終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第四章30 【帝国終結編】白髪の少女との邂逅
「仲間が到着するって……?」
「……そのままの意味。四人の人間がお兄さんを助けに来てる」
「よ、四人の人間……なんで、そんな……」
「……それは私じゃなくて、助けに来た人に聞いて。彼らは命懸けでここまでやってきた。お兄さんとお姉さんを助けるために」
「…………」
帝国騎士である少女の力によって、王城地下の牢獄から抜け出すことに成功した航大。その直後、遠くから爆発音が轟いたかと思えば、王城全体が激しく揺れるのであった。
状況を全く理解することができない航大は、この事態が『仲間』によって引き起こされたものであるとの言葉に動揺を隠すことができない。
航大にとって、異世界にやってきてからの間で『仲間』と呼べる人間は限られていた。
――助けに来てくれた。
その事実は航大の心に強く響き、しかしそれと同時にどうしてそんな無茶なことをするんだと怒りにも似た感情が湧き上がってくる。異世界にやってくる前、航大はどこにでもいるごく普通の学生だった。命を賭けてまで助けようとしてくれる人間なんて皆無といって間違いない。
しかしそれも、この異世界で生活をしていく中で少しずつ変わっていたのだ。
「……俺はどうすればいい?」
「……みんなは外で帝国兵士たちと戦ってる。お兄さんはまず、捕らわれてるお姉さんを探して、一緒に合流する」
「ユイを……」
「……急いで。私も帝国騎士。そんなに長くは手助けできない」
「分かった。それなら急ごうッ!」
褐色の少女が険しい表情を浮かべて漏らす言葉に、航大は強く頷く。
一刻も早くこの場から脱出し、外で敵を撹乱してくれている『仲間』と合流を果たす。痛む身体に足を止めている暇はない。
「ユイが捕らわれてる場所……見当はあるのか?」
「……私は知ってる。こっちッ!」
帝国騎士の軍服に身を包んだ少女が走り出す。
その後を航大も追いかけていく。
これまで、帝国ガリアの騎士には数多の絶望を経験させられてきた。異世界での生活において、帝国騎士と呼ばれる者は等しく航大にとって憎き敵であり、倒すべき存在なのであった。しかし、今この瞬間においては何よりも頼もしい存在へと変わり果てていた。
「…………」
航大の胸中は複雑だった。
こうして助けられている中でも、まだ眼前を走る少女を心から信頼することができない。この瞬間だって、何かの罠である可能性だって捨てきれない。何でもネガティブに考える自分に腹が立つ中、それでも航大はこの瞬間だけは少女を信じてみようと決意するのであった。
◆◆◆◆◆
「はぁッ、はあぁッ……くそッ、さすがに広いなッ……」
「……もう少し」
牢獄を出てからしばらくの時間が経過した。
航大たちは異様な静寂に包まれる帝国ガリア王城の廊下を、ひたすら上に向けて走り続けていた。ここは帝国ガリアの本丸であるにも関わらず、牢獄を出た際に遭遇した兵士たち以外の人間に出会うことがない。
「いくらなんでも、不用心過ぎるんじゃないか……?」
「……兵士たちは外に駆り出されてる。それにしても、ここまで誰もいないのはおかしい」
走り始めてそこそこの時間が経過しているのに、兵士との遭遇が無い事実に違和感を隠しきれない。
「……でも、もう少しでお姉さんのところに着く。お姉さんはあの塔の最上階……あそこに居る」
「あの塔の上に……ユイが……」
廊下の窓から見える塔の最上階。そこにユイは居る。
逸る気持ちを押さえつつ、航大たちは周囲への警戒を強めながら歩を進めていく。
「――ッ!?」
「おっとっとッ!? どうしたんだよッ、いきなり立ち止まってッ!」
