遅熟のコニカ
106「サクリャクトゲッコウ」
ノリアキの遺能は、遺能たるそれを証明していた。
ノリアキの祖先は、よもや、クーデターの域に収まらず。
人は呼ぶ、『天災』と。
人は遺す、気付いたら、腹から爆ぜていたと。
人が建てれば奴が壊す。
奴が笑えば、人が消える。
『天災』からは逃げられない。
家に隠れようと、防空壕に隠れようと、シェルターに隠れようと。
この世にいるのであれば、隠れてなどいない。
つまりは、不可避。
人を、物を、そこを、あれを、全てを爆ぜる事の出来る能力。
位置関係など問わず、何処に何があるのか理解さえすれば、発動が出来る。
威力の大小すらも自由自在。
その当時、電子機器の発達がされていなかったのが、唯一の救いだった。
そして、もう一人。
爆破させる能力を持っていたのは父方。
母方の能力とは、距離を時間を測る様な能力だった。
自分から見て正面にいる知らぬ誰かとの距離を正確に測る事が出来る。
一種の千里眼。
それと同時に、行動を起こした際に必要とする経過時間を、正確に測る事が出来る。
ノリアキの祖先が、人を、物を爆ぜさせ、更に言えば人を恐怖に陥れる事が出来たのは、母方の能力の有無が大きく関係していた。
理解をするだけで良かった。
それは、千里眼持ってすれば、造作もない事であった。
そして、二人の間から出た子は、両方の能力を持っていた。
その子が起こした事は、親の名に恥じぬ悪行であった。
しかし、時は流れ、魔女と人の交配の流れに、ノリアキの子孫も逆らう事もなかった。
そして、時代は流れ、今に至った。
異性一卵性双生児であるノリアキとショウコは、二つで一つであった遺能を分け隔ち、双方に劣化した物として与えられた。
ノリアキは、爆ぜさせる物の、自分との距離を正確に理解をしてなければ、自分の見えている場所でさえ爆ぜさせる事が出来ない。
ショウコは、時間と距離をおおよその形で測る事が出来る。
そのため、二人は、人が多く集り、かつ動く事のない建造物を主なターゲットにしていた。
二人で一人。
片割れを無くしたノリアキは、一体何人なのか。
そして、ノリアキは、考えていた。
激情の渦に巻かれ、悲しみによるエゴの塊となり、思考を、狭め、一方通行へと誘う。
何故、誰が、何で、こんな。
イルゼ、sue……
『ハミセトが食い止めている』
嘘だった。
嘘だった。
嘘、裏切り、意図、『万』。
酷く醜い糸は、繋がった。
「……せや」
一人は、城を目指した。
──────────────
「そうか、敵意がないのは分かった。であれば何の目的で近付いた?」
コニカは、完全に修羅との解離に成功した。
ピエロとの対話による意識の移行と、コニカ自身の深い猜疑心によって、自我を蘇えらせる事が出来ていた。
しかしながら、コニカはピエロを疑い続ける事しか出来なかった。
それは、相手の利害の不鮮明さが、コニカの心の揺れを塞いでいた。
ピエロに、なんの利があって近付いたのか、それが自分にとっても利ともなるのか。
それらが、目の前のピエロに心を開く事が出来ない要因となっていた。
「僕はピエロさ。好きな様に歩く、そういう遺能だからね。『歩く探求心』見る? まぁ明日まで使えないけどね」
ピエロは、平然と嘘を吐いた。
即興で作ったその遺能は、存在すらしない物であった。
しかし、コニカはその事を知らずにいた。
「……その遺能がどんな物か聞かねば決めかねない」
コニカは、まんまと引っ掛かった。
「ん? 僕が気になった人を思い浮かべたら、その人がいる場所へ行くことの出来る分類不可の能力さ。まぁ、一日一回限定、更に言えば一日中ずっと、その人の近くにいなければならないんだよね」
もし、本当であった場合、遺能としては異質過ぎる。
しかし、コニカでは判断が難しかった。
それは、無知なのが大きく、更には、自分が想定外である存在であるが故に、想定外が、何処か近しい物であると思ってしまっていた。
その為、納得する、暴論であっても。
「そうか……つまりは敵意も無ければ、私と群れるつもりもないという事だな?」
しかし、コニカが心を完全に開くまでには至らない。
だがしかし、コニカの言葉列は、敵と会話するには相応しくなかった。
扉から顔を覗かせてしまっては、全て顔を見せていないと思っていても、扉の向こうの人物は、その顔を決して忘れない。
