遅熟のコニカ
107「カミヘヒルコ」
初撃が決まった時、ヒルコが動くことはなかった。
しかし、ノリアキは、ヒルコの頭を掴んでいるという感覚があった。
故に、本来人間があるはずの、痛みを感じた時に機能を発揮する枷は、感情によって肥大したノリアキの体には、小さすぎた。
二度目の爆破、三度、四度。
数は着々と積み重なり、そして、ヒルコの頭部の感触は無くなっていた。
煙上がるこの惨事は、野次馬ですらどれ程に悲惨だったかを理解が用意であった。
煙晴れる頃には、血の臭い、人々の驚きの漏れ音と、悲痛な叫びが混ざり合い、混声合唱となり、城はノリアキの狂気に飲まれていた。
しかし、見えぬ者は存在していないのではない。
感じないから無い訳ではない。
感じる事が出来ないのだ。
「それで終わりか?」
ヒルコは、死んでなどいない。
いや、『万』は死なない。
例え、眼球溶け流れても、皮剥き出しとなろうと。
例え、骨が露となろうと、例え、死んだとしても、『万』は死なない。
狂気などと安い言葉などでは収まらない。
人間が孕む事ない。獣虫魚鳥、どれにすら当てはまらない。
最早悪魔、いや、恐怖だけを持つ悪魔などでは不相応。
これは、畏敬の一種。
神仏に価する、崇敬と畏れの相反する感情の複合体。
「泣きたいのだろう? 死にたいのだろう? では、黒を受け入れろ」
ノリアキが、『万』を殺めるために犠牲にし、失った右手にへと、ヒルコの腕の様な物を構成していた黒が、伸び、そして、ノリアキを黒へと染めていく。
炭や黒曜石などの黒ではない。
全ての光を飲む、黒。
ノリアキは、黒に包まれた。
そこは、近くも、奥も分からぬ、平坦なる黒。
宇の無き宙と同じく、広大なる物なのかもしれない。
しかし、一寸先、闇。
「おぉ……ぉお! おぉお! なんと素晴らしい、なんと神々しい……やはり貴方は神にすら匹敵……いや神など食らいつくしてくれましょう……」 
ライズは、経典を取り出し、ぶつぶつと呟き、大蛇を呼び出し、黒のノリアキを、食らわせた。
「おや、世迷子がおりませぬな」
─────────────
フクダは、森を突っ走っていた。
シュイジを抱えて。
フクダは、『爆弾姉弟』の一人に『万』が攻撃されている時、隙を突こうと思い、狙い澄ました。
だが、その状況でさえ『万』から発する、異界なるアメーバの如く、粘り、かつ無形なプレッシャーは、フクダを敵前逃亡を選択させるには容易であった。
「ヤオ! とりあえず逃げるぞ。あれはもう『万』じゃない。いや、むしろ人でも魔女の子孫でもないか……も」
フクダは、右脇に抱えたシュイジを見て絶句した
シュイジの体から片腕がするりと抜け落ちていたのだ。
血は一滴も流れておらず、シュイジの動悸も一貫して、穏やかな物だった。
その姿は進化。
地を駆ける鳥が、羽を要らぬと退化させたのと同じ様に、今シュイジは己の要らぬ部分を削り落としていた。
 
つまりは今、シュイジは、人である事を辞めようとしていた。
闇の汚泥を掻き分け、一筋の小さな光にへと手を伸ばしていた。
その光が、魔物の眼光であるかもしれないリスクすらも考えずに。
「ヤオ! ヤオ!」
フクダは木陰に隠れ、シュイジの肩を揺さぶりながら名前を何度も呼ぶ。
それは、フクダが直感で、この状態が不味いという事を察したからだった。
人間として、人という物からの解離は、人道、いや生物としての道から外れる事になる。
シュイジは、恐れていた。
自分が、人であることに。
全てに酷く恐怖していたシュイジは、自分が、その様な事を思う人間としての自分に、恐怖を抱いた。
そして、御祓が終わり、人という種に対してあやふやであるシュイジは、蛹として殻を破り、新たな生の喘ぎを出そうとしていた。
「俺と一緒に魔女の子孫を殺すんだろ! 甘い物を食って死ぬんだろ?!」
フクダの叫びも虚しく、シュイジの腕はもう一つ、するりと、落ちた。
足も、頭も。
シュイジの泣き顔が、フクダの真下で転がる。
五体完全不足のシュイジから、無数の配管パイプの様な黒が、変態したシュイジを構築していく。
曰く、『ヘラクレス』の目撃情報はない。
曰く、『ヘラクレス』は各地に訪れている。
曰く、『ヘラクレス』は同時に存在した事がある。
曰く神は、時に人に憑く事がある。
それを『神憑り』と言う。
『神憑り』を行うには、神の器にへとならなければならない。
神の器は、身が清らかであるかどうかなのではない。
神の入る隙間を与える。
『マーダージェスター』の『御祓』とは、『身削ぎ』。
そして、蛹とは、神にへとなるための鍵。
鍵の開いたドアを開けるのは容易である。
五体を無くしたのは、個への執着を無くし、無形である神にへと近付くための所業。
