遅熟のコニカ
100「アラブルカミ」
シュイジとフクダは、扉を開いた。
扉の向こうは、まるで博物館のように、マンティデが営業していた時に使っていた鎧や剣、そして行った栄光が年代順に書かれた本が売られていた。
そして、大きく壁に飾られた『栄華に導いた三騎士』と題名付けられた絵画があった。
そこには、剣を携え片膝を着く三人の女騎士がいた。
フクダは、その一人が『生母事』である事を確認し、他の女騎士の名前をも確認した。
理想の騎士『アイビー・コニカ』
都督の騎士『ヴーディカ・イケニ』
信愛の騎士『ジハンヌ・アーク』
フクダは安堵した、少なくとも名前の割れている手配犯の中に『アイビー・コニカ』以外がいない事に。
「アイビー・コニカか。アイツに教えてやらんとな」
フクダはそう言うと、奥の扉を開けているシュイジを追いかけた。
「おい、やたらめったらに漁るな、俺らはこれでも不法捜査中だぞ?」
シュイジの肩を掴んだフクダは、驚愕というより、危機した。
暗闇の部屋、女の生首を掴み歩く、一人の大男が、扉を開けた先、僅か一メートルにも満たぬ距離にいたからだ。
血飛沫浴び、真っ赤に濡れた体、顔、そして眼がこちらを捉え、離さなかった。
「ふっくんあ」
 「黙れッ、挑発するな。とりあえず扉を閉めろ、一気に、そして構えろ」
フクダが、何かを言おうとしたシュイジの口を咄嗟に塞ぐ。
フクダは、猛獣と会った時の対処の仕方をするしかなかった。
シュイジが大人しかったのは、大男に気圧されているのではなく、フクダが異様に恐れている事に驚いているからだった。
シュイジは、『マーダージェスター』から御祓を受けた後、明らかに慢心していた。
それはフクダが自分の慢心を制してしまう程で、自分が止めねば足元を掬われてしまいかねないと危機感を思わせるほどだった。
そして、一気に、力一杯に、扉が壊れてしまうかもしれない勢いで、フクダは扉を閉めた。
しかし、扉の残像見切れる中、大男の顔が近付いて来るのが見え、そして、壁から手が生える。
手は獲物を求め、のたうち回るが、獲物が近くにいない事が分かると、ゆっくりと手を引き抜いた。
さっきまでの轟音でうるさかった城の中が、何もなかったかのように、音はなかった。
ゆっくりと、ドアノブが、回る。
その時間、ドアノブが回るのと同期して過ぎていく。
しかし、背後から風。
シュイジがチラッと後ろを見た。
神父と、小さな子供。
一見無視して、目の前の大男の相手に専念せねばと思ってはいたが、目を離す事が出来なかった。
目の前の事を捨て置いても、あっちに専念しなければならない。
そうシュイジが思うほどに。
「ヤオ!! 来るぞ!! ヤオ!!」
フクダは、シュイジの名前を叫び、構えさせようとしたが、後方見たままで、一向にこちらを見ようとしないシュイジに、苛立ちが込み上げた。
「お前いい加減にしろ!! ふざけるのはちゃんと状況を判断し……」
フクダは、シュイジの肩を掴み、叱責するが、シュイジの様子が明らかにおかしく、先程まであった慢心が全て消えている様に思えた。
それは、フクダが視界スレスレに映った二人が、明確ではないが、手配書に書かれた人物に似ている様に見えたからだった。
しかし、黒い子供をフクダは見たことがなかった。
「ふっくん……ごめんけど一人でいける?」
シュイジが、ポケットから一つ、栗色の飴を取り出し、口の中に放った。
「……ッいくしかねェだろこれは」
フクダは、拳銃を構えた。
そして、互いに背中を預けた。
ドアが、破れる。
それは、かの神話の、かの手配書の、書き連ねられた、単語に、納得してしまう。
『荒神』
それの全貌と対峙したフクダは、自らが今持っている拳銃が、玩具のような物に感じた。
畏怖が襲う。
