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遅熟のコニカ

紙尾鮪

86「ワタシハワタシ」

 天災とは、事前に警告を発する。
 それは統一はされていないが、しかし、確かにしてくれる。

 竜巻の、積乱雲の発生。
 地震の、プレートの動き。
 噴火の、湖の消滅や地面の陥没。

 それらはご丁寧にも前兆を発する。
 それらを考えれば、悪鬼は、警告を発していたのだろう。

 シューが人間に成ったように、コニカが、悪鬼に成る、その警告。

 しかし、シューは驕っていた。
 自らが成った事による安上がりな万能感に支配され、それで良しとしていた。 
 そのため、起こした行動は、先手必勝、コニカを抉ろうとする、己の手。

 否、不勝。

 コニカの目には命が戻っていた。
 その目がシューを捉えた時、シューは目の前を飛ぶ蝿を払うようにに、触れようとする手をコニカはぶった。

 して、手は宙を舞う。

 シューは目を丸くし、宙を舞う手を見ながら、勢いそのままにコニカに近づいていった。
 何も考える事なく。

 コニカはただ道を譲るように、シューが飛びかかってくるのを避け、無防備な背中に無慈悲なただの殴打という鉄槌を。
 明らかな骨の折れる音が耳に、体の中で響いた。

 シューは、息を嘔吐した。
痛みに声をあげてしまいそうになったが、声を出すのは自分が止めた。

Are you死に enjoyingかけ yourselfだから because楽しい you'reだろう dying?
 地に伏したシューの耳元に囁いた。
 その言葉は、脳内を蜘蛛のようにかき乱しながら這い回り、そして所々を噛み、思考を狭めていく。

 天災に真っ正面に向かった馬鹿は、直前にして恐怖を感じる、だが戻る事は出来ない。
 出来る事は、諦めと悟り。


 「っく……ハハハ。これが諦めからくる笑み、理解し難い!」

 「聞いてくれ! ニンゲンらよ!! 私は……ッ私はニンゲンには……なれない!!」
 シューは、仰向けになり、涙や汗を流し、命乞いをする珍しい虫を見ている様な目をするコニカに怯えながら、精一杯最後の声を出す。

 「いくら……いくら粘土細工が精巧で!! もし人の心持ち、動き出したとしても……それは粘土人形に他ならない!!」

 「私は思う!! 貴様ら人は、ただ放られた食物に群がり食すだけの乞食だと!!」
 シューの目には涙が溢れ始めていた。
 ヒルコは、この瞬間、シューが本当に人に成ったと感じた。
 感情交差の位に立ち、矛盾する中で、感情を取り扱っている。
 それが出来る動物は、人間しかヒルコは知らなかった。

 シューは、何も感じていなかった。
 人間に成ってから初めてと言える程に爽快な気分で、叫べば次の言葉が現れた。
 その事に囚われているため、涙が出ている事に気づかなかった。
 しかし、無意識的に感じていた、死の恐怖を。

 シューが与えられた原罪。
 神に近い者が、人間になり、感じる者は死の恐怖、それは人間に成ったならば避けられない物、それを無意識的にシューは感じ取ったのだ。

 「そして私は!! 私の事を……矮小な存在ではないと否定したぃ……」

 「死に際の花。私が出来る事は兄弟の名を伝えるだけ」

 「万物複製器バンブツフクセイキ"Eiアイ"、鏡界石キョウカイセキ"akuアクゥ"、"故勝誇枝コショウコエダ"wonウォン"……虚真人間キョマニンゲン"sueシュー"。そして、最後は、新生物シンセイブツ"humanヒューマン"き」
 それを言い終わった後、シューは、コニカに踏み潰された。

 そして、コニカは、ヒルコらに笑顔を向ける。

 「……コニカ、お前は誰だ?」
 ヒルコは、メスを取り出している。
 目の前のコニカを見ながら。

 「私はコニカですよ?」

 「ライズやれ」
 ヒルコは返答があったと同時に、ライズに命令した。
 ライズは、何も聞くことなく、祈り、そして矢をコニカに向かって操射した。
 矢は宙から降り注がれるが、コニカはなんの苦もなく、避ける。

 おおよそ人間業ではないその所業も、遺能と考えればなくもないが、ヒルコはそうと考えていた。

 「もう一度問う、お前は誰だ」
 コニカは、死ぬような目でヒルコを見つめた。
 それは、いつものコニカとは別種の目で、ヒルコは、確信に近い感覚を得ていた。

 「……っぷ。あぁ駄目だ駄目だ、私だせぇわ、ガキにバレてんの。はい初めまして私はアイビー・コニカでぃぃす」

────────────

 そういえば昔からもう一人頭の中にいたような気がする。

 「気がするじゃないんだよ、いるんだよ」

 「お前は誰だ」

 「私は私だよ。お前は私だ、だけど私はお前だよ」

 「そうか」

 「一々癪に触るな。まぁいい、当分の間私が動かすから」

 「勝手にすればいい」

 「……ッッ!! そうゆー所がキライなんだよ!! 私サァ!!」

 「いっつもいっつもいっつもいっつも、健気装って、冷静に沈着に、その癖内心ドロドロ。くずったれじゃん」

 「そうか、だからなんだ、何が言いたい。何を思う、私は至極どうでもいい」

 「……つっまんね!! そこもキライなんだけど!!」

 「まぁいいや……つまんねぇの。あのガキが死んだ時もそこまで悲しんでなかった癖に」

 「……」

 「依存先がなくなった事にただキレただけっしょ?」

 「だって、私が変わる余裕があったから」

 「黙れ」

 「覚えてる? そのあと私ここで泣いてたじゃん、私の嫌いな生娘もたいにさ」

 「黙れ……」

 「すすり泣くようにさ、嗚咽しながらさ、自分の体を抱きながら」

 「黙れ!!」

 「全部本当の事だろ!!」

 「黙れ……黙れ……」

 「そう言ってなよ。私がそう言ってる間にも世界はすすんでるんだから」

 「…………」

 「じゃあね、アイビー・コニカちゃん」

───────────

 「お前はコニカではない!!」
 ヒルコが力強く叫んだ。

 ヒルコの中でコニカとは、あのような事を言う存在ではなかった。
 水のように冷たい様で、心は目まぐるしく変化する。
 人間味溢れる面白い存在だと。
 しかし、目の前の存在は、ただの剽軽ヒョウキンな人間の模造品のようなつまらない物と感じた。

 そしてヒルコが矢降るなか突っ込んでいった。
 ライズはそれを見た瞬間、祈るのを止め、ヒルコを止めようとするように手を伸ばした。
 その手は、コニカに向かうネトルスの能力で出た死骸達の手の伸ばす姿と似ていた。

 「ヒルコくぅん、私が好きなのは分かるけど、ヒルコくんの好きな私を当てはめるのは駄目だよ」
 矢が止んだとコニカは気づいた。
 そして向かってくるヒルコを見れば満面の笑みを浮かべ、コニカは、ヒルコのメスでの攻撃を軽く避けていた。

 ヒルコは、確定的な攻撃が出来なかった。
 感覚は水中で拳を振るうようで、ただただ何も感じる事が出来ない。
 故に、当たらない。

 「コニカはそんな事は言わな゛ァ゛」

 「はいおしまーい」
 コニカは、ただ単純に、剣でヒルコの体を貫いた。

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