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異世界行ったら魔王になってたんだけど(以下略)

N

4 . 汽車旅

 涼しげな風が吹き抜けて私の黒髪を揺らした。銀縁の窓から見える山岳地帯は険しく切り立ち大河が側を流れている。
「いつになったらつくの? その…なんだっけ」
「エリオス地方ですか?」
「そうそれ」
 列車の揺れがその場にいる四人を揺らす。レトロチックな蒸気汽車の内装はとんでもなく落ち着いた空間だった。ふかふかのクッションが気持ちいい。
「すでにエリオス地方に入っていますよー! 向かっているのはこの地方一の都市です。まず着きましたらベンカード邸へ行き、ベンカード殿と対面した後に繁華街等に出向く予定です!」
「ベンカード殿って誰?」
 窓の外を興味津々で眺めていたマイがこちらを向くとうきうきと答える。
「地方の領主ですよ。ライン・ベンカード様です」
「一般的に世界で三番目に強い、とか言われてますが、実際に姿を見た人はあまりいないとか」
「メイはごっつい筋肉ムキムキの男の人だと聞いてます!」
「へ、へぇー」
 残りの二人もマイに続いて説明してくる。筋肉ムキムキ…かなり怖い人なのだろうか?
「その…怖い人なの?」
「メイの想像だと物凄く怖い人だと思いますよ!」
「あんたの想像だと、ね」
「でも私も怖そうだと思います!」
「お姉ちゃんの想像だと、ね」
 厳しいアイのツッコミにシュンとなる二人をよそに私は窓の外の景色を眺めて思いを巡らせた。あんまり正体も明かされてないのか。もし悪い人だったらどうしようか。いや、逆に考えるんだ。もし美人のめっちゃ素敵なお姉さんだったらどうすんだよ。…考えすぎか。思わずため息をついた。
「あ! そろそろ見えてきますよ!」
「なにが?」
「この地方一の鉱山都市、ティベリアスです!」

「ティベリアス?」

「あわわ! 危ないですよぅ!!」
 窓から顔を出すと進行方向の先にかなり大きな街が山の麓にあった。その真ん中に少し掠れた塔がそびえ立っているのが見える。
「あれがティベリアス?」
「そうです。ティベリアスは食物はさくらんぼが美味しいところで、何よりここは鉱山の産出が国内一です。つまりここは」
「アイ、ここに来てまで勉強はやめてよ」
「これは失礼しました。つい」
「どうだか」
 笑いを堪えてるのがバレバレだ。
「あの塔はなに?」
「あの塔は1468年に4代目ベンカード殿が」
「あーはいはいあんたは黙れ」
「…」
「そんなに拗ねないでよ…」
「あの塔は世界塔って言いますよ、この地方は宗教が盛んなんです! なんでもあれを登れば神と会えるとか…でも登って帰ってきた人はいないんですよね」
 ナイス、空気の読めないマイ。 
「む、いまアイナ様、空気読めねぇなこいつって思いましたね!だからこそ空気を読んでボケキャラに…」
「あーはいはいわかったから、少なくとも私はKYだと思ったわ」
「人の感じ方はそれぞれなんですよ! だからこそ良くも悪くもあるんです!」
 私はむすっとしたマイの怖くない睨みを振り払うように右手をひらひらさせる。するとぱぁっとずっと本を読んでいたメイが顔を上げて進行方向を指差した。
「そろそろ着くと思われます! アイナ様、お姉様方、準備してください!」
 汽笛が山脈にこだました。



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