遅熟のコニカ
92「ゾウショクシテアヤツラレ」
『妄話』
罪状、悪魔信仰、略取・誘拐罪、逃走。
被害者数 130人
『妄話』はただの童話作家だった。『妄話』の書いた童話は東へ西へ、南へ広がり、子供で読んだことのない者などいないとまで言われた程だった。
しかし、いつの日から、童話の内容を疑う者が現れた。
一つ、赤い頭巾を被った女児が、狼に食われる様な話がある。
その結末は狩人が狼の腹を開き、赤い頭巾の女児を救い出すという。
ある者は言った。
狼とは悪魔と、赤い頭巾の女児は神と、狩人は自分自身を暗喩しているという。
つまりは、悪魔は神を食い、悪魔の腹を見るものは、悪魔の中身を知るという。悪魔信仰の布教とこじつけられた。
そのような話が幾つもあり、『妄話』は、何時しか悪魔信仰のレッテルを張られ、挙げ句の果てには、裁判にかけられ、終身刑を下された。
しかし『妄話』は、一週間程経った頃、突如として牢屋から消えた。
残っていたのは、一枚の紙と、そこに綴られた童話だったという。
その後、『妄話』は一冊の童話を出版した。
名前を変えて。
その本の名前は、『ハーメルンの笛吹き』だった。
その後、それを見た子供達は何処かへと向かっていったという。
その本が出版された町は人口2000人にも満たぬ場所だったが、130人程の子供達が突如として居なくなったという。
『爆音怒』
罪状 殺人。
被害者数 5人
彼自身には何ら問題も、懸念する事もない。
しかし、彼の持っている物自体が問題の原点であり、諸悪。
『魔笛』
笛と書いているが、笛とは限らない、笛とされているのは、魔の息を吹き掛けられた事からだった。
『魔笛』の鳴らす音は、聴いた者へ益を与え害を与える。
どちらに訪れるかは分からないが、『魔笛』の音で害を与えられない。
つまりは益しか受けない人物、それこそが『爆音怒』だった。
故に、人物自体には気をつけなくとも良いが、『魔笛』には細心の注意を払わなければならない。
『魔笛』は、固有の形は持っていないと思われるが、音楽を作り出す物であると考えられる。
────────────
「『新的童心世界~不思議の国の少女~』フィールドがなんとも寂しい、寂しい。こんな刑務所みたいな所は嫌なんだよね、俺様」
「『魔笛』ィ!! バイブス上げッぞ!!」
暗くじめじめとしたその洞窟は、太陽照らす、草木や花が広がり、小鳥が飛び交い囀ずる野原だった。
しかし、『魔笛』から響く音は小鳥を落とし、草木や花を毟ような衝撃を開けた野原に響く、それでもなお、そこに立つ人の心を響かせる事は易かった。
「うるさいにゃぁ、あの音嫌いなんだけどにぇ」
マタク=モルマはメスを取り出していた。
その戦闘方法は、ヒルコの肉弾戦時によく似ていた。
しかし、違いは、芯のブレ。
明らかにあやふやで、ゆらゆらと揺れる白煙のようで、次手を察するには難しかった。
「耳を塞いではどうでしょうか? その方が心臓の音がよく聞こえます、気づけば音が止まっているかもしれませんよ?」
イルゼは、場所の変化に驚きもせず、地面に咲く花を地と同化させ、一歩前に出た。
しかし、届いた音が、イルゼの体を大きく変化させた。
マタク=モルマの耳を指していた筈の指が、二つに、別れていた。
耳を指すことの出来ない、右に左に裂けていた。
イルゼは、直ぐ様影のような服に手を入れ、体を全て影のような服で覆った。
音を遮るためだろうか、しかし、『魔笛』の鳴らす爆音は、影の服など、優にすり抜ける。
服の中で苦しみ始める、イルゼは影の蛙に指示を出し『魔笛』を止めようとするが、影の蛙はいなかった。
二匹の蛇は、影を食らっていた。
蛇とは思えぬ、小さく肉を噛みちぎりながら咀嚼し飲み込んでいる。
どうやったとて、強者には勝てなかった。
臆していたのだ、最初から。
巨大な体を得た、しかしながら、小さな心は、その体を動かすにはとても不向きで、通常行動には何ら支障がないが、少しだけでもつっかえが出来てしまったら、動きは鈍る。
