終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~
第三章17 アステナ王国の王女
「――まさか、こんなに早くに再会するとはな」
アステナ王国へと到達した航大たち一行。
ハイラント王国が統治するバルベット大陸を出発してから様々な出来事を経験しながらも、何とか全員無事に大自然と共存する国・アステナへと辿り着くことができた。
コハナ大陸の玄関口である港町・シーラでオレンジの髪と天真爛漫な表情が印象的な少女・レイナと中性的な外見が特徴的な青年・エレスと出会い、そしてアステナの城下町で別れた。
「……どうしてこんな所に?」
また近いうちに再会するだろうと、航大たち一行の誰もが思っていたことではあるが、その再会は驚きを持って航大たちの前に姿を現した。
「ふふ、そんなに驚くことはなかろう。私の名前はレイナ・アステナ。このアステナ王国を統べる王女だ」
「マジかよ……」
「さすがに驚きなんだけど……」
「……レイナ、すごい」
「人は見かけによらないとは言うが……」
港町・シーラで出会った時は半袖に短パンという露出が多く、ラフな格好をしていたレイナが今では、綺羅びやかなドレスに身を包み、軽く化粧を施しているのか、外見年齢相応の幼い表情は影を潜め、どこか大人びた余裕の微笑を表情に浮かべている。
そんなレイナが見せる劇的な変化にライガ、シルヴィア、ユイ、リエルの四人は呆然とした様子で立ち尽くすことしか出来ない。
「正体を隠していて大変申し訳ありませんでした。レイナ様は王国の王女ということもあり、あまり公に正体を明かすことが出来なかったんです」
「……エレスも、その格好……」
「はい。私はエレス・ラーツィット。アステナ王国の騎士を統べる者であり、こちらにおられるアステナ王女・レイナ様の近衛騎士を努めています」
「……なるほど。確かに、あの剣捌きは只者ではないと感じていたが……王国騎士だった訳じゃな」
「……はい。王女の我儘に付き合う形で、シーラに赴いていました」
「エレスよ、我儘とはなんだ、我儘とはッ!」
「……新鮮な魚料理を食べたいと、私の反対を押し切って城を無断で飛び出していったのは誰でしょうか? 更に、そこで財布を落とし王国に帰れなくなった王女は――」
「ゴホンッ、ゴホンッ! い、今は他国の使者が見えているんだぞッ。それ以上はよすんだッ!」
「……はい。王女のご命令ならば」
王国を統べる王女である立場の者が何故、港町・シーラで足止めを食らっていたのか。その理由をエレスが詳細に説明しようとすると、レイナは僅かに頬を朱に染めてわざとらしい咳払いを連発する。
「さて、早い再会を喜ぶのは後にして話を聞こうじゃないか。ハイラント王国の使者たちよ」
王女としての仕事に戻るレイナは、その顔に微笑を浮かべて航大たちがやってきた目的について問いかけてくる。
さすがは王国を統べる人間。
和やかな雰囲気を一蹴すると、謁見の間を包む空気がピリッとしたものへと変わっていく。王族だけが持つ、全てを見透かそうとする鋭い眼光が襲ってきて、自分よりも背丈が小さく、更に年も若いであろう少女を前に航大は無意識の内に背筋が伸びる。
「ハイラント王国の王女・シャーリーからの親書を持ってきた。それを読んで欲しい」
「……なるほど。ただの手紙ではなく、親書か」
航大の言葉が鼓膜を震わせ、王女レイナはその表情を僅かに険しくすると、少し後ろに立つエレスへ視線を投げかける。
「…………」
その視線の意味を理解したエレスは小さく頷くと、ゆっくりとした足取りで航大たちに近づいてくる。
その姿と身に纏うオーラは港町・シーラで会った時とは全くの別人だった。
王女の側近として剣を振るう騎士として、エレスは王女の威信を背に威圧的なオーラを纏う。
「……お預かりします」
航大から手紙を受け取り、簡単に外装を確認する。
ハイラント王国の国印が刻まれているのを見て、エレスはその表情に微笑を浮かべて航大に軽く一礼する。そして、踵を返すとレイナの元へと戻り、王女に航大から預かった親書を手渡す。
「どれどれ……」
