遅熟のコニカ

紙尾鮪

80「ハミヘラモルマ」

 コニカは、口を開くことなく、記憶に書き込む事しか許されなかった。
 歴史が、裏側が、憶測が、自己論が多く生まれる中。
 コニカは質問は許されず、ただただ鵜呑みにする他なかった。

 そして一通り聞き終えて、息を吐いた。
 そして言った。

 「い、今何をしているんだ?」

 「それは貴方が知る必要はありませんよ?」
 コニカの純粋な疑問から出た質問の答えは、sueが一切の情報も漏らさず開示しない。

 「何にも答える気がないのか?」
 答えが肯定であれば、ハミセトを連れて帰ろうと、コニカは思い、半ばどうでもよさげに聞いた。

 「そうですね。今私が貴方がアドバイスと教える事が出来るのはあと二つです」
 sueは、ハミセトの体で大きな屈託のない笑顔を見せて、Vの字にピースをした。

 コニカは、何か、感じた。

 「貴方の身近なものに質問をするのもいいでしょうね。そしてこの器は返しませんよ」
 ハミセトは、Vの字のピースを歪めないまま、目から、口から、水を流し、叫んだ。
 先程から続いていた冷静で、とても穏やかな声とは違い、攻撃的で、とても熱情的で、体を揺らす。

 水を踏む音が聞こえる。

 遠くから、足音が。

 ヒルコとコニカは考えたが、それもすぐに棄却させる。
 四足で駆ける、猿のような生物。

 1匹ではない。

 10、20……それ以上の群れがコニカの横を過ぎる。
 その生物は、皆しつこく、通り過ぎる時にコニカを見て、口角を上げる。

 そして、襲いかかった。
 ハミセトに。

 歓喜の雄叫びをあげながら、服を引きちぎり、四肢を引き。
 コニカは、何も出来なかった、理解が出来なかったからだった。

 そして、何かが此方に飛んできて、それが触れた部分のコニカのワンピースを透明にする。
 Vの字にピースした手が、足元にいた。

 その瞬間足が勝手に、動いた。
 泣いていた。
 大声を上げて。

 夢うつつ、内にある心が全てを食んでいくような気がした。

 全てが消えるような、ただそれを止める手立てはない。
 気付けばコニカの手は、猿のような生物を、貫いていた。

 垂れるのは、赤の血液。

 腕から垂れる血液は、腕の筋肉の隆起によって沿って流れ、ワンピースに染みる。

 引き剥がす、一匹一匹、洩らさず殺して。
 十匹程、地面に転べば、気付けば辺りに生物はいなかった。
 コニカは逃げた足音や悲鳴にすら気づかなかったのだろうか。

 コニカはハミセトに覆い被さるようにいる生物を、乱雑に引き剥がし投げた。

 ハミセトは、内蔵を露にし、骨が欠け、そして、頬の肉を食われ笑っているように思えた。

 「チクショウ……チクショウ……」

 なぜ。
 その言葉が、コニカの脳内を巡り駆けていた。 

 なぜ、私が体を動かすことが出来ないんだ!!
 と。
  ────笑った。

────────────

 「……遅いな、コニカ」
 ヒルコは、急に無くなった水を不思議に思いながらも、そこから動くことはなかった。

 すると、奥の方から歩いてくる人影が見えた。

 「おぉ遅かったなコニカ」
 ヒルコは、やけに明るく接した。
 コニカはそれに答えるかのように、明るく答えた。

 「ごめんね、ちょっとかかって。あとsueがあった」
 コニカは、ヒルコの顔を除き混むようにして、笑って見せた。

 ヒルコは、急な事に驚いたのか、白衣の襟を正した。

 「そ、そうか。sueあったんだな」
 ヒルコは、言葉につまりながらも、事実確認の為、聞いた。

 「あぁ、あったよ」
 やけに明るい。

 「では、我輩も行かねばならないか」
 ヒルコの腕からは、少しばかりか血が流れている。

。「いや、それより応援を呼んだ方がいいと思う。どうにかハミセトが食い止めてはいるが、一人二人では太刀打ちが出来ないと思うし、ハミセトからも助けを呼んできてくれと言われたし」
 ヒルコは、少しばかり考えた。

 あの会合に助けを乞うのは簡単だが、その事から自分に対する評価が左右してしまうのではないかと。

 だが、神の遺物の事を考えれば決断は早かった。

 「そうだな、ならば早急に伝えねば。ハミセトであれば1日防ぐ事など容易であろう」
 今は亡きハミセトを信頼してヒルコは言った。

──────────

 「んー暇だにょ。面白い事がみつからにぇーかなっと」
 マタク=モルマは今、木上で何か面白い事が起こっていないか、森の中から街を、手で望遠鏡を作り覗く。

 しかし、至極普通。
 チューっと紙パックのリンゴジュースをストローを経由して吸って楽しむ。

 「モ、モルマさん、危ないですよ」
 でっかい男が、手の届きそうな高さにいるマタク=モルマに話しかける。

 でっかい男の名前はイズミアユム
 以前死にかけていた所をマタク=モルマが気分で助け、それから恩返しとして、雑用や荷物持ちなどを行っている。


 イズミが死にかけていた理由は、今マタク=モルマが熱中している者が原因だった。


 『ヘラクレス』
 自らをヘラクレスと名乗る大量殺人鬼もしくはヘラクレスたる人物もしくはそれ以外。
 ふと町に突如現れたと思えば、人を殺し、そして消える。

 その数300を越える。
 目撃情報はない。

 見たら、気付けば、見えない。
 しかし、たった1つの共通点がある、それは襲われた村には、魔女の子孫がいる。

 それがあってか、ある者達は、『13の功業』と呼んでいる。


 「『ヘラクレス』、どっか歩いてないかにょー」
 そんな事をマタク=モルマは呟いている。
 イズミはマタク=モルマが登っている木にもたれ、目を閉じている。

 すると、土が喋りだした。

 「今宵、会合を開く、主催は我が主たる八百一 昼子。場所は前回と同じである。遅れないよう」
 その事に大変驚いたのか、イズミは少し跳ねてしまった。
 その事に面白さを感じたのか、はたまた喋る土に興味を感じたのか、マタク=モルマは、イズミにへと飛び乗った。
 そして、リンゴジュースのストローを喋る土に向かって投げた。

 しかし、ただ土、何も起きない。

 「主催あのガキねぇ、たのしみぃ」
 マタク=モルマは、白衣の胸ポケットからタバコのような物を取り出して咥え、目をとろんとさせて笑う。

 「モルマさん、辞めたんじゃなかったんですか?」

 「咥えてるだけ、疑似行為によるストレスの解消。気持ちイイよ」

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