冷たい世界に太陽を

ノベルバユーザー189072

光る雨

 ―――気象状態:雨  AM 11:30―――

「あ。そうだ、真白さん」

 雨が降ってきたので洗濯物を取り込んでいる時にふと思い出す。

「植木鉢中に入れました?ほっとくと根腐っちゃいますよ」

 ここは銀箔連山の中腹にある「津雲研究所」の一角である。かつては銀が多く採れる銀鉱山だったことからこの名前がついたようだが、銀の需要の低下とともに今はほとんど人の訪れない場所となっていた。
 その頃の名残であろう、ところどころいくつか坑道が伸びている。

 そろそろ本格的に降り出してきた。急いで残りの衣類をかき集めた後、おそらくさっきの声は聞こえてないだろうということで自ら外へ出る。

「津雲研究所」はかなり広い。部屋の数は30個以上ある。使われなくなった鉱山を使っているからなのだが、それでもちょっと広すぎるだろう。
 先ほどなんとなく彼女の名前を呼んでいたが、今の彼女と隼人の位置関係は何枚もの壁を隔てている。
 聞こえるはずがないのだ。有事の時のために施設内放送設備が備え付けられているほどである。
 まあ主にただ呼び出しのために使われたりするのだが。

 ちなみに施設内には隼人と真白だけである。一応非常勤でもう一人いるのだが、ここ一か月ほど行方をくらませていて生きているのかも分からない。
 実質二人だけでは広いスペースを完全に持て余してしまっていた。

「よいしょっと・・・これで全部かな?」

 最後の鉢を雨除けの下まで持っていくと、やっとやり切ったといった感じがしてくる。
 時間的にもそろそろ一休憩入れてもいい頃合いだろう。

「ふぅ・・・」

 雨の日はやることが増える。それに洗濯物が乾かなかったり、買出しにも行きづらいかったりして、出来たことが出来なくもなる。

 ・・・でも嫌いじゃない。

 雨が降れば辺りは潤うし、比較的落ち着いた一日を過ごせそうな気がしてくる。悪いことばかりでもない。
 空は一面雲が覆いかぶさり、日は全く差してこない。たとえ今は暗くとも、これから明るくなるであろう空を見上げる。明るくなる未来まで、暗い現在いまを楽しもう、と。

「隼人くーん?もしかしてさっき呼んだー?」

 もう終わっちゃいましたよ、そう言いながら施設内へと戻って行く。

 最後にちらりと見えた雨粒は、不思議と幻想的に光り輝いていた。

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