遅熟のコニカ

紙尾鮪

68「ハトセイ」

 「それを話すのは、少し時間がいるんだけど聞くの?」
 コニカは、うんざりする事もなく、首を縦に振った。


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 どこから話せばいいのかな、遺能にはね、本人の持っている資質……まぁそんなのを、うちらは、NADって呼んでるよ。
 まぁ他にも言い方はあるらしいけど。

とにかく、NADっていうのは、簡単に言うと、親とか、先祖の遺能を記憶、そして継承、そして発現、それらを可能とする、魔女の子孫にしかない物らしい。

 遺能は大まかな種類分けする事が出来ちゃうんだよ。
 『性能操作』、『肉体操作』、『創造』、『形状変化』、『特異体質』、『修復』、『分類不可』。

 分類不可がある時点でおかしいとは、教えてる側でも思うけど。
 分類不可なのは、少数のみ、というかその一族のみしか使えない遺能とかあったりしてね、まぁ奇々怪々な遺能ばっかりで、他の種類には全く当てはまらなかったりすんだよね、何でかは聞かないで、知らないから。

 分類不可以外だったら、『修復』と『創造』はレア。
 ちなみにあのクソガキは、『創造』と『分類不可』の激レアの存在だから。

 で、始祖の魔女だったっけ?
 始祖の魔女っていうのは、簡単に言えば、突然変異もしくは、その他の要因によるNADの出現かな。
 つまり、ただの一般人が、私ら
魔女になるんだよ。
 しかも、純度100%魔女、それが始祖たる所以。
 始祖の魔女が産まれた時、大地震が起きる、天と地がひっくり返る、空から大魔王が現れる、新生物が出現するとか、色々ヤバめな言い伝えがあって。
 まぁ、ヤバいよね。

 始祖の魔女っていうの自体激レア、しかも破、つまり攻撃や破壊の遺能、更には生、修復や回復とかの遺能。
 真逆の、遺能を持つっていうのは、ヤバいよ。

 どれだけヤバいかっていえば、常人であれば四肢がもげるぐらい?
 奇跡に近いね、しかも、始祖の魔女っていうもの自体ただ都市伝説だと思ってたし。
 あのクソガキが熱中するのも分かるよ。


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 「で? なんで魔女になったの?」
 ハミセトは、片手で逆立ちをベットの上でしながら、フラフラと揺れながらコニカに質問する。

 その質問は、コニカがしたかった。
 つまり、答えなど、分からない。
 しかし、共通点。

 「そういえば、両方の遺能?を初めて使った時、というか使えた時、勝手に体が動いたんだが」
 コニカは、自室の中を歩き、絵を正し、そして、机に座っている金髪の赤子の姿の人形の服を少し直し、頭を撫でた。
 金髪は、明るい照明の光を受け取り生きているかのような髪艶を表している。

 「……遺能が貴様の器に入りきらず、暴発したのであろう、扱って間もない頃であればよくある事だ。貴殿が気に止むことはない、皆が通る道だ」
 『斬り裂き権兵衛』は、出口を塞ぐようにして、鉄格子の扉の前にもたれかかっている。
 容姿に似合わぬそ喋り方は、やはり遺能を使っての変化に近い物なのか、どこか、確かな重みがあった。

 「まぁうちはなかったけど。それよりも、どんな遺能を教えてよ。まずは名前」
 ハミセトは、自慢げに話すと、コニカの遺能を聞き出そうとする。
 コニカは、ヒルコの手伝いをする中で、遺能を使ってはいない。

 というより、使わなかった。

 完全に扱いきれていない、その不安定さを、コニカは恐れた。
 もし、失敗したら、そう思えば、遺能を使わず、ただ自分の腕で行う事を心掛けた。
 そのため、どんな遺能かすら、他の者には明かされていない。

 「名前……毎回思うが付ける必要なんかあるのか?」
 コニカがそう思っているのは、ヒルコが、遺能の名前を言わず行っているからだった。
 そのため、他の者がなぜわざわざ言っているのか、不思議で仕方がなかった。

