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遅熟のコニカ

紙尾鮪

64「アイトニセモン」

 「死すの? 毎回それだけじゃん? 場所と形状教えてよ、じゃないと死すよ?」
 タマネギのような髪型をした女が、リーダーに敵意を向けて、情報開示を求める。
 しかし、リーダーは答えない、それは、嫌がらせではない。

 「神の所有物は情報の開示を許さない、無論遺物ですらね。得るしかないんだよ。自分で」
 リーダーは手を合わせて謝るそぶりをしながら、タマネギのような髪型をした女に言い聞かせるように言う。

 「仕方がないでゴザルよー、前だって形状の情報があったのにも関わらず違ったんでゴザルよ?」
 ゴザル口調のデブの男が、その膨れた顎肉をたぷたぷと揺らしながら笑い、話す。
 デブ男の後ろにいる、小さく、タレ目で、地味な服を着、黒いニカブというマスクのような物を着けた女が、クスクスと笑っている。

 「あぁ……Eiアイでさえ、事前に聞いていた掌に収まる程度の大きさと聞いていたが、それすらも違った、であれば、事前情報など無しでいた方が良いだろう」
 ヒルコが、いつもコニカと話すときのような若干高く、柔らかな喋り方ではなく、低く、そして硬派な喋り方をしている。

 それにコニカは、何とも言えぬ、特別感を感じた。
 自分しか、本当のヒルコを知らないと思え、自分がヒルコにとって特別な存在だということを、深くまた、覚えた。

 「そおいえば、Eiはどうしたんや? あの薄気味悪い監獄に今置いとんか?」
 ノリアキが、ふと思い出したように、Eiの所在を聞く、コニカも、そういえば、あの時置いていった物だと考えていた為、Eiが重要な物だとは思っていなかった。

 しかし、再び回収した所を見たことがない。つまり、あの場所に置き去りと言うこと。
 そうコニカは、思った。

 「問題ない、神の所有物とて、一度捨てれば、拾った者の所有物だ。つまり、そうだな、今ここにでも出してやろうか?」
 トントンと、人指し指で、何処からか出した黒い鞄を叩き、周りにアピールする。

 独特な、緊張と期待を混ぜたような空気が流れ、そして、ヒルコが、金具を外した時に、空気が変わった。
 漏れだしたのだ、不吉が。
 溢れた、不安、そして、恐れ。
 部屋一体を囲い、嘲笑うように、ある、不吉。
 それ、完全に開ききっていない、現状況においてのこれ。

 しかし、ヒルコが、疑問を感じた。
 ガバッと、急に鞄を全て開いた。
 すると、霧のように漏れだしていた不吉が、突如、乱雲のような物となり、そして消える。

 「……おかしい」
 ヒルコが、黒い鞄を開け、黒い鞄に収まらないであろう大きさのEiを、机に出す。
 机は若干軋むが、折れることはなかった。
 黒い鞄は、机の下にへとヒルコは下ろした。
 コニカは、Eiに違和感を感じた。
 これ程に、恐ろしくなかったのか?
 と。

 「これがEiですかぁ、なんや恐ろしいもんと聞いてた故、実物を見たら拍子抜けですなぁ」
 はんなりと喋る女は、Eiの全貌を見た途端、肩の力を抜き、息を深く吐いた。
 そして、はにかみながらEiを見て酷評する。

 「我輩もそう思う、だろう? 八百一昼子」
 イルゼは、コニカの肩へと手を置き、笑う老婆の面を着けて、そこから漏れるこもった声で、ヒルコの言葉を先取りする。
 コニカは、ギョッとし、出来る限りイルゼの方を見ないようにする。

 「あぁ……何かがおかしい、しかし一見すると何もおかしい点がない。つまるところ、気のせい……もしくは……レプリカ……ッ?!」
 ヒルコが、思慮に時間を欠こうとした時に、何か察する。
 そして、コニカを奪い去るように、壁の近くへと逃げ、そして先程まで机の下にあった筈の黒い鞄から、二人を覆う事の出来るほど大きな、何かしらの生物の甲殻を取りだし、守る。

 何から? それは、熱波。
 Eiが、爆発したのだ。
 回りの空気を吸い込み、そして、吐き出すことはない。
 そのまま、体積を増大させ、回りの全ての質量を飲み込み、尚も体積を増やす。
 そして、何をもを焦がす、いや、焼失させる極熱を周囲の生死関係なく、存在を奪う。

 「コニカ……申し訳ない、少し……昂ってきた」
 続く熱波の連打を防ぎながら、ヒルコは笑っていた。
 それに伴い、コニカは、自分を情けない、そう思っていた。

 自分は、このように、ただ守ってもらい、ヒルコの好きなようにする事を妨げているということに。

 「────────────」
 「───────────!!!」
 大きな音と、怒号なような声が、爆発音に紛れ、コニカらには届かない。

 「八百一殿、探しましたぞ」
 ライズは、甲殻を捲るように、軽々く二人の空間の中にへと邪魔をする。
 ライズは、火傷痕も、衣服の焼失もなかった、まるで何事も無かったかのように、笑顔を見せながら、ヒルコにへと近づく。

 「ギルズ・デ・ライズ、何しに来た」
 笑うライズに苛立ちの情を露にしながら、ヒルコは、ジリジリと前進していた。
 それに臆するように、爆破の衝撃と熱は次第に弱くなっていた。

 「貴方がいる場所にこのギルズ、存在しておるのですよ」
 敬虔ケイケンな信徒のような事を言うものの、うなじで下る一粒の水滴という姿に背徳に近い程の欲情を感じながらも、極小に存在する理性が辛うじて、身を滅ぼす事を防いでいた。

 「臭いぞ」
 ヒルコは、甲殻を黒い鞄にへと詰め込み、そして額を伝う汗を、白衣で拭う。
 甲殻が塞いでいた光景は、屍と、そして、生々と喧嘩する、人間達。

 「どや? スゴかったやろ? ワイらの能力、『アルカンシエル=ルヴトー』、まぁ十分の一も威力もないけどな」
 ノリアキが、なぜか形を残す机の上で、カッカッカと笑いながら、おおよそ自分の能力を露呈させ、姉のショウコと手を繋いでいる。

 モルマの連れ人が、その大きな体でモルマを身を呈して守っていた。
 しかし、モルマの連れ人が、怪我をしている様子などなく、若干の服が焼失してはいるが、服と言える程には残っている。

 「ほんとは全力やないんです? 被害者数一位のあんさんらやったら十分の一でもここを更地に出来るんとちゃいます?」
 はんなりと喋る女の前に、一人の小柄な少女が、犬歯を剥き出しにして、ノリアキらに敵意を向ける。
 しかし、宥めるように、はんなりと喋る女は、頭を撫で、猫のように下顎をくすぐるように、愛でる。

 「んな訳あるかい、十分の一の十分の一じゃボケ!」

 「ノリアキ、百分の一の方が分かりやすいかと、あと、あれ弱すぎるかと思われます、百分の一以下だと」
 ショウコはノリアキの言うことを訂正し、強く握る。

  「すまんなアッネ、しっかしなぁ、お前ら勘違いしとるかもしれんが、ワイら偽もんをつかまされたんやぞ?」

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