エレスから手紙を受け取ったレイナは、躊躇うことなく手紙の内容を確認していく。
「…………」
手紙に目を通すレイナは無言である。
その間、謁見の間に存在する誰もが妙な緊張感に包まれており、物音一つしない静寂が場を包み込んでいく。
「……ふん、忌々しい帝国が動き出したか」
手紙に目を通したレイナは忌々しげに鼻息を漏らすと、不快感を露わに表情を歪める。
その瞳には複雑な感情が垣間見えており、それは怒り、悲しみ、憎しみ……など、まだ年若い少女が一瞬の間に見せた激情に、航大たちはただならぬ雰囲気を察する。
「……北方の都市・ミノルアが壊滅したか。大陸間戦争の英雄・グレオを持ってしても帝国の侵攻を止められなかったというのか……」
レイナの言葉にライガがきつく目を閉じ、拳を作る両手に力が入る。
北方の都市・ミノルア。
その単語は、航大にとって無視できるものではない。あの街を救えなかった。その事実は、これから先を生きる航大の心に永遠と残り続ける事実だからである。
「……分かった。かつて、大陸間戦争などという忌々しい戦争を引き起こした帝国ガリアが絡んでいるということなら、こちらも万全の準備をしよう」
「そうですね。帝国は昔から何を企んでいるのか不明な国です。北方の都市の壊滅。英雄の力を持ってしても打ち崩せない力の存在……それは我が国としても無視できることではありませんね」
「あいつらの狙い……それはバルベット大陸に眠る女神たちか……?」
「真っ先に王国へ攻めるのではなく、あえてミノルアを襲った……その事実から推測されるのはそういうことかと……」
親書に何が記されていたのか、航大たちにはそれを推測することは出来なかったが、手紙の内容を把握したレイナたちは険しい表情を浮かべたまま会話を続ける。
「バルベット大陸に眠る女神……?」
「ん? なんだ、ハイラント王国の使者なのに知らないのか?」
航大が呟いた言葉に、レイナが目を丸くして首を傾げる。
「バルベット大陸には、古くからこの世界の均衡を保つ四人の女神が存在する。女神たちはそれぞれ東西南北に封印されており、その女神たちがこの世界を今の形に保っているのだ」
「…………」
「女神たちが死す時……それは、かつて世界を滅ぼした魔竜の復活を意味する」
「――魔竜、だと?」
レイナ言葉から出た『魔竜』という単語に、航大は動揺を隠せない。
――今でも鮮明に思い出すことが出来る。
それは今朝に見た夢の中の話である。
航大は『魔竜・ギヌス』と呼ばれる、災厄の化身とも呼べる竜の存在。それが夢であるとしても、航大は魔竜と呼ばれる存在と既に邂逅を果たしていた。
「……ん? 女神のことは知らないのに、魔竜のことは知っているのか?」
「いや、ちょっと聞いただけだ……」
額に汗を浮かばせ、尋常じゃない様子を見せる航大の異変に気付いたレイナは、その視線を鋭くすると航大に問いかけてくる。
しかし航大は首を横に振ると、それ以上の追求を躱そうとする。
「ふむ……魔竜を封印する大陸を統べる者として、ハイラント王国との同盟をより強固なものにすることに異存はない」
「……ありがとうございます」
そんなレイナの言葉に頭を下げるのはライガだった。
それに続くようにして航大たちも頭を下げる。
「今度は、私たちの方からハイラント王国に連絡を取るようにしよう。ハイラント王国の使者たちよ、遥々この大地までご苦労であったな」
親書の内容を把握し、これからの方針を決定したレイナはようやくその表情に年相応の笑みを浮かべると、謁見の間を支配していた緊張感を払拭させていく。
「さてさて、お前たちはアステナ王国の治癒術師を紹介して欲しいんだったな?」
「えっ? なんでそれを……」
「親書の最後にそう記されていたのだ」
親書をひらひらと振ると、レイナは悪戯な笑みを浮かべて航大を見つめる。
「王女の親書に名前が出るとは、余程シャーリーに気に入られているようだな?」
「き、気に入られてるって……」
「ふふふ……手紙の内容からしても、シャーリーがおろおろと心配している様子が手に取るように分かるぞ」
