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遅熟のコニカ

紙尾鮪

101「フカイナイワカン」

 「貴様、ここで、何を」
 妙に白い空、先ほどまでいた白いキューブのような建物がギリギリ見えるような場所に生える大木の影に隠れ、一人と一匹が会話していた。

 「それはこっちの台詞だ。お前はなんであんな所に」
 コニカは、前を隠す様に乱れた服装を正した。
 その口調と仕草はいつものコニカだった。

 「お前に言う、義理、無し。主命に従う、それだけ」

 「それよりも、お前の正体がそんなのだったとはな」
 コニカは、ナニカに深く追求しなかった。
 それはナニカが盲目的な程に、ヒルコを敬愛していた事をコニカは知っていた。

 そのため、ヒルコがやれと言った事には、ナニカは黙って従うのだろうと、コニカは思った。 

 そして、今ナニカは、コニカの頭部に僅か5センチにも満たぬ小さなカメレオンの姿でいた。

 「貫かれ無様な姿を晒していた貴様に言われたくはない」
 ナニカの本来の姿は、親指にも満たぬカメレオンだった。
 その姿は、作った本人のヒルコですら初めて見た時に溜め息をついた程だった。

 しかし、その極小な体は、ナニカの遺能を使う際にとても有効的だった。

 それに加えて学習能力、相手の体の自由を奪え、更には知識を盗めるという遺能。
 故にヒルコは、ナニカを偵察、スパイ、更には監獄の警護の役割を与えた。

 誰にもバレる事なく相手の現状を見ることが出来る姿。
 敵側の知識を危なげなく盗む事が出来る遺能。
 敵の統率を乱すことが用意な遺能は、ヒルコが言うには嘘の様な完成された生物だったらしい。

 「喋り方、忘れてるぞ」
 コニカは薄ら笑いをしながら、くの字に手を作り、パクパクと喋っている風にし、頭に乗ったナニカに見えるように。

 「黙れ。それよりも、貴様はここから離れろ、でなければ次こそは本当に死ぬぞ」
 ナニカは、鬼気迫った表情でコニカに助言した。
 それは、ナニカが出来る唯一の助け船だった。

 「というより、ここは何処なんだ。ククノチか? あと、あの男はなんだ、魔女の子孫か? それとも甘党の輩か?」
 コニカは、思い付く限りの強者がいるであろう者の種類を言った。
 しかし、それらが持つには余る程の力、そして威圧を持っていた。

 「ここはククノチでもない。ただ、この場所から離れろ。そしてアイツ……あの方は……」
 不自然に吹いた一陣の風。
 それのせいかナニカが言おうとした最後の言葉を伝えられなかった。

 そして、ナニカは地面に倒れている老人の耳に入り、ゆっくりと白いキューブの建物にへと向かって歩いていった。

 「……あやふやな情報しか無しか。そして、あの自信家アイツが震えて引き込もって、私が出てくるとは……あの男はなんだ」
 コニカは、現状で持ちうる情報を整理しつつ、この場でどう動くかを考えていた。