たったそれだけの、欠陥、それが今を作り出した。
泉は、なにかを思い、それを見て、正気を取り戻しつつある。
イルゼは、服に覆われているが、走り出した。
液の赤子の方へと。
なぜなら解決できるであろう物がそこにはあったからだった。
足音が後方から鳴らない、今鳴っているのはイルゼのみの足音。
イルゼは、服を顔から剥いだ。
違和感と不信がその行動の原理となった。
そこに見たのは、時計を見て前を走る兎。
「大変だ大変だ」
人の言葉を使いながら兎は液の赤子のいる方向にへと走っていく。
イルゼはただ、走っている、見てくれは、あの兎を追っている。
「地下の国へとどうぞ、少女ちゃん」
兎が急に振り向いた、その顔は『妄話』。兎は笑って立ち止まった肩を上下にし、落ちていくイルゼを見ながら。
イルゼが降り立った場所は、血の溢れる断頭台がポツンとある辺鄙な場所だった。
下は、一切草が生えていないひび割れた地面に、上は痩せこけたカラスがイルゼを見ながら旋回していた。
もう一人、いた小さな赤い子が。
その子が、イルゼを指して言った。
「首をはねろ!!」
その声と同時に、断頭台は、愉快な小躍りの出来る手足を生やし、軽快な歌を何処からか口ずさみながら近づいて行く。
ドスンドスンと、地面を響かせて体を大きく見せるように右へ左へ傾けながら、軽快な足踏みで鈍重な音を鳴らした。
「その躍りに目を奪われた少女は、ギロチンが降りる寸前にまでに事が進んでいたのに気がつく事はなかった。んん蛇足が過ぎるかな」
『妄話』は、世界の端っこで分厚いファンシーな本に、世界を達観して執筆していた。
それをイルゼは見たが、何故か体は動かない。
「ギロチンは、少女の可憐な顔のまま残し地面に放り、またこの世界を作っていくのであった。赤いハートの女王の笑い声と一緒に。……愚作かなぁ」
『妄話』はイルゼの顔を一度蹴ってみたら、本を閉じた。
イルゼは、何故か一度笑った。
「sueくーん、ん? sueちゃん? どっちかにゃ?」
イルゼは今、マタク=モルマに結束バンドで拘束されていた。
鳴り響いていた筈の『魔笛』の音は聞こえず、泉は何故か頭を抱えていた。
「わた」
「増殖型、"訴え"は母体という個体が存在していて、常に言葉を発し続けています。しかし、その言葉を聞くことが出来るのは訴えに賛同してしまう可能性があればsueにへとなってしまいます」
寺子がそう言いながら皆に近づいてきた。
デブとタギー、そしてアデサバも共についてきていた。
「お前ら何してたんだよ」
『爆音怒』は自分達は先程まで戦っていたのに対し、今来た物達がいつの間にやらどこかへと逃げ、戦闘が終わったと分かれば近付き、能書きを垂れている事がとても腹立たしく『爆音怒』は感じていた。
「私達は非力なのですよね? とても弱いのですよね?」
「そうなのですぞー、某らはsueの解析に勤しんでいたでござるぞー」
言い訳のような事をデブとアデサバは言った。
しかし、それを裏付ける解析結果を彼等は持っていた。
しかしどこかデブは引け目を感じさせる様に、『爆音怒』の目を見るころはなかった。
「えぇ……つまりは私達が相手にしているのはトカゲの尻尾、尻尾を捕らえたから、といい気になるのは駄目ではないかしら?」
寺子はイルゼを一瞥し、演説するように皆に伝えた。
その視線には哀れみが含まれていた。
「つまり、『輪廻』は操られていたという事なんだな?」
「噛み砕いた表現であれば」
若干終わっただろうと思っていた『爆音怒』は、まだ終わりに差し掛かっただけという事を知り、ため息をもらす。
ただ、新たに恐怖する、心臓の鼓動が体内に爆音を響かせる程速くなる。
恐怖が体を縛っていた。
『爆音怒』が出来る事は、その原因を突き止め、対象することしか出来なかった。
が。
「『輪廻』を起こせや、話がしたいんや」
罪状、悪魔信仰、略取・誘拐罪、逃走。
