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遅熟のコニカ

紙尾鮪

74「ピエロトシュイジ」

 人は仮面をつけている。人間関係を円滑に進めるための笑顔の仮面。
 相手を威圧するための怒りの仮面。
 そして、相手を欺き、自分を詐称する仮のツラ

 「最終演目は、ピエロ
 ピエロは、ヒルコを演じていた。ただしかし、お粗末な道化、故にコニカは、咄嗟に離れた。
 しかし、ピエロが苦渋の色を浮かべることなく、ただ笑顔。

 ピエロは、カーニバルドラムを叩きながら、ただコニカの方へと歩み寄る。
 背丈も服装も靴も同じ、ただ顔が違うだけのヒルコを斬る事は、コニカが躊躇する事なかった。
 それは、自分ごときの剣の腕では、ヒルコを殺す、いや傷付ける事など夢もまた夢であろうと思っているからだった。

 「いたいぬぁ、鎖使わないぬぉ? まじで小判鮫なぬぅ?」
 ピエロは、単細胞生物のように、もう一人、コニカがピエロを両断し出来た、片割れの断面から、再生し、そして、増える。

 ピエロは、自分の体を、千切り、千切り、千切り。
 紙を千切るように易く、自分の体を千切る。
 自分が二次元的存在であるかのように。

 「ねぇ、もう諦めようゆぉ? 勝てないんだよ、物量に勝るものは奥の手しかないんだよ?」

 「ただの小判鮫に奥の手なんかあるの?」

 「『万』に付いて歩いて、自分が強い存在になったつもりなのかにぅ?」

 「ねぇ、殺させてよ」

 ドラムロールが、サーカス場に響き渡り、照明は、右往左往と、照らし、そしてドラムロールと同期して、集まり、一つを照らす。

 主役はコニカ、望んだはずではないのに、今、一人だけのサーカス場に立たされ、客に見聞され、期待される。

 その為の拍手。

 拍手喝采が場を騒ぎ立て、コニカの頭をぐじゃぐじゃに、掻き回す。

 気付けばコニカは、ピエロの格好をしていた。
 カラフルな服と、真っ白な下地の顔に描かれる、元のコニカの顔を否定するピエロの顔。
 手には剣などない。
 あるのはジャグリング用の刺さらない剣にリング。

 何もせず立つピエロを見て笑う観客はいない、投げつける物、かける罵倒。
 それを恐れたように、コニカは、ジャグリングをやってみようとするが、出来ない、出来るはずもない。
 失敗、ただそれだけ。

 お粗末な演技を見させられた観客は、拍手の音と同じ、いやそれ以上の怒号が響く。
 何度やっても出来ない。

 もし出来たとして、それだけで満足は出来ない。
 ジャグリングなど、前座にもならない、あの拍手は、それ以上を求めているからこそ出る、喝采。

 しかし、答えられない。

 サーカスの光は消える、しかし怒号は収まる事はない。
 コニカの手に、工業排水のような、派手で、汚らしい水が落ちていた。その水の温かさも冷たさも、感じることはなかった。

──────────
 「コニカ」
  その声は、怒号にかきけされる事なく、コニカに届き、そして、コニカは頭を乱した。

 鈍やかに見える洞窟内の景色は、地味な配色であったが、 目にこびりついたサーカスの光が、洞窟を着色させ、そして、削るような脳への精神侵食。

 『幽玄乃淵メタプラシァメゾン
 それは、『形状変化』によるその場をサーカス場に変え、演目に沿った攻撃をする。
などといった"幻"を見せる。
 『分類不可』の遺能。 
 その間、他者に危害を与える事など出来ない。
 ただただ、幻を見せるのみ。
 幻を、非現実たる現実を、脳内という世界で。

 混同する世界の中で、逆流し、を焼き焦がしていく。

 「……今のコニカには駄目か。しかし、足りんな」
 ヒルコにも、コニカと同様の遺能を受けていた。しかし、コニカとの差が見て歴然。
 何事もなかったかのように、コニカの前に立ち、守るようにして、ピエロを一点に見つめる。

─────────

 「あれぇ? 効いてないぬぉ? さっすがー『万』だぬ」
 シュイジが、感心している時に、気付けば、眼前に『万』。

 「我輩が『万』と呼ばれている由縁を教えてやろう」
 シュイジが目の端に捉えた、のは、先程まで持っていた手の生えた黒い鞄。
 しかし、手は欠けていた。
 そしてもう目に焼きついた、咀嚼する『万』。
 そして揺らめく、『万』の体。

 「貴様に悪夢を見せてやろう、覚めている悪夢だ、一生終わらんよ」
 『万』は、シュイジの顔を掴み、地面に叩きつけた。
 地面に並んだ小石が顔面にめり込んだ。
 しかし、シュイジ、笑顔絶やす事はない。

 「僕は今道化師、笑うのがお仕事」
 シュイジは片手で倒立をし、『万』の方へ笑顔を見せる、そして、腕のみの力での勢いで『万』を蹴った。
 しかし、それは易く防がれ、再び地面へ落ちた。
 『万』、構える事しておらず、防ぎ様はなかった。しかし、手が、生まれた。

 それは『万』の白色の肌と同じ色をしてはいるが、『万』の手とは比較にならない程に大きく、そしてイビツ。
 悪魔憑きと呼ばれるような姿、その姿を、シュイジは、仏のように、信仰しようとさえしていた。

 「『万』とは何ぞ」
 『万』はくたびれたボロ雑巾のようなシュイジに、問いかけた。
 目は当に暗んでおり、その目は見た者の深層心理を解き明かすような目をしている。

 「僕の恋人」
 シュイジはふざけたように舌を出すと、また地面に叩きつけられた、この時、ピエロの姿はしていない。

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