話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

遅熟のコニカ

紙尾鮪

102「アァキミヨ」

 多数の敵、絶対的なる強者。
 どちらと対峙するのが楽かという質問に対しての答えは、それは最早場合による。
 としか言い様がないだろう。

 それほどに、選びがたい選択肢。

 シュイジはそれを分かって多数の敵を取ったのは、『鎖丸』が多数専用の鎖を持っていただけではなかった。

 『マーダージェスター』の御祓を試す事が、どうしても我慢できなかったからだった。

 御祓とは、穢れを落とすもの。
 穢れとは、人という種への固執。

 『マーダージェスター』曰く、人とは、あらゆる物にへと変態出来る蛹だと言った。

 しかし、人は、人という生物にへと固執する事により、蛹は蛹のまま死へと向かう。

 御祓は、自分という郭を壊す方法だった。
 それは、幻覚を見せる『マーダージェスター』しか出来ない業だった。

 しかし、一朝一夕で成れる物でもなく、蛹の殻は、自らを守ってくれる代わりに外へ再び出ることが困難。
 故に殻を破るには肉体を変化させなければならない。
それに成らなければならない。

 ただ、カニバリズムを主とする村の風習がその行動を肯定した。

 シュイジは、ポケットの中の飴をありったけ、口の中に無理矢理入れた。

 シュイジの体に衝撃が走った。
そして、多くの人々が体の中から這い出てくる如く、自らの体が異物を拒んだ。
 しかし、それを喉に通した。

 胃液の中で、飴は溶ける。
 幾十という魔女の子孫の情報が、シュイジという小さな体の中にへと組み込まれていく。

 明らかな異変を表すシュイジに対した『万』の化物は、これが好機と襲いかかっていく。
 一斉に襲うため、 化物同士体をぶつけ合い傷付けていたが、最早その事で足を止める筈もなかった。

 シュイジは、向かってくる化物達の方にへ拳を出し、開いた。

 そして、貫く。

 花が咲き誇る様に、72の化物は全て地面から生えた槍に貫かれ、赤い花の蜜を滴し、花弁と成った。

 巨大、頑強、すべからく関係無しに、地面から生えた槍の一閃は、平等に体を一直線に通り、まるでその光景は彼岸に咲く華。

 そして、シュイジは手を震わせながらも、開いた手を今、閉じた。

 化物達の体は、圧縮される様に体が団子の様に丸められ、血飛沫を散らしてこの世から消える。
 一匹から溢れた眼球が、シュイジを捉えた。

 「柳の木どぅあ」
 頭を押さえもがいていた。
 無数の感情や記憶がシュイジの脳内に流れ込み、泣きながら喜び、幸福を感じ恐怖している。
 飴を食べた数だけの魔女の子孫が、飴に成る時の恐怖を、絶望が頭を殴打する様に刻まれていく。

 そして、耳の穴から、目鼻ない人の顔が出てくる。
 シュイジは、その顔を押し戻そうとするが、視界に入る、嗤う人達、顔の穴から生える人が、シュイジを埋めつくし、シュイジにひたすら叫ぶ様に恐怖を覚えさせた。

───────────────

 フクダの『荒神』との戦闘は、最早戦闘ではなかった。
 一方的な蹂躙。
 もはやサンドバッグ、いや、道に落ちている小石の様だった。

 投げられ、叩き付けられ、蹴られを繰り返す。

 人と人との勝負ではない。
 これでは、最早子供が行うヒーローと怪獣の人形での闘いごっこ遊び。
 勝ちは決まっており、無邪気にただただ、一方的な攻めを行う。
 決まりきった結果を待つだけ。

 フクダは、今、『荒神』の体を踏みつけ、雄叫びを挙げた。
 そして、叫んだ。

 「我、祖国ノ為勝つ!!」

 行った蹂躙は『荒神』の怪力などを諸ともしない力を以てしての物だった。
 まるでその姿は、血に飢えた虎の如く。
 しかし、顔に皮、肉など無く、頭蓋のみ。



 フクダは一向して劣勢だった。
 ただ、シュイジと同じ様に、飴を大量に口に含んだ時、『荒神』がフクダの頭を掴み地面へと叩き落とし、地面に頭を付け、引き摺りながら、三騎士の絵が飾られた壁にへと放り投げられていた。