後は抉じ開けるだけなのだから。
「まぁ、その通り。だけど僕が出来るあともう一つがあるとするならば、君の第二の目にへと成る事さ」
ピエロは、赤く濡れた家を指した。
コニカは疑り深く、後ろを振り向いた。
そこには、幼児程の者が、爪で引っ掻く様に書いた、『たすけて』の文字だった。
血が、窪みを色濃く写し出していた。
コニカの中にいる修羅が、心を啄んだ。
理解をするには、心の余裕と、材料が足りなかった。
「日常を切り取った様な街、つまりは、生きている死んだ街かな」
それなのに、ピエロはコニカに材料を供給する。
故に生まれる、疑問。
「僕は、放浪者だからね。見たことがあるよ。これは、『墓兵』……マーシャル・ネトルスとかいう奴の仕業だね」
「奴は、『天使の矢』と組んでいて、異教徒を排斥するための役割を担う存在なのさ。そして、この人達は生きている」
それは、意図して敵意を特定の誰かに向け、更に言えば皆が欲する救済を教える、安上がりな人騙しの方法だった。
しかし、つけ込むには最適過ぎた。
ただ、故に生まれる疑問。
「いや、だったらこれは誰が書いたことになるんだ?」
「……ッ! 確かに、つまり一度死んだ街に僕ら以外が誰か来たのかなぁ? 他の場所も探さないと」
ピエロの誤算。
などではない。
最早、会話の流れ上、それを聞くしかなかった。
いや、受け入れるという物もあるが、頭が最低限回る者であれば、そこに気付くのは普通であった。
つまりは、欠陥を、短所を見せる。
結果、相手が思う事とは、見下し、もしくは同情、親近感を得るという物。
結果的な良好な印象をピエロは得る。
対人関係を構築をするのであれば、自分の素晴らしさ、長所、秀でている所を伝えるのではなく、自分の弱味を見せねばならない。
しかし、ピエロは少し前、弱みを見せるなと、コニカに言っていた。
これ自体、ピエロの性格が、一つのミスも見せぬ完璧主義者であるとコニカに思わせるための、布石。
涙すらも顔に描くピエロの所業。
「ヒルコ……何かお前は知らないのか」
コニカは、井戸を覗く、ヒルコに良く似た少年の人形に話しかけ、井戸を中を見た。
その時、コニカは見られていた。
────────────
ヒルコは、今、特段何かを感じているという事は無かった。
自らが生み出し、名前を付け育て上げた子供達が死んだ事にも。
自らの四肢が再び生えている事にも。
自らの行動の自由が蝕まれている事も。
自らの過去も。
最早、どうでも良かった。
「ヒルコ殿、貴方はただ観察するだけで良いのです。激昂も、悲観も、全て必要なし。ただ記憶と把握をしていれば良いのです」
ライズが、話しかけた。
ライズは、喜色に溢れる気色の悪い笑顔を向けていた。
しかし、手綱の握られたヒルコはただ頷くだけだった。
その姿を見て、ライズは笑声を僅かに漏らした。
ヒルコは、ふとこれが、コニカの立場なのだと理解した。
しかし、それを思った所で、無だった。
城のドアが開いた。
低い、そして伸びる声が、聞き取れない言葉を使い、響いた。
その声は、狂乱に暮れる、熊の様に低くおぞましい。
その正体は、ノリアキ、片割れを無くした一人。
「おやおや、ノリアキ殿ではございませんか。只今、甘党の愚者との交戦中でございまして、手を貸して頂けないでしょうか?」
ライズは、虚な表情を作り、ノリアキを、加戦させようとした。
しかし、ノリアキはライズの誘いに答えず、心悪鬼を従え、ヒルコの目の前へと訪れた。
「死ねや」
ヒルコの顔を、ノリアキは掴み、ノリアキの手中が爆ぜた。
ノリアキは、確実な自分との位置が分からなければ、思う通りの場所を爆ぜさせる事が出来ない。
しかし、唯一に近い、一つの方法があった。
それは、ゼロ。
自分の触れた場所を爆ぜさせるのであれば、その距離はゼロ。
考える必要など無し。
しかし、その方法、両刃。
相手を爆ぜさせると共に、自らの手を爆ぜさせるのと同意。
しかし、ノリアキ。
この時点で、未来の事を考えておらず。
故に、小規模ながら、自らの手が燃え朽ちるまで、爆ぜさせる。
肉の臭いが広がる
痛みを感じる。
あった物が消える事を感じる。
全て、ショウコを失った時経験した事。
であれば、ノリアキは止めない。
己が手、失うまで。
目標、殺すまで。