被害者数 130人
『妄話』はただの童話作家だった。『妄話』の書いた童話は東へ西へ、南へ広がり、子供で読んだことのない者などいないとまで言われた程だった。
しかし、いつの日から、童話の内容を疑う者が現れた。
一つ、赤い頭巾を被った女児が、狼に食われる様な話がある。
その結末は狩人が狼の腹を開き、赤い頭巾の女児を救い出すという。
ある者は言った。
狼とは悪魔と、赤い頭巾の女児は神と、狩人は自分自身を暗喩しているという。
つまりは、悪魔は神を食い、悪魔の腹を見るものは、悪魔の中身を知るという。悪魔信仰の布教とこじつけられた。
そのような話が幾つもあり、『妄話』は、何時しか悪魔信仰のレッテルを張られ、挙げ句の果てには、裁判にかけられ、終身刑を下された。
しかし『妄話』は、一週間程経った頃、突如として牢屋から消えた。
残っていたのは、一枚の紙と、そこに綴られた童話だったという。
その後、『妄話』は一冊の童話を出版した。
名前を変えて。
その本の名前は、『ハーメルンの笛吹き』だった。
その後、それを見た子供達は何処かへと向かっていったという。
その本が出版された町は人口2000人にも満たぬ場所だったが、130人程の子供達が突如として居なくなったという。
『爆音怒』
罪状 殺人。
被害者数 5人
彼自身には何ら問題も、懸念する事もない。
しかし、彼の持っている物自体が問題の原点であり、諸悪。
『魔笛』
笛と書いているが、笛とは限らない、笛とされているのは、魔の息を吹き掛けられた事からだった。
『魔笛』の鳴らす音は、聴いた者へ益を与え害を与える。
どちらに訪れるかは分からないが、『魔笛』の音で害を与えられない。
つまりは益しか受けない人物、それこそが『爆音怒』だった。
故に、人物自体には気をつけなくとも良いが、『魔笛』には細心の注意を払わなければならない。
『魔笛』は、固有の形は持っていないと思われるが、音楽を作り出す物であると考えられる。
────────────
「『新的童心世界~不思議の国の少女~』フィールドがなんとも寂しい、寂しい。こんな刑務所みたいな所は嫌なんだよね、俺様」
「『魔笛』ィ!! バイブス上げッぞ!!」
暗くじめじめとしたその洞窟は、太陽照らす、草木や花が広がり、小鳥が飛び交い囀ずる野原だった。
しかし、『魔笛』から響く音は小鳥を落とし、草木や花を毟ような衝撃を開けた野原に響く、それでもなお、そこに立つ人の心を響かせる事は易かった。
「うるさいにゃぁ、あの音嫌いなんだけどにぇ」
マタク=モルマはメスを取り出していた。
その戦闘方法は、ヒルコの肉弾戦時によく似ていた。
しかし、違いは、芯のブレ。
明らかにあやふやで、ゆらゆらと揺れる白煙のようで、次手を察するには難しかった。
「耳を塞いではどうでしょうか? その方が心臓の音がよく聞こえます、気づけば音が止まっているかもしれませんよ?」
イルゼは、場所の変化に驚きもせず、地面に咲く花を地と同化させ、一歩前に出た。
しかし、届いた音が、イルゼの体を大きく変化させた。
マタク=モルマの耳を指していた筈の指が、二つに、別れていた。
耳を指すことの出来ない、右に左に裂けていた。
イルゼは、直ぐ様影のような服に手を入れ、体を全て影のような服で覆った。
音を遮るためだろうか、しかし、『魔笛』の鳴らす爆音は、影の服など、優にすり抜ける。
服の中で苦しみ始める、イルゼは影の蛙に指示を出し『魔笛』を止めようとするが、影の蛙はいなかった。
二匹の蛇は、影を食らっていた。
蛇とは思えぬ、小さく肉を噛みちぎりながら咀嚼し飲み込んでいる。
どうやったとて、強者には勝てなかった。
臆していたのだ、最初から。
巨大な体を得た、しかしながら、小さな心は、その体を動かすにはとても不向きで、通常行動には何ら支障がないが、少しだけでもつっかえが出来てしまったら、動きは鈍る。
たったそれだけの、欠陥、それが今を作り出した。
