異世界行ったら魔王になってたんだけど(以下略)

N

6 . ベンカード

「お、おぉ...…」


 お城と言われても納得のできる、魔王城に負けず劣らないぐらいのお屋敷が広がっていた。
「久々に来ましたがやっぱり広いですね!」
 懐かしいものをみる目で眺めている3人を一瞥して空を見上げる。風で巻き上がった木の葉が一枚舞い上がり、それはくるりくるりと回りながらまた地へと落ちる。それを見届け一呼吸おくと口を開いた。
「…...マイたちは来たことあるの?」
「ええ! 5年程前でしょうか?その時の視察で立ち寄りましたねー」
「まだその時はライン様のお父上様が当主をなされてました」
「だからメイ達も初めてお目にかかるということです!」
 なるほど、ね。
 木の葉の連なる道を踏み歩く先の玄関はもう少しだった。そこに物凄くガタイのいい人影が見える。誰かに…とても似ている。懐かしい香りがする。

___『人の感じ方は様々。だからこそ、良くも悪くもある』。

 さっきのマイの言葉だった。どこかで、とても懐かしいどこかで。聞いたことがある。でもどこで?。近づくにつれその疑問が確信に変わる。朧げだった顔の輪郭がはっきりと現れ記憶が塗り替えられていく。柔らかく口角が上がり私を見つけて笑っているよう。

「__お父さ」

 そこまで口に出したところで違和感に気付く。ようやっと、違和感に気付く。父は相澤藍那の父は。

十三年前に他界している。

 その答えと同時に目の前の父の姿はなくなっていた。代わりに足元で桃髪の尖った耳の生えた振袖の幼女が不思議そうな顔をして見上げていた。


「あなた、今、幻見てた?」
 

 幼女の言葉で鳴っていた鈴虫でさえ黙り、静けさの中に飲み込まれた。


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