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遅熟のコニカ

紙尾鮪

67「テンビントヒト」

 「……コニカ、あのだな……」
 ヒルコは、もじもじと、コニカに向かって何か言おうとしている。
 会合の時の威勢や、言葉遣いなどなく、ただそこにいるのは、子供の姿をした子供、ヒルコだった。

 「別に、あれが外でのお前なら別にそれでいいじゃないか」
 若干弱味を握ったかのような、嬉しさと、こそばゆい、感情変化。
 コニカは、頬の緊張がやっと解け、綻び始め、はしたなく、笑った。

 「いや……そのだなやはり先に言うべきだったというか何と言うか」
 
 「どうでもいいから、寝させてくんねぇかなぁ!!」
 グロルは、声を荒げて幸せそうにしている二人に明らかな苛立ちを隠す所か、それを表し、二人を遠ざけ、自分に安眠を得ようとしていた。

 「おぉ、久しく7割がた蛇の体なのか、どうした? 冬越しでもするのか?」
 ヒルコは、グロルの淡い褐色の鱗の胴をバシバシと叩いていた。
 明らかな睡眠の妨害に、グロルは吹き溢れんばかりの血を頭に上らせ、黙っていた。
 次に、次に、それを頭の中で繰り返し、そして意識を自己の檻に収監し、そして寝ようと努めていた。

 「まぁまぁ、昼子ちゃん。今日もよく生きたんだから、そやつの相手をするのはやめなさい」
 老人が、グロルの牢屋を覗き、鉄格子の壁からヒルコに喋りかけた。
 ヒルコは、グロルを叩くのをやめると、「それもそうだな」と、すんなりと承諾して、コニカに別れを告げて、監獄を歩いていった。

 コニカは、自室へと戻ろうと、グロルの牢屋を出て歩いてみていたが、コニカは自室が何処に、グロルの牢屋から出てからどれ程に進んだ位置にあるか、それすら分からなかった。

 監獄に住んでから季節が変わりかけていた今、ある程度の事柄は把握していたが、まだまだ分からない事が多いのは確かだった。

 「……困ったな、どうしたものか……最悪あのハゲと一緒に寝ないといけないのか……早く見つけねば」
 コニカは、とぼとぼと歩きながら、自室である場所を探している。
 足音だけがこだまする廊下、コニカは異変に気がついた。
 もう一つ、足音がズレて鳴っている事に。

 何かが確かにいる、その足音はほぼ正確に自分の足音と同期して鳴っている。
 つまり、足音の主は、コニカに、バレないよう、近付いているか、コニカと同じ背丈で、奇跡的に歩くスピードが同じ、などという事が考えられるが、今、コニカにとってそれらはどうでもいいの一言だった。

 「止まれ」
 コニカのその一言の後、一度足音がし、止まった。
 何かがいるという確信、それを得た結果、コニカが構えるには、至極当然であった。
が。

 「命令とかウザい、死すの? 死す?」
 ハミセトと、『斬り裂き権兵衛』が、コニカが振り返った先にいた。
 ハミセトは、にんまりと笑いながら手を振っている。

 『斬り裂き権兵衛』は 、牢屋や壁をまるで恐がっているような見方をしている。

 「人の家にへと無断で踏み込むとはいい度胸だ。それ相応の対応をさせてもらわねばな」
 コニカは、二人の来訪を、奇襲と判断し、剣を抜こうと、柄に手を伸ばした。
 しかし、コニカは、すぐにその手を離した。
 二人を許容できる事が起こった訳ではない。
 体が、動いた。

 「静粛にサイレンス
 ハミセトが発したその一言が、強力な鎖のような拘束力を持ってして、コニカの自由を奪った。

 コニカは、自分を糸人形にしたかのように、自分の自由を行使されている、そう思っていた。

 「発言権ならあるようだな、私を操って何をする? アイツでも殺しにきたか? 正義の執行悪人『天秤』さんよ」
 『天秤』蝮巳 勢登、被害者数16。

 主な罪状、殺人。

 『同業殺し』とも呼ばれる所以、被害者の16人全てが死刑、極刑に相応しい者のみであり、一時期、警察の隠し球とも考えられたが、約一年前、警察官を殺していた。

 その警察官は、人を殺していた。
 被害者数おおよそ30。
 虚像なる手配書には『火刑』と書かれ、人々に恐怖を撒いた。
 火刑の名の通り、全ての被害者は、焼かれ、死んだ。
 しかも、その被害者全てが魔女の子孫だった。

 この事があってから、『天秤』は、警察また違う組織の者などと考察されている。

 「おぉ、結構凄いじゃん。喋れるんだ。あと、あのクソガキなんかどうでもいいの、始祖の魔女のアンタに様があんの」
 ハミセトが、一度手を叩けば、コニカは体が軽くなったような気がした。
 そんな気が、真実になったのか、体は動き、柄に手を伸ばす事を再び出来た。

 「私の方に用があるか、私なら殺れるとでも思ったか」
 コニカは白銀の刀身を露にさせ、そして、距離などという物も関係なしに、大振りの横凪ぎを、ハミセトに送った。
 空気が低い悲鳴をあげ、ハミセトの首元に届いたかと思ったその時、壁を感じた。

 見覚えのある刀が、コニカの剣を止めた。
 コニカの剣自体、見覚えがあるだろう、『斬り裂き権兵衛』が、コニカの剣の道を止めた。

 「話聞けってぇの、ガールズトークといこうじゃない。まぁ『生母事』さんはガールズと言えるか分かんないけど」
 ハミセトが貶すように笑ったのが、コニカには相手を殺すには十分な理由だったが、コニカは、自身の知識量の乏しさに、実際、若干の危機感を覚えていた。
 故にその話に乗った。

 「……分かった自室がある、そこにへと行こう……そうだどこにあるんだったっけな」
 コニカが、自室へと案内しようとしたとき、ふと自分が自室への道が分からないという事を思い出した。
 
 「誰もいない牢屋なら一つ、先程の道中見掛けたが」
 『斬り裂き権兵衛』が道案内をすると言わんばかりに、先頭に立ち、コニカの横を通りすぎ、コニカについてくるよう仰ぐ。



 「まず始祖の魔女ってなんだ」

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