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遅熟のコニカ

紙尾鮪

88「アスハカホウ」

 「しかし、とりあえずはこれで再び動くことが出来る」
 ヒルコは立ち上がると、肩を回し、包帯をされた腹部と腕を触り、傷が塞がっている事を確認し、黒の鞄を取り出した。

 そして周りを見渡すと、灰色の壁に、簡素なベッドしかない、明らかに医療機関ではない部屋だった。
 その事にヒルコは何か言おうとはしていなかった。

 「ライズ、シューの最期の言葉の真偽は分かったか?」
 ヒルコは、白衣を取り出し、歩き出す。
 女医は手を振って友のように送る。
 ライズとネトルスは3歩後ろの距離を取り、ついていく。

 「はい、我が能力によって解析終了してます故。奴が言った事は全て正しく、そして特筆すべきは、奴はヒルコ殿の探し人について」

 「知っているのだろう? 遺能を使わずとも分かる。惜しかったが、今はそんな事よりも、最後の神の遺物の方が問題であろう」
 ヒルコは、ライズの話を途中で断ち切り、また新たな話題を出す。
 ヒルコは頭をかきむしった後、白衣に手を通し、ポケットの中に手を突っ込む。

 そして扉の前に立ち止まり、ライズに扉を開けさせると、目の前には幾つもの木々が生えていた。
そして後ろを振り向くと何もなかった。
 ヒルコは歩き出すだけだった。

 「"humanヒューマン"……人間ですか。つまりは」

 「あぁ、我輩が思うに殲滅であろう。贄とするのだろう。我らが、神にへと還る贄。それが神の遺物という物、神にへと成った者が遺した、道標」
 ヒルコがネトルスの言う事を汲み取り言った。
 ライズは込み上げる喜びから笑みを溢れさせているのと同じで、ヒルコも笑顔を浮かべたが、直ぐに無表情を表す。

 「しかしコニカだ。コニカの体はもはや人体の域を越えている。特異体質であればもっと異質、単純な肉体の強度の上昇などない。性能変化であれば、片一方の強化しか出来ないはず」
 ヒルコは、思考に全てを割いていた。
 現記憶と情報の全てを使い、パターンを形成し、コニカを分析しようとしていた。
 しかし、コニカという物は、掬っても手から溢れ落ちるような存在だった。

 「そういえば、洞窟の中にへと向かった奴らは何処に?」
 ライズは急に話題を変えるように、洞窟の中に入った会合のメンバーの動向を聞く。
 sueが洞窟の中から出てきたのに対し、中から出てき、加勢をしなかった事はライズが考えるには不明な点が多すぎた。

 「……そうだ。忘れていたな、此度の遺物はこれが鍵か」

───────────
 ただただ白い部屋の中。
 二人の警官が相反している。
 一人はハーフパンツとシャツでおり、もう一人は、白装束を着ており何か神妙な面持ちでいる。

 「ヤオ、起きろ」
 フクダは、頭で倒立をしながら座禅を組み瞑想をしているシュイジを呼び掛ける。

 「ん、お仕事?」
 シュイジが目を開き、倒れた。
 シュイジは汗だくとなり、何もしてはいない様だったが、息を荒げており、着衣は肌にへ密着して、骨に肉を隠しているが露にしている。

 「違う、御祓だ。お前の嫌いな」
 フクダは、地面に倒れるシュイジの前に、正座し、静かに話す。
 シュイジはいじけたように、頬を膨らませ地面に密着しうなだれる。

 「御祓……っていうことはあのハゲの言う通りになりそうなんどぅわ」
 フクダは、一息大きなため息をついた後、大きく頷いた。
 それを聞くとフクダは仰向けとなり、白い天井を見ていた。

