遅熟のコニカ
108「パレードガサーカス」
「嘘をついてるとはなんだ?」
「嘘ついてる」
コニカは、これ以上聞いた所で何も得られないと踏み、聞くことを止めた。
コニカは、ピエロが嘘をついているという事に驚いてしまい、クチナシが喋っているという事実に気付かなかった。
ただ、クチナシが嘘をつく様な奴には思えず、更には嘘をついた所でメリットが無いと思っていた。
故に、そこから思い浮かぶのは、ピエロはやはり敵である事。
実質、揺れていた、 ピエロを信用出来るかどうかで。
あまりにも怪しいが、憎めない奴でもあるとコニカは思っていた。
しかし、だからといって信用に足る存在にへとなる訳でもなかった。
口の聞けない、知人に似たクチナシを信じるか。
ホラを吹いていそうな、ピエロを信じるか。
コニカは選択を迫られていた。
全てを知っていそうなホラ吹きか、ホラ吹きを陥れる嘘をついているかもしれないクチナシか。
「コニカさん、どうかな? 何かあった?」
ピエロは何も知らないのを装って喋りかけた。
その笑顔が、コニカにとってはとても疑わしき物と写った。
「いや、何もない。クチナシも喋れないせいか、やはり何も分からないな」
コニカは、ピエロよりもクチナシを信用する事にした。
それは、コニカが子供を疑うことが出来ない所にあった。
コニカは金髪の子供の一件があってから、酷く子供に甘くなっている節があった。
「あ、そうです。僕、貴女の事騙してるんですよね。」
ピエロは突飛なタイミングで、自らの身の不純さを吐露した。
──────────────
「さて、幾らかの戯れが終わったのならば、目的の場所にへと向かわねばなりませんな」
ライズは、ヒルコの顔を拭きながら言った。
崩壊しかけていたその顔は、元にへと戻っていたが、黒に染まっているのは変わらなかった。
「言わずもがな、貴方のお言葉は神の啓示と同じく受け取っておりまする故、口を動かさずとも大丈夫ですぞ」
「神の卵、神の子を神とする、人が唯一扱え、手が加えられた物。それがEi。それを何故あの様な出来損ないの為に」
「……おやおや、最近は自ら民になると志願してくれる人がいるとは、こっちだよ」
二人を目の前に、王は招いた。
検討違いな事を言いながら。
どこか娼婦の様な雰囲気を醸し出しながら。
「おやおや、ライズくんお久しぶりだね」
「ありゅえー、『万』どったのー? 黒くぬぇ?」
それは、伏した筈の二人だった。
──────────────
コニカは動揺した。
何故、今なのだと。
何れ分かる物であると、コニカ自身分かっていたが、このタイミングだったのか。
更に、なぜ自ら言ってきたのか?
コニカは何も言えなかった。
「黙るのも仕方がないね。じゃあ殺ってみよう、血の海でのサーカス……実に俗物的だね」
ピエロは、ジョン・C・ウェインは、ステッキを取り出し、血の海に円を描いた。
すると、ピエロを取り囲むカ血のーテンが出来上がった。
コニカは、この隙を狙い、逃げようとしたが、カーテンの中から飛んでくるジャグリング用のナイフが進路を阻む。
コニカはクチナシだけでも安全な場所にいさせようと、家影に隠させた。
そして、家に刺さっているナイフを手にし、未だ姿を見せぬピエロに向かって構えた。
しかし、ピエロ、背後。
「囮だよ」
コニカは身の毛よだちながらも、背後にいるピエロから逃れようと前方にへと四足獣のように前傾姿勢で跳んだ。
コニカは、先程いた場所を睨んだ、しかしそこにはもうピエロはいない。
静寂。
そして、発見。
血の海に映る、ピエロ。
コニカは血の海を殴るが、波紋が生まれるだけだった。
波紋で歪むピエロの顔が笑顔に見えたのは、コニカの苛立ちが故に作り得た。