 しかし、そこで開く門。

 フクダは顔面を失い、顎の骨すらも削れていた。
 即死だった。

 しかし、冥界、フクダを囚う事が出来ず。
 フクダ、死者になりながらも、生還。
 最早人間ではなく、モノノケの類いだったが、それ尚、フクダは『荒神』に挑んだ。

 拮抗した。
 『鎖丸革者』の鎖が、一度死んだフクダにへと力を与えていた。
しかし、それでもフクダが優位にはなれず。

 「足りん、まだ、届かん」
 フクダは、より力を求めた。
 死を求めた。
 勝利の為の敗北を、勝利の為の踏み台を。
 勝つための、生きる為の死を求めた。

 届かぬ実力を、禁忌と呼ばれる、魔の者の力を借り、魔の者を狩る。

 いや、魔の者と成り、狩る。

 フクダは、死を克服した訳ではない。
 怖かった、痛みを恐れていた。
 しかし、それなど一個人としての感情。

 『個を死して公共の為に死ね』

 故に、フクダは、血肉削がれ、骨になろうと、歩みを止めなかった。

 そして、訪れる二度目の死。

 地面に伏した。
 片足が、もがれ、出血多量によるショック死。
 しかし、フクダは、死者に属する事、なき。

 再び、立ち上がった。
 フクダの足が、再生していた。
 驚異なる再生能力、その能力は明らかに人としての範疇から出ていた。

 しかし、それは、人外と成ったフクダにとって、なんら、問題も、疑問もなかった。

 二度目の死を迎えた時、フクダの行動の一手一手が、『荒神』を遥かに凌駕していた。

 腹部にへ掌底。
 『荒神』が、初めて、フクダの攻撃を受けよろけた。
 しかし、たった一手。
 だが、その掌底は、『荒神』の臓物を揺らした。
 その不快感の一瞬を見逃さず、フクダは次手を繰り出した。

 武器を使わなかったのは思い付かなかったからではない、双方とも、自らの脚や拳の方が上回っているという事を理解しているからだ。

 故に、フクダの次手は、前蹴り。
 『荒神』の顔を踏み潰そうとしようと放った蹴りは、『荒神』の口にへと収まった。

 そして、咀嚼。

 フクダの足の骨を噛み砕いた。
 しかし、フクダ、それを機転にへと変え、持ち上げる。
 自分の体の二倍もある『荒神』を、筋肉のみで持ち上げた。そして落とす。

 いや、地面にへ叩き落とす。
 それは、『荒神』自体の体重も相まって、激痛を感じざるが得ない程の衝撃となった。

 「落ちんか、しかし、これがククノチの魂だ」
 『荒神』の口から離れた脚は既に治っていた。

 『荒神』初めての敗北の兆し。
 しかし、尚、『荒神』が、フクダを奥の部屋にへと進む事を防ぐ事だけは達成していた。

 そして、蹂躙が始まる。

───────────────

 「……嘘だろ、あのモルマくんが倒された?」
 『妄話メルヘン』と『爆音努ハネイド』は、マタク=モルマとヘーレの戦いを見ていた。

 そして、思っていた。
 どうせ、マタク=モルマが勝つのだろうと。
 しかし、ヘーレの遺能を見た時、二人は驚愕した。
 己との違い、己の遺能との格差。

 故に感じる、敵の異質さ。

 ただしかし、『妄話』は、もう一つ、違う事に疑問を抱いていた。
 この『観客』の妄信的な程の声援なんだ、と。

 『妄話』自体、絵本という形ではあるが、読者、もとい観客を湧かす事の難しさは熟知していた。
 ヘーレのスピーチ・・・・の技は確かに上手かった、しかし、観客全員を湧かすには足りないと『妄話』は思った。

 状況や立場を加味した所で八割、全てを湧かすにはあと少し足りていなかったと『妄話』は分析した。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く