遅熟のコニカ
96「タイカノマキ」
その黒は、目から、耳から、口から、四肢の断面から流れ出ていた。
まるでそれは、今や今やと迫り来る黒雲の威風に良く似た雰囲気を持ったまま、月明かり照らす教会を手中に納めていく。
それは月を隠す雲が如く姿だったが、それを観測する物はいない。
いたのは、黒く濁る白だったヒルコと、両手を広げ抱き締めようとするライズ達だけだった。
月は飲まれたまま沈み、太陽は雲を晴らす。
────────────────
「……やっぱりかぁ。してやられたにゃー」
マタク=モルマは、洞窟の外を見て、泉の頭を叩きながら呑気に言った。
「何か罠でも?」
泉は、マタク=モルマが頭を叩いている事など塵ほどにも気にせず外の様子を見るが、特に泉には異変を感じられなかった。
外の景色は、何の変哲もない朝霧のかかる森だった。
「いやぁ罠と言えば罠か、えっとだね。イシヅクリの特徴は知ってるかな?」
マタク=モルマは、積み石を指差した。
五段で完成された積み石は、人が作ったような精巧さだった。
それが一つ足元にあった。
「安全な居住区になりそうな場所を仲間に教えるため、石を積み重ね目印を作る。という習性の事を言っているのですか?」
「そう、それだよ。つまりは目印、しかし遠くにいる仲間に伝えるにはあまりにも目立たない標識だよにぇ」
「まさか……偽物ですか?」
「いんや、平均的に積み石の高さはこれくらい。目印を使用するのであれば、高い場所に目印を置くか、複数の目印を設置するか、どっちかだよ、つまりイシヅクリの積み石が複数なければならないんだよにゃ」
外には、一切積み石はなかった。
それから得られる憶測は多くはないが、情報価値は安い物ではない。
「大きく分ければ二つ、外の積み石を誰かが全て壊したか、もしくは、入った場所とは違う場所に今いるかのどちらかだにぇ」
朝霧が隠す景色の正体は、煉瓦造りの建物並ぶ街が遠くから見えた。
ウェンズ大陸にある四大国の健造方法には、各国独自の特徴が見られる。
セイリョウククノチは、主に鉄筋コンクリートによる建造物。
フォニクスは、木や藁などの自然素材を使った建築法。
シュヴァロコスの情報公開はまだなされていない。
煉瓦造りを使用する国は、旧ティーグルブラン帝国。
現セイリョウククノチ領ハクコのみだった。
トキハカシ洞窟は、オキザカル監獄から約10km程度しか離れていない。
しかし、この場所は現セイリョウククノチ領ハクコの中心部だった。
「これは怠いな、というよりこれ出来ないでしょ普通。広範囲生命体限定の完全転移、というより転換か? 自然にへの干渉が出来る……めんどくさいな魔女がいるにぇ。イルゼと変わらないもしくはイルゼよりも純血」
マタク=モルマは、今現状が単純な物ではなく、複雑に入り組んだ物だと理解した。
増殖型sue、コニカの嘘、イルゼの感染、ハミセトの行方、純血の魔女、Eiのレプリカ、そしてノリアキの真意。
どれもこれもが、マタク=モルマにとっては酷く嬉しく、笑う事を堪えきれない物だった。
「行くよ、泉くん。もちろん、一番おっきなお城にへと。嫌だけどアイツもいるからねぇ」
マタク=モルマは泉に掴まり、街へと降りていった。
『爆音怒』は、洞窟に一つあった積み石を蹴り飛ばし『妄話』と共に街へと降りていった。
『博徒太夫』は積み石に使われていた石を1つ手に取り懐に入れた。
フゥ・ドゥートゥーは四足歩行でついていった。
──────────────
「コニカ先輩の心音の付いた布だぁ……。ありがとうございます、えっと……弱い誰かさん」
ヘーレは、壁に凭れ倒れるエンドウに軽く会釈をした。
エンドウの身体には腕と足が一本ずつ無く、血を流し続ける事しかエンドウには出来なかった。
「おや、ヘーレ。客人は何処に行ったのですか?」
「私達へ地図を残してかえりました。宝地図を、私達の栄華への道標ですよ」
返り血を拭くことなく、ヘーレはその場に剣を放った。
エンドウが負ける筈もなかった、エンドウの実力は、あの会合の中でも三本指に入る物だった。
だが、よもやエンドウが返り血を被る事すら出来ない程の結果だった。
ヘーレは、エンドウを軽く持ち上げEiの前にへと立った。
──────────────
「敗北はこれで終わりだ。我ら祖国に届けるは勝利の二文字。死んでも敗けはせんぞ」