 白い天井は、ずっと見ていると、迫ってくるように見えて、シュイジは少し可笑しく思えた。

 「やあ、こんばんは」
 二人ともう一人になった。
 アカシアストが、いつの間にかいた。

 アストは、壁にもたれ、頭から生えたうぶ毛を触りながら二人に遠くから挨拶をした。

 「……お前に頼るしかないと思えば、かなり切迫しているというのが自分でも分かる」
 フクダは、チラッとアストの方を向き、再びため息をつく。
 シュイジは、鬼気迫る顔でアストの方を見る、明らかな嫌悪の念を抱きながら。

 「なんで僕の事を否定するか分からないんだよね。僕は人を殺している数より良いことをした数の方が多いのに」
 アストは何処からか出した水晶玉を手の中で回しながらニヤつき、そして二人の方へと近づいていく。

 「だからとお前の罪は消えん、まぁ……俺はどちらの方が多いのか」
 フクダは珍しく、どこか悲しげな表情をしたのをシュイジは見逃さず、焼き付けるように目を輝かせて見た。

 「フッくんあんに゛ゅ゛」
 シュイジが茶化そうとしたのを察したのか、フクダは拳骨をシュイジの頭にへと落とした。

 シュイジは、痛がり、おおげさにのたうち回ると、構ってもらえないのに気づいたのか、停止し、正座した。

 そして二人、アストの方へ向き、何かを待った。

 「これはただの生き残り戦、つまりは生戦さ。であれば、大義など捨てよう、駒に成りきれ、ガラクタであれ、糞を食らえ、結果生き残れば花。無理であればピエロになりなさい、ピエロであれば人殺しさえ簡単さ」
 ジョン・C・ウェインは、二人の肩に手を当て、ねっとりと笑った。

────────────

 夜が明け、朝日が昇った頃、決着がつかんばかりの状況にへとなっていた。

 両者深傷を負わずとも、自身、そろそろ終わるのだろうと、感じていた。

 しかし、相手方、萎える事無し。
 いや最早、増し盛るばかり。

 故に、こちらも同じ威勢で猛るのみ。

 しかし心猛虎が如くも、久しく体を動かすが故に、身は痩せこけた山羊のように、微動が止まらない。

 これが恐怖かは分からないが、ただ精神の高揚だけは感じ取れる。
。例え、人でなくとも、我が身はもう殆ど人の身では無いのだから。

 時が止まる。
 一撃一撃が我が究極を宿していたが、それを易く眼前は相殺する。

 違った。
 腕に突き刺さった。
 いや、貫かれた。
 文字通り。
 敵の拳が我が拳を貫き、腕の中を進み、そして開いた。

 この状態では、最早我が行方はただ奴の匙加減である。

 「そう、貴様は思ってはいないのだろうな」
 コニカは笑う。
 dstは嗤う。

───────────
 濃い臭いが広がる。

 「……嘘やろ」
 ノリアキは鼻を覆い、その代わり、目をかっ開いている。
 ショウコは、人見知りの子のように、ノリアキの手を強く握っている。

 「……ッベェ」
 『爆音努』は、後退りしそうになった。
 その臭い、光景に。

 「これは……あきまへんえ」
 フウと呼ばれる、犬のような少女は、はんなりとした女にすがり震え目を伏せている。

 「朕ですら久しく見るよこんな光景」
 イルゼが、手を叩きながらそれに触れようとする。

 「駄目ですよねぇ? あからさまに触ったら死にますよねぇ?」
 アデサバはイルゼの腕を掴み、聞く。
 イルゼは妙に嫌そうにアデサバの手を離した。

 「いいえ、このままいても死にますよ」 
 「よくもまぁ……こんな物を作ったものです。皆さん、これ等は明らかに私達の行く末を阻む物です。ですから、今の内に対処をしなければいけません、分かりますね?」
 テラコは、それを背にして皆に言った。
 それを易く皆は飲み込んだ。
そ。れほどに、目の前のあれは、見ていて恐ろしい。

 「繭かにょー、それとも卵? どちらにせよ、開けてみてのお楽しみってことだね」

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