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遅熟のコニカ

紙尾鮪

109「ゲンソウトソウグウ」

 確かに、ピエロの能力は、幻を見せる能力だった。
 いや、魅せる能力。

 シュイジが『幽玄乃淵メタプラシァメゾン』を扱ったのならば、確かに見せるだけであろう。

 幻とはただ、脳内に映像を送り、疑似体験を味わう様な物。
 つまりはただの観測者。
 テレビなどを見た所で、臭いを嗅ぐことも、それを触る事、到底無理な物である。

 つまりは幻もそれと同じで、本来、ただ見る、聞くという情報を脳に垂れ流すだけのもの。

 それがもし、たらればの話であった物。

 嗅覚に、触覚にすら影響を及ぼしたのならば。

 最早それは幻という言葉で収まるのだろうか?
 否、それをピエロは現実を増しただけの、『現増ゲンソウ』と読んだ。

 故に、広がる。

 脳溶かす様な行進曲を、白き太陽光散惨な舞台が。
 吠えることでしか威勢を示す事の出来ない獅子と、今際に立たされる安全装置のついた予定調和。

 それらが、コニカを取り囲み、けたたましく音を鳴らしながら、いざ! いざ! と、コニカを強制させる。

 「列席者様ありがとう、参加ご自由、年齢問わず。いざ行かん剣士の入場だ!」
 ドラムロール鳴り響き、スポットライト交差する。
 鶏が逃げる様に空を飛ぶなか、スポットライトは一つに集まり、コニカを差す。

 異物らは気が触れたかの様に喜び手を叩いている。

 「ぉお! コニカさんではありませんか!! なんとなんと、ありがたい……感謝の気持ちとして、コニカァズヒステリー……? ヒストリーか? まぁいっか。どうぞ!!」
 コニカは、何も言わず、行わなかった。
 茶番も過ぎる。
 以前、自分がこれに触れ、気狂いをしてしまったという事に、呆れてすらいた。

 ただ、何も行われない、何も映らない、何も、何かも。

 「はて? 何も起こらない? おかしいなぁ。これは自ら語って貰わなければならないね。では、コニカさん思う存分に語ってください!」

 ピエロが笑った。

 コニカは、動揺し、笑った。

 コニカは、自分の幼少時期の記憶を取り出す事が出来なかった。

 それは、ど忘れなどという物ではない。
 何故ならば。 

「あれぇ? 思い出せないんですかぁ? 自分の赤ん坊だった頃などない事を」
 
─────────────

 「あぁ~やられたやられた。死ぬと思ったよ~ほんとに。いやあれは死んでたね」
 エンドウは、どこかふざけた様に振る舞いながら『妄話』と『爆音努』らと話していた。

 「ま、まぁ生きてるのであれば、問題は、それより、モルマくんが殺られた」
 『妄話』は、涙を隠す『爆音努』を他所に、状況報告を始める。

 「うっそ、マジで? いやぁ『悪日アクビ』くんが? そっかぁ、じゃ自分達もちゃんと動かないと、まずは『生母事オママゴト』さんと合流しなきゃ、久しぶりに疲れちゃうなぁ」
 エンドウは、酷く驚いている風に見せた。
 そして、一枚のノートを、取り出した。
 黒いノートに横書きで書かれている言葉とは、『死す』のみ書かれていた。

 その言葉は、ハミセトの口癖であり、事ある毎に人に向かって言っていたのを、『妄話』と『爆音努』は思い出した。

 「このノート、というよりこの『死す』について説明しよっか。まぁその前に色々と言わないといけない事はあるんだけど」

 「完結に話そう、この『死す』という言葉には同じ側、まぁつまりは仲間という意味合いを含んである。そして、このノートには蝮巳さんの敵でない人、つまりは仲間の動向が自動的に書かれる。蝮巳さんはこのノート……いや遺能物を『疑除録ステカーノートン』と呼んでたっけ」

 『疑除録』それは、ハミセトの二つ目の能力によって生み出した遺能物。
 エンドウがハミセトを買っているのは、この遺能物の優秀さからであった。

 発動条件、もしくは判別条件は、ハミセトが他者に向かって、「死すの?」つまりは、「仲間なのか?」と言う意味合いを持つ問いを行えば、自動的に判別を始め、その人の動向を書き連ねる。

 最初に聞いた時から仲間でなかった場合、『疑除録』に書かれる事はない。
 そして、ハミセトを裏切った時、その時点で『疑除録』裏切った時点から後の動向を書き連ねる事はない。
 それ以降を知りたいのであれば、もう一度問わねばならない。

 条件は破格と言える程の易さ。
しかし、見返りは大きい。


 エンドウは以前から、ハミセトからこのノートを見せて貰っていた。
 そして、一つ、約束をしていた。

 『次に会合をした時に、リーダーにあげるよ、これ。その会合で会った奴の殆どが死すやつじゃなければ別行動しといて』
 と。
 そして、訪れた22人中、約7人が仲間ではなかった。

 故に、エンドウは一人だけsueを探さず、思考に耽っていたり、一人でティーグルブランにへと侵入したりしていた。
 結果的には失敗にへと終わったが、多くの情報を得ることが出来た。

 「そうだそうだ、とりあえず、仲間じゃない人を発表しよっか」
 エンドウは、地面にへと手を当て七本の木をその場に現し、そして自動的に木彫りを始める。
 見えない誰かがそれらを掘り進め、顔を作り出していく。

 「この7人、悲しい事にめんどくさい人しかいないんだよね」
 その7人の殆どは、魔女の子孫であっても、人であっても知っている様な7人であった。

 故に話を聞いていた二人は、事の重大さ、そして黒幕が再び見えなくなっていた。

─────────────
 現ククノチ領ハクコの、旧王城地下室に産卵室と呼ばれる場所があった。

 王が神から受け取った聖遺物を扱う場所であった。
 
 そこにて、新しく胎動する魂が三種。

 この方法は、歴代の王に顔向け出来ない物であったが、王の失脚、魔女の入れ知恵、個人の願望エゴによって生まれた現段階最高の策であった。
 上手く行けば、ネズミ算式に戦力を広げる事が出来る。

 が、歴代の王が築き上げていった、方針ポリシーも、誇りプライドも全てかなぐり捨てる物であった。

 しかし、王にはそれしか残されていない、いや、考える余地がなかった。

 ドリー・ジュゥドゥネ。
 ドリー禁忌の一歩を名に持つ彼女だからこそ行えた方法であった。

 明らかな傀儡、しかし、彼女は良かった。
 唯一の方法、国を再建させる方法、手の内で馬鹿の様に踊り、泣きたくとも笑顔を見せる道化ピエロであろうと、全てを扱い、復権すべきと。

 「コニカ先輩……? コニカ……ママ?」

 禁忌とされた、遺物に手を加え、量産だけでなく、自ら思う物を、思う人を作る。

 いや創る。

 神の階段を登る行い、誰かに断ってなどいない。
 自らの独断、おままごとの様に掛け合わせたそれらは、人と言うのか、魔女の子孫というのか、それとも、何でもない新なる生物の誕生か。

 「鳥は、生を受け、幼体として体を成した時自ずと殻を破る。異形であろうと、化け物であろうと、それは同じ、外を求めよ」

 「うっずぇ、指図しねーでほしいです」

 「モル……お前、生意気だぞ」

 「まぁまぁ、僕らの新しい姉弟の前だよ、穏便に穏便に」



 「……コニィ……コィカ、コニファ……コニィカ……コニカ……!」

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