そして、その体には、神が宿る。
その神の名は。
『ヘラクレス』
───────────────
「おい!お前!なんでこんな井戸に」
コニカは、井戸の中へと向かって叫んだ。
井戸の中にいる人は、返事をする事なく、コニカを見ている。
「……っち、おい! お前! こっちに来イッ!」
コニカはピエロを呼ぶが、ピエロは共に井戸を覗き見ていた。
「おーい! キミィなんでそんな所にいるんだい?」
ピエロは、楽天的に井戸の人に声をかける。
それでも尚、井戸の人は声を出さなかった。
「んんー、この男の子、声を出さないのではなく、声が出せないっぽいね。分かるよ僕」
ピエロはうんうんと、自分で納得するような素振りを見せた。
これは、事実。
だがしかし、それを判断する能力など無し。
ピエロは分かる。
この井戸の人の正体をも。
「つまり、引き上げてみるしかないのか……」
コニカは、この街を知っているかもしれない井戸の人を、つるべを落とし引き上げた。
井戸から引き上げた時、白い髪が、揺らいだ。
「お前……ッ! ヒルコ! なんでここに!」
確かに、その顔、その背丈、その白い髪は、ヒルコ、その物だった。
「なんと、『万』さんですか。これはこれはご機嫌うるわしゅう。僕です。ウェインです」
ピエロは、ゆたりと井戸の人にへと挨拶をする。
しかし、挨拶を返すことも、反応する事もない。
「……お前、ヒルコじゃないな?」
井戸の人は、一度頷き、ヒルコでない事を意思表明する。
「では、喋れる口のない子、クチナシと呼びましょう」
ピエロは、どこか急かす様に事を進め、井戸の人をクチナシと呼ぶ様促した。
「クチナシ? お前はなんでこうなってるか知ってるのか?」
コニカは、子供に少しばかり甘い声色で話しかけた。
クチナシは、首を大きく横に振るのみで、コニカは大きく溜め息を吐き、クチナシの頭を撫でた。
「んー、どうすればいいでしょう。僕、一度あっちで調べてきますね、コニカさんはクチナシをお願いします」
ピエロは、ひょこひょこと向いの家にへと歩いて行った。
ピエロが、向かいの家を調べ始めた時、クチナシが、コニカの親指を握り、口を開いた。
その声すらも、ヒルコその物だったが、どこか怯えている様で、悲しくも傍観者になってしまった事を表していた。
「あの人、嘘ついてる」
ピエロは笑っている
しかし、ノリアキは、ヒルコの頭を掴んでいるという感覚があった。
故に、本来人間があるはずの、痛みを感じた時に機能を発揮する枷は、感情によって肥大したノリアキの体には、小さすぎた。
二度目の爆破、三度、四度。
数は着々と積み重なり、そして、ヒルコの頭部の感触は無くなっていた。
煙上がるこの惨事は、野次馬ですらどれ程に悲惨だったかを理解が用意であった。
煙晴れる頃には、血の臭い、人々の驚きの漏れ音と、悲痛な叫びが混ざり合い、混声合唱となり、城はノリアキの狂気に飲まれていた。
しかし、見えぬ者は存在していないのではない。
感じないから無い訳ではない。
感じる事が出来ないのだ。
「それで終わりか?」
ヒルコは、死んでなどいない。
いや、『万』は死なない。
例え、眼球溶け流れても、皮剥き出しとなろうと。
例え、骨が露となろうと、例え、死んだとしても、『万』は死なない。
狂気などと安い言葉などでは収まらない。
人間が孕む事ない。獣虫魚鳥、どれにすら当てはまらない。
最早悪魔、いや、恐怖だけを持つ悪魔などでは不相応。
これは、畏敬の一種。
神仏に価する、崇敬と畏れの相反する感情の複合体。
「泣きたいのだろう? 死にたいのだろう? では、黒を受け入れろ」
ノリアキが、『万』を殺めるために犠牲にし、失った右手にへと、ヒルコの腕の様な物を構成していた黒が、伸び、そして、ノリアキを黒へと染めていく。
炭や黒曜石などの黒ではない。
全ての光を飲む、黒。
ノリアキは、黒に包まれた。
そこは、近くも、奥も分からぬ、平坦なる黒。
宇の無き宙と同じく、広大なる物なのかもしれない。
しかし、一寸先、闇。
「おぉ……ぉお! おぉお! なんと素晴らしい、なんと神々しい……やはり貴方は神にすら匹敵……いや神など食らいつくしてくれましょう……」 
ライズは、経典を取り出し、ぶつぶつと呟き、大蛇を呼び出し、黒のノリアキを、食らわせた。
「おや、世迷子がおりませぬな」
─────────────
フクダは、森を突っ走っていた。
シュイジを抱えて。
フクダは、『爆弾姉弟』の一人に『万』が攻撃されている時、隙を突こうと思い、狙い澄ました。
だが、その状況でさえ『万』から発する、異界なるアメーバの如く、粘り、かつ無形なプレッシャーは、フクダを敵前逃亡を選択させるには容易であった。