ピエロの顔は下から如何なる角度から見上げている。
顔色を伺う様に。
まるで子供の様に。
あの時、救えなかった事を咎める様な顔を。
コニカを、無言で、責める。
何もしていないのに。
無言が故の脅しは、コニカの直列的回路では酷く愚解な答えが暴力的に、目まぐるしい程に、形の無い凶器としてコニカを取り囲む。
花いちもんめ。
精神解離の花いちもんめ。
あの心の支えが欲しい。
あの気高くあるためのプライドが欲しい。
 
あの全てを許容するような精神の優位が欲しい。
剥がれ奪われ落ち溢し。
残った物は、一つ触れれば壊れる様な、脆弱なコニカ。
果敢にピエロに挑むも、初撃も、致命傷も与えず、受けず、膝を折ってしまう。
「などと、僕は高を括っている。って君は思っているんだろうな」
ナイフを構えるコニカは、虎視眈々と、自分に追い討ちをかけてくれるだろうピエロを待っていた。
しかし、胸中全て、コニカの策略が全て、まるで本をなぞっているが如く、意図も容易く読み解かれてしまっていた。
ピエロは、コニカの目の前で、馬鹿にする様に、笑っている。
ケラケラと、浅はかなコニカを見下し。
コニカは、目の前にいるピエロにナイフを突き立て様とした。
一瞬の静寂から、突如襲いかかる獅子の如く威勢で、ピエロの身体へナイフを押し当てる。
が、その身体、ナイフを通さず、ナイフはただただ紙玩具の様に折れ曲がるだけ。
コニカは思い出した、記憶の底に押し止めていた、あの時の記憶。
「あ、そうか。知ってるんだったね。あの子ね、発想力が足りないよ、サーカスを模倣したサーカスなんてつまらない。サーカスは自分であるべきなんだよ」
白の家の窓が、破裂し、沢山の紙吹雪が舞い上がる。
そして、血の海からは、多くのヒナゲシの花が咲き乱れる。
風すらない場所で、ヒナゲシはコニカを見守る様に身体を揺らす。
血をかけた様なその真っ赤な身体を。
「『幽玄乃淵』、名前を言っていなかったね。ジョン・C・ウェイン。ピエロの姿をした剽軽者だよ、以後お見知りおき~」
その場所は、見慣れたサーカス場なのではなく、そこは……コニカの……記憶を覚めさせる一端となった。
「懐かしいね」
どこか遠くで、足音が聞こえる。
一糸乱れぬ足音が。
「サーカスと言えばパレード。パレードの鳴き声が聞こえるね、誰ぞ影踏むパレードが」
突如その場は、暗闇に落とされ、スポットライト光る。
そして、複数のスポットライト交差する中、当たる、一つの門。
小さき門は、赤ん坊ですらどうにか通る事が出来る程だろう。
だが、そこに、灰色のゾウの鼻が現れる。
その門は、どうにかゾウの侵入を抑えようとするが、ついには耐えきれず、何倍もの大きさとなり、ゾウの侵入を許してしまった。
その象は、本来あるべき場所に二つの目がなく、顔の中心部分に大きな目が存在していた。
そして後を続くは希形が団栄。
胴のみの猿は、銭を撒き、人面の山羊は土を食む、頭無しの鶏は空を飛ぶ。
それらが纏う金品は、目にも眩む宝石、真珠、鉱石であり、スポットライトすら薄暗く感じる程の輝きを誇る。
「……全て幻想、妄想、空想。虚像の動物らだろう? 嘘の塊の団員か、貴様の心の虚大さが見てとれる」
コニカは、落ち着いていた。
それは、一度味わったという経験から来る、ネタバレ感からの安心感。
ふと、胴のみの猿がコニカの肩に乗り、頬を舐めた。
そして、肩に感じる温かさ。
それは、現実を証明するもの。
「あー、あんな紛い物とは一緒にしちゃいけない。どうせこの世は幻想の世界。であれば幻想が現実になりえない筈がないのさ」
「何故ならば、幻想とは、現実にちょこっと不思議を増やしただけの、ただの現増なんだからね」
「嘘ついてる」
