異世界行ったら魔王になってたんだけど(以下略)
47 . 夜の小宿
結局、あの青い丸くツヤのある大きな宝石のネックレスは見つからなかった。どうやら仮のストッパーとやらも時間がかかるらしく、仕方がないので昼間イオに指定された場所にそのまま行くことになってしまった。
「それで_」
「呼び出しておいてどういうつもり?」
田舎の丘の上の小ぢんまりとした宿屋のバーの一角で相手はいつもの青色のフードをパサリと払った。
もちろん、イオだ。
しかし向かい側にはもう一人、イオとは対照的な赤いフードを深々とかぶった人が座っている。私の後ろに控えている三姉妹と私はフードを被っているが決して取ることはないだろう。何故ならここはそれなりに人が集まっておりガヤガヤとした人の声で溢れていた。
「呼び出して申し訳ありません。実は、会っていただきたい人がおります」
細々と、且つ淡々と一語一句単語を並べるようにイオの口から言葉が滑り出す。
それまで俯いていたイオがまた、決心をしたかのように顔を上げ私をじっと見つめた。
「それが、この人です」
イオにとっての右手、つまりこちら側からの左手に座るフードの人を指した。
深々とかぶったフードを少し捲り上げると覗いたのは_
「どうも、初めましテ。ではー、ないのかナ?」
目と鼻を覆う白い仮面だった。
独特の喋り方と雰囲気がここら一帯の空気を包む。女っぽい少し高い声のその最後の発言が引っかかり咄嗟に返した。
「…私、貴方と会ったことはないはずだけど」
「うーん、多分覚えてると思うけド。一番最後に会った…ていうか見タ?のはほら、ティベリアスだヨ」
ティベリアス?と少し前の事を思い出す。
そういえば、馬車に乗っている時に同じようなフードと仮面を見た気がする。
「一度目が会ったよネー」
「あれは、貴女だったの」
「そうサ。私はゼウス。放浪の旅人だヨ」
そして、とゼウスと名乗った女は言葉を続けた。
「貴女の鍵を持つものダ」
ぶらん、と机の下から取り出したのはネックレスだった。あの、無くなったネックレス。
「ッ!」
「何故お前がそれを!」
「こら」
少し激昂してしまった後ろの奴らを沈めると静かにつぶやく。
「何故?」
「何故かっテ?楽しいからサ。それ以上でもそれ以下でもなイ。純粋な興味ダ」
「ふぅん」
掴み所のない感じが少しの恐怖心を泡立たせた。
「賭けをしよウ」
「賭け?」
「そう、賭けダ。今からカードゲームをしよウ。仮想戦闘で、どうダ?」
「…それで?」
つまり例の武道会の小規模系ゲームをやろうというのだ。そこまで仮想戦闘が普及してるのと驚く他に本当に興味本意、楽しみだけで動いているのかと若干の引きを覚えた。
「貴女が勝ったらこのネックレスを返して、今後起きる事を教えてあげよウ」
「…私が負けたら?」
「ンーそうだなぁ。とりあえずアイスでも貰えないかナ?」
異端過ぎる。
明らかに賭けが成立していないこの賭けは引き受けないわけにはいかないのであろう。
ふぅと一息をつくと_
「もちろん、貴女がお腹を壊すまで貢いであげるわ」
啖呵を切った。
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