「ヤオ! とりあえず逃げるぞ。あれはもう『万』じゃない。いや、むしろ人でも魔女の子孫でもないか……も」
フクダは、右脇に抱えたシュイジを見て絶句した
シュイジの体から片腕がするりと抜け落ちていたのだ。
血は一滴も流れておらず、シュイジの動悸も一貫して、穏やかな物だった。
その姿は進化。
地を駆ける鳥が、羽を要らぬと退化させたのと同じ様に、今シュイジは己の要らぬ部分を削り落としていた。
 
つまりは今、シュイジは、人である事を辞めようとしていた。
闇の汚泥を掻き分け、一筋の小さな光にへと手を伸ばしていた。
その光が、魔物の眼光であるかもしれないリスクすらも考えずに。
「ヤオ! ヤオ!」
フクダは木陰に隠れ、シュイジの肩を揺さぶりながら名前を何度も呼ぶ。
それは、フクダが直感で、この状態が不味いという事を察したからだった。
人間として、人という物からの解離は、人道、いや生物としての道から外れる事になる。
シュイジは、恐れていた。
自分が、人であることに。
全てに酷く恐怖していたシュイジは、自分が、その様な事を思う人間としての自分に、恐怖を抱いた。
そして、御祓が終わり、人という種に対してあやふやであるシュイジは、蛹として殻を破り、新たな生の喘ぎを出そうとしていた。
「俺と一緒に魔女の子孫を殺すんだろ! 甘い物を食って死ぬんだろ?!」
フクダの叫びも虚しく、シュイジの腕はもう一つ、するりと、落ちた。
足も、頭も。
シュイジの泣き顔が、フクダの真下で転がる。
五体完全不足のシュイジから、無数の配管パイプの様な黒が、変態したシュイジを構築していく。
曰く、『ヘラクレス』の目撃情報はない。
曰く、『ヘラクレス』は各地に訪れている。
曰く、『ヘラクレス』は同時に存在した事がある。
曰く神は、時に人に憑く事がある。
それを『神憑り』と言う。
『神憑り』を行うには、神の器にへとならなければならない。
神の器は、身が清らかであるかどうかなのではない。
神の入る隙間を与える。
『マーダージェスター』の『御祓』とは、『身削ぎ』。
そして、蛹とは、神にへとなるための鍵。
鍵の開いたドアを開けるのは容易である。
五体を無くしたのは、個への執着を無くし、無形である神にへと近付くための所業。
そして、その体には、神が宿る。
その神の名は。
『ヘラクレス』
───────────────
「おい!お前!なんでこんな井戸に」
コニカは、井戸の中へと向かって叫んだ。
井戸の中にいる人は、返事をする事なく、コニカを見ている。
「……っち、おい! お前! こっちに来イッ!」
コニカはピエロを呼ぶが、ピエロは共に井戸を覗き見ていた。
「おーい! キミィなんでそんな所にいるんだい?」
ピエロは、楽天的に井戸の人に声をかける。
それでも尚、井戸の人は声を出さなかった。
「んんー、この男の子、声を出さないのではなく、声が出せないっぽいね。分かるよ僕」
ピエロはうんうんと、自分で納得するような素振りを見せた。
これは、事実。
だがしかし、それを判断する能力など無し。
ピエロは分かる。
この井戸の人の正体をも。
「つまり、引き上げてみるしかないのか……」
コニカは、この街を知っているかもしれない井戸の人を、つるべを落とし引き上げた。
井戸から引き上げた時、白い髪が、揺らいだ。
「お前……ッ! ヒルコ! なんでここに!」
確かに、その顔、その背丈、その白い髪は、ヒルコ、その物だった。
「なんと、『万』さんですか。これはこれはご機嫌うるわしゅう。僕です。ウェインです」
ピエロは、ゆたりと井戸の人にへと挨拶をする。
しかし、挨拶を返すことも、反応する事もない。
「……お前、ヒルコじゃないな?」
井戸の人は、一度頷き、ヒルコでない事を意思表明する。
「では、喋れる口のない子、クチナシと呼びましょう」
ピエロは、どこか急かす様に事を進め、井戸の人をクチナシと呼ぶ様促した。
「クチナシ? お前はなんでこうなってるか知ってるのか?」
コニカは、子供に少しばかり甘い声色で話しかけた。
クチナシは、首を大きく横に振るのみで、コニカは大きく溜め息を吐き、クチナシの頭を撫でた。
「んー、どうすればいいでしょう。僕、一度あっちで調べてきますね、コニカさんはクチナシをお願いします」
ピエロは、ひょこひょこと向いの家にへと歩いて行った。
ピエロが、向かいの家を調べ始めた時、クチナシが、コニカの親指を握り、口を開いた。
その声すらも、ヒルコその物だったが、どこか怯えている様で、悲しくも傍観者になってしまった事を表していた。
「あの人、嘘ついてる」
ピエロは笑っている
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