」
「……え?」
王女・シャーリーの言葉にライガ、シルヴィア、リエル、ユイの四人が驚きの表情を浮かべる。
「……何か間違っていることがありますか?」
「いいえ、王女・シャーリー様。アステナ王国の王女・レイナ様の近衛騎士であるエレス・ラーツィットが証言します。彼らは、我が国を破滅から救ってくれた英雄であることを」
シャーリーに問いかけに反応したのは、ライガたちのすぐ隣で同じように膝をついているアステナ王国の騎士・エレスだった。
エレスはその表情に笑みを浮かべると、ライガたちの功績をシャーリーに伝える。
「アステナ王国の王女側近騎士様が言うのであるなら、間違ってはいないということでよろしいですね?」
「……はい。王女・レイナ様に代わりまして虚偽ではないことを誓います」
「それであるならば、ハイラント王国としましては、貴方たちを罰することは致しません。よろしいですね?」
ライガたちを見渡すように視線を巡らせると、シャーリーはその美しい顔に再びの微笑を浮かべた。
「……王女様のご厚意、誠にありがとうございます」
身に余る寛大は処置に対して、ライガたちは再度頭を深く下げる。
「さて、お硬いお話もここまでにして、何度も言うようですが無事に戻って来れて良かったです」
静寂が支配したのも一瞬であり、次に口を開いたシャーリーは笑みを浮かべて少し柔らかい口調で話しを続ける。
「でも、その……航大さんの様子は……?」
ライガたちの帰還を喜ぶのと同時に、シャーリーはこの場に居ない少年の安否について尋ねる。本当は一番最初に確認したいことであったのだが、そんな押し留めていた本心が溢れ出す。
「航大に関しては、ひとまず命は無事です……といった報告しか出来ません」
「命は無事……」
「シャーリー様、俺たちは航大を助けるために西方へ向かおうと思います」
「……西方?」
「アケロンテ砂漠を抜けた先に、西方を守護する女神がいます。その女神が持つ力なら、航大を救うことが出来るのです」
「…………」
「なので、俺たちは西方のアケロンテ砂漠を目指したいと考えています」
「……また、貴方たちだけで向かうのですか? アケロンテ砂漠は強大な魔獣が数多く生息している場所……王国の騎士団ですら、また完全に踏破したことがない場所ですよ?」
「はい。それは理解しています」
シャーリーの問いかけに対して、ライガは努めて毅然とした態度で返答する。
ライガの強い意志に、リエルたちも真剣な表情を浮かべている。そんな一行の意志を目の当たりにして、シャーリーは目を閉じて何かを思案する。
「……分かりました。貴方たちの意志が固いというのならば、私は止めることはしません」
「ありがとうございます、シャーリー様」
「アケロンテ砂漠は想像以上に過酷な場所です。どうか、全員無事で帰還するようにしてください」
シャーリーの言葉にライガたち一行は強く頷く。
「出発はいつになるのですか?」
「今日は休息して、明日には出発しようかと思っています」
「そうですか。それならば、今日はゆっくりとおやすみください。王城の客室も自由に使って頂いて問題ありません」
「ありがとうございます」
ハイラント王国での王女・シャーリーとの謁見。
ライガたちが危惧していた最悪の事態を何とか回避することが出来た。
次なる旅路はすぐそこまで迫っており、戦士たちは束の間の休息を満喫するのであった。
マガン大陸を出発して数日が経過した。
船の上で静かな旅路を進んでいたライガたち一行は、バルベット大陸を統治するハイラント王国への帰還を果たした。予定していた時間を大幅に超過しての帰還に、ライガたちは旅の疲れを癒やす前にハイラント王国の王女・シャーリーへの報告を優先し、王城へと足を運んだ。
王城に帰還したライガたちを見るなり、ハイラント王国の兵士や騎士たちが驚きの表情を持って話しかけてきて、王城はちょっとした騒ぎとなったのだが、帰還の知らせを聞いたシャーリーの一声によって、帰還を喜ぶ兵士たちは散開することとなった。
その後、出迎えにきた王国メイド長であるルズナ・ウィリアの先導によって、ライガたちは王女・シャーリーが待つ謁見の前へと急ぐこととなる。
「アステナ王国でのことは聞きました。同盟国であるアステナ王国を、その命を賭けて救ってくれたこと……誠にありがとうございます」
謁見の前でライガたちの無事を安堵するシャーリーは、その表情に穏やかな笑みを浮かべている。
アステナ王国での帝国騎士の襲撃と、魔竜・ギヌスの復活についての情報は、既にハイラント王国に届いていた。アステナ王国での戦いを乗り越えたかと思ったライガたちが、その足でマガン大陸に存在する帝国ガリアへ向かったと聞いて、シャーリーは目眩を禁じ得なかった。
「しかし、その後の行動についてはあまり褒められたものではありませんね」
「……独断での行動につきまして、返す言葉もありません」
シャーリーを前にして、ライガ、シルヴィア、リエル、エレス、ユイの五人は片膝をつき頭を垂れている。その中でもシャーリーの問いかけに対してはライガがメインとなって返答を努めている。