泉は、なにかを思い、それを見て、正気を取り戻しつつある。
イルゼは、服に覆われているが、走り出した。
液の赤子の方へと。
なぜなら解決できるであろう物がそこにはあったからだった。
足音が後方から鳴らない、今鳴っているのはイルゼのみの足音。
イルゼは、服を顔から剥いだ。
違和感と不信がその行動の原理となった。
そこに見たのは、時計を見て前を走る兎。
「大変だ大変だ」
人の言葉を使いながら兎は液の赤子のいる方向にへと走っていく。
イルゼはただ、走っている、見てくれは、あの兎を追っている。
「地下の国へとどうぞ、少女ちゃん」
兎が急に振り向いた、その顔は『妄話』。兎は笑って立ち止まった肩を上下にし、落ちていくイルゼを見ながら。
イルゼが降り立った場所は、血の溢れる断頭台がポツンとある辺鄙な場所だった。
下は、一切草が生えていないひび割れた地面に、上は痩せこけたカラスがイルゼを見ながら旋回していた。
もう一人、いた小さな赤い子が。
その子が、イルゼを指して言った。
「首をはねろ!!」
その声と同時に、断頭台は、愉快な小躍りの出来る手足を生やし、軽快な歌を何処からか口ずさみながら近づいて行く。
ドスンドスンと、地面を響かせて体を大きく見せるように右へ左へ傾けながら、軽快な足踏みで鈍重な音を鳴らした。
「その躍りに目を奪われた少女は、ギロチンが降りる寸前にまでに事が進んでいたのに気がつく事はなかった。んん蛇足が過ぎるかな」
『妄話』は、世界の端っこで分厚いファンシーな本に、世界を達観して執筆していた。
それをイルゼは見たが、何故か体は動かない。
「ギロチンは、少女の可憐な顔のまま残し地面に放り、またこの世界を作っていくのであった。赤いハートの女王の笑い声と一緒に。……愚作かなぁ」
『妄話』はイルゼの顔を一度蹴ってみたら、本を閉じた。
イルゼは、何故か一度笑った。
「sueくーん、ん? sueちゃん? どっちかにゃ?」
イルゼは今、マタク=モルマに結束バンドで拘束されていた。
鳴り響いていた筈の『魔笛』の音は聞こえず、泉は何故か頭を抱えていた。
「わた」
「増殖型、"訴え"は母体という個体が存在していて、常に言葉を発し続けています。しかし、その言葉を聞くことが出来るのは訴えに賛同してしまう可能性があればsueにへとなってしまいます」
寺子がそう言いながら皆に近づいてきた。
デブとタギー、そしてアデサバも共についてきていた。
「お前ら何してたんだよ」
『爆音怒』は自分達は先程まで戦っていたのに対し、今来た物達がいつの間にやらどこかへと逃げ、戦闘が終わったと分かれば近付き、能書きを垂れている事がとても腹立たしく『爆音怒』は感じていた。
「私達は非力なのですよね? とても弱いのですよね?」
「そうなのですぞー、某らはsueの解析に勤しんでいたでござるぞー」
言い訳のような事をデブとアデサバは言った。
しかし、それを裏付ける解析結果を彼等は持っていた。
しかしどこかデブは引け目を感じさせる様に、『爆音怒』の目を見るころはなかった。
「えぇ……つまりは私達が相手にしているのはトカゲの尻尾、尻尾を捕らえたから、といい気になるのは駄目ではないかしら?」
寺子はイルゼを一瞥し、演説するように皆に伝えた。
その視線には哀れみが含まれていた。
「つまり、『輪廻』は操られていたという事なんだな?」
「噛み砕いた表現であれば」
若干終わっただろうと思っていた『爆音怒』は、まだ終わりに差し掛かっただけという事を知り、ため息をもらす。
ただ、新たに恐怖する、心臓の鼓動が体内に爆音を響かせる程速くなる。
恐怖が体を縛っていた。
『爆音怒』が出来る事は、その原因を突き止め、対象することしか出来なかった。
が。
「『輪廻』を起こせや、話がしたいんや」
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