 「しかし、ククノチじゃないとしたら、ティーグルブランか?それともシュヴァロコスか?」
 コニカは、ナニカの助言からこの場から離れる事にし、途方もなく歩いていた。

 緑の若い草木絶えず生えるその場所は、現セイリョウククノチ領ハクコの地勢に似ていたが、コニカはこのような場所があるのを確認した事がなかった。

 しかし、記憶の端で静かに主張する物がある気がした。
 ただ、これだけは確かだった。

 この場所は違和感で溢れていた。

 緑溢れる場所にも関わらず、動物の臭いが僅かにも感じ取れなかった。

 そして、地面にも足跡も、糞も、死骸も、虫もいなかった。

 生命循環の輪の中、動物と虫もいなければ、成り立たない筈だったがそれらのいる気配は全くなかった。

 歩いている内、コニカは街であろう場所を見つけた。
 そして違和感を感じた。

───────────────

 「して、ビトレイよ。無事、達成したか?」

 「大団円、分岐、私、達成」

 「んん、まさか此がシナリオ通りだと考える訳ないよねぇ」

───────────────

 シュイジは、黒の子供を見ていた。
 しかし、どう見ても、変色した『万』にしかシュイジは見えなかった。

 しかし、『万』であれば、自分の複写体すら作っている可能性はあった。

 しかし、それらの疑いが浮かぶだけで、解き明かすまでの余裕が、今シュイジにはなかった。

 今、四方を『万』の化け物が囲んでいた。

 トカゲと人を掛け合わせた様な化け物が、よだれを滴し、肩で息をしていた。

 それが四匹、今か今かと、獲物を食べるのを待っている。

 そのトカゲの化け物は、食欲が抑えるという行動が出来なかった。
 故に、食欲を治める行動の、食う事しか知らない。

 そして、四匹一斉にシュイジに向かって飛びかかった。  

 シュイジは、跳び上がった。
それは平面の回避が不可能と踏んだ最善の、凡庸な行動だった。
 凡庸が故に、シュイジはトカゲの化け物に捕らえられる。

 シュイジが跳んだ瞬間、一匹のトカゲの化け物が尻尾を巧みに使い、シュイジの体に尻尾を巻き付け、叩き下ろした。

 叩き下ろしたのは、人間の部分の経験からか、肉は叩けば柔らかくなるという事が本能に組み込まれていたからだ。

 しかし、シュイジは懐に忍ばせていた小刀で尻尾を傷付け、その瞬間に出来る僅かな締め付ける力の緩みによってシュイジは脱出した。

 この攻防、僅か30秒にも満たなかったが、シュイジにとっては死ぬまで終わらない物と感じた。

 「……死ぬか」
 シュイジは、舌を出し、四匹に少し溶けた飴を見せびらかし、一気に飲み込んだ。

 シュイジの『鎖丸』の名は『鎖丸正義サガンセイギ』。
 材料となった者の名は澤熊サワグマリン

 そして、シュイジは一時、その場に佇んだ
 トカゲの化け物達は一斉にシュイジへと向かい走っていく。
 その瞬間見えた剣光。
 そして、三つの首が落ちる。

 「ほぇ、つよいにゅぁ」
 シュイジは、先の丸い大剣を軽々と持ち、残った一匹のトカゲの化け物を見る。
 そのトカゲの化け物は、すんでの所でシュイジの断首を避けていた。
 故に、量産のみを目的としておらず、結果的に数の増えた強者を揃える、そこから見ても、黒の子供は『万』であると思えた。

 がしかし、シュイジは、以前感じたシュイジの覇気とは全く違う物と感じた。

 以前の『万』の覇気は、突き刺さり警告を発する様な鋭い覇気だったのに対し、今の『万』の覇気は、まるで毒壺に体を漬けられている様な、身の毛よだつ覇気。

 そして、黒の子供は己の体に手を入れ体を開く。
 まるで自らの体という家の鍵の風体。

 その家から、鬼、悪魔、怪物などと呼ばれるであろう生物が、小さき体から現れる。
 決して全て小さい訳ではない、黒の子供の体の二倍程ある者も等しくその扉から現れる。

 その数、約72体。

 しかし、『鎖丸正義』によって、シュイジが使用可能となった鎖の中で、今尚使用中の鎖、『不解散罪之剣フカイサンザイノツルギ』は、この状況には相性がとても良かった。

 この鎖は、自らが単独で相手へ挑み、尚且つ相手が複数でなければ使えず、相手が多ければ多いほど、その鎖を使う者の身体能力は上昇する。

 故に、対多数専用の鎖、だからこそ、シュイジは一人で黒の子供と神父に対峙していた。

 「つっても、これキツくにゅえー?」
 しかし、内心一つも弱音を吐かず、最早昂るのみだった。

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