やはり同盟国の王女同士、レイナとシャーリーは仲が良いのか、レイナはシャーリーの名前を出すと楽しげに笑う。
「もちろん。親友の頼みであるなら、こちらのお願いについても協力しようじゃないか」
「……助かる」
「しかし、残念ながらつい先ほどまで城におったのだがな、入れ違いになってさっき城を出ていってしまったのだ」
「……そうなのか?」
「しかし安心しろ。治癒術師が住んでいる場所までは、アステナ王国の者が案内しよう。今度は安全に森林を通ることが出来るぞ」
ふふん、とドヤ顔を浮かべるレイナを横目にエレスが苦笑いを浮かべている。
至り尽くせリな内容に航大たちは文句をいう隙すらない。
「シーラでのお礼は身体の治癒が完了してからとしよう。それくらいは時間があるのだろう?」
「あぁ、時間だったらあるぜ」
レイナの問いかけに答えたのはライガだった。
その返答を聞いて、レイナ満足そうに何度か頷く。
「では、行ってくるがいい。お前たちの帰りを待っているぞ」
「どうぞこちらへ。地竜を用意してあります」
レイナの言葉を合図にエレスが謁見の間の出口へと歩き出す。
航大たちは最後に深く一礼をすると、エレスの後を追って歩き出す。
親書を届けるという最大の任務が完了し、どこか緊張感から放たれる感覚を得ながら、航大たちは治癒術師が住まう場所へと向かうのであった。
◆◆◆◆◆
「あっ、しまった……」
「どうしました、レイナ様?」
航大たちが出ていった後の謁見の間。
そんなレイナの言葉が響き渡る。
「あいつらに注意事項を伝えるのを忘れていた……」
「あぁ……もしかして、あの事ですか?」
「うむ……あいつに会うには色々と気をつけないといけないことがあるからな……」
「そうですね……私も最初は苦労したものです」
レイナの言葉にエレスが苦笑いを浮かべる。
表情には微笑が浮かんでいるのだが、よく見ればその顔には過去を思い出して疲れ切った色を見せていた。
「まっ、あいつらならどうにかするだろう」
「……それを信じましょう」
レイナとエレスの会話。
それが航大たちに届けられることはないのであった。
アステナ王国へと到達した航大たち一行。
ハイラント王国が統治するバルベット大陸を出発してから様々な出来事を経験しながらも、何とか全員無事に大自然と共存する国・アステナへと辿り着くことができた。
コハナ大陸の玄関口である港町・シーラでオレンジの髪と天真爛漫な表情が印象的な少女・レイナと中性的な外見が特徴的な青年・エレスと出会い、そしてアステナの城下町で別れた。
「……どうしてこんな所に?」
また近いうちに再会するだろうと、航大たち一行の誰もが思っていたことではあるが、その再会は驚きを持って航大たちの前に姿を現した。
「ふふ、そんなに驚くことはなかろう。私の名前はレイナ・アステナ。このアステナ王国を統べる王女だ」
「マジかよ……」
「さすがに驚きなんだけど……」
「……レイナ、すごい」
「人は見かけによらないとは言うが……」
港町・シーラで出会った時は半袖に短パンという露出が多く、ラフな格好をしていたレイナが今では、綺羅びやかなドレスに身を包み、軽く化粧を施しているのか、外見年齢相応の幼い表情は影を潜め、どこか大人びた余裕の微笑を表情に浮かべている。
そんなレイナが見せる劇的な変化にライガ、シルヴィア、ユイ、リエルの四人は呆然とした様子で立ち尽くすことしか出来ない。
「正体を隠していて大変申し訳ありませんでした。レイナ様は王国の王女ということもあり、あまり公に正体を明かすことが出来なかったんです」
「……エレスも、その格好……」
「はい。私はエレス・ラーツィット。アステナ王国の騎士を統べる者であり、こちらにおられるアステナ王女・レイナ様の近衛騎士を努めています」
「……なるほど。確かに、あの剣捌きは只者ではないと感じていたが……王国騎士だった訳じゃな」
「……はい。王女の我儘に付き合う形で、シーラに赴いていました」
「エレスよ、我儘とはなんだ、我儘とはッ!」
「……新鮮な魚料理を食べたいと、私の反対を押し切って城を無断で飛び出していったのは誰でしょうか? 更に、そこで財布を落とし王国に帰れなくなった王女は――」
