冷たい世界に太陽を
冷たい世界
夕刻、雪の降り積もる中を一人の女性が歩いていた。
足跡はずっと遠くから続いており、長時間歩き続けていることが分かる。
はあ、と溜息をこぼす。白い吐息となって消えていく。
雪はいまだに降りやむ気配は無く、風もだんだんと強くなってきている。
彼女の上の雪がドサッと落ちる。
それを憂鬱そうにいちべつしてから、彼女は歩みを再開する。
彼女の容姿は整っており、美人と言って差支え無いだろう。
輪郭がくっきりとしていて、鼻は高く、東洋人離れした端正な顔立ちであることがうかがえる。
しかしそれとは対照的にその着ているものはセンスの欠片もない。長い黒髪には酷い寝癖、本来は美しいはずの白い肌は荒れ放題で死人のよう。どう見ても外へ出る人の恰好ではなかった。
せっかくの美人も台無しとなってしまっている。
だが、そんなことを一切気にする様子もなく、彼女はある目的地に向かって歩く。
いや、歩くというよりかは――――――
「迷った・・・・」
それこそ死人が彷徨っているみたいである。
「どこよ、ここ・・・360度一面雪と雪と雪しかないじゃないのよ」
事実、辺りには民家はなく、遠くに白い山の稜線が見える程度。
その山も似たような形の山がいくつもあるおかげで、目印としては意味を成さなかった。
そして彼女の目的地はそれらの山の内、どれか1つにある施設であるのだからさあ大変。
感覚で歩いていたら行きも帰りも分からなくなってしまったのである。
「うう・・・街まで降りようとか思うんじゃなかった・・・朝は晴れてたのにぃ・・・」
そう、朝は晴れていた。晴れていたのだ。今のうず高く積もった雪を見てそんなことを言われても信じがたいが、「昼食を食べている間」にここまで積もったのである。
実はこのようなことは今回に限ったことではない。
先日は曇ってきたと思った矢先、スイカサイズの ひょう が滝のように降ってきた。
その前には1か所で何本の竜巻が発生し、甚大な被害をもたらした。
さらにその前には2週間、小さな湖ができるくらいの豪雨が降り続いた時もあった。
けが人は続出、死者は多数。加えて道は泥や流木などでふさがれまともに歩けず、復興に手が回らない地域も出てきつつある。
一体なぜこんなにも異常気象が発生するのだろうか。
その理由は実はあまり解明されていない。
今有力視されているのは数百年前に起きた、世界そのものを揺るがす事件が元だという説だが、具体的な関係性を示す証拠がなく憶測どまりなのが現状である。
それとは別にこの世界がただいまプチ氷河期に突入していることも異常気象の要因の1つだろう。
大雪などの被害は近年各地でよく観測されるようになってきている。
今は多くの研究者がこの問題の解明と解決を目標に日々活動している。
そして彼女、「津雲 真白」もその研究者の一人として山に囲まれた環境で日々活動をしていた。
ちなみに彼女が昼食を食べ終わったのが大体一時半。それからかれこれ4時間は歩いていることになる。
すでに彼女の体力は限界突破しかけていた。
「だめよ・・・このままじゃ凍死してしまうわ・・・ちょっと寝るか・・・」
「いやなにしてんすか」
頭上から声が聞こえる。
すでに半分落ちていた意識で声のした方を見ると、そこには見覚えのある顔の男が立っていた。
彼は彼女の研究所で助手を務めている「米沢 隼人」。
彼女がやらかしたことの後処理の99%は彼がやっている。
おまけに炊事掃除洗濯と一通りの家事も一人で担っている助手の鑑である。よく気が利き、今回も彼女を心配して迎えに来ているのだった。
ああどうやら上(研究所)からの迎え(助手)が来たみたいね・・・
「ちょっと仮眠ー死んだら起こしてー」
「笑えない冗談言わないでください!?」
じゃあ冬眠かな。
「これで安心して眠れる・・・」
「ちょっと!?」
いくら揺すっても一切起きる気配はない。
彼女の顔はにへらっと笑い、すでに意識は夢の中にある。
この人マジか・・・
彼はぼやきながら、彼女を背負い、帰路についた。
はああぁ・・・・と、ひときわ大きな溜息は雪の白さに消えていく。