フクダは、一昔前の戦争時に用いられた麹塵色の軍服を着ており、被っている帽子を直した。
「負けにゅぇえ、だって僕達今、強いかりゅあ」
御祓で得た事は、道理に反していた。
堺が定めた警察道十戒の中の1つ、『異を求めず、人間である事に誉れを持て』に反していた。
しかし、この生き残り戦、生戦には、生き残るには、虎の威を借りねば勝てない。
「たった二人、更には箱すら無しでハンデも過ぎるな」
フクダは、シュイジの頭を力強く掻き乱し、城下を見渡す。
ここは、旧ティーグルブラン帝国。
甘党は、甘物を懐にしまい、一人全殺を掲げ、人間だった化物は今戦を始めようとしていた。
「あぁ殺せ殺せ殺してしまえ、魔女を殺してしまえ、鎖持ちを殺してしまえ、祖国に仇なす者を殺してしまえ……全てを殺してしまえ」
シュイジは、ピエロの様に壊れながら笑った。
────────────
「大火を燃すにも、火種は小さくあっても構わない。必要なのは薪だ、つまりは要素を増やせば自ずと燃え上がる」
男はひれ伏す十数の人に、説くように言う。
ひれ伏す十数の人は、男を敬愛しており、更に言えば掲げられた一人の女を神格化している。
「我が薪は回収した、だがここの薪は偶然、いや意図せず産まれ落ちた奇跡であろう。故に、此度は燃ゆる」
男は、槍で貫かれ壁に掲げられた女を見上げ、鼻で笑い、一息つく。
「ただしかし、近日の戦は大火の争い、簡単には落ちぬ。だがこれこそ神に届くが手、易々と神に成っては最早興醒め、苦行を経て神にへと届くのだ」
「残るはwonとakuにsue。神の遺物を手に入れ、我らは神にへと昇華される」
そう言い終えたら、皆が拍手を絶えず続けた。
拍手の音は、彼の心臓の鼓動音と同期し、心地よく、そして安らかに感じた。
「コロォ……ス……」
女は、威勢の良い言葉を吐いただけで終わった。
生きているという事だけでも奇跡に近い物であろう、更に自分が今置かれている状況が分からない筈でもないだろう。
だがそれらを感じさせない言葉を吐いた。
ただ現状が変わる事などなかった。
女は死ぬこともなく、掲げられたまま殺意を撒き散らしながら生きていく。
まるでそれは、今や今やと迫り来る黒雲の威風に良く似た雰囲気を持ったまま、月明かり照らす教会を手中に納めていく。
それは月を隠す雲が如く姿だったが、それを観測する物はいない。
いたのは、黒く濁る白だったヒルコと、両手を広げ抱き締めようとするライズ達だけだった。
月は飲まれたまま沈み、太陽は雲を晴らす。
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「……やっぱりかぁ。してやられたにゃー」
マタク=モルマは、洞窟の外を見て、泉の頭を叩きながら呑気に言った。
「何か罠でも?」
泉は、マタク=モルマが頭を叩いている事など塵ほどにも気にせず外の様子を見るが、特に泉には異変を感じられなかった。
外の景色は、何の変哲もない朝霧のかかる森だった。
「いやぁ罠と言えば罠か、えっとだね。イシヅクリの特徴は知ってるかな?」
マタク=モルマは、積み石を指差した。
五段で完成された積み石は、人が作ったような精巧さだった。
それが一つ足元にあった。
「安全な居住区になりそうな場所を仲間に教えるため、石を積み重ね目印を作る。という習性の事を言っているのですか?」
「そう、それだよ。つまりは目印、しかし遠くにいる仲間に伝えるにはあまりにも目立たない標識だよにぇ」
「まさか……偽物ですか?」
「いんや、平均的に積み石の高さはこれくらい。目印を使用するのであれば、高い場所に目印を置くか、複数の目印を設置するか、どっちかだよ、つまりイシヅクリの積み石が複数なければならないんだよにゃ」
外には、一切積み石はなかった。
それから得られる憶測は多くはないが、情報価値は安い物ではない。
「大きく分ければ二つ、外の積み石を誰かが全て壊したか、もしくは、入った場所とは違う場所に今いるかのどちらかだにぇ」
朝霧が隠す景色の正体は、煉瓦造りの建物並ぶ街が遠くから見えた。
ウェンズ大陸にある四大国の健造方法には、各国独自の特徴が見られる。
セイリョウククノチは、主に鉄筋コンクリートによる建造物。
フォニクスは、木や藁などの自然素材を使った建築法。
シュヴァロコスの情報公開はまだなされていない。
煉瓦造りを使用する国は、旧ティーグルブラン帝国。