ただ、『荒神』は、そのような事を知らない。
故、一つ、雄叫びをあげた。
それは身震い処か、体を硬直させる程の見えない圧迫感と絶望。
体を鷲掴みされ、口の中を覗いているかの様な、どうしようもない、諦めの、境地。
フクダの背中に感じていた熱が無くなった。
フクダの体は、後ろへ倒れる。
思考の花、可能性の実。
シュイジが、戦っている。
その事実。
フクダは、ふんばり、立ち上がった。
そして、面と向かう。
自らの体躯の二倍、それ以上ある化け物、半裸の姿、岩石のようにある筋肉は、皮膚を赤くしている。
拳は顔程に。
「人間拡大しただけか、勝てるな」
フクダは、拳銃の引き金に指を伸ばす。しかし、気づけば、空中にフクダはいた。
フクダは、勝てる筈もない。
飴がなければ。
口の中、小さくなっていた、飴を、噛み砕いた。
通称飴。
本式名称、『鎖丸』
飴の形状に酷似しており、味も甘い。
魔女の子孫には、強い遺伝能力が備わっているという事が、魔女研究家によって暴かれ、これをどうにか応用出来ないかという研究の結果の末、出来たのがこの『鎖丸』。
『鎖丸』の主な材料は、魔女の子孫の肉片、血などの体の一部があれば作成可能であった。
故、『鎖丸』を食べ強くなれば、強くなる程に、また新たな強い『鎖丸』が手に入るというものだった。
そして、『鎖丸』には各々名前が振り分けられている。
フクダが食べた『鎖丸』の名前は。
『鎖丸革者』
材料となった魔女の子孫の名前は、ジュジュル・ヴォヴォルト一世。
この『鎖丸革者』は、ジュジュル・ヴォヴォルト一世の鎖を扱う事が出来る。
その、ジュジュル・ヴォヴォルト一世の鎖とは、自分が窮地に追い込まれる程に、強くなるという物だった。
フクダは、砕けた肋の痛みから漏れた液が、四肢をに染み、溢れる激情と力を産み出している事を実感した。
空中、様々な事が目に映っていた。
シュイジの戦闘状況、『荒神』の目線、そして床に画かれた紋様。
そして、降下する、まさに落雷が如く。
肘での打ち下ろし、それは大男の首元辺りへと落とされる。
雷の様な、何処か他人事な物ではない、突如降り注ぎ他者の体を貪るのは最早病魔に等しいであろう。
突き刺さった。
しかし、『荒神』が体勢を崩す事無し、真逆、フクダの肘に痛み、痺れ広がる。
まるで、千年も生きた大木の幹に打ったかの様な感覚。
揺らす事も、響かす事も不可能と感じた。
が、故に鎖は強く反応する。
痛みが、逆境が、辛さが、絶望が、全てが昂り、力にへと変えた。
しかし、『荒神』と渡り合うには、死ぬという方法しかない事はフクダは薄々感じていた。
────────────
今、白の部屋にはコニカしかいない。
コニカは今、不思議と焦っていた。
それは焦燥感に駆られていたという、ただそれだけだった。
しかし、何がコニカの焦燥感を掻き立てたのか。
その答えは単純明快。
己の体の自由が蝕まれていっている事。
それと同時に、体に刺さった槍を、自分ではない自分が抜こうとしていることが疑問よりも前に、焦りに繋がった。
意識が剥がれかけているのではなく、決定的に、第三者の様な存在が自分の体を操作しているとコニカは思った。
コニカの体から槍は抜かれ、床に落ちた。
コニカの体には穴など無かった。あったのは服の裂けた跡。
コニカは立ち、歩いた。
コニカの脳は、その様な命令は出していない。
妙に視野が広かった。
まるで、自分が着ぐるみとなっており、内側に誰かが入っている様だった。
コニカは、白い部屋の扉を開け、音を発す事なく、家に住むヤモリの様に白い廊下を走っていった。
「気色悪い、直ぐ様、離脱すべき」
コニカの口調は変わり、服が裂けた隙間からは、濃緑の鱗がチラついていた。
今、コニカは何かになっていた。