「……すごい数の気配が近づいてくる」
「なんだって……?」
「……帝国騎士じゃない……これはきっと、兵士たちの気配」
「マジかよッ……」
「……お兄さんは先に行って。ここは私が食い止める」
「でも、大丈夫なのか……?」
「……大丈夫。まだ、私がお兄さんに協力している事実はバレていないはず」
航大の顔を見て、少女が力強く頷く。
「……分かった。ここまで無理させて悪かったな」
「……いいの。お兄さんたちは、私に新しい世界を教えてくれた人。私が手助けをしてあげられるのはここまで。ここから先はお兄さんたちに頑張って貰わないといけない」
少女の顔を見れば見るほど、航大の心はざわついてしょうがない。
それは彼女の顔が、纏う雰囲気が白髪の少女と酷似しているからである。航大はまだ少女のことをよく知らない。もっとゆっくりと話すことが出来るのなら……別れ際の瞬間に航大はそんなことを考えていた。
「……お兄さん、早く行って」
「あ、あぁ……」
「……必ず無事で脱出して」
少女が最後に漏らした言葉。
それは確かに航大の鼓膜を震わせていて、その言葉に返事をする暇もなく航大は走り出す。航大は別れの言葉を言わなかった。彼女とはまた必ず会うことになるという直感があったからだった。
◆◆◆◆◆
「この上か……」
帝国騎士の少女と別れ、航大が向かったのは王城のすぐ近くに存在する石造りの塔だった。塔は王城から連絡通路によってのみ繋がっており、航大は今、その通路を疾走している。
やはり、ここにも護衛の兵士たちの姿は見えず、あまりにも杜撰な帝国ガリアの護衛体勢に首を傾げざるを得ない。
しかし、立ち止まっている訳にもいかず、航大は胸に嫌な予感を持ちながらも前へと進んでいく。
「はぁッ、はあぁッ……」
塔の内部は螺旋階段になっており、航大は息を切らしながらしっかりと足を踏みしめて登り続ける。すると、眼前に木造の扉が見えてくる。
「――ユイッ!」
敵の罠であるとか、不用心過ぎるとか、そんなことはどうでもよくなっていて、航大はただ逸る気持ちに従う形で扉を開け放ち、中へと足を踏み入れる。
「…………」
「ユイ……ユイ、なのか……?」
――扉を開けた先。
そこは小広い部屋となっていて、大きなベッドに窓から差し込む陽の光。
地下牢獄に幽閉されていた航大とは比べ物にならない快適な環境の中、白髪の少女は確かにそこで存在していた。見間違うはずのない白髪の少女は窓際に手を置き、外に広がる光景を見つめ続けていた。
「おい、ユイッ……ユイなんだろッ!?」
乱暴に扉が開け放たれ、声を荒げる航大にもユイは反応を見せることはなかった。まるで航大の声が届いていないといった様子で、身動き一つ取らない彼女の様子に航大は嫌な予感が胸の中で急速に肥大化していくのを感じていた。
「ユイッ、今すぐここを出るぞッ」
「…………」
無言を貫くユイの手を握り、歩き出そうとする航大。
しかし、彼女の身体はピクリとも動かない。
「ユイッ、いい加減に――ッ!?」
「……離して」
そんな彼女の小さな声音が鼓膜を震わせた瞬間だった。
白髪の少女・ユイの右手にはいつの間にか黄金に輝く聖剣が握られていて、刀身から発せられる眩い光に航大は自分の世界が激しく揺れ動くのを感じていた。間近くで轟音が響き渡り、全身を覆う強烈な衝撃にたまらず航大は後方へと吹き飛ばされる。
「……貴方を殺す」
その力は航大が異世界に召喚した英霊・アーサー王の力で間違いない。
表情を殺し、ユイは明確な敵意と殺意を持って航大に攻撃を仕掛けてきた。
「――――」
その事実をすぐに受け止めることが出来ず、航大は全身を襲う痛みなど気にせる余裕もなく驚きに目を見開かせる。