「ゴホンッ、ゴホンッ! い、今は他国の使者が見えているんだぞッ。それ以上はよすんだッ!」
「……はい。王女のご命令ならば」
王国を統べる王女である立場の者が何故、港町・シーラで足止めを食らっていたのか。その理由をエレスが詳細に説明しようとすると、レイナは僅かに頬を朱に染めてわざとらしい咳払いを連発する。
「さて、早い再会を喜ぶのは後にして話を聞こうじゃないか。ハイラント王国の使者たちよ」
王女としての仕事に戻るレイナは、その顔に微笑を浮かべて航大たちがやってきた目的について問いかけてくる。
さすがは王国を統べる人間。
和やかな雰囲気を一蹴すると、謁見の間を包む空気がピリッとしたものへと変わっていく。王族だけが持つ、全てを見透かそうとする鋭い眼光が襲ってきて、自分よりも背丈が小さく、更に年も若いであろう少女を前に航大は無意識の内に背筋が伸びる。
「ハイラント王国の王女・シャーリーからの親書を持ってきた。それを読んで欲しい」
「……なるほど。ただの手紙ではなく、親書か」
航大の言葉が鼓膜を震わせ、王女レイナはその表情を僅かに険しくすると、少し後ろに立つエレスへ視線を投げかける。
「…………」
その視線の意味を理解したエレスは小さく頷くと、ゆっくりとした足取りで航大たちに近づいてくる。
その姿と身に纏うオーラは港町・シーラで会った時とは全くの別人だった。
王女の側近として剣を振るう騎士として、エレスは王女の威信を背に威圧的なオーラを纏う。
「……お預かりします」
航大から手紙を受け取り、簡単に外装を確認する。
ハイラント王国の国印が刻まれているのを見て、エレスはその表情に微笑を浮かべて航大に軽く一礼する。そして、踵を返すとレイナの元へと戻り、王女に航大から預かった親書を手渡す。
「どれどれ……」
エレスから手紙を受け取ったレイナは、躊躇うことなく手紙の内容を確認していく。
「…………」
手紙に目を通すレイナは無言である。
その間、謁見の間に存在する誰もが妙な緊張感に包まれており、物音一つしない静寂が場を包み込んでいく。
「……ふん、忌々しい帝国が動き出したか」
手紙に目を通したレイナは忌々しげに鼻息を漏らすと、不快感を露わに表情を歪める。
その瞳には複雑な感情が垣間見えており、それは怒り、悲しみ、憎しみ……など、まだ年若い少女が一瞬の間に見せた激情に、航大たちはただならぬ雰囲気を察する。
「……北方の都市・ミノルアが壊滅したか。大陸間戦争の英雄・グレオを持ってしても帝国の侵攻を止められなかったというのか……」
レイナの言葉にライガがきつく目を閉じ、拳を作る両手に力が入る。
北方の都市・ミノルア。
その単語は、航大にとって無視できるものではない。あの街を救えなかった。その事実は、これから先を生きる航大の心に永遠と残り続ける事実だからである。
「……分かった。かつて、大陸間戦争などという忌々しい戦争を引き起こした帝国ガリアが絡んでいるということなら、こちらも万全の準備をしよう」
「そうですね。帝国は昔から何を企んでいるのか不明な国です。北方の都市の壊滅。英雄の力を持ってしても打ち崩せない力の存在……それは我が国としても無視できることではありませんね」
「あいつらの狙い……それはバルベット大陸に眠る女神たちか……?」
「真っ先に王国へ攻めるのではなく、あえてミノルアを襲った……その事実から推測されるのはそういうことかと……」
親書に何が記されていたのか、航大たちにはそれを推測することは出来なかったが、手紙の内容を把握したレイナたちは険しい表情を浮かべたまま会話を続ける。
「バルベット大陸に眠る女神……?」
「ん? なんだ、ハイラント王国の使者なのに知らないのか?」
航大が呟いた言葉に、レイナが目を丸くして首を傾げる。
「バルベット大陸には、古くからこの世界の均衡を保つ四人の女神が存在する。女神たちはそれぞれ東西南北に封印されており、その女神たちがこの世界を今の形に保っているのだ」
「…………」