扉の向こうは、まるで博物館のように、マンティデが営業していた時に使っていた鎧や剣、そして行った栄光が年代順に書かれた本が売られていた。
そして、大きく壁に飾られた『栄華に導いた三騎士』と題名付けられた絵画があった。
そこには、剣を携え片膝を着く三人の女騎士がいた。
フクダは、その一人が『生母事』である事を確認し、他の女騎士の名前をも確認した。
理想の騎士『アイビー・コニカ』
都督の騎士『ヴーディカ・イケニ』
信愛の騎士『ジハンヌ・アーク』
フクダは安堵した、少なくとも名前の割れている手配犯の中に『アイビー・コニカ』以外がいない事に。
「アイビー・コニカか。アイツに教えてやらんとな」
フクダはそう言うと、奥の扉を開けているシュイジを追いかけた。
「おい、やたらめったらに漁るな、俺らはこれでも不法捜査中だぞ?」
シュイジの肩を掴んだフクダは、驚愕というより、危機した。
暗闇の部屋、女の生首を掴み歩く、一人の大男が、扉を開けた先、僅か一メートルにも満たぬ距離にいたからだ。
血飛沫浴び、真っ赤に濡れた体、顔、そして眼がこちらを捉え、離さなかった。
「ふっくんあ」
 「黙れッ、挑発するな。とりあえず扉を閉めろ、一気に、そして構えろ」
フクダが、何かを言おうとしたシュイジの口を咄嗟に塞ぐ。
フクダは、猛獣と会った時の対処の仕方をするしかなかった。
シュイジが大人しかったのは、大男に気圧されているのではなく、フクダが異様に恐れている事に驚いているからだった。
シュイジは、『マーダージェスター』から御祓を受けた後、明らかに慢心していた。
それはフクダが自分の慢心を制してしまう程で、自分が止めねば足元を掬われてしまいかねないと危機感を思わせるほどだった。
そして、一気に、力一杯に、扉が壊れてしまうかもしれない勢いで、フクダは扉を閉めた。
しかし、扉の残像見切れる中、大男の顔が近付いて来るのが見え、そして、壁から手が生える。
手は獲物を求め、のたうち回るが、獲物が近くにいない事が分かると、ゆっくりと手を引き抜いた。
さっきまでの轟音でうるさかった城の中が、何もなかったかのように、音はなかった。
ゆっくりと、ドアノブが、回る。
その時間、ドアノブが回るのと同期して過ぎていく。
しかし、背後から風。
シュイジがチラッと後ろを見た。
神父と、小さな子供。
一見無視して、目の前の大男の相手に専念せねばと思ってはいたが、目を離す事が出来なかった。
目の前の事を捨て置いても、あっちに専念しなければならない。
そうシュイジが思うほどに。
「ヤオ!! 来るぞ!! ヤオ!!」
フクダは、シュイジの名前を叫び、構えさせようとしたが、後方見たままで、一向にこちらを見ようとしないシュイジに、苛立ちが込み上げた。
「お前いい加減にしろ!! ふざけるのはちゃんと状況を判断し……」
フクダは、シュイジの肩を掴み、叱責するが、シュイジの様子が明らかにおかしく、先程まであった慢心が全て消えている様に思えた。
それは、フクダが視界スレスレに映った二人が、明確ではないが、手配書に書かれた人物に似ている様に見えたからだった。
しかし、黒い子供をフクダは見たことがなかった。
「ふっくん……ごめんけど一人でいける?」
シュイジが、ポケットから一つ、栗色の飴を取り出し、口の中に放った。
「……ッいくしかねェだろこれは」
フクダは、拳銃を構えた。
そして、互いに背中を預けた。
ドアが、破れる。
それは、かの神話の、かの手配書の、書き連ねられた、単語に、納得してしまう。
『荒神』
それの全貌と対峙したフクダは、自らが今持っている拳銃が、玩具のような物に感じた。
畏怖が襲う。
ただ、『荒神』は、そのような事を知らない。
故、一つ、雄叫びをあげた。