「事情は先ほど聞いた通りということですね……仲間を助けるために居ても立ってもいられないのは承知していますが、それにしてもその人数で帝国へ侵入を果たすなど……事によっては戦争が起きてもしょうがないのですよ?」
「…………はい」
「相手は帝国ガリア。今、この瞬間にも報復による戦争が起きるかもしれない……それ以外にも、貴方たちの身にも危険があったはずです……今こうして帰還を果たすことが出来ただけでも、運が良かったとしか言いようがありません」
微笑みを浮かべていたのも一瞬。
次の瞬間には、王女・シャーリーはその表情を険しく歪ませるとライガたちが選択した軽率な行動を叱責する。ハイラント王国の使者であり、騎士である立場を持つ人物が単独で帝国へ侵入し、その場で戦闘行為に及ぶなど、場合によっては戦争に発展してもおかしくない展開である。
シャーリーは国を統治する王女である立場から、ライガたちの行動を認める訳にはいかなかった。だからこそ、本心を押し隠してライガたちを叱責するのであった。
「……どんな処罰をも受ける所存です」
ライガたちも自分たちが犯してしまった行動をしっかりと理解している。だからこそ、何かしらの処罰があったとしても甘んじて受ける考えであった。
「そうですね……ハイラント王国の使者として敵国への侵入と戦闘行為……本来なら、厳罰も禁じ得ない罪ではありますが、貴方たちは同盟国であるアステナ王国を救った英雄でもあります」
「……え?」
王女・シャーリーの言葉にライガ、シルヴィア、リエル、ユイの四人が驚きの表情を浮かべる。
「……何か間違っていることがありますか?」
「いいえ、王女・シャーリー様。アステナ王国の王女・レイナ様の近衛騎士であるエレス・ラーツィットが証言します。彼らは、我が国を破滅から救ってくれた英雄であることを」
シャーリーに問いかけに反応したのは、ライガたちのすぐ隣で同じように膝をついているアステナ王国の騎士・エレスだった。
エレスはその表情に笑みを浮かべると、ライガたちの功績をシャーリーに伝える。
「アステナ王国の王女側近騎士様が言うのであるなら、間違ってはいないということでよろしいですね?」
「……はい。王女・レイナ様に代わりまして虚偽ではないことを誓います」
「それであるならば、ハイラント王国としましては、貴方たちを罰することは致しません。よろしいですね?」
ライガたちを見渡すように視線を巡らせると、シャーリーはその美しい顔に再びの微笑を浮かべた。
「……王女様のご厚意、誠にありがとうございます」
身に余る寛大は処置に対して、ライガたちは再度頭を深く下げる。
「さて、お硬いお話もここまでにして、何度も言うようですが無事に戻って来れて良かったです」
静寂が支配したのも一瞬であり、次に口を開いたシャーリーは笑みを浮かべて少し柔らかい口調で話しを続ける。
「でも、その……航大さんの様子は……?」
ライガたちの帰還を喜ぶのと同時に、シャーリーはこの場に居ない少年の安否について尋ねる。本当は一番最初に確認したいことであったのだが、そんな押し留めていた本心が溢れ出す。
「航大に関しては、ひとまず命は無事です……といった報告しか出来ません」
「命は無事……」
「シャーリー様、俺たちは航大を助けるために西方へ向かおうと思います」
「……西方?」
「アケロンテ砂漠を抜けた先に、西方を守護する女神がいます。その女神が持つ力なら、航大を救うことが出来るのです」
「…………」
「なので、俺たちは西方のアケロンテ砂漠を目指したいと考えています」
「……また、貴方たちだけで向かうのですか? アケロンテ砂漠は強大な魔獣が数多く生息している場所……王国の騎士団ですら、また完全に踏破したことがない場所ですよ?」
「はい。それは理解しています」
シャーリーの問いかけに対して、ライガは努めて毅然とした態度で返答する。
ライガの強い意志に、リエルたちも真剣な表情を浮かべている。そんな一行の意志を目の当たりにして、シャーリーは目を閉じて何かを思案する。
「……分かりました。貴方たちの意志が固いというのならば、私は止めることはしません」
「ありがとうございます、シャーリー様」
「アケロンテ砂漠は想像以上に過酷な場所です。どうか、全員無事で帰還するようにしてください」
シャーリーの言葉にライガたち一行は強く頷く。
「出発はいつになるのですか?」
「今日は休息して、明日には出発しようかと思っています」
「そうですか。それならば、今日はゆっくりとおやすみください。王城の客室も自由に使って頂いて問題ありません」
「ありがとうございます」
ハイラント王国での王女・シャーリーとの謁見。
ライガたちが危惧していた最悪の事態を何とか回避することが出来た。
次なる旅路はすぐそこまで迫っており、戦士たちは束の間の休息を満喫するのであった。
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