現セイリョウククノチ領ハクコのみだった。
トキハカシ洞窟は、オキザカル監獄から約10km程度しか離れていない。
しかし、この場所は現セイリョウククノチ領ハクコの中心部だった。
「これは怠いな、というよりこれ出来ないでしょ普通。広範囲生命体限定の完全転移、というより転換か? 自然にへの干渉が出来る……めんどくさいな魔女がいるにぇ。イルゼと変わらないもしくはイルゼよりも純血」
マタク=モルマは、今現状が単純な物ではなく、複雑に入り組んだ物だと理解した。
増殖型sue、コニカの嘘、イルゼの感染、ハミセトの行方、純血の魔女、Eiのレプリカ、そしてノリアキの真意。
どれもこれもが、マタク=モルマにとっては酷く嬉しく、笑う事を堪えきれない物だった。
「行くよ、泉くん。もちろん、一番おっきなお城にへと。嫌だけどアイツもいるからねぇ」
マタク=モルマは泉に掴まり、街へと降りていった。
『爆音怒』は、洞窟に一つあった積み石を蹴り飛ばし『妄話』と共に街へと降りていった。
『博徒太夫』は積み石に使われていた石を1つ手に取り懐に入れた。
フゥ・ドゥートゥーは四足歩行でついていった。
──────────────
「コニカ先輩の心音の付いた布だぁ……。ありがとうございます、えっと……弱い誰かさん」
ヘーレは、壁に凭れ倒れるエンドウに軽く会釈をした。
エンドウの身体には腕と足が一本ずつ無く、血を流し続ける事しかエンドウには出来なかった。
「おや、ヘーレ。客人は何処に行ったのですか?」
「私達へ地図を残してかえりました。宝地図を、私達の栄華への道標ですよ」
返り血を拭くことなく、ヘーレはその場に剣を放った。
エンドウが負ける筈もなかった、エンドウの実力は、あの会合の中でも三本指に入る物だった。
だが、よもやエンドウが返り血を被る事すら出来ない程の結果だった。
ヘーレは、エンドウを軽く持ち上げEiの前にへと立った。
──────────────
「敗北はこれで終わりだ。我ら祖国に届けるは勝利の二文字。死んでも敗けはせんぞ」
フクダは、一昔前の戦争時に用いられた麹塵色の軍服を着ており、被っている帽子を直した。
「負けにゅぇえ、だって僕達今、強いかりゅあ」
御祓で得た事は、道理に反していた。
堺が定めた警察道十戒の中の1つ、『異を求めず、人間である事に誉れを持て』に反していた。
しかし、この生き残り戦、生戦には、生き残るには、虎の威を借りねば勝てない。
「たった二人、更には箱すら無しでハンデも過ぎるな」
フクダは、シュイジの頭を力強く掻き乱し、城下を見渡す。
ここは、旧ティーグルブラン帝国。
甘党は、甘物を懐にしまい、一人全殺を掲げ、人間だった化物は今戦を始めようとしていた。
「あぁ殺せ殺せ殺してしまえ、魔女を殺してしまえ、鎖持ちを殺してしまえ、祖国に仇なす者を殺してしまえ……全てを殺してしまえ」
シュイジは、ピエロの様に壊れながら笑った。
────────────
「大火を燃すにも、火種は小さくあっても構わない。必要なのは薪だ、つまりは要素を増やせば自ずと燃え上がる」
男はひれ伏す十数の人に、説くように言う。
ひれ伏す十数の人は、男を敬愛しており、更に言えば掲げられた一人の女を神格化している。
「我が薪は回収した、だがここの薪は偶然、いや意図せず産まれ落ちた奇跡であろう。故に、此度は燃ゆる」
男は、槍で貫かれ壁に掲げられた女を見上げ、鼻で笑い、一息つく。
「ただしかし、近日の戦は大火の争い、簡単には落ちぬ。だがこれこそ神に届くが手、易々と神に成っては最早興醒め、苦行を経て神にへと届くのだ」
「残るはwonとakuにsue。神の遺物を手に入れ、我らは神にへと昇華される」
そう言い終えたら、皆が拍手を絶えず続けた。
拍手の音は、彼の心臓の鼓動音と同期し、心地よく、そして安らかに感じた。
「コロォ……ス……」
女は、威勢の良い言葉を吐いただけで終わった。
生きているという事だけでも奇跡に近い物であろう、更に自分が今置かれている状況が分からない筈でもないだろう。
だがそれらを感じさせない言葉を吐いた。
ただ現状が変わる事などなかった。
女は死ぬこともなく、掲げられたまま殺意を撒き散らしながら生きていく。
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