 「……そんなに知らないとか聞いてないし、マジないわ」
 ハミセトは、軽蔑するような目でコニカを見ると、深いため息をついた。

 「遺能とは、両の親から遺され、授かる物、それは赤子と同じ。赤子をそれあれなどと呼ぶことがあるか? 親しみと、そして愛情と願いを込めた名前を呼ぶ。つまりは、名は体を表す。名すらも、遺能に影響する」
 『斬り裂き権兵衛』は、ハミセトの呆れている様子を見て、説明を始める。
 いや説明にはなっていない。

 しかし、コニカは、胸を打たれた。
 自らが子を産んだことはない物の、子を持った確かな事実が、コニカが理解する材料にへとなった。

 「で、名前は後でいいからどんな遺能?」
 コニカが名前を考えようとした時、ハミセトが催促した。

 「一つは……力が強くなるやつと、二つ目は、人を生き返らせ」

 「マジで?! 死すの? 本当に死すの?!」
 ハミセトはどさっとベットに落ちて、コニカの方を凝視し、ぶっそうな問いを繰り返す。

 「やっべぇじゃん。マジでやっべぇじゃん。超絶激レアUSRじゃんやっべぇ」
 興奮押さえきれないハミセトは、口角を上げながら、明らかに高揚し、そして、コニカの手を取って引っ張る。
 おおよそ子供とは思えない強い引き、それに抗う力はコニカにはなかった。

 鉄格子の外に見えた、頭が壊れそうな程の、映像、光景、そして独占欲の造形。
 「楽しそうだな、どこへ我輩の妻を連れ出そうと? 純白なコニカを夜の濁った色で滲ませるつもりか? 貴様になんの権限と、力がある?」
 3ヒルコは、鉄格子の隙間から、貪るように中を覗き、白衣を握り、黒目を充血させ、歯を軋ませ、目を淀ませ、異様……いや異界な、オーラを放ち、場を飲み込み、既に禍々しい内装の監獄が、そのオーラを歪ませていた。

 故に、一番、それに近い『斬り裂き権兵衛』が、咄嗟に離れ、構え、抜いた。

 「殺したいのか? それで?」
 ヒルコは、腕で受け、そして斬り落とされる事もない。
 血も一滴すら落ちず、ただ耐えている。
 いや、耐えている訳じゃない、ただ、そこに腕を置いている。

 「今夜は腹が減っている、よかったな主菜だ」
 くちゃくちゃと、相手に咀嚼音を分かるようにあげている。
 挑発とも取れるが、真意は何かを食べているという事実。

 「……いやぁ穏便にいこうよ、穏便に、別に何もしようとしてないって」
 ハミセトは、ヒルコをいつもバカにしているものの、ヒルコをある程度知っていた。
 知るとは、盾になる。しかし、盾は絶対ではない。

 盾に依存する事により、痛みを、忘れる。
 しかし、盾がもし壊れたら? 破壊され、木っ端微塵になり、守ってくれる物がなくなってしまったら?

 自らを頑強にしなかったツケが、自分に回り、裸で戦場に赴き、そしてただ塹壕の影に隠れ、銃も持たず震える事しかできない臆病者にしか、なれない。

 ハミセトは知っていた。なぜ食べているか。

 「その手を離せ、貴様が触れて良い存在ではない」
 ヒルコは、口から血を流した。
ハミセトは、コニカの手を乱暴に離した

 「コニカ、すまなかったな。今晩は我輩の部屋で寝ると良い、人の家に無断で入るようなネズミにはそれ相応の扱いが良いだろう」
 ヒルコは、扉を開け、コニカの手を引くと、乱雑に扉を閉めた。

 手を引き、廊下を歩くコニカは、横目で捉えた自室が、先程までの明るい照明などなくなり、黒に、塗りつぶされていくように見えた。

 「お前……いや、ヒルコ。教えてくれ、何もかも、私の事は何も案じなくていい」
 コニカは、ヒルコの部屋が見えた時に、呟くように、言った。
 その言葉を合図に、コニカの記憶は、消えた。

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