それは身震い処か、体を硬直させる程の見えない圧迫感と絶望。
体を鷲掴みされ、口の中を覗いているかの様な、どうしようもない、諦めの、境地。
フクダの背中に感じていた熱が無くなった。
フクダの体は、後ろへ倒れる。
思考の花、可能性の実。
シュイジが、戦っている。
その事実。
フクダは、ふんばり、立ち上がった。
そして、面と向かう。
自らの体躯の二倍、それ以上ある化け物、半裸の姿、岩石のようにある筋肉は、皮膚を赤くしている。
拳は顔程に。
「人間拡大しただけか、勝てるな」
フクダは、拳銃の引き金に指を伸ばす。しかし、気づけば、空中にフクダはいた。
フクダは、勝てる筈もない。
飴がなければ。
口の中、小さくなっていた、飴を、噛み砕いた。
通称飴。
本式名称、『鎖丸』
飴の形状に酷似しており、味も甘い。
魔女の子孫には、強い遺伝能力が備わっているという事が、魔女研究家によって暴かれ、これをどうにか応用出来ないかという研究の結果の末、出来たのがこの『鎖丸』。
『鎖丸』の主な材料は、魔女の子孫の肉片、血などの体の一部があれば作成可能であった。
故、『鎖丸』を食べ強くなれば、強くなる程に、また新たな強い『鎖丸』が手に入るというものだった。
そして、『鎖丸』には各々名前が振り分けられている。
フクダが食べた『鎖丸』の名前は。
『鎖丸革者』
材料となった魔女の子孫の名前は、ジュジュル・ヴォヴォルト一世。
この『鎖丸革者』は、ジュジュル・ヴォヴォルト一世の鎖を扱う事が出来る。
その、ジュジュル・ヴォヴォルト一世の鎖とは、自分が窮地に追い込まれる程に、強くなるという物だった。
フクダは、砕けた肋の痛みから漏れた液が、四肢をに染み、溢れる激情と力を産み出している事を実感した。
空中、様々な事が目に映っていた。
シュイジの戦闘状況、『荒神』の目線、そして床に画かれた紋様。
そして、降下する、まさに落雷が如く。
肘での打ち下ろし、それは大男の首元辺りへと落とされる。
雷の様な、何処か他人事な物ではない、突如降り注ぎ他者の体を貪るのは最早病魔に等しいであろう。
突き刺さった。
しかし、『荒神』が体勢を崩す事無し、真逆、フクダの肘に痛み、痺れ広がる。
まるで、千年も生きた大木の幹に打ったかの様な感覚。
揺らす事も、響かす事も不可能と感じた。
が、故に鎖は強く反応する。
痛みが、逆境が、辛さが、絶望が、全てが昂り、力にへと変えた。
しかし、『荒神』と渡り合うには、死ぬという方法しかない事はフクダは薄々感じていた。
────────────
今、白の部屋にはコニカしかいない。
コニカは今、不思議と焦っていた。
それは焦燥感に駆られていたという、ただそれだけだった。
しかし、何がコニカの焦燥感を掻き立てたのか。
その答えは単純明快。
己の体の自由が蝕まれていっている事。
それと同時に、体に刺さった槍を、自分ではない自分が抜こうとしていることが疑問よりも前に、焦りに繋がった。
意識が剥がれかけているのではなく、決定的に、第三者の様な存在が自分の体を操作しているとコニカは思った。
コニカの体から槍は抜かれ、床に落ちた。
コニカの体には穴など無かった。あったのは服の裂けた跡。
コニカは立ち、歩いた。
コニカの脳は、その様な命令は出していない。
妙に視野が広かった。
まるで、自分が着ぐるみとなっており、内側に誰かが入っている様だった。
コニカは、白い部屋の扉を開け、音を発す事なく、家に住むヤモリの様に白い廊下を走っていった。
「気色悪い、直ぐ様、離脱すべき」
コニカの口調は変わり、服が裂けた隙間からは、濃緑の鱗がチラついていた。
今、コニカは何かになっていた。
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