遅熟のコニカ

紙尾鮪

110「コニカノタテ」

 四種は、死んだはずだった。
 明確に言えば、一人は運良く生きていた。

 ただ、その他三人は確実に死んでいた。
 しかし、この世に、確実に存在する。

 sueは、人外を忌み嫌う、それ故か、人と言う物の定義が存在する。
 人は、生きていようと、死んでいようと、人であるという事を否定することは出来ない。

 故に、噂が出来た。

 死んだ者の復活の術を、ティーグルブラン帝国の城には存在すると。
 確かに、見ようによれば死者の復活、ただ蓋を開ければ人の複製体。

 ただ、複製体ならば出来る事、いや、復活ではできない事があった。

 王は、ドリーは、来るべく戦のために、戦力の拡充をせねばならなかった。
 その中で重要となってくるのは、やはりただの人ではなく、特別な能力を持つ者。

 物量で押したとて、それがただの塵芥としたら、山になろうと神の息吹にて宙に舞うだけである、であらば神の懐刀を盗み、その寝首を搔く事の出来る程の兵力が必要であった。

 それとは、単純明快魔女の子孫に他ならない。
 もしくは、ヘーレの様な純潔の魔女。

 ドリーはヘーレという、他に引けを取らない戦力を保持してはいたが、ただの素材を扱うだけの愚行しか行わなかった。

 故に、コニカや、マタク=モルマに引けを取ってしまった。

 ヘーレがその二人より劣っていたかと言えば、首を縦に振るしかなかったのだ。
 それはヘーレには芯がなかった事に直結する。

 ヘーレを突き動かす原動力とは、たった一つ、『コニカ先輩を愛し愛されたい』、といった物だけだったからだ。
 つまりは自己愛エゴイズム、未熟、視野の狭さが事を小さくしていた。

 しかし、入れ知恵が行われ、今、カマキリの卵から湧き生まれる兵士は、倫理などを虚仮にした人でも、魔女の子孫でもない化け物であった。

  化け物ではあるが、ただ一つ、四種には一つには共通意識があった。

 「いいね、コニカだよ。母なる源をいただきに行くべきだぬぇ」
 一人の少女は笑いながら新しく生まれた者の産声に、頷きながら鎧を着ているにも関わらず、ポケットに手を突っ込もうとした。

 「欲しい、俺の、僕の幹」
 一人の巨漢は、自らの喉を軽く掴みながら、漏れ出す声で喋った。
 巨漢は、篭手のみを付けていた。

 「なんと甘美な響き、生ける心臓だね」
 一人の青年は、鎧を身に纏うがその胸には、少女の付けている鎧には描かれているカマキリがなかった。

 「先ずは空気を求めねば、我等母なる体に戻り、神にへと戻るために」

 カマキリの巣から放たれた子供達は、祈ることを辞め、自らの祈るためあった手を、本来の鎌として扱った。

 カマキリの、鎌、『スィクル』が再び、動き出す。

 祈るだけの存在が、神にへと手を伸ばそうとしている、それらを行うために、王は、神を冒涜するが如く所業を行う。

 神に手を合わせて生きながらえていたカマキリは、神の首を、祈るために使っていた二つの手で、裂く事など出来るのか。

 というより、許されるのか、許されるとしたら誰に許しを請うのか。


──────────────

 「私には幼少の記憶がないだと? 馬鹿を言うな、では私が機械の体とでも言いたいのか?。機械の外観と人の外観すら見分けることが出来なくなったのか?」
 コニカは、皮肉によって、相手の気を引こうと試みた。
 クチナシが逃げる、もしくは安全であろう場所に完全に隠れる時間を確保するためだった。

 ただしかし、自分が幼少期の記憶を思い出すことが出来ないことも確かに正しかった。

 ただそれは、自分の歳を負ったが故に生じる物、若い頃の記憶は捨て、新しき知識の習得に専念すると言った原理から来る、思い出せないという原理であるとコニカは思ったが故に、そこまで気にすることも、ましてや問題視することも、今も昔もなかった。

 「いやいや、言葉の通り、馬鹿になろう、安直愚直に受け取ろう!だって君は、そうコニカさん貴女は子供の頃がないんです、事実なんです。であればなにか?否定する材料がおありで?」
 ピエロはひょうきんに捲し立てる、コニカが具体的な反論を持っていないという事を知っているが故に、単純で簡素に幼稚な言葉の発声でコニカを陥れようとする。

 少年が如くの理論は、実に脆く、柔い物の筈だったが、コニカの心臓をチクリと刺す針にへとなっていた。

 「いや……ッ普通に考えておかしいだろう! 人というのは段階を踏み成長していくもの、成長という階段を跳ばす事など人という生物である時点で決まっている」
 コニカは、教科書に書いてあるような事を盾に、針から身を守ろうとした。

 しかし、在り来りで平凡な盾というのは量産品、一部の攻撃に特化した盾出なければ、平凡な攻撃しか防ぐ事は出来ない。

 つまりは、盾という物も、要所要所にあった堅牢なる盾を持たなければ意味がない、例えそれが布を貫く事しか用途の無い小さき針であっても、それに見合った盾を即座に用意しなければならない。

 つまりは、単一特化の盾が、今コニカが持つべきものであった。
 しかし、コニカは、ピエロの安い揺さぶりだと理解してしまった。

 「普通、普通というのはただの多くの人が集まり決める、もしくは強制した、ただの集合意識に過ぎないんだよ。というかコニカさん、君の常識は今尚更新され続けている。一昔前のコニカさんであればこんな状況、予想すらしていなかったよね?」

 「つまりは常識、普通と言う物は変動体、一つの姿には固執しないんだ。だったら、普通という理由は通用しない、はい。コニカさん、他の理由をくださいな」
 ピエロは、コニカの弁解を急く、時間など無尽蔵にある今、コニカを急かすのは、ただ、コニカを焦らせるというたった一つの答えしかなかった。

 いや、若干、ピエロも焦っていた。
 というより、待ち遠しかったのだ。
 自らの描いた、いや、描かれていたシナリオ通りに事が進んでいたために。

 「い、いや。生物として、人として、私が人である限りその事を否定される事は無い」
 コニカは明らかに動揺していた、何故ならば、コニカが持ちうる、ピエロの言う事を否定するものは、常識という物しか持ち合わせていなかった。

 常識は実に薄っぺらで、在り来りな否定要素だった。

 しかし、それは押し付けに近い。
 故に、ただの常識での殴打と、結果的になってしまう。
 しかし、コニカの常識での殴打など、ピエロの盾の前では無に等しい。

 そのせいなのか、ピエロの持つ盾に対して自分の持つ盾が貧弱なためか。

 コニカはどこか胸の奥でこの場から逃げ出したいと思うような怯えを感じていた。

 心臓から、血液がじわりじわりと漏れ出ているかのような、言い様の無い、身を滅ぼしていく様な、危機感。

 そして、死前の五秒間に似た、実感のない、恐怖。

 ピエロは、声甲高く笑い始めた。
 抱腹絶倒しながら、震えていた。

  ピエロの目じりからは涙があふれ、青や白の涙が頬を伝う。

 「んふっんん、いや失敬。いや余りにも、色々と知ってる側にとっては面白くてね、あのねぇ……コニカさん」

 「コニカさん。君、人ですらないのに何言ってんの?」

 「は?」

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