コニカは、これ以上聞いた所で何も得られないと踏み、聞くことを止めた。
コニカは、ピエロが嘘をついているという事に驚いてしまい、クチナシが喋っているという事実に気付かなかった。
ただ、クチナシが嘘をつく様な奴には思えず、更には嘘をついた所でメリットが無いと思っていた。
故に、そこから思い浮かぶのは、ピエロはやはり敵である事。
実質、揺れていた、 ピエロを信用出来るかどうかで。
あまりにも怪しいが、憎めない奴でもあるとコニカは思っていた。
しかし、だからといって信用に足る存在にへとなる訳でもなかった。
口の聞けない、知人に似たクチナシを信じるか。
ホラを吹いていそうな、ピエロを信じるか。
コニカは選択を迫られていた。
全てを知っていそうなホラ吹きか、ホラ吹きを陥れる嘘をついているかもしれないクチナシか。
「コニカさん、どうかな? 何かあった?」
ピエロは何も知らないのを装って喋りかけた。
その笑顔が、コニカにとってはとても疑わしき物と写った。
「いや、何もない。クチナシも喋れないせいか、やはり何も分からないな」
コニカは、ピエロよりもクチナシを信用する事にした。
それは、コニカが子供を疑うことが出来ない所にあった。
コニカは金髪の子供の一件があってから、酷く子供に甘くなっている節があった。
「あ、そうです。僕、貴女の事騙してるんですよね。」
ピエロは突飛なタイミングで、自らの身の不純さを吐露した。
──────────────
「さて、幾らかの戯れが終わったのならば、目的の場所にへと向かわねばなりませんな」
ライズは、ヒルコの顔を拭きながら言った。
崩壊しかけていたその顔は、元にへと戻っていたが、黒に染まっているのは変わらなかった。
「言わずもがな、貴方のお言葉は神の啓示と同じく受け取っておりまする故、口を動かさずとも大丈夫ですぞ」
「神の卵、神の子を神とする、人が唯一扱え、手が加えられた物。それがEi。それを何故あの様な出来損ないの為に」
「……おやおや、最近は自ら民になると志願してくれる人がいるとは、こっちだよ」
二人を目の前に、王は招いた。
検討違いな事を言いながら。
どこか娼婦の様な雰囲気を醸し出しながら。
「おやおや、ライズくんお久しぶりだね」
「ありゅえー、『万』どったのー? 黒くぬぇ?」
それは、伏した筈の二人だった。
──────────────
コニカは動揺した。
何故、今なのだと。
何れ分かる物であると、コニカ自身分かっていたが、このタイミングだったのか。
更に、なぜ自ら言ってきたのか?
コニカは何も言えなかった。
「黙るのも仕方がないね。じゃあ殺ってみよう、血の海でのサーカス……実に俗物的だね」
ピエロは、ジョン・C・ウェインは、ステッキを取り出し、血の海に円を描いた。
すると、ピエロを取り囲むカ血のーテンが出来上がった。
コニカは、この隙を狙い、逃げようとしたが、カーテンの中から飛んでくるジャグリング用のナイフが進路を阻む。
コニカはクチナシだけでも安全な場所にいさせようと、家影に隠させた。
そして、家に刺さっているナイフを手にし、未だ姿を見せぬピエロに向かって構えた。
しかし、ピエロ、背後。
「囮だよ」
コニカは身の毛よだちながらも、背後にいるピエロから逃れようと前方にへと四足獣のように前傾姿勢で跳んだ。
コニカは、先程いた場所を睨んだ、しかしそこにはもうピエロはいない。
静寂。
そして、発見。
血の海に映る、ピエロ。
コニカは血の海を殴るが、波紋が生まれるだけだった。
波紋で歪むピエロの顔が笑顔に見えたのは、コニカの苛立ちが故に作り得た。
ピエロの顔は下から如何なる角度から見上げている。
顔色を伺う様に。
まるで子供の様に。