足跡はずっと遠くから続いており、長時間歩き続けていることが分かる。
はあ、と溜息をこぼす。白い吐息となって消えていく。
雪はいまだに降りやむ気配は無く、風もだんだんと強くなってきている。
彼女の上の雪がドサッと落ちる。
それを憂鬱そうにいちべつしてから、彼女は歩みを再開する。
彼女の容姿は整っており、美人と言って差支え無いだろう。
輪郭がくっきりとしていて、鼻は高く、東洋人離れした端正な顔立ちであることがうかがえる。
しかしそれとは対照的にその着ているものはセンスの欠片もない。長い黒髪には酷い寝癖、本来は美しいはずの白い肌は荒れ放題で死人のよう。どう見ても外へ出る人の恰好ではなかった。
せっかくの美人も台無しとなってしまっている。
だが、そんなことを一切気にする様子もなく、彼女はある目的地に向かって歩く。
いや、歩くというよりかは――――――
「迷った・・・・」
それこそ死人が彷徨っているみたいである。
「どこよ、ここ・・・360度一面雪と雪と雪しかないじゃないのよ」
事実、辺りには民家はなく、遠くに白い山の稜線が見える程度。
その山も似たような形の山がいくつもあるおかげで、目印としては意味を成さなかった。
そして彼女の目的地はそれらの山の内、どれか1つにある施設であるのだからさあ大変。
感覚で歩いていたら行きも帰りも分からなくなってしまったのである。
「うう・・・街まで降りようとか思うんじゃなかった・・・朝は晴れてたのにぃ・・・」
そう、朝は晴れていた。晴れていたのだ。今のうず高く積もった雪を見てそんなことを言われても信じがたいが、「昼食を食べている間」にここまで積もったのである。
実はこのようなことは今回に限ったことではない。
先日は曇ってきたと思った矢先、スイカサイズの ひょう が滝のように降ってきた。
その前には1か所で何本の竜巻が発生し、甚大な被害をもたらした。
さらにその前には2週間、小さな湖ができるくらいの豪雨が降り続いた時もあった。
けが人は続出、死者は多数。加えて道は泥や流木などでふさがれまともに歩けず、復興に手が回らない地域も出てきつつある。
一体なぜこんなにも異常気象が発生するのだろうか。
その理由は実はあまり解明されていない。
今有力視されているのは数百年前に起きた、世界そのものを揺るがす事件が元だという説だが、具体的な関係性を示す証拠がなく憶測どまりなのが現状である。
それとは別にこの世界がただいまプチ氷河期に突入していることも異常気象の要因の1つだろう。
大雪などの被害は近年各地でよく観測されるようになってきている。
今は多くの研究者がこの問題の解明と解決を目標に日々活動している。
そして彼女、「津雲 真白」もその研究者の一人として山に囲まれた環境で日々活動をしていた。
ちなみに彼女が昼食を食べ終わったのが大体一時半。それからかれこれ4時間は歩いていることになる。
すでに彼女の体力は限界突破しかけていた。
「だめよ・・・このままじゃ凍死してしまうわ・・・ちょっと寝るか・・・」
「いやなにしてんすか」
頭上から声が聞こえる。
すでに半分落ちていた意識で声のした方を見ると、そこには見覚えのある顔の男が立っていた。
彼は彼女の研究所で助手を務めている「米沢 隼人」。
彼女がやらかしたことの後処理の99%は彼がやっている。
おまけに炊事掃除洗濯と一通りの家事も一人で担っている助手の鑑である。よく気が利き、今回も彼女を心配して迎えに来ているのだった。
ああどうやら上(研究所)からの迎え(助手)が来たみたいね・・・
「ちょっと仮眠ー死んだら起こしてー」
「笑えない冗談言わないでください!?」
じゃあ冬眠かな。
「これで安心して眠れる・・・」
「ちょっと!?」
いくら揺すっても一切起きる気配はない。
彼女の顔はにへらっと笑い、すでに意識は夢の中にある。
この人マジか・・・
彼はぼやきながら、彼女を背負い、帰路についた。
はああぁ・・・・と、ひときわ大きな溜息は雪の白さに消えていく。
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