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遅熟のコニカ

紙尾鮪

75「シュイジノカンブツ」

 不思議と、何も恐怖は微塵も感じていない。
 それに変わって吹き溢れるように、生まれる感情、それは、正義だった。

 毎日言われていた。

 メリハリをつけろ、遊ぶな、ふざけるな。
 自分よりも弱い年上の奴等が投げ掛けてきた言葉、ずっと、あんまり聞いてなどいなかった。
 どんな時も遊んでいたり、ふざけながらしていようと支障がなかったため、怒られる意味がわからなかった。

 しかし、今分かった。
 こういう時に、遊んでいたら、死ぬ。

 「『万』とは貴様、貴様も我輩、一は『万』に含まれ、消える」
 何度も、叩きつけ、そして、シュイジの血を片手で受け、シュイジの顔にへと返還する。

 しかし、赤は映えない。

 シュイジの顔に白のキャンパスは無くなっていたから。
 『万』が気付くことはなかった。
 それは、『万』が、シュイジの顔を、見てはいなかった、いや見れなかったから。
───────────
 ヒルコは、不自然な視界の展開に疑問は浮かばなかった。
 視界の展開に加えて、更には衝撃に、脳の揺らぎ。
 おおよそ顎にへと何らかの攻撃を受けたものと断定した。

 それがつまり敵の反撃であると。

 予測、アッパーのような物と思う。
 もしくは、新たな何か、相手の、甘党の新たな甘物カンブツなのだと。

 「『万』とは万象、全ての現象を持ちうる、痛手を負うのも不利になるのも、そして、全てを起こす発起人となる」
 ヒルコは、今、思いの外、心を揺さぶられていた。
 先程の脳にへの衝撃による、意識の掠れも一つの要因だったが、更に、一つ。
 雰囲気が、変わった。

 「逮捕ぉ……んー……あ、出来ればかぁ……殺そ。『万』、貴方を出来れば逮捕します」
 未だおちゃらけているような印象はあるが、しかし、明らかな変化を感じられていた。

 そして香る甘い匂い。

 そして、叩きつけられる体。

 ヒルコは、気付いた時には、地面に体が触れていた。
 そして、後付けされるような痛みと、衝撃と、驚き。

 ヒルコが、瞬きすらしておらず、ただ確かに甘党の奴を見ていたはずだった。
 しかし、甘党の奴が、殴打した事に、地面に叩きつけられるまで、ヒルコは気づかなかった。

 意識の掠れによる注意力の散漫も、理由の一つだったが、それ以前に、敵の速さが、尋常ではなかった。

 即座にヒルコは、体勢を立て直すが、一瞬、よろめく、その時第二擊、捉える。

 手刀、それを、片腕でヒルコは防いだ。
 しかし、悪手。
 容易に、敵の手が、ヒルコの片腕を貫いた。

 防ぐ、それは身を守るという事。

 つまり、盾は、自分の四肢ではなく、他でなければならない、体を貫く物ならば、四肢での防御など、結果的に見れば、打点をずらしただけで、致命傷からは外れた物の、深傷を追った事になる。

 一般的には。

 「捕獲」
 ヒルコの腕から出るのは、恐れを呼び起こす赤ではなく、何も知らないような白の手。
 それが、まさに、豪雨のような勢いで、敵に襲いかかる。

 巻き付く、白蛇のような姿で、シュイジの四肢をもぎ、体に刺し込む。様子はまさに、生花、いや逝花。

───────────

 『万』
 主な犯罪歴、不法占拠、死体損壊。
 補足、殺人容疑。

 名前.八百一 昼子。
 背丈140以下、白髪で、白衣を着ているのが特徴。

 なぜ、殺人容疑なのか。

 それはおおよそ『万』が飼っているであろう生物、もしくは機械が殺人を行っており、『万』がその生物と機械への命令、それにより行動し、殺害。
 その因果関係の立証が難しいために、ほぼ確定的だが、容疑となっている。

 そして、しばしば『万』に近しいような生物も見られ、変化型の鎖を使う事が出来る可能性があり、注意が必要。
 しかし、もし変化型だった場合、殺人容疑が固まる。

 『万』と敵対する場合は、必ずと言ってもよいほどに、複数もしくは単体で、生物もしくは機械との交戦も考えられるため、単独では接近しないのが望ましい。

─────────

 「糞がッあの能天気」
 フクダは舌打ちをすると、『天秤』に背を向け、シュイジの方にへと走り出した。
 『天秤』は追ってくる様子はなかった。
 それは、先程言っていたフクダへの攻撃が全て効かないと言ったためだったのか。

 フクダは、シュイジの甘物を感じた時、勝利を確信した、が。

 フクダ自身も感じた。

 薄い、そう。
 明らかな狂気の濃度が。
 しかし、『生母事』が堕ちたのはフクダにとっても嬉しい誤算だった。

 ただシュイジがそれに調子付いたのか、最後の最後まで本気にならなかったのが問題だった。

 「っち外がなければアイツは戻れねぇ癖に、あんな壊しやがって」
 フクダは、シュイジの場所まで行くと、自分の四肢に貫かれたシュイジと、それを行った『万』に恐怖した。
 ただフクダ、思考の停止などなく、シュイジのズボンに手を突っ込み、洞窟の入り口にへとシュイジを投げ、フクダは、『万』の元へと近づき、そして自爆した。

 今回の自爆は、特効ではない、そんな小手先技、初見でしか通用しない、そして戦力差、フクダの方は片一方には手出し出来ず、であれば、残されるのはたった一つの選択肢、逃げ。

 自身の命を以てしての煙幕、それは、確実な逃げへの布石だったのだが、フクダの誤算。
 ・左大腿部裂傷
 ・頭部打撲傷
 ・右肩捻挫
 ・右足首脱臼
 ・火傷
 ・全身20箇所に食い込んだ石片
 完全に復活などせず、むしろ深傷を負った。
 しかし、フクダは足を止める事なく、煙幕の効果ある今、走った。

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 「あぁ追わないんだ?。死すの?」
 ハミセトは、からかうように、ヒルコに問う。
 そして負傷した片腕を見てとても驚いた様子を見せ、更に笑う。

 「割りと苦戦したんだ。そこまで強かった? あの甘党」
 ハミセトは法服の裾に手を突っ込み、まじまじとヒルコの傷口を見て、にやにやしている。

 「こんなもの問題ではない、コニカが戻ってくるかの方が問題なんだ」
 ヒルコは傷口を抑えながらコニカの元へ近寄り、慌てた様子で、コニカの体に触れるが、全くの反応がない。

 「あぁ幽玄乃淵メタプラシァメゾン、あれハマると強いからねぇ。だけどさ」

 「そうだ、甘物になったという事は、捕まったか、ジョン・C・ウェイン」

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