あの時、救えなかった事を咎める様な顔を。
コニカを、無言で、責める。
何もしていないのに。
無言が故の脅しは、コニカの直列的回路では酷く愚解な答えが暴力的に、目まぐるしい程に、形の無い凶器としてコニカを取り囲む。
花いちもんめ。
精神解離の花いちもんめ。
あの心の支えが欲しい。
あの気高くあるためのプライドが欲しい。
 
あの全てを許容するような精神の優位が欲しい。
剥がれ奪われ落ち溢し。
残った物は、一つ触れれば壊れる様な、脆弱なコニカ。
果敢にピエロに挑むも、初撃も、致命傷も与えず、受けず、膝を折ってしまう。
「などと、僕は高を括っている。って君は思っているんだろうな」
ナイフを構えるコニカは、虎視眈々と、自分に追い討ちをかけてくれるだろうピエロを待っていた。
しかし、胸中全て、コニカの策略が全て、まるで本をなぞっているが如く、意図も容易く読み解かれてしまっていた。
ピエロは、コニカの目の前で、馬鹿にする様に、笑っている。
ケラケラと、浅はかなコニカを見下し。
コニカは、目の前にいるピエロにナイフを突き立て様とした。
一瞬の静寂から、突如襲いかかる獅子の如く威勢で、ピエロの身体へナイフを押し当てる。
が、その身体、ナイフを通さず、ナイフはただただ紙玩具の様に折れ曲がるだけ。
コニカは思い出した、記憶の底に押し止めていた、あの時の記憶。
「あ、そうか。知ってるんだったね。あの子ね、発想力が足りないよ、サーカスを模倣したサーカスなんてつまらない。サーカスは自分であるべきなんだよ」
白の家の窓が、破裂し、沢山の紙吹雪が舞い上がる。
そして、血の海からは、多くのヒナゲシの花が咲き乱れる。
風すらない場所で、ヒナゲシはコニカを見守る様に身体を揺らす。
血をかけた様なその真っ赤な身体を。
「『幽玄乃淵』、名前を言っていなかったね。ジョン・C・ウェイン。ピエロの姿をした剽軽者だよ、以後お見知りおき~」
その場所は、見慣れたサーカス場なのではなく、そこは……コニカの……記憶を覚めさせる一端となった。
「懐かしいね」
どこか遠くで、足音が聞こえる。
一糸乱れぬ足音が。
「サーカスと言えばパレード。パレードの鳴き声が聞こえるね、誰ぞ影踏むパレードが」
突如その場は、暗闇に落とされ、スポットライト光る。
そして、複数のスポットライト交差する中、当たる、一つの門。
小さき門は、赤ん坊ですらどうにか通る事が出来る程だろう。
だが、そこに、灰色のゾウの鼻が現れる。
その門は、どうにかゾウの侵入を抑えようとするが、ついには耐えきれず、何倍もの大きさとなり、ゾウの侵入を許してしまった。
その象は、本来あるべき場所に二つの目がなく、顔の中心部分に大きな目が存在していた。
そして後を続くは希形が団栄。
胴のみの猿は、銭を撒き、人面の山羊は土を食む、頭無しの鶏は空を飛ぶ。
それらが纏う金品は、目にも眩む宝石、真珠、鉱石であり、スポットライトすら薄暗く感じる程の輝きを誇る。
「……全て幻想、妄想、空想。虚像の動物らだろう? 嘘の塊の団員か、貴様の心の虚大さが見てとれる」
コニカは、落ち着いていた。
それは、一度味わったという経験から来る、ネタバレ感からの安心感。
ふと、胴のみの猿がコニカの肩に乗り、頬を舐めた。
そして、肩に感じる温かさ。
それは、現実を証明するもの。
「あー、あんな紛い物とは一緒にしちゃいけない。どうせこの世は幻想の世界。であれば幻想が現実になりえない筈がないのさ」
「何故ならば、幻想とは、現実にちょこっと不思議を増やしただけの、ただの現増なんだからね」
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