希望が差したかに思えた帝国ガリア脱出作戦。
それはあまりにも残酷な形で航大の前に立ち塞がるのであった。
「……そのままの意味。四人の人間がお兄さんを助けに来てる」
「よ、四人の人間……なんで、そんな……」
「……それは私じゃなくて、助けに来た人に聞いて。彼らは命懸けでここまでやってきた。お兄さんとお姉さんを助けるために」
「…………」
帝国騎士である少女の力によって、王城地下の牢獄から抜け出すことに成功した航大。その直後、遠くから爆発音が轟いたかと思えば、王城全体が激しく揺れるのであった。
状況を全く理解することができない航大は、この事態が『仲間』によって引き起こされたものであるとの言葉に動揺を隠すことができない。
航大にとって、異世界にやってきてからの間で『仲間』と呼べる人間は限られていた。
――助けに来てくれた。
その事実は航大の心に強く響き、しかしそれと同時にどうしてそんな無茶なことをするんだと怒りにも似た感情が湧き上がってくる。異世界にやってくる前、航大はどこにでもいるごく普通の学生だった。命を賭けてまで助けようとしてくれる人間なんて皆無といって間違いない。
しかしそれも、この異世界で生活をしていく中で少しずつ変わっていたのだ。
「……俺はどうすればいい?」
「……みんなは外で帝国兵士たちと戦ってる。お兄さんはまず、捕らわれてるお姉さんを探して、一緒に合流する」
「ユイを……」
「……急いで。私も帝国騎士。そんなに長くは手助けできない」
「分かった。それなら急ごうッ!」
褐色の少女が険しい表情を浮かべて漏らす言葉に、航大は強く頷く。
一刻も早くこの場から脱出し、外で敵を撹乱してくれている『仲間』と合流を果たす。痛む身体に足を止めている暇はない。
「ユイが捕らわれてる場所……見当はあるのか?」
「……私は知ってる。こっちッ!」
帝国騎士の軍服に身を包んだ少女が走り出す。
その後を航大も追いかけていく。
これまで、帝国ガリアの騎士には数多の絶望を経験させられてきた。異世界での生活において、帝国騎士と呼ばれる者は等しく航大にとって憎き敵であり、倒すべき存在なのであった。しかし、今この瞬間においては何よりも頼もしい存在へと変わり果てていた。
「…………」
航大の胸中は複雑だった。
こうして助けられている中でも、まだ眼前を走る少女を心から信頼することができない。この瞬間だって、何かの罠である可能性だって捨てきれない。何でもネガティブに考える自分に腹が立つ中、それでも航大はこの瞬間だけは少女を信じてみようと決意するのであった。
◆◆◆◆◆
「はぁッ、はあぁッ……くそッ、さすがに広いなッ……」
「……もう少し」
牢獄を出てからしばらくの時間が経過した。
航大たちは異様な静寂に包まれる帝国ガリア王城の廊下を、ひたすら上に向けて走り続けていた。ここは帝国ガリアの本丸であるにも関わらず、牢獄を出た際に遭遇した兵士たち以外の人間に出会うことがない。
「いくらなんでも、不用心過ぎるんじゃないか……?」
「……兵士たちは外に駆り出されてる。それにしても、ここまで誰もいないのはおかしい」
走り始めてそこそこの時間が経過しているのに、兵士との遭遇が無い事実に違和感を隠しきれない。
「……でも、もう少しでお姉さんのところに着く。お姉さんはあの塔の最上階……あそこに居る」
「あの塔の上に……ユイが……」
廊下の窓から見える塔の最上階。そこにユイは居る。
逸る気持ちを押さえつつ、航大たちは周囲への警戒を強めながら歩を進めていく。
「――ッ!?」
「おっとっとッ!? どうしたんだよッ、いきなり立ち止まってッ!」
「……すごい数の気配が近づいてくる」
「なんだって……?」