ノリアキの祖先は、よもや、クーデターの域に収まらず。
人は呼ぶ、『天災』と。
人は遺す、気付いたら、腹から爆ぜていたと。
人が建てれば奴が壊す。
奴が笑えば、人が消える。
『天災』からは逃げられない。
家に隠れようと、防空壕に隠れようと、シェルターに隠れようと。
この世にいるのであれば、隠れてなどいない。
つまりは、不可避。
人を、物を、そこを、あれを、全てを爆ぜる事の出来る能力。
位置関係など問わず、何処に何があるのか理解さえすれば、発動が出来る。
威力の大小すらも自由自在。
その当時、電子機器の発達がされていなかったのが、唯一の救いだった。
そして、もう一人。
爆破させる能力を持っていたのは父方。
母方の能力とは、距離を時間を測る様な能力だった。
自分から見て正面にいる知らぬ誰かとの距離を正確に測る事が出来る。
一種の千里眼。
それと同時に、行動を起こした際に必要とする経過時間を、正確に測る事が出来る。
ノリアキの祖先が、人を、物を爆ぜさせ、更に言えば人を恐怖に陥れる事が出来たのは、母方の能力の有無が大きく関係していた。
理解をするだけで良かった。
それは、千里眼持ってすれば、造作もない事であった。
そして、二人の間から出た子は、両方の能力を持っていた。
その子が起こした事は、親の名に恥じぬ悪行であった。
しかし、時は流れ、魔女と人の交配の流れに、ノリアキの子孫も逆らう事もなかった。
そして、時代は流れ、今に至った。
異性一卵性双生児であるノリアキとショウコは、二つで一つであった遺能を分け隔ち、双方に劣化した物として与えられた。
ノリアキは、爆ぜさせる物の、自分との距離を正確に理解をしてなければ、自分の見えている場所でさえ爆ぜさせる事が出来ない。
ショウコは、時間と距離をおおよその形で測る事が出来る。
そのため、二人は、人が多く集り、かつ動く事のない建造物を主なターゲットにしていた。
二人で一人。
片割れを無くしたノリアキは、一体何人なのか。
そして、ノリアキは、考えていた。
激情の渦に巻かれ、悲しみによるエゴの塊となり、思考を、狭め、一方通行へと誘う。
何故、誰が、何で、こんな。
イルゼ、sue……
『ハミセトが食い止めている』
嘘だった。
嘘だった。
嘘、裏切り、意図、『万』。
酷く醜い糸は、繋がった。
「……せや」
一人は、城を目指した。
──────────────
「そうか、敵意がないのは分かった。であれば何の目的で近付いた?」
コニカは、完全に修羅との解離に成功した。
ピエロとの対話による意識の移行と、コニカ自身の深い猜疑心によって、自我を蘇えらせる事が出来ていた。
しかしながら、コニカはピエロを疑い続ける事しか出来なかった。
それは、相手の利害の不鮮明さが、コニカの心の揺れを塞いでいた。
ピエロに、なんの利があって近付いたのか、それが自分にとっても利ともなるのか。
それらが、目の前のピエロに心を開く事が出来ない要因となっていた。
「僕はピエロさ。好きな様に歩く、そういう遺能だからね。『歩く探求心』見る? まぁ明日まで使えないけどね」
ピエロは、平然と嘘を吐いた。
即興で作ったその遺能は、存在すらしない物であった。
しかし、コニカはその事を知らずにいた。
「……その遺能がどんな物か聞かねば決めかねない」
コニカは、まんまと引っ掛かった。
「ん? 僕が気になった人を思い浮かべたら、その人がいる場所へ行くことの出来る分類不可の能力さ。まぁ、一日一回限定、更に言えば一日中ずっと、その人の近くにいなければならないんだよね」
もし、本当であった場合、遺能としては異質過ぎる。
しかし、コニカでは判断が難しかった。
それは、無知なのが大きく、更には、自分が想定外である存在であるが故に、想定外が、何処か近しい物であると思ってしまっていた。
その為、納得する、暴論であっても。
「そうか……つまりは敵意も無ければ、私と群れるつもりもないという事だな?」
しかし、コニカが心を完全に開くまでには至らない。
だがしかし、コニカの言葉列は、敵と会話するには相応しくなかった。
扉から顔を覗かせてしまっては、全て顔を見せていないと思っていても、扉の向こうの人物は、その顔を決して忘れない。
後は抉じ開けるだけなのだから。