「女神たちが死す時……それは、かつて世界を滅ぼした魔竜の復活を意味する」
「――魔竜、だと?」
レイナ言葉から出た『魔竜』という単語に、航大は動揺を隠せない。
――今でも鮮明に思い出すことが出来る。
それは今朝に見た夢の中の話である。
航大は『魔竜・ギヌス』と呼ばれる、災厄の化身とも呼べる竜の存在。それが夢であるとしても、航大は魔竜と呼ばれる存在と既に邂逅を果たしていた。
「……ん? 女神のことは知らないのに、魔竜のことは知っているのか?」
「いや、ちょっと聞いただけだ……」
額に汗を浮かばせ、尋常じゃない様子を見せる航大の異変に気付いたレイナは、その視線を鋭くすると航大に問いかけてくる。
しかし航大は首を横に振ると、それ以上の追求を躱そうとする。
「ふむ……魔竜を封印する大陸を統べる者として、ハイラント王国との同盟をより強固なものにすることに異存はない」
「……ありがとうございます」
そんなレイナの言葉に頭を下げるのはライガだった。
それに続くようにして航大たちも頭を下げる。
「今度は、私たちの方からハイラント王国に連絡を取るようにしよう。ハイラント王国の使者たちよ、遥々この大地までご苦労であったな」
親書の内容を把握し、これからの方針を決定したレイナはようやくその表情に年相応の笑みを浮かべると、謁見の間を支配していた緊張感を払拭させていく。
「さてさて、お前たちはアステナ王国の治癒術師を紹介して欲しいんだったな?」
「えっ? なんでそれを……」
「親書の最後にそう記されていたのだ」
親書をひらひらと振ると、レイナは悪戯な笑みを浮かべて航大を見つめる。
「王女の親書に名前が出るとは、余程シャーリーに気に入られているようだな?」
「き、気に入られてるって……」
「ふふふ……手紙の内容からしても、シャーリーがおろおろと心配している様子が手に取るように分かるぞ」
やはり同盟国の王女同士、レイナとシャーリーは仲が良いのか、レイナはシャーリーの名前を出すと楽しげに笑う。
「もちろん。親友の頼みであるなら、こちらのお願いについても協力しようじゃないか」
「……助かる」
「しかし、残念ながらつい先ほどまで城におったのだがな、入れ違いになってさっき城を出ていってしまったのだ」
「……そうなのか?」
「しかし安心しろ。治癒術師が住んでいる場所までは、アステナ王国の者が案内しよう。今度は安全に森林を通ることが出来るぞ」
ふふん、とドヤ顔を浮かべるレイナを横目にエレスが苦笑いを浮かべている。
至り尽くせリな内容に航大たちは文句をいう隙すらない。
「シーラでのお礼は身体の治癒が完了してからとしよう。それくらいは時間があるのだろう?」
「あぁ、時間だったらあるぜ」
レイナの問いかけに答えたのはライガだった。
その返答を聞いて、レイナ満足そうに何度か頷く。
「では、行ってくるがいい。お前たちの帰りを待っているぞ」
「どうぞこちらへ。地竜を用意してあります」
レイナの言葉を合図にエレスが謁見の間の出口へと歩き出す。
航大たちは最後に深く一礼をすると、エレスの後を追って歩き出す。
親書を届けるという最大の任務が完了し、どこか緊張感から放たれる感覚を得ながら、航大たちは治癒術師が住まう場所へと向かうのであった。
◆◆◆◆◆
「あっ、しまった……」
「どうしました、レイナ様?」
航大たちが出ていった後の謁見の間。
そんなレイナの言葉が響き渡る。
「あいつらに注意事項を伝えるのを忘れていた……」
「あぁ……もしかして、あの事ですか?」
「うむ……あいつに会うには色々と気をつけないといけないことがあるからな……」
「そうですね……私も最初は苦労したものです」
レイナの言葉にエレスが苦笑いを浮かべる。
表情には微笑が浮かんでいるのだが、よく見ればその顔には過去を思い出して疲れ切った色を見せていた。
「まっ、あいつらならどうにかするだろう」
「……それを信じましょう」
レイナとエレスの会話。
それが航大たちに届けられることはないのであった。
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