「……帝国騎士じゃない……これはきっと、兵士たちの気配」
「マジかよッ……」
「……お兄さんは先に行って。ここは私が食い止める」
「でも、大丈夫なのか……?」
「……大丈夫。まだ、私がお兄さんに協力している事実はバレていないはず」
航大の顔を見て、少女が力強く頷く。
「……分かった。ここまで無理させて悪かったな」
「……いいの。お兄さんたちは、私に新しい世界を教えてくれた人。私が手助けをしてあげられるのはここまで。ここから先はお兄さんたちに頑張って貰わないといけない」
少女の顔を見れば見るほど、航大の心はざわついてしょうがない。
それは彼女の顔が、纏う雰囲気が白髪の少女と酷似しているからである。航大はまだ少女のことをよく知らない。もっとゆっくりと話すことが出来るのなら……別れ際の瞬間に航大はそんなことを考えていた。
「……お兄さん、早く行って」
「あ、あぁ……」
「……必ず無事で脱出して」
少女が最後に漏らした言葉。
それは確かに航大の鼓膜を震わせていて、その言葉に返事をする暇もなく航大は走り出す。航大は別れの言葉を言わなかった。彼女とはまた必ず会うことになるという直感があったからだった。
◆◆◆◆◆
「この上か……」
帝国騎士の少女と別れ、航大が向かったのは王城のすぐ近くに存在する石造りの塔だった。塔は王城から連絡通路によってのみ繋がっており、航大は今、その通路を疾走している。
やはり、ここにも護衛の兵士たちの姿は見えず、あまりにも杜撰な帝国ガリアの護衛体勢に首を傾げざるを得ない。
しかし、立ち止まっている訳にもいかず、航大は胸に嫌な予感を持ちながらも前へと進んでいく。
「はぁッ、はあぁッ……」
塔の内部は螺旋階段になっており、航大は息を切らしながらしっかりと足を踏みしめて登り続ける。すると、眼前に木造の扉が見えてくる。
「――ユイッ!」
敵の罠であるとか、不用心過ぎるとか、そんなことはどうでもよくなっていて、航大はただ逸る気持ちに従う形で扉を開け放ち、中へと足を踏み入れる。
「…………」
「ユイ……ユイ、なのか……?」
――扉を開けた先。
そこは小広い部屋となっていて、大きなベッドに窓から差し込む陽の光。
地下牢獄に幽閉されていた航大とは比べ物にならない快適な環境の中、白髪の少女は確かにそこで存在していた。見間違うはずのない白髪の少女は窓際に手を置き、外に広がる光景を見つめ続けていた。
「おい、ユイッ……ユイなんだろッ!?」
乱暴に扉が開け放たれ、声を荒げる航大にもユイは反応を見せることはなかった。まるで航大の声が届いていないといった様子で、身動き一つ取らない彼女の様子に航大は嫌な予感が胸の中で急速に肥大化していくのを感じていた。
「ユイッ、今すぐここを出るぞッ」
「…………」
無言を貫くユイの手を握り、歩き出そうとする航大。
しかし、彼女の身体はピクリとも動かない。
「ユイッ、いい加減に――ッ!?」
「……離して」
そんな彼女の小さな声音が鼓膜を震わせた瞬間だった。
白髪の少女・ユイの右手にはいつの間にか黄金に輝く聖剣が握られていて、刀身から発せられる眩い光に航大は自分の世界が激しく揺れ動くのを感じていた。間近くで轟音が響き渡り、全身を覆う強烈な衝撃にたまらず航大は後方へと吹き飛ばされる。
「……貴方を殺す」
その力は航大が異世界に召喚した英霊・アーサー王の力で間違いない。
表情を殺し、ユイは明確な敵意と殺意を持って航大に攻撃を仕掛けてきた。
「――――」
その事実をすぐに受け止めることが出来ず、航大は全身を襲う痛みなど気にせる余裕もなく驚きに目を見開かせる。
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