「まぁ、その通り。だけど僕が出来るあともう一つがあるとするならば、君の第二の目にへと成る事さ」
ピエロは、赤く濡れた家を指した。
コニカは疑り深く、後ろを振り向いた。
そこには、幼児程の者が、爪で引っ掻く様に書いた、『たすけて』の文字だった。
血が、窪みを色濃く写し出していた。
コニカの中にいる修羅が、心を啄んだ。
理解をするには、心の余裕と、材料が足りなかった。
「日常を切り取った様な街、つまりは、生きている死んだ街かな」
それなのに、ピエロはコニカに材料を供給する。
故に生まれる、疑問。
「僕は、放浪者だからね。見たことがあるよ。これは、『墓兵』……マーシャル・ネトルスとかいう奴の仕業だね」
「奴は、『天使の矢』と組んでいて、異教徒を排斥するための役割を担う存在なのさ。そして、この人達は生きている」
それは、意図して敵意を特定の誰かに向け、更に言えば皆が欲する救済を教える、安上がりな人騙しの方法だった。
しかし、つけ込むには最適過ぎた。
ただ、故に生まれる疑問。
「いや、だったらこれは誰が書いたことになるんだ?」
「……ッ! 確かに、つまり一度死んだ街に僕ら以外が誰か来たのかなぁ? 他の場所も探さないと」
ピエロの誤算。
などではない。
最早、会話の流れ上、それを聞くしかなかった。
いや、受け入れるという物もあるが、頭が最低限回る者であれば、そこに気付くのは普通であった。
つまりは、欠陥を、短所を見せる。
結果、相手が思う事とは、見下し、もしくは同情、親近感を得るという物。
結果的な良好な印象をピエロは得る。
対人関係を構築をするのであれば、自分の素晴らしさ、長所、秀でている所を伝えるのではなく、自分の弱味を見せねばならない。
しかし、ピエロは少し前、弱みを見せるなと、コニカに言っていた。
これ自体、ピエロの性格が、一つのミスも見せぬ完璧主義者であるとコニカに思わせるための、布石。
涙すらも顔に描くピエロの所業。
「ヒルコ……何かお前は知らないのか」
コニカは、井戸を覗く、ヒルコに良く似た少年の人形に話しかけ、井戸を中を見た。
その時、コニカは見られていた。
────────────
ヒルコは、今、特段何かを感じているという事は無かった。
自らが生み出し、名前を付け育て上げた子供達が死んだ事にも。
自らの四肢が再び生えている事にも。
自らの行動の自由が蝕まれている事も。
自らの過去も。
最早、どうでも良かった。
「ヒルコ殿、貴方はただ観察するだけで良いのです。激昂も、悲観も、全て必要なし。ただ記憶と把握をしていれば良いのです」
ライズが、話しかけた。
ライズは、喜色に溢れる気色の悪い笑顔を向けていた。
しかし、手綱の握られたヒルコはただ頷くだけだった。
その姿を見て、ライズは笑声を僅かに漏らした。
ヒルコは、ふとこれが、コニカの立場なのだと理解した。
しかし、それを思った所で、無だった。
城のドアが開いた。
低い、そして伸びる声が、聞き取れない言葉を使い、響いた。
その声は、狂乱に暮れる、熊の様に低くおぞましい。
その正体は、ノリアキ、片割れを無くした一人。
「おやおや、ノリアキ殿ではございませんか。只今、甘党の愚者との交戦中でございまして、手を貸して頂けないでしょうか?」
ライズは、虚な表情を作り、ノリアキを、加戦させようとした。
しかし、ノリアキはライズの誘いに答えず、心悪鬼を従え、ヒルコの目の前へと訪れた。
「死ねや」
ヒルコの顔を、ノリアキは掴み、ノリアキの手中が爆ぜた。
ノリアキは、確実な自分との位置が分からなければ、思う通りの場所を爆ぜさせる事が出来ない。
しかし、唯一に近い、一つの方法があった。
それは、ゼロ。
自分の触れた場所を爆ぜさせるのであれば、その距離はゼロ。
考える必要など無し。
しかし、その方法、両刃。
相手を爆ぜさせると共に、自らの手を爆ぜさせるのと同意。
しかし、ノリアキ。
この時点で、未来の事を考えておらず。
故に、小規模ながら、自らの手が燃え朽ちるまで、爆ぜさせる。
肉の臭いが広がる
痛みを感じる。
あった物が消える事を感じる。
全て、ショウコを失った時経験した事。
であれば、ノリアキは止めない。
己が手、失うまで。
目標、殺すまで。
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